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22

カーテンを開けていた大きな窓から冬の朝日が差し込んで来る。
名古屋ヒルトンのスイートルーム。僕は結局あれから一睡も出来なかった。
必要以上の広さと豪華な調度品に圧倒された訳でもないだろう。
枕が変わったから眠れなくなるような、繊細さなんかも持ち合わせていない。
ハードな一日だった。泥のように眠ってしまっても良かったはずだ。

いや、ひょっとしたら眠っていたのかもしれない。
僕の脳裏には昨夜の事が焼き付けられていた。
月明かりに浮かんだちゅりの美しい身体。
艶めかしい表情、そして温かく湿った吐息を今も感じる事が出来る程だ。
しかし、その顔が刻々と変わっていく。
あかりん、玲奈、そして最後にはゆりあ…へと。
僕は首をぶんぶんと振った。何をやってるんだ、僕は。
彼女たちをそんな疾しい目で見ていたのか?

ピンポン~
ピンポン~

高級ホテルのドアチャイムとしては、間抜けな音が2度鳴った。
僕は時計を見た。そして、慌てた。
時間は7時を過ぎていた。いかん…そういや、外がイヤに明るい訳だ。
目覚ましは5時にセットしたはずだった。僕はホテルの時計に目をやった。
確かに5時にセットされている。しかしアラームの表示はOFFになっている。
これじゃ、今から飛び起きて新幹線に飛び乗った所で始業には到底間に合わない。
参ったな…仕事自体は特に急に休んでも構わない。今までも、逆の立場で急に休んだヤツの代わりの対応はしてきた。お互い様じゃないか…そう言いながら、今まで僕が急に休んだ事は一度も無い。一度や二度の急な休みでとやかく言われる事はないだろう。だけど、正美には何で言おうか?彼女は、僕が今日名古屋に来てる事を知っている。昨夜のステージで起こったハプニングの事もメディアが知らせる事になるだろう。そして、彼女なら僕がそこに何か関わった事を察知するかもしれない。いや…それも事実だし、その事自体特に疾しい事ではない。
しかし…昨夜、僕とちゅりとの間に起きた事を、どう伝えればいいんだろう…そう伝える必要はないだろう。その事実を抱えたまま彼女にどういう顔で会えばいいのかを、考える時間が欲しい…そう思った。

チャイムはしつこく鳴り続けていた。
早く出てこい。お前は完全に包囲されている…
そんな風に諭されてるような音だった。

ドアののぞき窓から外を見る。
芝さんがモーニングのルームサービスでも頼んでくれたんだろうか?
僕の想像力はその程度だ。
まさか、そのチャイムを笑顔のまま鳴らしてるのが、あかりんだなんて事、まさかにも思いつかなかった。

「ちょ…ちょっと待って。」
僕は慌てて、ナイトガウンを身に付けた。
普段は寝る時は真っ裸なのが習慣なんだ。

「おっはよ~ござるぅ。」
あかりんの弾けるような笑顔が目の前にあった。
日が当らないはずの廊下からも眩い日差しが差し込んでくるようだった。
「おはよう。どうしたの?あ…入る?」
「えええ~オトコの人が泊ってるホテルの部屋にぃ?あかり、緊張しちゃうよぉ~」
「あっそ。じゃあ。僕はもうちょっと眠るから。」
僕は思わず軽口を叩いた。不思議だ。こうして二人っきりで会う事なんて、あり得ないシチュエーションなのに気軽に話せてしまう。普段の握手からそんな感じだからなのだろうか。

「入ります、入ります。もう、意地悪。」
そう言って、あかりんは僕の部屋に入ってきた。
周りをキョロキョロしながら、僕に続いてベッドルームに足を踏み入れる。
「ホントに今起きたばかりなんだね?」
「うん。ホントは朝一の新幹線で東京戻って会社行こうと思ってたんだけど…見事に寝過ごしちゃった。」
「そうなんだ。昨日は大変だったもんねぇ。」
「だね。でも良かった。ちゅり、すぐ元気になれるってよ。」
僕がそう言うと、あかりんの顔がまた一段と明るくなった。
本当に素敵な笑顔だ。この笑顔が見れるだけで、この子を応援して良かった。そう誰もが思う笑顔だ。
きっと、あかりんなら笑顔で世界を平和にする事だって出来るんじゃないかな。

「あ、そうそう。コレ返そうと思って来たんだ。早くからゴメンね。」
あかりんがバッグの中から時計を取りだした。
僕が昨日あかりんに渡したゆりあバージョンのTIMEXだ。
「おお。良かったあ。どこかに失くしちゃったかと思ってたんだ。そうだよね、あかりんに渡してたんだ。」
僕はあかりんから時計を受け取った。
きっと、本当に見つかって良かった~って顔をしてたんだろう。
「ね?ゆりあ推しなんだね?」
「え?あ。そっか、この時計か。推しっていうか…そうかな。あ、でも、あかりんの事も推してるよ。もちろん。だから握手にも毎回行ってるし。」
「え~でもぉ、あかりの事、一推しじゃないんでしょ?」
あかりんが、首を傾けて笑う。握手会の時以上に全開の笑顔だ。
「ちょっと、あかりん。ココあかりんレーンじゃないし。」
「もー嫌だ。釣ってるとか思ってるんでしょぅ?違うよ。あかり、ホントにね…」

あかりんが、ベッドに腰掛けてる僕の隣にちょこんと腰かけた。
急に真顔になる。
「ワタシ、あんな風に怒られたの…初めてなの。」
「怒られた…って。ああ…ゴメン。痛かったよね?」
「うん。ほら、まだ熱持ってる。」
あかりんは、僕の手を取ってそのまま自分の頬に持っていく。
確かに、ほんのりとした温かみを感じる。
「ちょ…あかりん…」

きっと僕には、そのうち何かとんでもない不幸が降りかかるに違いない。
じゃなきゃ、昨日はちゅり。今日はあかりん。
誰もが羨むに違いない。間違いなく、二人に僕は誘われている。
好意…そう思っていいだろう。を寄せられている。
あり得ない。

今日こそちゃんと断らないと…
でも、そんな事僕に出来るのか…

そんな葛藤する心配は今日はしなくて済んだ。
あかりんのシャンプーの香りがする髪の匂いから、僕は一本の電話で逃げ出す事が出来た。
芝さんからだった。
「宜しければ、今日こちらにいらっしゃいませんか?秋元がぜひお礼を申しげたい…と。」
「秋元…さんって…?」
「はい、秋元康です。」

「あかりん、朝ごはん食べた?僕、用意はじめなきゃ。」
「もう…意気地なしぃ。」
あかりんが、意地悪そうに笑った。

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