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プロローグ

この時間にここから見る景色が一番好きだ。

場所なんてどこでも好きな場所を選べたんだ。
麻布、青山、広尾、松濤…
デベロッパー達は、いかにも「格が高そうな」場所を次から次に提案してきた。
景気が良くなったなんて、テレビでは囀っちゃいるが、実際は、バブルの後始末なんて終わっちゃいない。
超一等地には、土地を手放したい人間なんて腐る程いるって事だ。

なんなら、銀座4丁目の交差点に50階建てのビルをおっ建てたって構わなかった。
金なら別に何とでもなる。面倒な申請や認可なんかも、全部金の力でどうにかなるもんだ。

でも…俺が、わざわざこんな築地からちょっと離れた場所にある超高層のツインビルを買い取ったのは訳がある。
一棟はレジデンス…つまり「住居用」のビルだ。
その最上階のワンフロアを全て、自分の住居とした。
窓からは、東京タワー、新宿の高層ビル群、銀座の歓楽街や丸の内や汐留のオフィス街、この国を動かす政治・経済の全ての虚像達を一望に見渡す事が出来る。


俺は…屑だ。

今までに、何人の人間にそう言い放たれてきたかわからない。

人間の屑。

俺の本当の姿を知っている者は、決して多くはないが、恐らくその全員は、俺の事をそう思っている。
何しろ、当の俺自身が、そうだって確信しているんだから。

そんな屑でも、この景色…
この景色は、こんな俺をも癒してくれる力がある。

窓々には煌々と明かりが灯っている。
その明かりの中では、多くの人間が額に汗をかき、時には涙し、地べたに頭をこびりつけながら必死に生きている。そんな姿は、実に美しい。人間として、もっとも尊い姿だろう。

だが…その姿は、これ以上なく醜い。
狂おしい程…醜く、憐れだ。

所詮、世界は、は僅かに、勝つ事を許された人間が、そうでない人間を支配する事で回っているのだ。
今の俺は、何だって手に入れる事が出来る。
金で買えないものはない。
そう。確かにそうだ。

例えば、人の心?
人の心を金で買える?


無理だ。


しかし…
金の力で、人の心を動かす事。
人の心を変えてしまう事。


それなら、簡単だ。


俺は、テレビのスイッチをオンにした。
毎日のように見る、モニターの向こうで輝く笑顔たち。
屈託がなく、そして天使のような笑顔たち。

この笑顔を、俺への憎しみと苦痛に満ちた顔に変え、それでも、俺に懇願し許しを請い、慈悲を求めて俺の足元に跪く姿に変える事だって、今の俺には造作なく出来る。

俺は、周りの子たちが見せる弾けるような若さ溢れる笑顔とは、少し離れた場所にラインを引いたような美貌を持つ女性を見ていた。

恐らく、俺の顔には表情というものは無かっただろう。
ただ…見ていただけだ。

不思議と凛とした空気を感じた。
どことなく感じる儚さと、それでいて意思の強そうな目元。
すっと伸びた黒髪。折れるかと思うような華奢な身体。

魅かれたのではない。
たまたまだ。
たまたま目に留っただけだ。

俺は、その子の名前を確かめる事もなく、テレビのスイッチを切った。


着替えたら、赤坂へ行かなくてはならない。
ドバイから来た石油王との会食がブッキングされている。
大事なクライアント…だ。



「医は算術」
良く言ったものだ。




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