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「ゴメンなさい。突然でビックリさせちゃったんですよね…」
「いや…あの…謝らないで。悪いのは僕なんだから。」

またやってしまった。
毅然とした態度で拒絶すべきだったんだ。
僕は激しく後悔した。ただ、一つだけ言い訳させてもらえるなら、あの時、ちゅりの柔らく熱い舌使いに身を任せる事無く、身体を離す事なんて出来やしなかったんだ。それ位、彼女は素晴らしかった。

恥じらいを残した少女のような仕草が、徐々に淫らな妖艶なモノに変わっていく。
ステージの上で時々見せるあの表情だ。
「夜風の仕業」で魅せるお淑やかさと「愛のストリッパー」で魅せる、男を魅惑の世界へと誘い込むようなあの表情。その両面を見せながら僕を求めるちゅりの姿。真っ暗な病室。僅かに窓から入ってくる月明かりに照らされたちゅりの身体は、まるでヴィーナスの化身のように見えた。

僕は興奮していた。掛け値なしに。捲るめく快感を感じ始めていた。
しかし、僕の身体は反応出来なかった。
ちゅりは僕を温かく包んでくれた。そして優しく僕を誘ってくれた。
もっともっともっと…ワタシの事を好きにしていいよ…

しかし、僕の物はまるで堅くなる事を拒むかのように、反応をする事が無かった。


「やっぱり、ワタシって魅力ないのかなぁ…」
僕は答えに窮した。こんな時、なんて言えばいいのかが全く分からない。
「そんな事ないよ。君はとっても魅力的だ。」
前にそんな風に言って女の子を烈火の如く怒らせてしまった事がある。
気休めなんて言わないで…って事になるのだろう。

ちゅりが素肌に寝巻を着始めた。
僕も、肌蹴たシャツのボタンを留め、露わになった下半身を隠すようにフィットトランクスを履いた。買ったばかりで馴染んでいないパンツをその上から履く。

気まずい…
出来る事なら、今すぐこの場から逃げ出してしまいたい。
ちゅりが咎める事無く、僕に悪戯っぽい顔で笑ってくれるのがせめてもの救いだ。
「ごめんねSummer」の♪僕のいたずら~ってトコで見せる時のような、べええええ~って顔。

「いやいや、お待たせしちゃって。」
さっきまでは、来るなよ…戻ってくるなよ…そんな風に思っていたのに、芝さんが現れた事にスゴクほっとした。身勝手なものだな…僕は苦笑した。
「ホテルが確保出来たので、ご案内します。お、明音、目を覚ましてたのか?ちゃんと、お礼言ったか?」
「はい。でも、これ位じゃお礼になんか…ね?」
ちゅりが僕に意味ありげにウィンクしてくれて、僕はドギマギした。
まさか芝さんに見られて…なんかないよな?そしたら、ものスゴイ勢いで止めに入ってきたに違いないし…

「じゃあ、明音ちゃん…お大事にね。」
「はい。ありがとうございます。また、握手会とかでお待ちしてます。」
ちゅりは明るい顔で僕に手を振ってくれた。

間違いなく、僕は彼女を傷つけてしまった。損なってしまった。
彼女の笑顔には、その事が色濃く浮き出ていた。
僕にはわかるんだ。
これが、初めての事ではない。


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「くっそぅ!なんて事だ!あそこまで行ってて。」
モニターを食い入るように見つめていたJr.が目前のデスクを拳で激しく叩いた。
置いていたカップが倒れ、冷めてしまったコーヒーが書類に染みを作っていく。
慌てて、それを片付けようとする杉村大蔵に目もくれる事無く、Jr.はモニターを睨みつけていた。
「完璧だった。これこそ、渾身のシナリオだ。高柳の文字通り命を賭けた迫真の演技、古川が作った高度なストーリー展開、須田のサポートも素晴らしかった。芝の大根ぶりにはハラハラさせられたが…どこも完璧だった。なぜだ?大蔵!彼は間違いなく、二次覚醒を済ませてるんだろう?」
「は…間違いありません。こちらのデータをご覧ください。」
大蔵が手もとのキーボードを叩く。顔写真と共に、様々なデータが表示された。
「…確かに間違いない。なら、どうして?これまでもEDに病んでいるメイトは幾らでもいたはずだ。しかし、例外なく二次覚醒を終えた者はミッションをクリアさせてきたはずだ。なぜだ?なぜ、彼は…?」

「ミュータント…ではないでしょうか?」
大蔵がJr.に耳打ちした。
「ミュータント?突然変異体という事か?あり得ない。アレは、様々な学者がその想定の可能性を徹底的に論じたはずだ。机上の空論にしか過ぎない…そう結論付けたはずだ。だからこそ、システムの中にその対処法を組み込んでいないんだから。」
Jr.が画面上のデータをスクロールしていく。
「見ろ。彼の素晴らしいポテンシャルを。このプロジェクトは彼を見つける為にあったと言っても過言ではない。それだけの逸材なのだ。まさに、想定外だ。これだけの、優秀な素材を確保する為には…」
Jr.がそこまで言って、思わず視線を上げた。
モニターには、名古屋ヒルトンのフロントに芝に案内されてチェックインしていく男の姿を映し出していた。
「想定外の逸材…か。なるほど。データでは推し量れないとはこの事か。」

Jr.の目が暗く輝く。
様子をうかがっていた大蔵が思わず息をのむ。
「大蔵。」
「はっ…」
「東海地区のインスペクターを集結させろ。他のメイトのインスペクションは多少手薄になっても構わない。彼を…囲い込むぞ。この機会をみすみす逃す事のないようにな。」
「かしこまりました。すぐに手配を。」
「それから…」
「はっ。他にも何か施策を?」

「木崎だな。木崎ゆりあに明日朝一で、再度レクチャープログラムを。」

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