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「おはよう…ございま~す…」
宮前杏実が辺りをうかがうように楽屋に入ってきた。
場違いな場所に置かれてるような不安そうな表情を浮かべている。
「あ~おはよー。早いねー。」
先に来ていた古畑奈和が声をかけた。
こっちにおいでよ…笑顔で手招きをした。

「いやいや、やっぱアウェー感ビリビリだわぁ。楽屋だって、建物だって、劇場だって全然ウチらのトコの方が立派なのに…やっぱ、なんか重みが違うっていうか。」
「私も最初はそう思った。ココ入ってくる事すら出来なかったもん。」
「でも、もうすっかり馴染んでるじゃん。そうやって、荷物ぶっ散らかすトコなんていつもどおりだし。」
宮前が机の上に散乱した古畑の荷物や、床に乱暴に置かれてる大きなバッグに視線をやり笑った。

宮前にとって、秋葉原の劇場が持つ重みというか、格調というか、そんな得体の知れないものから受けるプレッシャーは決して小さなものではなかった。チームKとの兼任で、何度もこの場を経験している古畑も、その思いは共感できるものだ。

「おはようございます!」
「あ~りおん、おはよ~、つぅも、なるも一緒なんだ?」
それほど外仕事が無いチームEのメンバーとはいえ、いつも集団行動をしているわけではない。三々五々メンバーが集まってくる感じだ。
まだ集合時間には間がある。しかし、この日の出張公演にかける思いは強い。かつての出張公演で「グループ最強」との評価を取ったSKE研究生公演。その時の中心メンバーであった5期の面々には、心に期するものがあったのだろう。その胸の高まりが彼女達の足を早めているのであろう。


「おはようございます。うわ…みんな早っ。」
「なな子、遅い。早く着替えて。」
「え~奈和も早いね~。私一番乗りかと思ってたのに。」
のんびりした表情で入ってきた菅なな子が、部屋の中を見て慌てる。

「奈和、一番乗りだもんね。」
宮前が古畑にウインクする。古畑が、一生懸命目配せをしてくるのを、へたくそなウインクと勘違いしたのかもしれない。
「ん?どした?」

「んーーーー杏実ぃ。一番乗りは私だよ~」
「うわあぁぁぁ…れ…玲奈さん…?何やってるんですかぁ、そんなトコで?」
楽屋の隅。小さなパーテーションの影になるような場所で膝を抱えて座っていた松井玲奈が、まるで遠くにいる友達を見つけた時のように小さく手を振っていた。
「ん?ああ。ブログ書いてたんだ。みんな来てるのわかってたんだけどさ。なんか、いいトコだったんだよ。ん~そっかあ。よし、着替えよっかな。」

「玲奈さん…っていうか、着替えてるじゃないですか。」
古畑がレッスン着姿の玲奈に言う。
いつもどおり、ちょっと冴えないセンスのTシャツにスゥエット姿。髪は適当にまとめられていて、顔はすっぴんのままだ。


綺麗…

なんで、こんなに綺麗なの?
メイクだってしていない。きらびやかな衣装に身を包んでる訳でもない。
髪だっていくらレッスンとはいえ、もう少しきちんとまとめられるだろう。
それなのに、この圧倒的な美しさは何だろう?
向こう側が透けてしまいそうな透明感。
風が吹けば飛ばされてしまいそうな程、華奢な身体。
それなのに、見てるこちらを圧倒してしまうような、存在感。

さっきまで、部屋の隅っこで屈んでいた時と周りに纏っている空気が違う。

古畑は背中にぞくぞくっと寒気のようなものを感じた。
菅が言った言葉が、ふっと頭をよぎる。
「蝋燭が最後にぱあっと明るく輝くって…あんな感じなのかなぁ?」

首をぶんぶんと振った。

この人がいなくなれば…
そんな風に思う私は、きっとまだ弱いって事なんだろう。

私がやらなくちゃいけない事は、この人から全てを…学び、盗み、吸収し…そして、自分の力で超えることだ。

この人が、私達の傍にいるうちに。

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