スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

新作について


今回の「約束の場所へ」はこれまでの作品とはちょっと違ったテイストの作品になります。
ちょっと話が難しくなっちゃうかもしれません…
しかも、ある映画をモチーフにしており…というと聞こえがいいですが、要は「パクリ」ですww
古い映画なので、ご存知ない方もいらっしゃるかもしれませんが、結構有名な映画でも
ありますので、途中で「あ、先わかっちゃったよ」と思われる方もいらしゃると思います。
その際は「ああ、この場面をこんな風に読み変えたんだな」ってな感じでご勘弁頂けたら…と。

先がわかった方、ネタばれ系のコメントはぜひ「鍵付き(管理者だけにコメントする)」で
お願いできますでしょうか?

そんな感じの今作ですが、宜しければお付き合いくださいね。
スポンサーサイト

chapter-1


AKB48☆第4回選抜総選挙について語るスレ


1:名無しさん@お腹いっぱい 
   順位予想、シングル売り上げ予想
   なんでもやってくれ

2:名無しさん@お腹いっぱい
   >>1 乙

3:名無しさん@お腹いっぱい
   >>1 男前乙 しかし、このスレ盛り上がるのか?

4:名無しさん@お腹いっぱい
   >>3 たしかに。

5:名無しさん@お腹いっぱい
   JPN18が抜けた今、ミリオン達成はありえんだろ。

6:名無しさん@お腹いっぱい  
   >>5 JPNは握手券抜きでミリオンだろ?

7:名無しさん@お腹いっぱい
   今年の選挙は出来レース
   1位が2位にダブルスコアだろ?

8:名無しさん@お腹いっぱい
   鼻VS顎

9:名無しさん@お腹いっぱい
   >>8
   顎って、まゆゆ、玲奈どっちよ?

10:名無しさん@お腹いっぱい
   神8からメンがごっそり抜けた今、ゆきりんしかいないでしょ。
   個人的にはさっしーの3位以内を期待

11:名無しさん@お腹いっぱい
   >>6
だってJPNは作曲ミスチル桜井だろ?カップリングはB'z松本・・・
   売れない訳はないっしょ?
   逆に投票券ついててもAKBは70万止まりじゃね?

12:名無しさん@お腹いっぱい
   なんでJPNに横山が入ったの?
   AKBに残したほうがよかったんじゃない?

13:名無しさん@お腹いっぱい
   誰かテンプレ貼れよ。
   JPNのメンツ

14:名無しさん@お腹いっぱい
   >>13 ほいよ。


   JPN18(決定済15名)


   前田敦子
   大島優子
   篠田麻里子
   小嶋陽菜
   板野友美
   宮澤佐江
   峯岸みなみ
   河西智美
   秋元才加
   佐藤亜美菜
   増田有華
   倉持 明日香
   梅田 彩佳
   横山 由依
   高城亜樹


   残る3名は誰になる?

15:名無しさん@お腹いっぱい


   結局秋元は誰を売りたかったんだ?
   
16:名無しさん@お腹いっぱい


   東京ドームで卒業発表→JPN結成ってすげーシナリオだったよな。

17:名無しさん@お腹いっぱい
   少しは劇場当たりやすくなってくれんかいな。

18:名無しさん@お腹いっぱい
   >>17 っても、相変わらず当たらないやん。無理よ。
   あんだけシャッフルしてるから、全然新しい公演みたくなってるし。

19:名無しさん@お腹いっぱい
   なんでゆきりんはJPN行かなかったん?
   どう考えても残るメンツじゃないだろ?
   上位メンの20才以上は全部行くってことじゃなかったの?

20:名無しさん@お腹いっぱい
   >>19 たかみなは残ったじゃん。

21:名無しさん@お腹いっぱい
   とにかく誰がどう考えても1位は柏木しかないだろ?
   ある意味、今までで一番面白みのない選挙になりそうだ。

22:名無しさん@お腹いっぱい
   でも、お前ら今回も大量買いするんだろ?

23:名無しさん@お腹いっぱい
   >>20  たかみなは一生AKBだろwww

24: 名無しさん@お腹いっぱい
一つ言えるのは、ゆきりんの個別が今まで以上に取れなくなるってことだ。

25:名無しさん@お腹いっぱい
   >>24 れいにゃんすら一次で完売しそうだよな。

・・・・・・・・



chapter-2

2012年5月

「会長、これからですか?」戸賀崎智信が秋元康に声をかける。
「ああ。直接東証に向かうよ。君も決算発表会見には同席してくれるんだろう?
 管理部門の取締役就任は6月の株主総会を待ってからになるが、こういう場には早く
 慣れてもらわないと。」
「ええ。心得ております。社長もご一緒に?」
「窪田君は直接東証に行くそうだ。」
「そうですか、では後ほど。」
秋元は真新しいオフィスを笑顔で後にした。

戸賀崎は決算発表用の分厚い資料に目を通しながらこの1年の激動ぶりを思い起こしていた。
それまで「運営」と呼ばれていた事務管理部門は新春早々に実現された株式会社AKSの
株式公開を機に大きく変わった。新興市場マーケットへの上場とはいえ、市場での
評価は極めて高く株価はあっという間に公開時の3倍に跳ね上がった。株主総会に
契約アーティストのライブを行う事や、数々の株主優待策を講じた結果、個人投資家の
圧倒的な指示を受けたのも株価高騰の要因と言われた。
豊富な時価総額を背景に会社は拡大路線を取り、幾つかの有名レーベルのレコード会社や
芸能プロダクション、プロモート会社を買収しその資産価値が更に株価に反映されていた。
世にAKB商法と言われたビジネスモデルを確立させた秋元康の才覚はマーケットビジネスでも
存分に発揮されていた。
戸賀崎もその難しい時期に、企業の最大の「資産」とされるメンバーの管理、顧客への
対応に文字通り奔走し高い貢献を果たしたという事でボードメンバー入りする事が
内定していた。

AKBグループもまさに「変動期」を迎え、その転身を見事に成功させようとしていた。
3月11日・12日。「あの日」の1年後に行われた東京ドーム公演は大成功をおさめた。
「利益」でなく「売上全額」を被災地へ寄付する事が表明されると、それまで一部で
批判を繰り返していたメディアはこぞってその論調を絶賛へと切り替えた。
その最後で発表された主要メンバーの「卒業」そして、新グループJPN18の発足は
大きなサプライズとして世間の話題をさらった。
新グループの第一弾シングルは、「握手券」なしで売上120万枚を達成。桜井和寿、松本孝弘
という二人の作曲した2曲というラインナップはこれまでのファンだけでなく、新しい層を
ファンとして取り込むことに成功し、グループの新たな方向性を打ちだした。

一方で、AKB48自体は主要メンバーの卒業を受け、新しい形への変革を求められていた。
秋元はここであえて旧来よりのスタンスを継続し、今年も「総選挙」を実施する事を
発表した。世間では大幅な売上減を懸念したが、「投票券」が付いたCDシングルへの
動きは極めて早く、初動出荷はグループ最大売上を記録した前年作を大きく超え、最終的な
売り上げは200万枚に達しようとかという勢いだった。

chapter-3

「今日、速報発表だよね。公演終わりにやるのかなぁ?」
指原莉乃がステージ上でストレッチしながら言う。今日は「シアターの女神公演」だ。
本来チームA所属の指原だが、メンバーの卒業に伴いチーム体制が機能していない中、
メンバーは他チームの公演に出演する事が多くなっていた。その事は「シャッフル効果」と
して、長期に渡ってしまっている現公演のマンネリ化を防ぐ事につながっていた。
「だよね。だよね。緊張しちゃう。今までで一番かも。」
同じくチームAから今日の公演に加わる多田愛佳も笑顔で言う。
「なんかさ、去年まではある程度予想出来てたじゃない?上の方って。でも、今年は
蓋開けてみないとわからないよね~。ま、一人だけわかってる人はいるけど~」
渡辺麻友が悪戯っぽく笑って柏木由紀の方を見る。
「ちょっとちょっと。そんなの分かんないでしょ~。」柏木が笑顔で返事を返す。
メンバーと柏木から明るい笑い声があがる。誰もが、新政権の誕生を予感し、またその事実を
快く受け入れようとしていた。

劇場公演が始まった。
250名キャパの劇場は今日も満員だった。人気は衰えるどころか、ますます過熱の一途を辿り、毎日のように行われるにも関わらず、劇場公演は研究生公演を含め激しい競争率となっていた。

♪あなたは今日でらぶたん推し~ほらAKB~(つんつんデレデレ!)
♪あなたは今日でさっしー推し~ほらAKB~(超絶ヘタレ!)

この公演の売りであった「チームB推し」は「AKB48推し」とファンの間で呼ばれるようになり
今や全メンバー誰がこの公演に出ても対応できる人気曲となっていた。

「それでは、最後の挨拶をしましょう。」
メンバーが横一列に並び手を取り合った時、タキシード姿の戸賀崎がステージに立った。
歓声の中、戸賀崎がマイクを握る。
「では、昨日より投票が始まった第4回選抜総選挙の速報発表を行います。」
戸賀崎が発表対象の40位から順位を読み上げる。これまでランクインした事の無いメンバーの名前が呼ばれるたび、ランクを落としたメンバーの名前が呼ばれるたび大きなどよめきが起きた。

「では…第5位。チームK所属、藤江れいな。」
じゃんけん選抜以来一気にブレイクした藤江の名前が呼ばれると、今日その場にいないにも関わらず場内には大歓声が起こった。
「第4位、SKE48チームS所属、松井玲奈。」
渡辺と2位を争うと思われた松井の意外な順位に場内からは驚きの声が上がる。
「第3位、チームA所属、指原莉乃。」名前を呼ばれ早くも涙目の指原が歓声に応える。
「ちょっと、さっしー、まだ速報だよ?」メンバーに笑みが浮かぶ。
「第2位、チームB所属、渡辺麻友」2位の発表には歓声こそ上がったが場内には納得したような
空気が流れた。そして戸賀崎が淡々と1位を発表する。
「第1位、チームB所属、柏木由紀。」

劇場内中が拍手で柏木を祝福した。そして、誰もが新しく訪れる柏木王朝の到来を歓迎していた。
速報に寄せられた投票数が昨年を大きく上回った事と、初動売り上げだけで既に160万枚に
達した事が戸賀崎から報告された。

何度も何度も頭を下げる柏木に姿を、秋元康はモニタールームで腕組しながら見ていた。

「予定調和…か。好きではないな…」

黒ぶちの眼鏡の奥が鈍く光った。

chapter-4

「あの…こんな広いお部屋…本当にこんなところに住んでいいんですか?」
柏木は優に20畳はあろうかというリビングで立ちすくんでいた。備え付けられた家具は一見して高級である事がわかるし、高い天井まで伸びた窓から眩いばかりの東京の夜景が一望できる。
「ああ。秋元せんせ…いや会長が用意してくださったんだ。遠慮する事はないだろう。
お前にはこれからAKBの看板として頑張ってもらわないといけないんだから。これくらいのところに住むのが当然っちゃ当然だろ。ここならセキュリティもしっかりしてそうだしな。」
戸賀崎が窓の下を覗き込みながら言う。

「まぁ、俺はこういうトコはダメだけどな。高いトコ嫌いなんだよ。」
「あれ?意外ですね。戸賀崎さんに怖いものがあるなんて。」
「俺にだって怖いものあるさ。あ、そうそう。このマンション、秋元会長のお知り合いが
多く住んでるらしい。とりあえず中で会った人に挨拶されたらきちんと返事はしといた
ほうがいいかもしれないな。」
「はい。わかりました。気をつけますね。芸能人とかも住んでるのかなぁ?
なんかドキドキしちゃう。」
「おいおい、何言ってるんだよ。今じゃ、お前のほうがドキドキされる対象だろうが。」
戸賀崎が笑う。
「そうなのかなぁ?いまだにそんな自覚がないんですよね。」
柏木も笑った。

chapter-5


【速報】第4回選抜総選挙【AKB48】

1:名無しさん@お腹いっぱい

   速報(選抜のみ)
   1柏木由紀
   2松井玲奈
   3渡辺麻友
   4指原莉乃
   5藤江れいな
   6北原 里英
   7佐藤すみれ
   8多田愛佳
   9高橋みなみ
   10松井珠理奈
   11高柳明音
   12仁藤萌乃
   13須田 亜香里
   14川栄李奈
   15山本 彩
   16小森美果
   17前田亜美
   18菊地あやか
   19市川美織
   20仲川 遥香
   21平嶋 夏海

2:名無しさん@お腹いっぱい
   >>1 お前イケメンだろ?乙

3:名無しさん@お腹いっぱい
   まさかのゆきりん20万票超え…

4:名無しさん@お腹いっぱい
   玲奈ヲタすげーよく盛り返したな

5:名無しさん@お腹いっぱい
   >>3 一極集中だな。まあ今回予想出来てた事だけど

6:名無しさん@お腹いっぱい
   れいにゃんの躍進 
   伸びなかったたかみな
   まさかのあやりん圏外から選抜入り
   
   なっちゃんの貫禄w

7:名無しさん@お腹いっぱい
   すーめろ、らぶたんの復活は俺得

8:名無しさん@お腹いっぱい
   仁藤と萌乃の選抜入りに涙を禁じえない…

9:名無しさん@お腹いっぱい
   >>7 このふたりは徹底的に推されたからな。この1年。

10:名無しさん@お腹いっぱい
   >>8 しかもまさかのメディア選抜とは

11:名無しさん@お腹いっぱい
   次世代エースは川栄ってことでおK?

12:名無しさん@お腹いっぱい
   アンダーセンターはるぅかよ。どんな曲にすんだ?

13:名無しさん@お腹いっぱい
   柏木スレ荒れてんな。やはりセンターに立つ者の宿命なのか?

14:名無しさん@お腹いっぱい
   >>12 というより、4メンばっかじゃん。アンダーガールズ。
   みゃお、暴れなきゃいいけど…

15:名無しさん@お腹いっぱい
   >>13 あっさん、JPN行ったとたん突然生き生きしだしたもんな。

16:名無しさん@お腹いっぱい
   >>6 いや、マジに最近の菊地の化けっぷりはすごいぞ。
   あんだけ運営に干されてて選抜入りってスゴイ。
   亜美菜の伝説を受け継ぐのは菊地じゃないのか?

17:名無しさん@お腹いっぱい
   
   >>13 玲奈スレも荒れてるよ。
   ま。これもいつもの事か。

18:名無しさん@お腹いっぱい
   指原のこの微妙な結果はどうなんだ?
   去年の9位以上に扱いが難しくねえか?

19:名無しさん@お腹いっぱい
   ところで次の劇場版、どうするよお前ら 
   一次完売を予想してくれよ

20:名無しさん@お腹いっぱい
   >>19 柏玲奈麻友指
   れいにゃんも危ないかもな

21:名無しさん@お腹いっぱい
   しかしなんで去年より売れてるんだ?新規乙って事か?

22:名無しさん@お腹いっぱい
   これでゆきりん玲奈のJPN行きは確定?あと一人は誰になるんだろうな

23:名無しさん@お腹いっぱい
   でも、ゆきりん言ったじゃん
   「一生アイドル路線でいきます」って
   あれはJPNで路線変更しようとしてる事への苦言か?

24:名無しさん@お腹いっぱい
   今年の名言 「私たちにも公演をさせてください!」byさや姉

chapter-6


「おはよう。1位おめでとう。テレビで見ましたよ。」
マンションのエレベータで一人の紳士が話しかけてきた。長身で細身のスーツを着こなしていて
頭に白いものが混じってはいたが、その笑顔には爽やかさがあった。
年の頃は初老といったところだろうか。柏木がこのマンションに引っ越してきてから
よく顔を合わせては気軽に挨拶を交わすようになっていた男だった。
「ありがとうございます。」柏木は笑顔を返した。
マンションのエントランス前まで来た時、柏木の携帯が鳴った。
「はい。柏木です。え…?そうなんですか?…えぇと…とりあえずわかりました。
う~ん…困ったなぁ。」電話を切った柏木は独り言のようにつぶやいた。

「どうされました?」紳士が訪ねてきた。
「あ、いえ、ちょっとお迎えの車がトラブルで来れなくなっちゃって。
ここってタクシー呼べばすぐ来てくれますかねぇ?」
「それはお困りでしょう。宜しかったらお送りしましょうか。私も迎えの車を寄こしております。」
紳士がにこやかにエントランスの方を指差す。黒塗りのセダンが車寄せに入ってきた。
「いえ…そんなご迷惑は…」
「ああ、これは失礼。どこの輩かわからない男の車にはトップアイドルとしては軽々しく
乗るわけにはいきませんな。私、実はこういう者です。」
男が名刺入れから名刺を取り出した。四隅までぴしっとした切れるような名刺だった。
「衆議院議員…国生剛…さん。え?国会議員の先生だったんですか?」
「ええ。柏木さんのご出身の鹿児島選挙区選出ですよ。ご挨拶が遅れてしまいました。」
「いえ、私こそ…すみません。なんか失礼な態度取っちゃってたかも…」
「あははは。そんな事はありませんよ。いかがでしょう?お急ぎでは?」
「あ…すみません。新幹線の時間が迫ってて。お言葉に甘えてもよろしいんでしょうか?」
「構いませんよ。そうそう、今回の総選挙、実は私の秘書はみんなあなたに投票したようです。
来る国政選挙ではぜひ私に投票頂けるとありがたいですね。おっと、こんな事を言っては
選挙違反になってしまう。」国生は涼やかに笑った。
「では、どうぞ。先に東京駅までやらせましょう。議員会館へはその後で構いません。」
「ありがとうございます。では、宜しくお願いします。」
柏木は国生のあとに続いてセダンに乗り込んだ。

chapter-7

季節はあっという間に初夏を迎えた。AKBメンバーはこの夏の全国5大ドームツアーに向けての準備に入っていた。グループ全体としてこれだけ大きな全国規模のツアーに出るのは初めての事となる。福岡を皮切りに、大阪、名古屋、札幌と回って最終日は東京ドームである。
その間にもチーム毎の地方公演、握手会等のイベントでメンバーは多忙を極めていた。
総選挙により選ばれたメンバーのレコーディングはそんな忙しい合間を縫って行われた。

「ね~この衣装、超可愛い~」「ホントだ~久しぶりだよね、こういうAKBらしい衣装」
「高まるね~」「やっぱ、ゆきりんセンターって事で王道アイドル路線だよね!」
集まったメンバーは口々に歓声を上げた。今日はPV撮影の日だ。
「みんなお疲れ~。きゃ~何なに?可愛くない?この衣装。」
柏木も到着するなり衣装を手に飛び跳ねた。
「ゆきりんなら、まだ制服っぽい衣装でも全然OKだよね。」
渡辺が柏木の腕にぶら下がるように甘えて話す。
「まゆゆ~、それって何か意味深発言~。」指原が渡辺をからかう。
「いやいや、私は別に誰はもう制服は…なんて言ってないですよ~」
「でも、JPNがあんな大物に曲書いてもらって…ってちょっと羨ましかったけど、私たちの曲も
全然負けてないよね。だって、奥井香さんだよ。プリプリだよ?」
多田が興奮した口調で言う。
「負けてない負けてない!こんなアイドル王道のキラキラした曲をこのメンバーで出来るって
私、本当に幸せで…」平嶋が急に涙ぐんだ。
「なっちゃん、泣かないで!」小森美果が平嶋の頭を撫でる。
「小森、アンタに言われるようになるって…成長したねぇ。」
「ねぇ。あやりん?なに一人で難しい顔してるの?」仲川遥香が菊地あやかに声をかける。
「ねぇ、ちょっと黙ってて。今セリフ覚えてるんだから…私ダメなんだ~バカだから頭使うの。
今回ドラマ部分のセリフ無茶苦茶多いんだよね~」
「大丈夫だよ~アドリブで乗り切っちゃえば?」
「あやりん、その方が絶対いいかも~」
撮影現場は明るい声でいっぱいになった。

「ホントいいチームだな…私やっぱりここで頑張っていこう。」
柏木はセンターとしての決意を新たにした。


chapter-8


劇場へ向かう戸賀崎の足取りは重かった。
昨日、本社会長室で言い渡された秋元からの命がまるで鎖で繋がれた足枷のように思えた。

「え…会長…これは…?」
「どうした?その内容を明日メンバーに伝えてくれ。召集はかけてあるんだろ?」
「しかし…」
「どうした?出来ないのか?」
「メンバーには相当の動揺があるものと…」
「それを上手くハンドリングするのが、君の仕事だろう。人財開発本部担当取締役の戸賀崎君。」
小さいが断固とした秋元の声に戸賀崎は首を振るしか出来なかった。

劇場のドアを開くと、明るい挨拶の声が飛んでくる。
全国5大ドームツアーとチームごとの全国ツアーを大成功のうちに終えたメンバーの雰囲気は最高潮にあった。また、ツアー最終日で発表された新チーム組閣は、メンバーだけでなくファンにも新しい挑戦的な試みとして受け入れられつつあった。
柏木・渡辺・指原・北原といった総選挙上位メンバーを中心に結成された新チームA。キャプテンに高橋みなみを据え、スタープレーヤーを配置した豪華な顔ぶれだ。
一方で、島田晴香をキャプテンとし、旧チーム4のメンバー中心で構成された新チームKは、創設以来の体育会系チームのカラーを残す顔ぶれとなった。
またチームBは、旧来のコンセプトである末っ子チームのカラーを強く打ち出したものとなった。キャプテンには藤江れいなが抜擢され、何名かの研究生の昇格が合わせて発表された。

今日は、新体制下で発表されるニューシングルの選抜メンバー発表の日であった。
選挙で選ばれたメンバーによる前作はAKB史上最高の売り上げを記録、秋に発表される新曲への期待は高まるばかりだった。

chapter-9

「それでは、次回シングルの選抜メンバーを発表します。名前を呼ばれた者はステージに。」
戸賀崎が劇場の観客席に並んだメンバーに向かって話し始める。
メンバーは緊張の面持ちで立っていた。

「今回の選抜は16名。立ち位置逆順に発表する。」
戸賀崎の目線が手元のプリントに落とされた。

「15番…仁藤萌乃。14番…島崎遥香。13番…平嶋夏海。12番…山本彩。11番…川栄李奈」
戸賀崎の声が徐々に小さくなっていく。どこかいつもと違う…
管理側が初めて構成する選抜の発表に戸賀崎も緊張してるのだろうか?
劇場内の空気が張り詰めていく。

「10番…小森美果。9番…松井珠理奈。8番…北原里英。7番…高橋みなみ。6番…佐藤すみれ」
名前を呼ばれたメンバーは小さく返事をして壇上へあがっていく。
呼ばれた者、呼ばれなかった者、それぞれの思いが交錯するいつものシーンだ。

「5番…多田愛佳。4番…松井玲奈。3番…藤江れいな。2番…指原莉乃。
残すはあと二人。今回のセンターは管理側が考える今後の展開を大きく示唆するものだ。
誰を中心にAKBが回っていくのか…メンバーだけでなく、日本中が注目する発表になる。

「1番…渡辺麻友。」戸賀崎の発表にその場は安堵感に似た空気に包まれる。
壇上では笑顔で顔を見合わせるメンバーもいた。
戸賀崎は視線を資料から上げずに言葉を続けた。
「最後に立ち位置0…次回シングルのセンターは…菊地あやか。」

劇場内の空気が一瞬で変わった。
時間が止まった…そう言っても良かったかもしれない。

口を開けて何が起こったかわからない様子の菊地。
「どうした?菊地。前に出ろ。」
戸賀崎の声に菊地の横に立っていた仲川遥香が背中を押す。
菊地は訳の分からないまま壇上に上がった。足元がふらつく。

「続いて、アンダーガールズ…」
戸賀崎がそっと視線を上げた。柏木は真っ青な顔をしていた。視線が宙を泳いでいる。
一体何が起こったんだ?その場にいる者全てが事態をまだ飲み込めずにいた。
もちろん、発表している戸賀崎自身もその一人であった。

chapter-10

柏木に与えられたポジションはアンダーガールズの13番というものだった。
一体何の意味があるのだろうか?選抜に入らないなら、いっそこのシングルに関わりたくない…そんな思いを持ったとしても不思議はなかっただろう。それでも柏木は、何とか自らを抑えて小さく返事をして壇上へと上がった。それから暫くの間の記憶がぽっかり抜けている。

暫くの間、柏木はその場から一歩も動けなかった。
誰かに…いや、多くのメンバーに声をかけられたような気がした。
段々と意識がはっきりとしてきた。
戸賀崎に涙を流しながら詰め寄る平嶋や指原、多田の姿が視線に入ってくる。

「一体どういう事なんですか?私は…いや、私たち納得できません!」
平嶋は号泣していた。平嶋にとって、今回の選抜入りは大いに意味のあるもののはずだった。本来は喜びの涙であるべきそれは、怒りの…そして悲しみの涙となってとめどなく流れ続けた。アンダーガールズのセンターに指名された高柳明音と山内鈴蘭もどうしていいのか分からない様子で立ちつくす。

そこへ柏木が歩み寄った。身構える二人ににこっと笑顔を見せて柏木が言う。
「ちゅりもらんらんもヨロシクね。絶対いいアンダーガールズの曲にしよう!」
その声を聞いた平嶋や渡辺をはじめとしたメンバーが柏木の周りに集まってくる。
「ねぇ、こんなの絶対おかしいよ。」平嶋の鳴き声が一層強くなった。
「私たちのセンターはゆきりんだもん。ゆきりんじゃないとダメなんだもん。」
渡辺も顔をくしゃくしゃにしている。しきりに涙を拭い、乱れた前髪を直そうともしない。

「ちょっと~。なに言ってるの?みんな~。そんな事言ったら…
ほらぁ、きくぢが困ってるじゃん。ね?ちょっときくぢぃ~。今からそんな固い顔して
どーすんの?しっかりしてよ~」柏木が明るい声で笑う。
「戸賀崎さん。今日はこれで終わりですよね?私、先に失礼していいですか?」
「あ…ああ。今日はこれで…柏木…ちょっと話そうか…?」
「あ、じゃ今日はお先に失礼します~」

柏木は笑顔のままカバンを持つと、小走りに劇場を後にした。
目に浮かんだ涙を隠すかのように…

chapter-11


取締役会の席上、戸賀崎はこの件が議事として上がっていない事に強い違和感を感じていた。
議題としてあがっているのは、売上・利益の月次推移、間接部門のコスト圧縮、次のM&Aと財務戦略…上場企業としては、ごく当たり前の内容ではあるのだが、何か大事なものが抜け落ちている。そんな気がして仕方なかった。昔…とは言っても僅か1年かそこらだ…はもっと熱い議論が交わされていたように思える。戸賀崎はふと、首元のネクタイを緩めようとして思った。そういえば、俺がこんな恰好をするなんて、サプライズ発表の時に着るタキシードくらいだったのにな…

「ちょっと戸賀崎は残ってくれるか?」
会議が終わり秋元が言った。窪田もその場に残っている。
「反応はどうだ?」
「ええ…やはり相当動揺が大きいようです。柏木だけでなく、メンバー全員が浮足立ってます。ここはやはり会長がプロデューサーとして…」
「そんなことは聞いてないよ。」秋元が戸賀崎の言葉を遮った。
「菊地の事だよ。しっかりフォローしてくれないと困るよ。これからのAKBを引っ張っていくのは彼女なんだから。」
「はあ…秋元会長。そのあたりの狙いを私にも教えてはいただけませんか?私もみんなを納得させるには会長の真意を理解しておかないと…」
「戸賀崎。何年会長の下で仕事してるんだ?それに、お前は今はただの劇場支配人じゃない。上場企業の人事担当役員という立場にあるという事を忘れるな。それくらい汲み取らなくて何が取締役だ。弛んでるんじゃないのか?」窪田が厳しい口調で言う。
「まぁいい。戸賀崎、菊地に伝えてくれ。今日の夜の新曲の企画会議に参加しなさい…と。」
「え?菊地に…ですか?」
「ああ。これから菊地にはセンターとしての英才教育を施していく。ただのお飾りのセンターはもういらないんだよ、戸賀崎。」
秋元と窪田は席を立った。

chapter-12


菊地あやかのセンター抜擢は大きなサプライズとして報じられた。
一度は解雇されどん底から這い上がってきたというストーリーは如何にもマスコミ好みであったし事実ファンからの反応も総じて好意的ではあった。
しかし、柏木の扱いに関してはどこも困惑したようで、逆に大きく取り上げるメディアは多くなかった。一方でファンか過敏にこの変化に反応した。ネットの掲示板では文字通り「祭り」の様相を呈し、ファン・アンチ入り乱れての議論が交わされた。某巨大掲示板の地下板では肯定派否定派含めて実に50を超える関連スレッドが立ち上がり、余りの乱立ぶりに一時アクセス制限がかかるほどであった。

株式市場もこの動きには無関心ではなかった。AKSの株価は4日続けてストップ安となり売上に対する不安感がある事を市場はメッセージとして伝えた。経済アナリストはこぞって柏木由紀と菊地あやかのグループ売上に対する影響度をシュミレーションし株価への影響度をレポート化した。この分野の専門アナリストとして、芸能界から華麗な転身を果たした野村総研の山里氏はこの状況は新しいスクラップアンドビルドのビジネスモデルと評価するレポートを出し、市場は一旦落ち着きをみせた。

chapter-13


長期に渡って上演されつづけてきた現公演の千秋楽がやってきた。
各チームの公演が一つずつ終わり、今日はシアターの女神公演の最終日だ。
AKBを卒業したJPNメンバーも集まり、オリジナルの旧Bメンバー全員が揃った。
佐藤亜美菜や増田有華が柏木を気遣うように声をかける。
「ね、ゆきりん。気にする事ないよ。運営がどんな考えかしらないけど、ゆきりんには
ファンがしっかり付いてるんだから。」
「ゆきりんはさ、早くこっちに来たらええねん。あっちゃんも優子もそう言っとったで。」
「ありがとう、でも、大丈夫。今度のアンダーガールズ、とってもいいチームなんだよ。
早く曲が出来上がらないかなって楽しみなんだ。」柏木は屈託のない笑顔を二人に向ける。
「ゆきりん…アンタって子は…」増田が目を潤ました。

「え~いいか。今日の公演だが…」戸賀崎がメンバーに声をかける。
「フルメンバーなのでポジションは通常パターンで。ただし…」
一瞬柏木の方に視線をやって戸賀崎が言葉を続ける。
「夜風は…増田に演ってもらう。」

「ちょっと待ちいな。戸賀崎さん、それはあんまりや!」増田が声を荒らげる。
平嶋も佐藤も渡辺も刺すような視線を戸賀崎に向ける。険悪な空気が湧きおこった。
「夜風の仕業」は柏木にとって、公演で与えられた初めてのソロ曲である。それだけ思い入れも強かった。自らが休演する事やアンダーとして歌っていた奥真奈美の卒業公演の時、そして数回のシャッフル公演の時以外、この曲を他のメンバーが演る事は決してなかった。

柏木以外のメンバー全員が戸賀崎と睨みあう形で対峙した。戸賀崎も困惑した表情を隠さない。公演までもうあと30分を切っていた。
「ね?みんな。今日は千秋楽だよ。私はいいから。これまでチームBがずっと頑張ってきたシアターの女神公演だよ。このメンバーで出来るのは最後かもしれないんだよ。ね?だから…」
「ゆきりん!ダメだって。ゆきりんが幾らそう言っても私は許せない!」
宮崎美穂が叫ぶ。目からは大粒の涙がこぼれる。
「みゃお!」突然柏木が大きな声を出した。
「いい?演るの!ここは大切な場所なんだから。私個人の事なんてどうでもいいことなの。この場所ではどんな事があっても笑顔で立ってなきゃだめなの。お願い。みんな。私の…最後の…最後のキャプテンとしての指示です。みんな、全力で今日の公演を演りとげましょう。さ、円陣組むよ!」

千秋楽のステージは素晴らしいものだった。メンバーは最後まで全力で、そして笑顔でパフォーマンスを披露した。満員ファンにもその思いが伝ったのだろう、ステージと一体になった盛り上がりは恐らく劇場公演史上最高のものであった。事実、この日のステージへはネット上で公演レポを上げる某サイトでも絶賛された。「この熱意あるメンバーそして観客と同じ時間を共有できた事は自分にとって一生誇れる事である」と。

ダブルアンコールが終わっても観客から拍手が途絶える事はなかった。
「僕らの紙飛行機」で柏木が投げた紙飛行機にはたった一言「一生アイドル」と書いてあった。その力強い字でメッセージがしたためられた紙飛行機を手にした少女が、純真な瞳を見開いていつまでもアンコールの声を続けていた。

chapter-14

錚々たるメンバーが居並ぶ会議室の椅子で菊地は居心地悪そうに座っていた。
さっきからこの人達は何を話してるんだろう?マーティング?ターゲットゾーン?
費用対効果?何か宇宙人達の会話を翻訳機を通しながら聞いているようだ。
「あやりんは?どんな感じでいきたいのかな?」吉田美和が柔らかな笑顔で菊地に聞く。
今回の曲を中村正人と共に手がける事になっている、言わずと知れたDreams come trueの吉田美和だ。あこがれのアーチストに声をかけられ菊地は上気した顔を上げた。
「菊地、遠慮なく意見を言ってみなさい。」秋元が黒ぶちの眼鏡を上げながら言う。
菊地は自分なんかがが発言していいのかといった感じで周囲を見回した。

中村に笑顔で頷かれ菊地はその場に立ちあがった。
「あの…やっぱり、ドリカムさんに曲お願いできるなら、私はやっぱりバラードがいいなと思います。Love Love Loveとか未来予想図とⅡとか…」
会議机に座った面々が一瞬動かなくなる。
「あ…やべ…またやっちゃったかなぁ?そうだよな…バラードはないよな。公演曲とか桜ソングじゃないんだし…全然アイドルらしくないしな…どうしよ…?」
菊地が心の中で言い訳を考えていると、吉田が立ち上がった。

「バラード…いいじゃない?うん。いいと思うな。どうかしら?バンドサウンドを取り入れた荘厳なバラード。ストリングスも入れて途中から厚みを持たせたバンドサウンドで盛り上げていく。これはいいと思いますよ。どうです?みなさん。」
「なるほど。これは面白い。」「ああ、確かに新しいね。」「秋から冬へのシーズンにぴったりじゃないか?」次々に賛同の声が上がった。
「菊地、いいじゃないか。なかなか面白いアイディアだよ。」秋元が笑う。
「え?そうですか~?いや…お恥ずかしいデス…」菊地が頭を掻く。

chapter-15


柏木は一人葛西臨海公園の観覧車に乗っていた。今朝からもう3回目だ。
千秋楽公演の後、スケジュール帳には空欄が目立つようになった。あれほど忙しかった毎日がまるで遠い世界のように柏木を一人取り残して過ぎて行った。グループとしてもソロとしても仕事が全く入らない日も少なくなかった。高城亜樹がノースリーブスへ、倉持明日香がDivaに加入した事でフレンチ・キスの活動も空中分解状態にあった。

柏木の耳にはイヤホンが差し込まれている。聴いているのは、発売されたばかりの菊地あやかをセンターに据えた新曲だ。Dreams come trueの手によって編み出された壮大なスケール感のバラードは既に神曲として評価を受けていた。ストリングスをバンドサウンドを取り入れた曲調と、なんといってもセンターを務めた菊地の圧倒的な歌唱力がこの曲の評価を高めていた。声量豊かで感情表現に溢れるボーカルは聴く者を魅了したし、宮藤官九郎が手がけたPVは変に技巧に頼ることのない骨太な演出で曲の世界観を見事に表していた。

「きくぢ…スゴイなぁ。やっぱ努力してたんだなぁ。あんな辛い時期あっても、頑張ってたらこうやって報われる日が来るんだよね。よし…私も頑張らなきゃ。こんなトコでぼーっとしてる場合じゃないよね。」
柏木にとっての救いは、この新曲の個別握手会で自分の握手券がいつもの通り1次で全枠完売した事だった。ともすれば、自分の存在なんて忘れられてしまったんじゃないか?と思いがちな日々を送る中、柏木は来る握手会を心待ちにしていた。ファンは私の事を待ってくれている。今は自分に出来る事を精一杯やっていこう。柏木はそう自分に言い聞かせるようにつぶやき誰に向かってでもなく頷いた。4枚目の観覧車のチケットを破り捨てた。

chapter-16

真新しいビルの最上階にある会長室に呼び出された柏木は戸賀崎と並んでソファに座っていた。向かいのソファには窪田が眉間に皺を寄せて腕を組んでいる。秋元が自分のデスクで取っていた受話器を投げるように置く。
「やはり、ダメだ。今からでは止める事は無理だ。スキャンダル紙一紙位ならどうにでもしようがあるが、全国紙でもトップの扱いだ。我々のような小さな力が及ぶレベルの話ではない…」秋元の声も表情も暗く沈んでいた。
「私、全然身に覚えがありません。こんな事…ありえません…」
「しかしな。こうして写真も出てるじゃないか。一体どう説明するんだ?」
秋元がデスクに放り投げたのは翌日発刊される全国紙一面の荒刷りだった。

「国生剛官房長官に逮捕状 政界時期エースに捜査の手」大きな見出しが目に飛び込んでくる。「薬物まみれの私生活 暴力団関係者も関与か? 芸能関係者とも黒いパイプ」

記事は、時期総理候補として挙げられていた国会議員逮捕のニュースをショッキングに伝えていた。違う雑誌には、有名芸能人と国生が親しげに会話している写真が掲載され、その何名かが薬物所持の疑いで取り調べを受けている事を伝えていた。

その中の1枚に親しげな笑顔で車に乗り込もうとする柏木と国生をとらえた写真があった。目線を黒線で隠してはいたが、人気絶頂のアイドルグループに所属するY.Kとされた記事は容易にそれが柏木の事だと想像できるものであった。

「とにかく、警察もこれから任意で事情を聞きたいと来ている。
我々としては捜査には全面的に協力するしかない。いいな、柏木?」窪田が言う。

「やってないです…私は…そんな怖い事なんかに関わっていません…」
柏木の肩が小刻みに震える。
今にも潰されてしまいそうな細い肩を、戸賀崎は支えてやることも出来ずただ唇をかみしめていた。

chapter-17

警察による任意の取り調べは1週間以上に及んだ。その間、マンションや事務所、果ては鹿児島の実家まで家宅捜索を受けたが、逮捕された国生と柏木を結び付けるものは何一つ見つかる事はなかった。
警察はこの件についての柏木への追及を止める事を本人、そして秋元へ伝えてきた。事件への関与は捜査の結果なかったという判断である。ただ、一度わき起こった世間の柏木への疑惑は大きな影を落とし続けた。完売していた個別握手会はすべてキャンセル。延期ではなく中止。振り替えも行われない事が運営から発表された。捜査の手が離れたにも関わらず、世間では柏木に対する疑いの目が消えず、イメージダウンの影響からAKSの株価は一時的に急落した。市場全体が冷え切っていた事もあり日経平均も合わせたかのように大きく下げ、のちに「柏木ショック」と呼ばれる市場の低迷は1カ月に及んだ。

6畳程のワンルーム。まだ家具も入ってない部屋で身体をごろんと横たえ柏木は
大きなため息をついた。
窓を開けると隣のビルの壁しか見えない古びたマンションだった。
あれ以来、柏木を取り巻く環境はまた大きく変わっていった。
ソロやユニットの仕事だけでなく、グループとしての仕事も全く入らなかった。
夏までは毎日のようにテレビに登場していた柏木の姿はぱたりとメディアから消えてしまった。

テレビを見る気もしない。インターネットではどこを見ても、自分への悪意に満ちた記事ばかりだ。柏木は何をする気にもなれず目を閉じた。ここのところずっと不眠が続いている。

その時玄関のチャイムが鳴った。

chapter-18


「はい…え?はーちゃん?」ドアの覗き穴には片山陽加の姿があった。
「やっほ。来ちゃったよ。寒いから早く入れてよ~」
「どうしてここが?」柏木は慌ててドアを開けた。
「あのね。戸賀崎さんが教えてくれた。ってゆーか無理やり聞き出した。」
片山が舌を出して笑う。片山は東京ドーム公演を機にAKB48を卒業していた。新しく結成されたJPN48に加入することなく、そのまま芸能界から姿を消すかと思われたがその後劇団四季のオーデションを受け合格。すぐに主役級として抜擢され、今では看板メンバーの一人として活躍していた。

「はい、これ。引っ越しソバ持ってきたよ。」
片山がコンビニの袋から緑のたぬきを2つ取り出した。
「なに?これ。引っ越しソバっていつの時代の風習?それになんでカップ麺なの?相変わらずだね~。」
柏木の顔に笑顔が浮かぶ。
「いいの。ってゆーかお湯くらい沸かせるんでしょ?
ねぇ、ゆきりん痩せた?ちゃんとご飯食べてる?」
片山が柏木の頬に手を当て心配そうに言う。
「ちょっと…痩せたかな。でも、ダイエット出来て良かったかも。」
「もう。ダメだよ、そんなんじゃ。食べよ?
おにぎりとかサラダも買ってきたから。」片山がキッチンに立った。

「ね…ゆきりん。あのさ、ウチのオーデション受けてみない?」
緑のたぬきをすすりながら片山が言った。
「オーデションって…?劇団四季の?」
「そう。あのね、言いにくいけど、こんな風に苦しんでるゆきりん見たくないんだ。今の舞台の演出の先生にもそれとなく話聞いてみたの。実力があれば、スキャンダルなんて関係ないよ…って。ね?どうかなぁ?」
「ありがとね。はーちゃん。私の事心配してくれてるんだね。なんか嬉しい。」
「だって親友でしょ?私たちって。」
「あれ?前に番組で、私の事は親友じゃないって言ってたじゃん。」
「そうだっけ?忘れちゃったよ。そんな事。」柏木と片山は笑った。

こんな風に笑ったのはいつ以来だろう?柏木は片山の不器用だけど、心からの優しさが嬉しかった。真剣な表情になって片山の顔をじっと見る。
「あのね。はーちゃん。ありがとう。とっても気持ちは嬉しいけど、私頑張るよ。もう一回ゼロから頑張ってみる。はーちゃんはミュージカルやるっていう自分の夢をかなえたじゃない?私だって今夢見るのをやめちゃったら絶対一生後悔する。だから。大丈夫。うん。大丈夫だから…」
柏木の声は震えていた。大きな瞳にはみるみる涙がたまってくる。

「だから…今はちょっとだけ泣いていいかなぁ?今だけだから…」
「ほら。肩くらいなら貸してあげるよ。」
「ありがと…」
柏木は片山の胸に飛び込み、子供のように声を上げて泣き始めた。
いままでため込んでいた何かを全部吐き出すように。
片山は黙って柏木の肩を抱き続けた。

chapter-19


「ちょっと待ってください。なぜ柏木を解雇しなくてはいけないんですか?」
戸賀崎が大きな声を上げる。
「おい、戸賀崎。会長に向かってなんて物言いだ。口を慎め。」
窪田が戸賀崎をたしなめる。
「私は昨日も柏木と話をしてきました。あいつは自分は何もしてないにも関わらず、そんな事に恨みごと一つ言わず、もう一度頑張るって言ってるんです。その思いを無にするつもりですか?」戸賀崎は窪田の言葉を無視するかのように秋元に向かって吠えつづけた。

「仕方ないだろう。世間をあれだけ騒がしたんだ。それなりの対処をしないと。」
秋元は手元の資料に視線を落したまま戸賀崎に言った。
「柏木は解雇もしませんし、卒業もさせません。窪田社長、メンバーの人事に関しては本来人材開発本部の長である、私の専権事項であるはずです。私の職責の元に柏木の解雇については断固行いません。」

戸賀崎の初めての反抗だった。柏木の強い思いが彼の心を動かしたのだった。
「ほう?偉くなったもんだな、戸賀崎。なるほど、確かにメンバーの人事について最終的に責任を負うのが君の職責だ。ところで、君は私の部下だよな。管理本部と人材開発本部は社長直下の組織だ。部下の人事権は上席の私にある…という事だ。君はクビだよ。戸賀崎、すぐに社を去りたまえ。」窪田が感情をぶつけるように戸賀崎に言い放つ。

「社長。確かに私はあなたの部下だ。しかし、同時に私は株式会社AKSの取締役でもある。取締役の解任は株主総会の決議事項。あなたの一存で、私の解任をする事は出来ない。それとも、すぐに臨時株主総会でも招集しますか?仮にも公開会社ですよ。わが社は。内輪もめの解任騒動で召集通知を出して市場の失笑でもかいますか?」
戸賀崎と窪田が睨みあう。

「まあ、いいだろう。戸賀崎。とりあえず、今回は君に預けよう。しかし、何のおとがめも無し…でファンは納得するかな?」
「柏木は研究生に降格させます。幾らあなた方が柏木を蔑ろにしようとも、あいつはきっと自力で這い上がりますよ。見ていてください。」

「ほう…それは楽しみだ。」
秋元はにやりと笑った。


chapter-20

chapter-20

「あらららら…やっちゃいましたねぇ。」
会長室を出た戸賀崎に菊地が声をかける。
「なんだ。聞いていたのか?悪いヤツだな。」
「聞いてたんじゃないですよ。聞こえちゃったんですよ。だって戸賀崎さんも社長も声大きいんだもん。」
菊地は舌を出して笑った。

「で?お前はなにしてるんだ?」
「あ、ちょっと報告しに…ドラマとか映画とか。
なんかスポンサーさんのトコに挨拶回りするから打ち合わせするとか…とも言ってたかな?」
「相変わらず忙しそうだな。お前はこのまま何も気にせず仕事に打ち込めばいい。
きっとあの人たちもお前の事は悪いようにせんだろう。」
「え~…私、戸賀崎派のつもりなんだけどなぁ。」
菊地が頬を膨らませて言う。

「戸賀崎派?何を言ってるんだ?お前は。バカなこと言ってないで早く行け。」
「バカですよ~。私。でも、バカでも誰が正しい事を言ってるかくらいはわかりますから。それに…今の私があるのは戸賀崎さんのおかげですから。それに、私は昔からゆきりん神推しですから。もちろん今も。」

「菊地…お前、成長したな…。地位が人を作るっていうけど…大きくなったよ。」
戸賀崎が目を細めた。
「やだなぁ。私、もう背伸びてませんから。あ、大きくなったって太ったって言ってます?酷いなぁ、戸賀崎さん。」

「バカ。ほら、もう行け。」
「は~い。」戸賀崎は菊地の背中を笑顔で見送った。

今回のドタバタ、悪い事だけではなかったのかもしれない…

chapter-21

chapter-21

菊地をセンターに据えたAKBグループの勢いは止まる事を知らなかった。
主役として出演したドラマは、それまでのおバカキャラを一層する社会派作品で、平均視聴率は20%を突破。最終回の瞬間最高視聴率は38%を記録した。また、藤江れいな、佐藤すみれ、島崎遥香の3人で売り出された新ユニットが大ブレイク。ユニットとして初めてミリオンセールスを達成するなど、柏木ショックはあっという間に払拭されていった。

研究生へと降格した柏木は、正規メンバーのアンダーとして劇場のステージに毎日のように立ちつづけた。テレビ等のメディアに出る事は決してなかったし、ファンの反応は決して温かいだけではなかったが、それでも柏木はいつも笑顔だった。
最初は戸惑っていたメンバーも柏木のひたむきなステージを目の当たりにして、徐々に以前のように接するようになり始めた。

「お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした~。ゆきりんさん、今日もありがとうございました。」
チームKキャプテンの嶋田晴香が柏木に声をかける。
「いえ、とんでもないです。島田さん、チームK、すっごいカッコよくなってきましたね!ファンの熱気もスゴイですし。」
「いや、ゆきりんさんがこうしてアンダーに入ってもらえるなんて…」
「あの~そろそろその「ゆきりんさん」ってやめてもらっていいですか?遠慮なくゆきりんって呼んで欲しいです。」
「は…はい。でも、スゴイですよね。もう全チーム全メンバーのアンダー出来るようになったなんて…私、心からゆきりんさ…あ、ゆきりんの事尊敬します」
「いやいや、そんなぁ。ただ、私には今劇場公演しかないんで…」
柏木は明るく笑った。

年明け早々に発売されるシングルが発表になった。
今回も菊地をセンターに据えた作品で、作曲を桑田佳祐が手がけるという事で早くも話題をさらっていた。発売を前に始まった劇場盤の予約リストの中には、研究生として柏木の名前があった。しかし、ファンの柏木への関心は低く、かつて6部全てが1次で売り切れていたその枠は、僅か1時間半の割り当てにも関わらず最終7次まで完売する事はなかった。

chapter-22



新しいシングルもまた爆発的なヒットを記録した。前年度、シングル年間売り上げランキング10傑を独占したグループの勢いは年が変わっても衰える事がないように思えた。

個別握手会当日、柏木は緊張の表情でレーンに立っていた。
久しぶりのファンとの直接的な交流である。僅か1時間半の間ではあるが、柏木はこの日を心待ちにしていた。

他の部制メンバーが休憩に入るお昼休みの時間、柏木はレーンに立った。周囲の研究生や非部制のメンバーと比べても、柏木のレーンに並ぶファンは明らかに少なかった。時折やってきても、辛辣な言葉を投げかけてくる者がいたり、敢えて握手せずに目の間を通り過ぎるだけの者がいたりした。
柏木は、そんな心ないファンにも心からの笑顔で接した。もちろん数少ない励ましの言葉を伝えてくれるファンには余す事ない輝いた笑顔で握手を交わした。

そんな中、残り時間も少なくなった頃、一人の外国人がレーンに並んだ。
握手券の束を取り出す。
「えっと…110枚ですね。お願いします~110枚です~」
柏木が驚きの表情を見せる。
「えっと…ナイス・トゥ…」
「OH!ゆきりん、ワタシ日本語オッケイです。どうか、気になさらずお話くだサイ。はじめまして。いつも応援してマスよ。あなたの笑顔、とてもチャーミングです。」
ちょとっとオタク風貌の外国人が流暢な日本語で話しかける。

「あの…はじめまして…じゃないですよね?どこかで会ったような…」
柏木が何かを思い出すような顔つきで首をかしげた。
「こうしてお話するのは初めてデス。何度か劇場へは行った事がありマスが。」
「あ、そうかも。劇場でお会いしたのかな?だから、初めてのような気がしなかったのかもしれませんね。外国の方に来て頂けるって余りないですから。」
「ゆきりん、ワタシあなたに夢中にさせられてしまいまシタ。ぜひぜひ、もっともっと活躍して欲しいデス。あなたはもっともっと輝ける人です。ワタシ、信じています。アナタの真摯な姿勢は、きっとファンの心を動かしマス。だから、負けないでくだサイ。」

「ありがとうございます。早く皆さんに信頼してもらえるよう、頑張ります。」
「嬉しいデス。でも、ゆきりん?あなたを応援し続けてるヒト、いっぱいいます。
ほら、あそこにも。ご覧なさい?」
外国人が目線をレーンの後ろに向けた。父親に手をひかれた小さな女の子が次の順番を待っていた。

chapter-23


「お嬢ちゃん。そしてDaddy、ちょっとコチラへ。」
外国人がその親子連れに声をかける。
「あ、困ります。」係員が声をかける。
「ワタシの残り時間、まだかなりありますよね?固い事はナシにしましょう。転売は禁止されている事はワタシも理解しています。あの子は、私の同伴者とでも…」外国人が係員にウインクする。
係員は無言で引き下がった。
「アリガトウございマス。あなたもひょっとして…?」
係員はほんの僅かだけ表情を緩めた。

「さぁ、お嬢ちゃん?アナタもゆきりん好きですか?」
「うん!大好き!」
「そうデスか。では、今日はゆっくりゆきりんとお話しなサイ。では、ゆきりん。
またお会いしましょう。きっと。」
「はい!ありがとうございます。」
「あの…宜しいんでしょうか?こんなご厚意頂いて…」父親が声をかける。
外国人はただにっこり笑ってレーンを後にした。

「ゆきりん…お風邪よくなった…?」女の子が不安そうに柏木に話しかける。
「うん?お風邪?」柏木が腰をかがめ女の子と目線を同じ高さにする。
「だって、ずっとテレビに出てなかったし…」
「そっかぁ、心配してくれてたんだね。ごめんね。もう大丈夫だから。
ねぇ、お名前はなんて言うの?お年は幾つかな?」
「あやか…1年生です。」
「あやかちゃんか~。今日は来てくれてうれしいな。ホントに嬉しいよ。」
「あのね…私ね…ゆきりんに会いたくてね。いっぱいお手伝いして、おこづかいためてきたの。お父さんにお願いしたの。初めて当たったんだよ。」

女の子はまっすぐ柏木の顔を見つめて話した。
瞳はキラキラ輝いている。あこがれのアイドルに会えた喜びでいっぱいの表情を見ていると柏木の胸に熱いものが込み上げてきた。

「あのね…前に劇場行った時…」
女の子がポーチから紙飛行機を取り出した。
「これ。私のたからもの。ゆきりんに見せてあげれてよかったぁ。」
小さな手で広げられた紙飛行機には「一生アイドル」と小いが力強く書かれていた。
千秋楽公演で柏木が投げた飛行機だった。

柏木の目から涙が零れ落ちる。自分の前の机をずらし女の子の前にしゃがみ、優しく抱きしめた。二人の係員が一瞬動こうとしたが、お互い目配せをして視線をレーンの外にやって見ないふりをした。

「ごめんね。ホントにごめんね。でも…頑張るね。ありがとう。
頑張るね。ね…あやかちゃん。ゆきりん、頑張るから。」
「ゆきりん。ねぇ。なんで泣いてるの?ね、また来ていい?もっともっとお手伝いとか頑張るね。お勉強もする。そしたら、またお父さんが連れてきてくれると思うから。ね?お父さん。」
父親も泣いていた。係員も警備員もそっと瞼に手をやり涙をおさえていた。
「待ってるね。きっと来てね。ゆきりんも頑張るから。」
「あのね。テレビにももっと出て欲しいな。なかなかコンサートとか当たらないから。
ゆきりんの事もっと見たいよ。」
「うん。わかった。きっと出るね。待ってて。」
「ホント?約束してくれる?」
「うん。約束しよ。」
柏木は小指を出した。女の子がにっこり笑って小指を出す。

「ゆびきりげんまん、うそついたら針せんぼん飲ます~」

chapter-24


「そろそろ勝負の判定をしてもいいんじゃないかな?」秋元が窪田に言った。
「ですかね。やはり、私の負けって事なんでしょう?」窪田が笑う。
「柏木があそこまで粘り強かったのは計算違いだったがね。」

「でも、確かに…会長の言うとおりでしたね。売れる為には、個々の資質に依存しているのではない。
大事なのはそれよりも環境だって。」
「だろう?何も持っていなかった菊地に環境を与えた。たったそれだけの事でどうだ、あの変わりようは。今じゃ、いっぱしのトップアイドルじゃないか。対して、あれだけの人気を博した柏木がこうも容易く泥にまみれる事になる。世間では、我々は只のビジネスマンになり下がったと言うが、アイドルを売り出すのもビジネスなんだよ。明確なマーケティング戦略と仕掛けが全てなんだ。一昔前みたいにタレントの才能に頼る博打みたいな時代は終わったんだよ。」

「やはり、賭けは会長の勝ち…という事で。」
窪田は財布から1000円札を取り出した。
「おっと、賭け金の札に「参りました」と書くのを忘れるなよ?」
「わかりましたよ。仕方ないなぁ。」
「しかし、いいじゃないか。ずいぶん儲かったんだろ?
今回のゴタゴタを利用して。」秋元が意味ありげに笑う。
「ええ。まだ秋元会長みたいに大富豪ってまで行きませんけどね。
僕だってもっと贅沢がしたいですからね。」窪田も笑う。


「しかし、今回のゲームは面白かったですね。」
「ああ。まさかあの絶妙のタイミングで国生の逮捕があるとはな。二人の写真はもっと違う形で使おうと思ってたんだが。ずっとマンションの前でカメラマンを張らせておいた甲斐はあったってことかな。」
「用意してたこの偽造プリクラ使うまでもなかったですね。」
「ああ。あれ以上の爆弾はなかった。」秋元がコーヒーをすすりながら言う。

「ところで、このまま菊地を使うんですか?センターとして。」
「まさか。菊地はあくまでも賭けの為のモルモットだよ。またいつ、何か起こすかわかったもんじゃない。
そうだな。次の選挙前にちょっと何か仕掛けて退場してもらおうか。」

「じゃあ、次は誰を?」
「それは…そうだな。またあみだでも作って決めるさ。
最初に前田の時にしたようにな。」
二人の笑い声が響いた。

部屋の外では、その拳を震わせながら立ちつくす菊地の姿があった。

chapter-25



「悔しい…私悔しい。」菊地が観客席の椅子に座り、肩を震わせて泣いていた。

公演前の劇場。まだスタッフも誰も来ていない中、戸賀崎は腕を組んでステージの上を何度も何度も折り返しながら歩いている。視線は宙を泳いだり下を向いたり。どうしても考えがまとまらない。
菊地に何も気が効いた事を言ってやれない自分に怒りさえ覚えていた。

「戸賀崎さん…こんな事って許されるんですか?私は…私たちは…」
「菊地…」
「私たちは確かに商品かもしれない。でも、私たちだって生身の人間です。人間には心ってものがあるじゃないですか。ささやかだけど夢だってある。自分一人の力じゃ叶わない夢かもしれないけど、でもそれって、誰かが弄んでいいものじゃないんじゃないですか?」

戸賀崎はここまで感情を露わにした菊地を見るのは初めてだった。かつて、一度は解雇されながらも自らの意思で戻ってきた菊地を戸賀崎はずっと温かく、そして厳しく見守ってきた。どんなファンのバッシングにも笑顔の裏の涙を必死に隠してきた事も知っている。おバカキャラは菊地の心の裏の悲しみをごまかす、せめてもの抵抗だった。そしてやっとの思いで掴んだチャンスは仕組まれた仮初のものだった…戸賀崎も怒りに震えていた。

「ゆきりんがかわいそすぎます。私はいいの…。解雇されたのは自分が悪くてダメになったんだから。でも、戸賀崎さん。ゆきりんは何も悪いことしてない。知ってます?私がAKBを辞めた時、真っ先に家まで来てくれたんんですよ?負けるな。ここで負けちゃダメだって。私は菊地推しなんだから、ここで辞められちゃったら困るんだって。あの一言があったから私はここまで頑張ってこれた。私は、もう一度ゆきりんが晴れ舞台で輝く姿が見たいんです…戸賀崎さん…何とか出来ませんか…?」

「きく…あやりんさん?戸賀崎さん?どうしたんですか?こんな早くに…」
バケツとモップを持った柏木が現れ二人に声をかけた。

chapter-26



「そうですか…」柏木はそれだけ言って立ち上がった。
バケツの中で雑巾を絞りステージを拭き始める。
「そうですか…って。ゆきりん、怒らないの?こんな酷い目にあわされて。」
菊地はちょっと怒ったような口調で柏木に言った。
「悔しいよ。あ…悔しいですよ。当たり前じゃないですか。でも、私たちに何か出来る事ってある…んですか?戸賀崎さん。」柏木は唇を噛んで床を拭き続ける。
「すまない…俺の力が無いばかりに…威勢のいい事は言ってみたものの、今の俺に出来る事は…すまん。」
戸賀崎は拳を握りしめた。

「難しいハナシみたいですネ」
突然ステージ下手辺りから声がかかる。3人は驚いて声の方へと視線を向けた。
一人の外国人が立っていた。

「あの…申し訳ありません。ここへは関係者以外の方は…」戸賀崎が言う。
「あ…あなたは…」柏木が驚いたような表情を見せる。
「え?ゆきりん知ってるの?この人の事。」
「あ、この前の握手会に来てくれた人。でも、どうしてここへ?」
「ハイ。ちょっとワタシおせっかいなガイジンです。悪い人デスね。あなた方の話、こっそりここで聞かせてもらってしまいました。偶然です。ワタシ、ひょっとしたらアナタがたの手助けが出来るかもしれません。どうでしょう?日本では、話聞くだけならタダって言葉があるじゃないですか?」外国人はにこやかに笑いながら3人の前に歩み出た。

「戸賀崎さん…?」
菊地が戸賀崎を見る。戸賀崎はしきりに頭を捻りながら腕組をしていた。

「宜しかったら、こちらへお掛けになりませんか?」
暫く考え込んでいた戸賀崎が外国人に椅子を勧めた。

chapter-27


「もう1年か~早いね。」前田敦子がスタンドからステージを見渡しながら言う。
「そうだね。また一つ年を取ったってことなんだけどね。」大島優子が隣で笑っている。
「もう、年の話はもうやめよって決めたんじゃなかった?」
二人の背後から篠田麻里子が声をかけシートに腰掛けた。
1年前、卒業と新グループ結成のサプライズ発表があった東京ドーム。今年はJPN18単独公演が行われる。
今夜のステージに向け、最後のリハーサルを行っているところであった。

「優子は昨日札幌だっけ?大変だったでしょ?」
「そういうあっちゃんも岐阜からトンボ帰りでしょ?何回目だっけ岐阜。」
「う~ん6回目かな?でも、やっと行った甲斐があったよ。」
「そうなの?やったじゃん。粘り勝ちだね~」
「麻里子ほどじゃないよ~。だって、今回一番貢献してるのって麻里子じゃない?」
「…でも、一番必死になってるのは、AKBの子たちじゃないかなぁ?」

「そうだね。上手くいくといいなぁ。」前田がすっと立ち上がる。
「あっちゃん?」
「さて…と。もう一回音合わせしてくる。なんかソロパートのトコ、どうもフラット気味に声が出ちゃうんだよね。しっかり合わせとかないと。私たちもいいステージ演らなきゃ。私たちに出来る事は全部手を抜かないで頑張らないと。」
「そうだね。行こうか。」
3人はステージに向かって歩き出した。

chapter-28



劇場支配人室。指原莉乃が高く積み上げられた書類の束を一枚一枚チェックしながら
キーボードを叩いている。PCの画面のExcelデータに細かい数字が並んで行く。

「すまんな。指原。お前にこんな事やらせてしまって。」
戸賀崎がコーヒーのカップを書類の横に置きながら言う。
「いえ、大丈夫です。戸賀崎さん、今日は長崎じゃなかったですか?」
「ああ、さっき戻った。お前もこれから宇都宮じゃなかったか?」
「はい。あ、でも大体話はついてる先なんで。食事を一緒にするだけですね。多分。」
「そうか…」

戸賀崎は自分のデスクに腰掛け大きくため息をついて目を閉じた。
「大丈夫ですか?戸賀崎さん。このところ全然寝てないんじゃないですか?」
「ん?ああ、しかし、それはお前も同じだろう?」
「そうですね。でも、もうほんのあとちょっとじゃないですか。ここでやらないと
いつやるんですか?」指原がコーヒーカップを持って笑った。

「ねぇ、戸賀崎さん。私、やっぱり決めました。」
指原が何かのついでのように戸賀崎に話し始めた。
「指原…本当にいいのか?」
「ええ。ずっと考えてた事なんで。今度のコンサートでのサプライズって形でどうですかね?
私なんかの卒業じゃあんまインパクトないかもしれないけど。」
「おい、何言ってるんだよ。今や押しも押されぬAKBの看板じゃないか。お前は。」
「なんか嬉しいなぁ。戸賀崎さんにそんな風に言われる日が来るなんて。」
指原は椅子から立ちあがって大きく背伸びをした。
「それには…戸賀崎さん。絶対に…」
「ああ。そうだな。」戸賀崎は指原と頷きあった。

chapter-29

「戸賀崎。この程度の考えしか思い浮かばなかったか。正直がっかりだな。」
取締役会の席で秋元は口元に薄ら笑いを浮かべて言った。

「この程度…?大株主からの臨時株主総会招集請求ですよ。取締役会としては、請求に従い手続きを取るよう決議しなくてはならない事は会長もご存じでしょう。」
戸賀崎は取締役会の末席から声を上げた。

「会社法341条における取締役の解任…か。戸賀崎、決議案を可決するには、どういう用件を満たす必要がある事は上場企業の役員であるお前なら当然知ってるよな?」
久保田が椅子に腰かけたまま言う。やはり表情には余裕がある。
「ええ。ですが、可決する事だけが請求された株主の目的ではないのでしょうか?」
「戸賀崎。お前、恩を仇で返すのか?どれだけ会長が今までお前に目をかけてやったのかを忘れたのか?」
窪田の声が大きくなる。
「忘れてなんかいませんよ。私はただ、取締役として株主の当然の権利…と言ってるだけです。」
戸賀崎は居並ぶ役員の冷たい視線を一身に受け言葉を続けた。

「まあ。いいだろう。この…株式会社スタンドアローンという会社、確か上場当時からの株主だったな。確か。保有比率は発行済株式数の6.1%か。役員の解任決議は出席した議決権の半数以上の賛成が必要だが…戸賀崎。お前も泥船に乗るような事をするとは…いつまでたっても大人になれなかったようだな。この勝負、何の意味があるんだ?」
秋元が静かな声で言う。

「勝つことだけが大切な事じゃないでしょう。負けるとわかってても立たなきゃいけない時はあるんだ。
会長、あなたが良く言ってた事だったと思いますけど?」

「では、他に議題が無いようであれば今日の取締役会はこれで閉会とします。」
窪田が戸賀崎をにらみながら立ちあがった。
Page top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。