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結局、ベルギーの一味を駆逐する(最近ハッカーの間でもこの「駆逐」って言葉が流行ってる)のに3日を擁した。苦労した割りにギャラは少ないが、欧州中央銀行へのルートを解析出来たのは、不幸中の幸いだった。こういう経験値を上げる事が出来る仕事には、こっちから金を払ってもいいくらいなのかもしれない。

At all, you guys were good in friend.
(まったく…お前達が味方で良かったよ)
クライアントからいつもの労を労うメールとともに、今回のギャラとして78,000ドルが振り込まれた事を知らせるアラートが届いた。

さて…と
おいおい、もうこんな時間じゃないか。
僕は慌てて身支度を整えマンションの部屋を飛び出した。
地下駐車場から赤いSportivaを滑り出し、湾岸線を幕張まですっ飛ばす。

何とか2部の開始時間に間に合った。
まずは、ゆりあのレーンだ。やはり、一日の始まりはゆりあに挨拶をする所から始めないと。

ピッ。
受付の女の子がリーダーで握手券を読み取る。
「3枚で宜しいですか?」
「はい、お願いします。」

2部はこの3枚だけだ。
今日一日ヨロシクねって言う位でいいかな。
あ、生誕祭。むちゃ良かった~ってちゃんと言わなきゃね。

「…?」
受付の女の子がなかなか握手券を戻してくれない。
一生懸命、何度も何度もリーダーで握手券を読み取ろうとするが、上手くいかないらしい。
「大丈夫?」
後ろにも列は長く伸びている。僕は、なんとなく居午後地の悪さを感じてしまった。
「あ…申し訳ございません。」
明らかに女の子は動転している。こういうエラーが発生した時の指示がきちんと出来ていないのだろうか?恐らくアルバイトだから仕方ないのだろうが…

「あのさ、後ろの人を先にやってあげてもらえるかな?ほら、無線あるんでしょ?誰かシステムの分かる人を呼んでさ。僕ならいいから。2部はゆりあしか無いし。」
「申し訳ございません…」
僕の後ろに並んでる人は特にトラブルが起こっていない事を考えると、単純な読み取りエラーだろう。
もちろん握手券は正当に入手したものだ。ハッカーをやってるんだから、幾らでも悪さ出来るんだろう?って思われるかもしれない。正解を先に言うと、握手券の不正入手や劇場公演等のチケット抽選に作為を働く事は、正直朝飯前の事だ。でも…僕は絶対にそれはしない。正義感とかそういうモノじゃない。ただ、ヲタ活動は僕の一番大切な時間だ。そんな楽しい時間を、汚れた手段なんかで楽しむつもりは、これっぽっちもない。

「大変失礼いたしました。どうぞ、お進みください。」
現れたスーツの男は、握手券をちらっと見ただけで僕をレーンの中に通した。
事前に連絡がきちんと取れていたのだろうか。何か聞かれるのかと思っていたのだが、ちょっと拍子抜けした感じがした。
まあ、いいか…

すぐにゆりあのブースの前に来た。
最近はすっかり握手強メンとしての評価が定着してきたゆりあだ。
ブース前にはOJSの方が立ってヲタの手のひらチェックに余念がない。

「間もなくで~す。お時間で~す。」
ストップウオッチを持った係員の女性が機械的な声で知らせる。
スライダーマシンに乗ったかのような横移動で剥がしが僕の前のヲタをブースの外へと流しやる。

「3枚で~す。」
僕の番になった。ゆりあが満面の笑みで迎えてくれる。
「お~おはよ~」
「おはよ~、ゆりあ誕生日おめでと。ちょっと遅れたけど。」
「てんきゅー。あ、こないだ来てくれたでしょ?」
「生誕祭?もちろん。初めて最前で見たよ。」
「レス送ったのわかったぁ?」
「わかったよ~むちゃ高まったし。」

ん…?今日、随分剥がしが緩くね?
まだ2部で空いてるから?いや…そんなコトないよな…
そう思った時、OJSのオジ様が持っているトランシーバが小さな音を立てた。
アラーム?サイレン?音量は小さいがそんな感じの音だ。

「おっといかん。君、手伝ってくれ。」
オジ様がブースのカーテンをさっと引いて閉じた。
そのままタイムキーパーの女性と一緒に姿を消す。
「あのぉ…」
「君もだ。ちょっと来たまえ。手が足りないんだ。」
どうすればいいのか困った表情の剥がしも、オジ様に言われるままのその場からいなくなった。

「あの…」
「あの…」
「いいのかな?」
僕はゆりあの手を握ったまま、ぽかんとした表情になった。
ゆりあも大きな目を一段と大きくしている。
「迷惑?」
「え?そんな訳ないじゃん。むしろラッキー。」
僕のとっては、このアクシデントはまさに降って湧いたようなラッキーだ。
「じゃあ、お話しようよ。ね。」
ゆりあの天使のような笑顔が目の前にあった。
「あ…うん。ありがと。でね、こないだの生誕祭ってさ…」
遠慮なんかしなくていいや。
ゆりあもそう言ってくれてるし。

最近ツイてるなぁ…



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「スペシャル・メイトだ…久しぶりの。しかも、S…いや、超Sクラス判定のメイトだ。誰だ?誰が二次覚醒を?」
首相官邸の地下深くのシークレットエリアに、珍しく大きな騒ぎが沸き起こっていた。
すぐに、総理そしてこのプロジェクトの最高責任者の小泉代議士にホットラインが繋がる。
Jr.の声からも興奮した様子がうかがえる。
オペレーション・チーフの杉村大蔵がホットラインのJr.に答えた。

「27番レーン。木崎ゆりあです。本日がファーストミッションのメンバーですよ。」
「今日が初めて?なんて事だ。あの柏木だって、須田だって、渡辺だって…名だたるモンスターと呼ばれたメンバーですら初日に二次覚醒へ導くなんて誰も出来なかった事だぞ?しかも、これまでに何人もいないSクラスのメイトを。」
「その通りですね。まさに、我々は逸材を手に入れたのかもしれません。」

「逸材…か。素晴らしい。」
Jr.の声が受話器の向こうから弾んで聞こえた。

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