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17

小田原を過ぎた後、しばらくトンネルが続く区間に入る。
その後、二人は特にはしゃぐでもなく、すぐに静かになった。
りっちゃんは小さな身体を余計小さく縮めるように、ぱるるは窓枠に肘をつき、頬をその手に乗せるようにして、あっという間に眠りに入ってしまった。
僕は食べ終わった弁当のカラを足元に置いて、お茶を一気に飲んだ。
妙に喉が渇くのは突然の事態に興奮しているのだろう。

相当疲れてるんだな…
僕は二人の寝顔を代わる代わる眺めた。ある意味、無茶苦茶幸せな状況だ。
トップアイドル二人の寝顔をこんな間近で、じっくり食い入るように見れるなんて。
りっちゃんの寝顔は、どこか大人っぽく見えた。テレビの中での無邪気に笑うあのおバカキャラじゃない。
正真正銘、本物の美少女だ。

「う…う~ん…」
りっちゃんの寝顔に見惚れてると、ぱるるが寝言のように呟いた。
僕がぱるるの方を向こうとした瞬間だった。
寝返りを打つようにぱるるが姿勢を変えた。そのまま頭をちょこんと僕の肩に乗っけるように倒れかかってきた。

目の前にぱるるの顔がある。小さな寝息を立てるぱるるの顔が。
無防備に少しだけ開いた口から、まるで天使が魔法の呪文を唱えるように見えた。
柔らかくて、僕をどこかに誘うようないい匂いがしてくる。
手を伸ばせば…いや、そんな事をしなくてもいい。
今の僕に必要なのは、ほんのちょっとの勇気だ。ほんのちょっとの勇気があれば、僕の手は、ぱるるの髪に、頬に、そして唇に…届く。誰もが夢に見るだろう甘美な感覚を味わう事が出来るのだ。

「楽しい時間はあっという間ですね。」
夕陽を見ていたかのイントロのセリフがぱるるの声で頭を巡る。
本当にその通りだ。
新幹線はあっという間に浜名湖に差し掛かった。あと30分も経たずに名古屋に着いてしまう。
「ふわあぁぁぁぁ。んーーーーー良く寝たぁ。」
りっちゃんの明るい声で、夢のような時間はあっさり終わりを告げた。

「ホント、良く寝てたね。」
「あ、寝顔見てたんでしょ?もーやだなぁ。」
「いや…見るなってほうが不自然な気が…」
僕はりっちゃんの方を見て困ったような顔をしてみせた。
さっきの大人っぽい寝顔はドコいっちゃったんだろう?
りっちゃんは、僕の良く知ってるりっちゃんになっていた。
「私も寝ちゃってた。ああ、もうすぐ名古屋?」
ぱるるも目覚めたようだ。あくびをかみ殺すようにして目を擦る。

「あ、コーヒー飲もうっと。すみません。ホットコーヒーお願いします。」
丁度通りがかった車内販売のお姉さんに、りっちゃんが声をかけた。
「私も飲む~。ミルクだけ入れてください。」
「ありがとうございます。600円になります。蓋はお付けしますか?」
「あ、大丈夫です。すぐ飲むんで。ぱるるさん、とりあえず建て替えときますね。」
りっちゃんが、お姉さんからコーヒーを受け取った。カップから芳しい香りが零れてくる。
僕も飲みたくなったが、もうすぐ名古屋だ。到着してからにしよう…

「はい、ぱるるさん…あっ!」
「わっ!あ…あちちちちちちち」
「わ…わ…すみませんんん…だ…大丈夫?????」
りっちゃんの手からコーヒーカップが滑り落ちた。
熱いコーヒーが僕のチノの膝の上あたりを直撃した。

「ちょ…ちょっと、りっちゃん。だ…大丈夫ですか?」
「あ…うん、大丈夫、大丈夫。」
りっちゃんは、完全に固まってしまった。ぱるるが落ち着いてハンカチを出し、ペットボトルの水を浸しそれで僕のパンツを拭ってくれる。その手際の良さに、僕はちょっと意外な感じがした。
それでも、コーヒーは完全に僕のパンツを湿らせてしまっていた。厚手のものだったので、どうやら火傷は免れたらしいけど。

その時、車内アナウンスが間もなく名古屋に到着する事を告げた。
「ありがとね。大丈夫だから心配しないで。僕、名古屋で降りるからさ。二人は?」
「私達は、このまま大阪まで…でも…あ、そうだ。」
ぱるるが、小さなハンドバッグの中から、小さなメモパッドを取りだした。
小さなペンで何かを殴り書いた。

「クリーニング代、お支払いさせてください。コレ…私の携帯番号です。ご連絡してもらえますか?」
080-4544-....
僕は一瞬状況を把握出来なかった。
「あ…コレ、私のプライベート用の携帯番号です。ちゃんとお詫びしたいんで…お願いします。」
新幹線が減速を始めた。名古屋駅のホームに入ったのだ。

そのままメモを受け取っちゃえばいいんだ。
そうすれば、またぱるると会える…
世の中の男なら、誰もがこの状況に直面すれば、迷うことなくメモを受け取るよ。
いいじゃんか、向こうが教えてくれてるんだぞ?

「ありがとう。でもさ…さすがにマズいって。そんな簡単に得体のしれない他人に電話番号なんて教えちゃいけないよ。ひょっとしたら、僕はタチの悪いストーカーになってしまうかもしれないし。」
僕がそう言うと、ぱるるは目を丸くした。
りっちゃんもびっくりした顔になっている。
「で…でも…あの…」

新幹線が完全に停車した。
「ありがとう、気持ちだけ頂いとくよ。それに…」
僕は荷物を持ち、席を立った。
「可愛い寝顔、十分楽しませてもらったしね。」

僕はそう言って新幹線を降りてホームに立った。
着替えのパンツ持ってきてないんだよなぁ。日帰りだし。
仕方ない…劇場行く前に買って行くか…
僕は、ちらっと新幹線の中を見ようとしたが、既に列車は西に向かって発車していた。

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「失敗しました…すみません…」
「見ていたよ。」
「すみません…本当に。私がもっと…」
「まあ、いい。そのまま新大阪まで行ってくれ。向こうでの仕事が待っている。」
「分かりました。」

島崎遙香からの電話を切った秋元康が大きくため息をついた。
「ご覧の通り…失敗してしまいました。まさか、あの男がメモを受け取らないとは…」
「秋元先生。あれが、渾身の新しいオリジナルシナリオですか?」
「ええ。島崎も川栄も上手くやってたと思うのですが…」
小泉Jr.が秋元に苦い表情を向ける。
「先生。あれがですか?もし、あなたがあのシナリオで、上手く行くと本気で思って書いたのなら…残念ながら、これ以上このプロジェクトのプロデューサーをお任せする事を考え直さなくてはならない。うたた寝で頭を肩に乗せる?コーヒーをズボンにこぼして、クリーニングするから後で連絡を…?昭和ロマンの映画でも、そんなチャチな演出はないでしょう。いいですか?彼は特別なんです。絶対に…絶対に失敗は許されない。」
これまでにない厳しい口調のJr.に秋元の表情に緊張が走る。
「は…はい。申し訳ありません…次は…必ず…」
「いや…次は…彼女たちに任せる事にします。」

Jr.がホットラインを手にした。
手もとの端末で「栄」への回線を開く。




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