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その日の夜、僕は昨日に引き続き劇場に入ることになった。
チームEの「僕の太陽公演」だ。
ただ、今日は入場順にやきもきする事はない。
overtureが鳴り始めてから、観客の目がステージに集中し始めてから、その死角に入るかのようなサイド側のエリアに入る。隣には秋元康と芝智也の姿があった。
会場の熱気と一体になってステージを見る事は出来ないが、これはこれで貴重な経験だ。第一、KII公演に入った翌日にE公演を生で見る機会に恵まれるなんて、日本中に殆どいない…いや、皆無のはずだ。

どうせ、今日は金曜日。仕事は休んだんだ。明日からの週末は3連休のカレンダーだ。快適なあのヒルトンのスイートにもう少し泊まっていっては?とのお誘いを断る理由はどこにも無かった。僕は元々遠慮深い正確なんだけど、今夜の公演はやはりフルメン。明日も名古屋で全握があるときた。これは、どう考えても名古屋に滞在しない理由を探す方が難しい。

「僕の太陽公演」は今まで散々みてきた公演だ。「シアターの女神」と同じ…いや、こちらの方が劇場で見た回数としては多いかもしれない。
秋葉原の劇場しか行ってなかった頃は、チーム4や研究生公演でこのセットリストが行われることが多かった。抽選も他チームよりも当たりやすかったし。
しかし、今日の公演はチームE。どんな公演になるんだろう?僕はワクワクしながら公演を見守っていた。

松井玲奈の卒業を間近に控えている貴重なE公演。しかも、フルメンという事で観客のボルテージは高かった。メンバーもそれに応えようと、目いっぱいのパフォーマンスを繰り広げていた。特に古畑奈和ちゃんの素晴らしさが目に付いた。まさに変幻自在。花音や金ちゃんも良かったけど、菅なな子の弾けるような動きと共に、一番目を奪われたのは間違いなく奈和ちゃんだった。
逆に玲奈は、ある意味影が薄かった。
ユニットでもアズマリオンに譲っているのか、それとも単に力関係がそうなのか…昔見た「雨のピアニスト」で見た時の狂気すら感じさせる存在感は、その色を失っているように見えた。

時々、こちらの方をチラチラ見るのも、その感覚に拍車をかけていたような気がする。集中力を欠いているかとも思える。ファンにレスを送る時の、あの挑むような誘うような表情とは少し違う。

それでも、楽しい公演には違いなかった。SKE48は間違いなく、そのレベルを段違いに上げたようだ。昼間、秋元康が僕に言ったように、もうただの勢いだけで片付ける事など出来ないであろう。
僕は、公演のお礼を言って劇場を後にした。今日は、一人で先日見つけたバーに行くつもりだ。一人になって静かに考え事をしてみたいんだ。僕は一体何を求められているのか?どう踊ればいい?正しいステップを踏まなくては、ダンスは上手く踊れない。


良いバーというのは、いつ行っても同じ雰囲気で客を迎えてくれる。
ここは、まさにその定義上、最高のバーだ。
前回と同じ空気、前回と同じ明るさ、まるでそこにいる客すら、前回と同じ面子なような気さえしてくる。
僕は、前回と同じ場所に座り、前回と同じようにバーテンダーに目線だけで声をかけた。バーテンダーが前回と同じように2ミリ分だけ、僕に笑顔を向けた。
「目が覚めるようなお酒を。」
僕の無理難題のようなオーダーにも前回と同じように3ミリだけ頷いてバーテンダーはまだ余計な造作を一切排除した見事な動きで僕の前にカクテルを置いた。
彼が出したドライ・マティーニが、本当に目を覚ましてくれる効能があるかなんてどうでもいい。彼が僕のオーダーを受けて、出してくれたんだからきっとそうなんだろう。事実、そのカクテルを口に運んでいるうちに色んな事がはっきりと分かるようになってきた。
誰かが僕を遠くから…いや、そう遠くない場所から見守るというより、もっとシビアな視線を送っている事にも。
そして、それは前回も心のどこかに引っかかる程度の違和感を残した事を僕に思い出させた。更に、その視線は前回のものよりも更に鋭く、そして数を増している事にも気づいた。
そう…監視といってもいい。尾行に気づいた時なんかは、きっとこんな感じを抱くのだろう。

なぜ、僕は監視されてるのだろう?
その疑問はその時には起きなかった。むしろ、その事実を冷静に受け止めた。そう、直感が確信に変わってきている。僕は、何か大きな渦の中に巻き込まれつつある。もちろん、その渦が僕にとって、今一番大切なものを含んでいる事にも。

「あちらのお客様からです。」
僕はバーテンダーから差し出されたカクテルを見て、ちょっと驚いた。
古典的な手法だ。古き良き映画でも、ハンフリー・ボガード位にしか許されない芸当だ。ましてや、僕のような男をこんな手で口説いてくる女性がいるなんて。これは高等テクニックだ。このバーテンダーなら、そんじょそこらのレベルの女性でなければ、オーダーを受けないだろう。しかも、差し出されたカクテルは「X-Y-Z」だ。僕は冴羽獠じゃないし、ここは新宿駅の伝言掲示板でもない。

僕が軽くその女性に会釈を送る。ご馳走になります…その意思を示す仕草だ。つまり「助けてほしい」というリクエストに答えよう…そういう事だ。おそらく、シティハンターで言うとそうするのが流儀なのだろう。
「こんな突然ですんません。驚かれましたやろ?」
僕の予想を裏切って、女性の声には強い関西訛りがあった。
どことなく、その横顔に見覚えがある。
「自己紹介は後で宜しいやろか?今は、とにかく急がなんとアカン状況やさかい。ええかな?」
「ああ。構わない。ここではないどこかに?」
「ウチが先に出る。5分や。きっちり5分後にこの店を出て欲しい。そしたら、まっすぐココに来て欲しいんや。タクシーなら表に出ればナンボでも捕まるし。」
女性が差し出したメモには、今池のラブホテルの名前が書いてある。
参ったな。幾らいい女の誘いとはいえ、ダイレクトすぎる。新手の美人局の可能性だって十分ある。しかし、僕にその疑問は全くなかった。
女性が隣に来た瞬間から、ずっとあった僕を監視する視線が完全に消えうせていたからだ。
「君の名前だけ聞いておこうか。そして、そこで何が起こるのかも。」

女性はにっこり笑って僕を正面から見た。
名前を確認する必要などなかったのかもしれない。
僕は彼女の事がすぐに分かったのだから。
「今出舞といいます。上から読んでも下から読んでもいまでまい。そこで、お話ししたい事があります。玲奈さんとかおたんが待ってます。」
「分かった。5分だね?」
僕は自分が、ジェームス・ボンドにでもなったように思えた。
ゆりあモデルのTIMEXに視線を落とす。

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