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今出舞に言われたとおり、彼女が店を出てからきっかり5分後に僕はバーを出た。今思えば、この数ヶ月僕に纏わりついていた…なぜ、今まで気づかなかったのだろう…誰かに監視されているような感覚は綺麗になくなっていた。
今は、それが何故かを深く考える事はしない。
それよりも、一体何が起きているのか、何が起ころうとしているのかを知りたい。その気持ちの方が強かった。
しかも、行く先に待っているのが松井玲奈と松村香織、それを呼びに来たのが卒業生の舞だって事が僕の胸を高まらせた。
だって、こんなあり得ない事態に臨むには、最適なメンバーに思えたから。


舞に言われたとおり、店を出たらタクシーはすぐに捕まった。
今池交差点に行くようにだけ告げる。
名古屋に行ったらタクシーは「名タク」に乗れ。これは、代々名古屋で暮らす家庭なら遺言レベルで語られる事実らしい。僕が乗ったタクシーはまさにその「名タク」だった。名古屋タクシー。確かに素晴らしいサービスだった。
「ご利用ありがとうございます。名タクの○○と申します。今池交差点までですね。かしこまりました。」
まるで、お茶と和菓子でも出てきそうな程丁寧だ。しかも、こちらが急いでる空気を醸し出すと、巧みなレーンチェンジで先を急いでくれる。
タクシーはあっという間に目的地の今池交差転に差し掛かった。

指定されたラブホテルは、周囲のホテルの中に見事なまでに溶け込んだ、特徴のないホテルだった。派手でセンスがなくて下品で怪しげ…思いつく、その手の単語のどれを並べても違和感が無い、見事なくらいなラブホテルだった。
407号室…舞と玲奈とかおたんが待つ部屋だ。
僕は部屋のチャイムを鳴らした。返事無くそのドアが開く。
たちの悪いシナリオなら、ここで戸賀崎さん辺りが顔を覗かせるはずだ。もしくは湯浅さん。この怪しい展開に彼らの顔は実に良くマッチする。逆に芝さんは合わないな…そんな風に一瞬緊張した僕だったが、顔を出したのがかおたんだった事で、妙な安心感を持った。ある意味、このシチュエーションで一番相応しいメンバーなのかもしれない。
そんな風に言うと、かおたんは怒るかもしれないけど。

「入って、早く。」
かおたんは僕の顔を見るなり、いきなり手をぐいっと引っ張った。
すごい力だ。普段から剥がしに力技で抵抗してる…そんな評判は嘘じゃないんだな…僕は、勢い余って部屋に転がるように入った。

狭い部屋にダブルベッドが一つ。草臥れたソファとテーブルがあるだけの部屋。正真正銘「ヤルため」だけに存在する部屋だ。
ソファの上に玲奈が座っていた。眉間に深い皺が刻まれている。僕を見て、一瞬ほっとしたような表情になる。
舞はその隣でモニターを覗いていた。表示されているのは地図だ。今池から栄、そして名駅辺りまでの地図の上に、おびただしい数の赤いドットが点滅しており、それが細かに移動を繰り返している。

「かおたん、あとどれ位いける?」
「ん-----15分。頑張って30分かな。」
「なんやて?もう、ホンマに使えんやっちゃなぁ。せめて40分は何とかせんかいな。それしか脳がないんやから。」
「あんだって?」
「ホンマの事やろ?」
舞とかおたんが激しい口調でやりあってる。難しい顔をしてはいるが、やり取りがどことなくユーモラスだ。
「二人とも…こんなトコで言い争わないで…」
玲奈がアワアワと間を取り持つように二人に言う。
「1時間。どんなことがあっても1時間は持たせてみせる。」
「さすがやな。キャンキャン言うだけやなく、やる時ゃやる。さすが松村香織や。」
「褒めてるのか、けなしてるのか、どっちかはっきりして欲しいわ。」
「玲奈さん。今聞いたとおりです。1時間しかありません。すみません。」
「ありがとう。」

「かなり切迫してるみたいだね。分かった。シンプルに行こう。まずは…僕はどうやら監視されている。追われてると言ったほうがいいのかな?どうやって監視の目を誤魔化してるのかは、後回しだ。まず、その理由と僕が何をすればいいのか。それを先に聞かせてくれ。それでいいね?」
僕の言葉に玲奈が頷いた。
「お願いがあるの」
握手会の時、剥がしに遮られたその先を伝える為に、3人は恐らく危険が差し迫るこの環境を作ったのだろう。

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