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プロローグ

踊る大捜査線 THE STORY ~転勤した男達と消えた女神たち




2011年11月10日

プロローグ

千代田区秋葉原を管轄する万世橋警察署前。
黒塗りの車と7台のパトカー、2台の護送車が物々しく1台のオープンカーを
取り囲んでいる。ジュラルミンの盾を構えた機動隊員も配備されてた。
オープンカーの運転席には青島俊作の姿があった。スーツの上には
トレードマークのコートを羽織っている。鋭い視線で周囲に注意を払う。
やや遠目に恩田すみれの姿を見つけ無言で頷く。恩田は一旦署内へと
目線を送り再び青島の方を向き頷きを返す。刺すような厳しい視線だ。

ものものしい警備を遠巻きにするように多くの人垣が出来ていた。
そこへ、神田総一朗万世橋署署長、秋山春海同副署長、袴田健吾刑事課課長の
3人が制服姿で現れた。秋山は今春、神田と袴田は今秋の人事異動で湾岸署から
万世橋署へ異動してきたばかりだ。3人とも引き締まった表情で青島に
目配せを送りオープンカーの横に並んで立った。
青島のインカムに真下正義からの声が入る。小声だが緊迫した声だ。
「先輩…間もなくです。気を緩めないでください。」
「わかった。」青島はコートを脱ぎ棄てオープンカーの運転席から降りた。
内ポケットに手を忍ばせる。

周囲を取り囲んだ群衆から叫び声が上がる。機動隊員が前へと詰めかけようとする
群衆をバリケードを築くように防いでいた。その場はちょっとしたパニックに
襲われた。そんな中、まるで何も耳に入らないかのような涼しい笑顔を浮かべ
一人の女性がオープンカーへと歩み寄った。
「よろしくお願いします。前田敦子です。」前田が青島に軽く会釈する。
青島は内ポケットから鋭い動きで右腕を引き抜いた。
「すいませ~ぇん。あ…あっちゃん~。…さ…サイン頂けますか?」
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シーン1

シーン1  11月10日 10:40

「青島君さぁ。なんで?お願いしてたじゃないの。サインに「そうちゃんへ」って
入れてくれるように。」神田はオープンカーの助手席で青島に言った。
神田の手には「青島さんへ」と入ったサインがある。
「仕方ないじゃないですか、署長。お名前は?なんてあんな可愛い顔で聞かれたら、
思わず自分の名前答えちゃいましたもん。参ったなぁ。すみれさんにも真下にも
頼まれてたんだよなぁ。サイン。後でもらえるかなぁ?」
青島はバックミラーで後ろの席で沿道の観衆に手を振る前田を見つめた。
「しかし、なんで俺が運転手なんですか?万世橋署に異動して初めての大きな
仕事だって言うから張り切ってたのに。」青島は運転してる右手をハンドルから
離し窓枠に置き顎をその上に置いた。
「大島さん~。ホントすいません~。もうちょっとゆっくり運転してもらって
いいですかぁ?」
前田の声に青島の声が上ずる。
「はあぁ~い。分かりましたぁ、あっちゃん。でも、僕大島じゃなくて青島です。」
「あぁ~そうなんですかぁ?ごめんなさい~」前田は青島に視線を向けず言った。
沿道は平日にもかかわらず多くに人が何重にも歩道を埋め尽くしていた。
前田敦子の一日警察署長就任のイベントは秋葉原周辺のパレードから始まった。
これから半日かけて数々のPRイベントが組み込まれている。
万世橋署刑事課強行犯係・巡査部長、青島俊作の今日の任務はこのイベントの
取り仕切りであった。

シーン2

シーン2   11月10日 12:37

青島は弁当の箱を4つ持ち署長室のドアをノックした。
「いや~嬉しいなぁ。あっちゃんと握手してもらえてしかもサインまで。いや~
ホント転勤してきて良かったよ。湾岸署じゃAKBが一日署長になんて来てもらえない
もんなぁ。」秋山の表情は崩れっぱなしだった。

「あのね、あっちゃん。僕はねずっとCD買ってるんだよ。えっと、あの…桜の花びらに
なろう…だっけ?から。」北村は前田の手を暫く握ったままだ。
「署長。それ言うなら桜の木になろうでしょう?私はビギナーから全部CD持ってます。
署長みたいな新規とは違うんですから。早く私にも握手させてくださいよ。」
袴田が北村を押しのけるように前田の前に身体を割り込ませる

「あの…みなさん。前田さんは毎日超ハードスケジュールで仕事をこなしてるんです。
今からお昼休み。お弁当くらいゆっくり食べて頂いたほうがいいと思いますけど?」
青島が机に弁当を置きながら言った。

「あっちゃん。今日のお昼は肉の万世特製ステーキ弁当とロースかつ弁当なんです。
とりあえず4つ持ってきたけど、足りるかな?」青島が前田に笑いかける。
「青島君?それば僕らの弁当じゃないの?」神田が手を伸ばして聞く。
「署長たちはご自分でどうぞ。これは全部前田さんのです。」
「でも、一人でそんなに…」神田が言う。

「ありがとうございます。いただきます。」前田が何でもないように笑顔で答えた。
「俺、大声新規っすけど、あっちゃん単推しっすから。後で大好きな
トマトジュースも持ってきますから。」青島が前田にウインクする。
「ありがとうございます~。」前田は笑顔で答えた。

シーン3 

シーン3  11月10日  12:54

恩田すみれがトマトジュースを2つ両手に持ち署長室に入る。
前田は3つ目の弁当に取り掛かっていた。
「あれ?署長たちはお昼?青島君に頼まれてトマトジュース持ってきたけど…」
「あ、ありがとうございます~」前田はステーキを無表情で平らげていく。
「ひぇ~、すっごい勢いで食べるねぇ。とてもアイドルって思えない。」
「そうですかぁ?私お腹すくとダメなんで…」
前田がトマトジュースにじっと目をやる。
「ん?トマトジュース好きなんでしょ?青島君が言ってたよ?」
「えっと、でもこれって食塩が入ってるヤツですよね?私ちょっと…」
「そうなんだ?青島君もリサーチ甘いわねぇ。分かった。取りかえて来るから
ちょっと待っててくれる?」
「あ、すみません。いいんですか?」
「大丈夫、大丈夫。あ、そのかわり、私にも後でサインしてくれる?」
「はい。喜んで。」恩田は署長室を後にした。


「えっと、これでいいよね?食塩不使用のトマトジュース。」
恩田が部屋に入る。部屋には誰の姿も無かった。3つ目の弁当は食べ残され、
机の上には携帯電話が開かれたまま置かれている。
恩田は部屋を見回す。
「トイレでも行ったのかなぁ?」恩田はソファに腰掛けふと携帯の画面を見る。

「前田敦子は預かった」

恩田の顔が一瞬で青ざめた。

シーン4

シーン4  11月10日  13:41


「マズいでしょう~。実に。ねぇ。なんでこうなっちゃったの?きちんと説明
しなさいよ。青島君。」神田の慌てようは尋常ではなかった。
署長室の中をうろうろと歩き回る。
「いえ、責任は私にあります。ほんのちょっと目を離した隙だったのですが。」
恩田が前に進み出て頭を下げる。
「と…とにかくね。この話がおおごとになったらねぇ。困るよ~ねぇ。秋山君?」
「確かに。これは署長の責任問題に発展しかねませんね。」秋山が腕を組む。

「署長。とにかく、待ってくださいよ。まだ誘拐とかそういう風に決まったわけじゃ
ないんですから。第一、こんな警察署の中、しかも署長室からですよ?
それでなくたって、今日は警備がスゴイし署の周りなんて見てくださいよ。あんなに
ファンが取り囲んじゃって。この中で誘拐事件?出来るわけないじゃないですか。」
青島が呆れたように話す。
「ちょっと待ってくださいよ。今、関係者に問い合わせてますから。」
「関係者って?」袴田が青島に聞いた。
「真下、誰に連絡取ったんだっけ?」
「誰か窓口になる人をってお願いしたら、戸賀崎さんという人が対応されるそうです。
今、こちらへ向っているとの事です。事務所は目と鼻の先なので、すぐに到着
するんじゃないですか?」真下が答えた。
「ちょっと、なんでそんな勝手な事するのかなぁ?まずは現場の検証をしっかり
してだね…」神田が言いかけた時、大柄な男が署長室に駆け込んできた。
「前田が…前田敦子が姿を消したですって?」

シーン5

シーン5  11月10日  14:04

「いえ…あの…その…青島君!」神田がうろたえて青島の方を向く。
「俺っすか?ですよね。ですよ…ね。これは事件ですから…ね?」
青島がちょっと嬉しそうな表情を見せて、すぐ真顔に戻った。
戸賀崎に向き合い手帳を開く。
「湾岸…いえ、万世橋署の青島といいます。青島俊作。青島は宮崎県の観光名所の
青島。ご存知ですか?鬼の洗濯板で有名な…」
「戸賀崎だ。AKB48の劇場支配人をしている。状況を説明してくれ。」
戸賀崎は青島の言葉を遮って言った。

「…分かりました。では、こちらの真下から説明させて頂きます。」
「え?いきなり僕ですか?先輩酷いなぁ。」
「頼むよ。なんか怖いんだよ。この人…目がさ。」青島は真下にささやいた。
「わかりましたよ。えっと、万世橋署警部の真下です。」
真下の表情が急に引き締まる。

「前田敦子さんが姿を消されたのは、本日13時前後。署長室で昼食を取られて
おりましたが、ここにおります恩田巡査部長がトマトジュースを取りに行っている
ほんの5分の間の事と思われます。現場…こちらの署長室ですが、には
机の上に前田さんのものと思われる携帯電話が画面が開かれたまま置かれて
おりました。また、ソファにはやはり前田さんのものと思われるカバンが
置いてありました。恐らく持ち物はすべてこちらに置かれたままかと。
携帯電話の画面には…こちらですが…」

「確かに前田の携帯ですな。ん?これが画面に?」
戸賀崎が携帯の画面を覗き込むと「前田敦子は預かった」の文字が表示されている。
「前田さんは携帯の画面ロックを普段からしてなかったのでしょうか?
その文字は携帯のメモ機能で書かれたものですが、何分経っても表示されたままに
なっています。」

「青島君といったな。これは君が言うように事件なのか?」
「今はまだわかりません。ただ、前田さんが突然ここから消え、後には誘拐を
仄めかすメッセージが残されていた。これは、俺の刑事のカンから…」
「青島!くだらん事言ってないで、行くぞ。」しゃがれた声が青島にかかる。
「和久さん~。なんすか?今から…俺が…」
「周辺に聞き込みだ。ここにいても何の手がかりも得られん。」
「わかりましたよ…行きますよ。」青島はコートを渋々コートを手にとった。

シーン6

シーン6  11月10日  16:03


「しかし、なんすかねぇ。和久さんも異動したって全然変わんないっすね。」
青島が和久に向かって話しかける。憎まれ口だが顔は嬉しそうに笑っている。
「あたりまえだ。空き地署からオタク署に移ったって刑事の基本はな~んも
変わる事はない。」和久は背中を丸めながら青島に答えを返す。

「えっと、まずは周辺への聞き込みっすね。しかし、なんて聞くんです?
前田敦子を見ませんでしたかって?確かに、この辺を歩いてる人になら
顔写真とか見せる必要は全くないでしょうけど。万が一見かけた人がいたら
それだけで大騒ぎになってますよ?」
「なぁ青島。前田敦子ってのはそんなに有名なのか?」
「やだなぁ。和久さん。幾ら和久さんでもテレビ位見るでしょ?
AKBのあっちゃんってテレビで見ない日はないじゃないですか。」
青島が笑う。

「そんなもんか。」和久は目を細めて聞き込み用に用意された前田敦子の写真を見た。
「それより、署に出入りしてる業者とかも調べたほうがいいかもしれませんね。
弁当屋とか運送屋とか。」
「そうだな。しかし、青島…本当にこの子がそんな人気なのか?」
和久はまだ写真を見続けている。
「今の若いものの考えは…本当にわからん…」
和久がぽつりとつぶやいて写真をポケットに入れた。

シーン7

シーン7  11月10日  22:43


戸賀崎が携帯電話を片手に事務所を歩きまわっていた。
一つの電話が終わるとすぐに次の電話がかかり、その電話を終えるとまた
戸賀崎から電話をかける…そんな事がもう3時間以上も続いている。
「ええ…はい。すみません。…いや誠に申し訳ありません。
何ぶん急な体調不良でして。今日明日に回復出来れば…と思ってはいますが…」
何しろ毎日朝から晩まで分刻みのスケジュールが入っている前田敦子である。
仕事の管理やスケジュール調整は所属事務所がコントロールしているとはいえ、
急にいなくなった…ではさすがに説明がつかない。戸賀崎のところに問い合わせが
集中するのも無理はなかった。

そこへ、のっそりと一人の男が姿を現した。
「あ…秋元先生…お疲れ様です。」戸賀崎が男に声をかける。
現れたのは秋元康。AKB48グループの総合プロデューサーであり、グループの
絶対的君主である。穏やかな風貌と表情だが現れただけでその場の空気が一変する。

「それで…その後何か進捗は?」秋元が穏やかに戸賀崎に聞く。
「いえ…警察からは何も…本人からも連絡はありません。」
「関係先へのフォローは出来てるんだろうね?太田プロへは?」
「あ、はい。真っ先に連絡しております。もちろん失踪したという事は伏せて…」
「失踪?前田は誘拐されたんじゃないのか?」
「え…まだ犯人からの接触もありませんし…。それに警察の話ではあの状況で
何者かが前田を連れ去る事は実質的に不可能だと…」
「戸賀崎。それは逃げ口上だよ。彼らは自分たちに落ち度があったとは決して
認めようとしない人種だ。」
「はあ…そういうものですか…」
「それより、今一番大事なのは早く前田の居場所を見つける事。そしてその間、いかに
穴を開けない事…だ。各方面へのフォローを欠かさずにな。」
「わかりました。」

前田の身の安全が一番じゃないのか?
戸賀崎は秋元の言葉に違和感を感じずにはいられなかった。

シーン8

シーン8  11月11日  7:38

「ん~気持ちいいなぁ。空気がおいしいよ~。」
柏木由紀が背伸びしながら深呼吸をする。
「ほんとだね~。やっぱ山はいいねぇ。」倉持明日香が隣で笑顔を見せる。
「でも、私まだ眠~ぃ…」高城亜樹はまだ寝ぼけ眼だ。
3人は朝早くから郊外の森林キャンプ場へ来ていた。
3人のユニット、フレンチ・キスのアルバム曲のPV撮影のためだ。
「じゃ、すいません。早速ですが準備して頂いて宜しいですか?あちらの
コテージを使って頂いて結構です。簡単な食事も用意していますので。」
「は~い。ありがとうございます。」スタッフの呼びかけに3人は声を揃えた。

シーン9 

シーン9   11月11日  9:12


「ふぅ~何も進展なし…か。すみれさん、弁当屋とか運送業者関係はどうでした?」
青島が缶コーヒーを飲みながら恩田に声をかける。
「うん…特に不審な点はなかった。事件の前後に署内に立ち入った人間はほぼ
チェックしたけど。それに署内への出入り口は3か所だけ。その時間は立哨の
警察官がいるけど誰かが前田さんを連れ去ったような形跡はもちろんないわ。」
恩田がため息交じりに答える。
「僕の方は前田さんの周辺を洗ってみたんですけどね。仕事関係、交友関係…
意外と範囲は狭いんですけど、情報は入らないですね…芸能関係の捜査って
ホントやりづらいですよ。とりあえず関係先のリストアップとチャート作りは
やっておきました。」真下がノートPCの画面を青島の方に向ける。
「へぇ~さすがだねぇ。仕事が早いしハイスペック。違うね~キャリアは。
青島が冗談っぽく真下を褒める。
「ええ。まぁ。」真下はまんざらでもない笑顔を見せる。

その時、デスクの電話が鳴った。青島が受話器を取る。
「はい。刑事課です~。……」青島の表情が急に曇る。
「なんだって?それで?…わかった。」
「どうしたんですか?先輩?」真下が聞く。
「やはり、これは事件だ。」青島が口を真一文字に結ぶ。
「青島君?」恩田も青島の顔を覗き込んだ。
「次は、ゆきり…柏木由紀が姿を消した。」
朝の穏やかさが残っていた署内の空気が一変した。

シーン10-2

シーン10  11月11日  12:47


現場検証を一通り終えたところに、青島、恩田、真下、和久の4人が到着した。
「お疲れ様です、万世橋署の真下です。どんな状況でしょうか?」
「ああ?万世橋署?オタク署さんが何のご用で?ここは私ども五日市署の管轄ですが?」
手袋をはめた刑事が燻がって4人のほうに視線を送る。
「あ、実はですね…」真下が説明しようとした時だった。

「青島さんじゃないですか!」突然制服姿の警官が大声を上げる。
「あれ?君は…そうそう緒方君。緒方くんじゃないか。湾岸署から転勤になったって
聞いたけど。」青島が懐かしそうに言う。
「はい。今はここ檜原村の南郷駐在所に勤務しております。親の介護の為に
地元勤務を希望したのであります!青島さん、またお会いできて光栄です。」
「あのさ…緒方君、君からさ、あの頭の固そうな刑事さんに言ってくんない?
ちょっとこの事件、俺たちが追ってるヤマと関連がありそうなんだよね。」
青島が緒方に耳打ちする。

「わかりました。青島さん達がわざわざお出向きになるって事はきっと難事件に
違いありませんね。私で力になる事があれば何でも協力します!」
緒方は五日市署の刑事に熱心に説明した。刑事は仕方ないといった表情でメモを取り出した。

「えっと、状況はご存知ですよね。今朝8時過ぎ、こちらのキャンプ場のコテージから
アイドルグループAKB48の一員である柏木由紀さんが姿を消しました。
着替えやメイクをするためにあのコテージを使って頂くようスタッフが指示を
出したのが7時40分頃。そのあと、6名のスタッフが現場のセッティングを
行っていました。段取りが済み、スタッフがメンバーを呼びに行き声をかけたのですが
幾ら呼んでも返事がないので、中に入ったところ高城亜樹さん、倉持明日香さんの
お二方が机に伏せるように眠っておられました。睡眠薬を飲まされたものと思われます。
部屋の中に柏木さんの姿はなく、机の上にこれが。」

刑事が携帯電話を差し出した。iPhoneだった。青島がホームボタンを押す。
パスワードはかかっていなかった。


柏木由紀は預かった


メモ帳に記載された文字が青島をあざ笑うように見えた。

シーン11 

シーン11  11月11日   17:09


万世橋署は重苦しい空気に包まれていた。
「いったいどうやってあの状況から犯人は二人を連れだしたんだ?
あっちゃんは警察や群衆の衆目の中、ゆきりんは山の中のコテージから。
周りの道路なんてたまにしか車は通らないし。」
「ちょっと青島君。何だね。前田さん、柏木さんと…」
刑事課係長の中西が注意する。彼もまた湾岸署から転勤してきたばかりだった。

「いいじゃないですか。係長だって、その方が堅苦しくなくていいと思うでしょ?
係長はまゆゆ推しだし、真下は麻里子推し。すみれさんだって佐江ちゃんがカッコ
いいっていつも言ってるし。みんなニックネームの方が呼びなれてるでしょ?」
青島の声は苛立っていた。
「あれ?真下君。湾岸署のゆきりんの事はいいのかな…?柏木雪乃ちゃん。」
恩田が冷やかすように真下を肘でつつく。
「いや…待ってください、先輩。僕は篠田麻里子さんはあくまでもファンとしてですね…」

その時、デスクの電話が鳴った。
「はい。万世橋署刑事課です。」真下が受話器を取り上げた。すぐに表情が変わる。
「外線です。AKBの事について話したい…と。」真下が受話器を手で押さえて
小声でその場に伝える。「逆探知…」恩田がそばにあった電話を取る。
青島も中西もイヤホンを耳にした。真下に向かって頷く。

「もしもし…」変声機を通したらしい声が聞こえてきた。
「もしもし。僕は万世橋署の真下といいます。あなたは?」
「真下さん?はじめまして…だね?僕はチームエイトの一員。前田敦子と柏木由紀は僕たちが預かってる。」

「チームエイト?エイトは数字の8の意味かな?」
「そう思ってもらって構わないよ。真下さん、一つお願いがあるんだけど。」
「何かな?君の事はなんて呼べばいい?」
「エイトでいいよ。あのね。AKBの偉い人を呼んで待ってて欲しいんだ。
そうだな。明日の昼までにはまた電話するよ。じゃあね。」

そこで電話が切れた。恩田が首を振る。
「ついに現れたか…被疑者が。」青島が声を絞り出した。

シーン12

シーン12  11月11日  21:46


劇場のスタッフルームで秋元康がソファに腰掛けている。戸賀崎は秋元に向かって
立ったままだ。気まずい沈黙が二人を支配している。
「渡辺プロには?体調不良って言っても、あそこはタレントの管理が厳しいぞ。
いつまでも誤魔化せるもんでもないだろう?」秋元が沈黙を破るように口を開いた。
「ええ。おっしゃる通りです。明日にでも私が直接出向いてきます。」
「君が行っておさまるのかな?」
「…」戸賀崎は答える事が出来なかった。


「で?」
「は。幸い劇場公演にはもともと二人はブッキングされていませんでしたし、テレビ等
への出演もアンダー対応を手配していますので…」
「それは分かってるよ。今あの二人に大事なのは何だい?個人の仕事をいかに
こなして いく事じゃないのかな?」

「…」戸賀崎はまた答えに困った。確かに前田と柏木は今やAKBの中でも
個人でオファーがかかる仕事の多さでは群を抜いたメンバーだ。だからといって
あくまでもAKBのメンバーである。AKBの仕事を蔑ろにしてもいいという
今の秋元の考えには賛同出来かねる部分があった。
「それで?警察の方は?」
「はい。犯人から接触があったと。明日朝一番で万世橋署の方へと。私が対応させて
頂こうと思います。」
「わかった。くれぐれもよろしく頼むよ。いいかね?一刻も早く二人を取り戻すんだ。」
「取り戻す…ですね。分かりました。」戸賀崎は頭を下げた。

シーン13 

シーン13  11月12日  8:40


神田・秋山・袴田の3人が署長室で顔を突き合わせている。
何枚もの長い紙に毛筆で書かれたものが並べられている。
「僕はこれだな~これが一番いいと思うな。アイドル連続誘拐事件合同捜査本部」
神田が一枚の紙を持ち上げ言う。
「いや~署長、アイドル…はどうかと思いますけどね。せめてこれくらいは…」
秋山が持ち上げた紙は「トップアイドル連続…」とある。
「いや。やはりここは、AKB48の名前は入れるべきじゃないですかね?」
袴田が口を挟む。

「何やってんすか?本店の人、もう来ちゃいますよ?」青島が入って来る。
「これ、持っていきますよ。」青島は「連続誘拐事件…」とだけ入った紙を持って
立ち去った。3人は顔を見合わせるだけだった。

万世橋署の一番大きな会議室に所狭しと机が並べられた。大きなモニタースクリーン、
何台ものノートPC、固定電話と携帯電話も並べられている。
別室では署員が総出で準備に動き回っている。中西は各業者に発注した弁当や
備品のチェックに余念がない。青島は貸出品リストを作成していた。
「なんでもう本店が出張ってくるんですか?まだ身代金の要求とかなんとかが
あったわけじゃないのに。」青島が不満そうに言う。

「あちらさんも格好の案件なんじゃないの?何しろトップアイドルの誘拐事件だろ?
このところ警察庁でもお粗末な取りこぼしばっかだからな。一気に解決して
名誉挽回のアドバルーンを上げたいんじゃないのか?」中西が忌々しく答える。
「青島君、これどこにやればいいの? 」恩田が段ボールを抱えて入ってくる。
「ああ…その辺に置いといてください。全くいつもの事だけどさ…」
青島の表情が呆れ顔になる。

シーン14 

シーン14  11月12日  8:55


万世橋署に本庁の一団が到着した。眉間に皺を寄せ口を真一文字に結んだ男が先頭だ。
青島が先頭の男に会釈をする。男は一瞬だけ眉を上げた。
会議室に遅れて入ってきた青島と和久。和久が前から3列目の席に座ろうとする。
「和久さん。また所轄は後ろだ!って言われますよ。後ろいきましょ。」
青島が後ろを指差して言う。

「構わん。所轄も空いてる席があったら前に座ってくれ。」
捜査本部長席に座った室井慎次が厳しい顔で言い放つ。
「室井参事官…いいんですか?」新城賢太郎が聞く。
「いいんだ。」室井は一言だけ言い両手の指を机の上で組み合わせた。
「それがあなたのスタイルですからね。今回もお手並み拝見といきましょうか。」
新城が立ち上がりよく通る声を張り上げる。

「所轄、急いで席について。合同捜査本部会議を始める!まずは、事件の概要から。」
2名の本庁刑事が立ち上がる。
「11月1 1日午後1時頃、当万世橋署における一日署長就任イベントに参加していた
アイドルグループAKB48所属の前田敦子が突然姿を消し…」

「和久さん。一体どういう風の吹きまわしっすかね。本店がこんな風に俺らを
扱うなんて。なんか、周りのエリートさん達の目線が怖いんですけど。」
青島が和久に小声で話しかける。
「さあな。ひょっとしてお前との約束を果たそうって事なのかもよ。」和久が笑う。
「そうっすよね~。やっぱ室井さん、やる時はやってくれるんだよな~。」
青島の顔も緩んでいる。隣の席の本庁刑事が睨みをきかせる。


「被疑者からの連絡は一度のみ。万世橋署の刑事課員が対応、本日午前中に
再度連絡をする旨を伝えてきております。被疑者はAKB48の幹部との
交渉を希望しており、本日は責任者として戸賀崎智信さんにお越しいただいております。」
戸賀崎が立ちあがって一礼する。引き締まった厳しい表情だ。

室井が立ち上がり声を上げる。
「みんな聞いてくれ。この事件は、極めて神経質な対応を求められる事件だ。
我々が最も重要視すべきは誘拐されたと思われる2名の被害者の安全である。
情報の漏洩には最大限の配慮をしたうえで、細かい事に至るまで報告は必須。
各自、警察の名誉をかけて捜査にあたって欲しい。所轄は…」

室井は一瞬青島の方へ視線を送ったが、すぐに正面を向いて言った。
「所轄は本庁刑事の支援。追って指示あるまで通常業務を継続。」

青島が乗り出した身を崩した。何だよという表情になる。
「と…いう事だ。」和久が苦笑いしながら席を立った。
「期待させやがって…」青島が室井を睨みつける。

シーン15 

シーン15   11月12日  10:18


万世橋署のリフレッシュスペース。室井が椅子に腰かけ腕を組んでいる。
目は固く閉じられ眉間には深い皺が寄っている。
青島が煙草をくわえて現れる。室井に気が付き立ち止まる。
自動販売機で缶コーヒーを二つ買い、一つを室井に差し出す。
「お疲れみたいっすね、室井さん。どうぞ。ここワンダしか置いてないけど。」
「ん…ああ。すまない。」
室井が目を開け缶コーヒーを受け取る。青島は煙草に火を点けた。

「どうだ?新しい職場は。」
室井が缶コーヒーを一口飲んで青島に聞く。
「ええ。なんか、気心しれたメンバーが集まっちゃって、まだ湾岸署に
いるみたいですよ。おかげさまでこれまで通り好き勝手やれそうです。」
「そうか。それは良かった。」

「でもさぁ。室井さん、さっきはちょっとがっくしきましたよ。てっきり
捜査に参加出来るかと思って期待しちゃったのに。」
「青島、私は捜査に参加させないと言ったつもりはないが?
指示あるまで通常勤務を継続と言っただけだ。いいか。人の話は良く聞くんだ。」
青島が驚いた表情で室井の顔を覗き込む。
「それって…」思わず笑顔がこぼれてくる。室井はとぼけたような表情を作った。

「捜査員に告ぐ。至急合同捜査本部に集合。捜査員に告ぐ…」
署内にアナウンスが流れる。
「行こう。」
室井が立ち上がる

シーン16

シーン16   11月12日  10:41


「被疑者から入電があった。5分前だ。午前11時までに捜査員、AKB幹部
待機の上連絡を待て、とだけあって電話が切れた。」
新城がそれだけ言って椅子に座る。
「捜査員まで待機させるとは…ゲームでも始めるつもりか?被疑者は。」
新城の表情には軽い苛立ちが見える。

「被疑者より入電!」
全員が一斉にイヤフォンを耳にする。室井が真下に目配せをし、頷く。
「もしもし。万世橋署の真下です。エイトさんかな?」
「真下さん?お願いは聞いてもらえた?」
変声機を通した声が聞こえる。
「ああ、劇場支配人の戸賀崎さんに来てもらってる。」
「とがちゃんかぁ。やっぱり秋Pは来ないよね。ま、仕方ないかな。」
「戸賀崎だ。前田と柏木は無事なのか?」
「戸賀崎さん?こんにちは。二人は無事だよ。あ、でも今回は質問はもうなしね。
今から僕たちの要求を伝えるからね。警察の偉い人に代わってくれる?」

「警察庁の室井だ。今回の件の責任者と思ってもらっていい。」
「室井さん?はじめまして。とりあえず2000万円…とがちゃんに用意するように
言ってくれる?また連絡するよ。じゃね。」
室井の返事を待たずに電話はそこで切れた。
新城が受話器を取り上げる。

「どうだ?…ああ。そうか、分かった。」
「発信元は公衆電話回線。場所は万世橋署管内。…特定はできなかったが…」
「この近くという事か?」室井がつぶやく。
「プロファイルチームに指示を。」

シーン17 

シーン17   11月12日   11:01

「被疑者より入電です。」
捜査本部のざわめきが治まる前に再度電話が入った。
真下が受話器を取る。
「もしもし真下です。エイトさん?」
「あなたが真下さんね。はじめまして。僕はナイン。エイトと同じグループだよ。」
「ナインさん?さっきの人と違うのかな?」
「戸賀崎さん聞いてるよね?2000万円はすぐに用意できるよね?」
「準備しよう。それよりも前田と柏木は…」
「あのさ。あっちゃん返すよ。なんか面白くないんだよね。せっかくゆっくり
話出来ると思ったんだけど、塩対応だしさ。明日のお昼までにお金用意しといて。
でね、ともちんとまゆゆに持たせるようにして欲しいんだ。受け渡し方法は
また連絡するから。」
そこまで言って電話は切れた。

「ともちん?まゆゆ?誰だ?」
新城がひとりごとのようにつぶやく。
「メンバーの板野友美と渡辺麻友だ。」
室井が即答する。新城が意外そうな顔になる。
「捜査対象の事は事前に把握しておく。指揮を取る上で当たり前の事だ。」
室井は表情を変えずに言った。

「プロファイルチームの見解は?」
室井の問いに一人の若い男が立ち上がって答える。

「警視庁科学捜査研究所の中央です。プロファイリングの結果を報告します。
被疑者は20代後半から30代前半の男性。正規雇用ではなく短期もしくは不定期の
職に就く者と思われます。被害者の所属するAKB48のかなり熱心なファンと
思われ、これまでに相当数のイベント等に参加経験があります。
都内もしくは近郊に在住し、知的程度はある程度の水準を持つ者と判断しました。
今回の要求内容を加味した結果はまた改めて報告いたします。」

「よし、では、捜査員はプロファイルの結果をもとにした洗い出しと、
関係先、特に利害関係が絡む先への捜査にかかってくれ。再度言うが、捜査においては
被害者の安全確保を第一に機密の漏洩には細心の注意を払ってくれ。以上」
捜査員が一気に席を立つ。
「所轄には、別途指示を与える。各自持ち場で待機。」

室井の言葉に青島が微笑む。
「さぁて、頑張ります…か。」

シーン18 

シーン18   11月12日  12:35

「2000万?戸賀崎、犯人の要求はそれだけなのかな?」
秋元康が黒ぶちの眼鏡を指で直しながら言う。
「ええ。板野と麻友に持たせるよう指示がありましたが…」
「安すぎないか?」
「安いって…2000万がですか?」
「ああ。身代金目的なら余りにも安すぎる。2億と言われても私は驚かないが。」
「それはそうかもしれませんが…確かに、警察も熱狂的なファンの暴走による
犯行と考えているようですが…」
「まあいい。先ほど取引銀行の支店長に連絡は入れておいた。2000万、すぐに
用意させたよ。全部旧札でな。」
「旧札ですか?警察は今後の捜査の為にも帯切りのされていない新札で…と
いう事でしたが…」
「2000万位の金であたふたしてるって思われたくないんだよ。それにこれで
二人が戻ってくるなら安いものじゃないか。」
そういう問題じゃないんだ。簡単に金を渡してしまうと、同じような事を
考える輩が出てくる事を心配しないのか?
戸賀崎はまた出かかった言葉をぐっと飲み込んだ。

シーン19

シーン19   11月12日  13:07

「捜査に参加ってこの事なんすか?」
青島が真下のPCに表示された膨大な数のファイルを見て中西に言う。
大きなため息とともに椅子に座りこむ。
「過去の、劇場公演、個別握手会、コンサートなどへの申込者リストです。
特に古くからの申込履歴があって、最近申し込んでない者、または落選が多い者を
抽出しろとの事です。手分けしてデータをエクセルに入力してソートかけて
調べますかね…」真下がややうんざりした表情で答える。

「さてと…」
和久がひとり立ち上がった。
「俺はパソコンやらデータやらはダメだからな。地道に聞きこみを続ける事にするよ。」
「和久さん、俺も行きますよ。」青島がコートを手に立ち上がった。」

「待ちたまえ。」そこへ新城の声がかかる。室井も一緒だ。
「室井さん?なんでこんな所轄の刑事部屋に?」
「君たちに頼み…いや指示がある。」新城の言葉に室井が頷く。
「君たちには、AKBメンバーへの聞き込みを頼みたい。」
「俺達…に?メンバーって?あの…そんな事は本庁のエリートさん達がやるんじゃ
ないですか?」青島が突然何を言い出すんだと言いたげな表情で室井に聞く。
「彼らは非常に優秀な捜査員だ。知識も豊富だし行動力もある。しかし…
寝技を出来る程の器用さは持ち合わせていないんだ。」
「寝技?」
「この操作はまだ極秘捜査だ。誘拐の事実は捜査上のトップシークレットだ。
一番身近で敏感に反応するだろうメンバーへの柔軟な対応には向かない。
いきなり誘拐事件への捜査とも言えんだろう。」
新城が説明を続ける。
「警察手帳を見せつけて行う捜査だけが捜査じゃないって事だ。」

「室井さん…?いいんですか?」青島が室井に聞く。
「ああ。私が責任を持つ。ただし。報告は必須。青島、暴走は許さんぞ。」
「わかりました!よ~し…行きますかぁ?」
「あの…このデータの分析は?」
「真下君、君のお父上から話は良く聞いている。ずいぶんデータ分析の勉強を
していたそうじゃないか。それに、被疑者から連絡があった時の対応もある。
君は署に残ってくれ。」新城が言う。
「そんなぁ…先輩…僕も連れて行ってくださいよぉ…」
「真下君。よろしく~」
青島と恩田が真下の背中を叩いて部屋を後にした。

シーン20 

シーン20   11月12日  18:06


AKB48劇場、公演を前にメンバーがリハーサルを行っている。
本番前、慣れ親しんだ演目・ステージだがメンバーの表情は真剣そのものだ。
戸賀崎が青島と恩田を伴い姿を見せる。
「みんなちょっといいか?すまんな。開演直前に。」
「あ、お疲れ様です~。」佐藤亜美菜の声に全員声を揃えて深くお辞儀する。
「お疲れ様です~」青島と恩田もお辞儀を返す。青島の表情は崩れっぱしだ。
「こちらは、警察の広報の方で青島さんと恩田さん。青少年の非行防止の
キャンペーンにAKBをフューチャーした広報展開を行って頂けるという事で、
今日から色々と取材をされたいそうだ。政府関係の広報媒体はグループに
とってもイメージアップ戦略に大いに役立つ事だ。みんな協力頼むぞ。」
「はい。分かりました!」戸賀崎に声を揃えて返事する。

「では…青島さん、恩田さん。宜しくお願いします。」
「宜しくお願いします!」平嶋夏海の掛け声に全員が頭を下げる。
「良かったら、公演をご覧になりますか?招待席を用意させますが。」
戸賀崎が青島に尋ねる。
「いいんですか?いや、嬉しいなぁ。なかなか見れないじゃないですか。
劇場公演なんて、すごい競争率で。」青島が目を見開く。
「取材には全面的に協力させて頂きたいので。」戸賀崎が無表情で答えた。

シーン21 

シーン21  11月12日  21:18


劇場内にはまだ興奮と熱気が残っているように思えた。
青島と恩田もまだ興奮気味の表情だ。
客席の最前列に公演を終えた、佐藤亜美菜、平嶋夏海、石田晴香、佐藤夏希、
近野莉菜、小林香菜、鈴木まりや、宮崎美穂が腰をおろしている。
青島と恩田はステージに腰かけて彼女達と向き合った。

「いや~初めて見たけど、公演って楽しいね~。ほんっっとに良かった。
B推しって、メンバー揃ってなくてもちゃんとアンダーの子入れたバージョンが
あるんだね。びっくりしちゃったよ。ね。すみれさん?」
青島の声が時々ひっくり返る。取材…を装った聞き込みのトーンではない。

「うんうん。みんな可愛い~。実際に見るとホント可愛い。テレビなんかで
見るよりホント全然。」恩 田もすっかりファンの顔だ。
「なかなか公演で全員揃うって事がないので、B推しは色んなパターンを
用意してるんです。チーム4の子や研究生がアンダーで入ってくれるので…」
佐藤亜美菜が答える。

「やっぱり、最近はみんな色んな仕事で忙しいもんね。でも、フルメンバーが
揃わなくてもあんなに見事なステージ見せてくれるんだね。
いや~、俺感動しちゃったよ。」
「ありがとうございます。やっぱり私たちにとって劇場は一番大切な場所なので。
お客様には常に全力のステージをお見せしたいんです。」平嶋が笑顔で言う。
「えっと、平嶋さん…あ、なっちゃんって呼んでもいいかな?」
「もう青島君。ちょっと失礼でしょ?」恩田がたしなめる。
「あ、全然構いません。 そのほうが私たちも気が楽で。
青島さん、みんなのニックネームご存知ですか?」
「もちろん…あ、勉強してきましたから。」青島が頭を掻く。
「なっちゃんは、初期メンでしょ?もう加入してから長いよね?高校生の時なんて
もっと遊びたいな~とか思わなかった?」
「えっと、私は普通の高校に行ってたんで、制限はありましたけど、普通の高校生
としての生活も出来ましたし。
他の子のほうがそういう思いは強いんじゃないでしょうか。ね?」
「でも…私たちみんな夢や目標を叶える為に頑張ってるんで…逆にとても
恵まれてると思うんですよね。だから遊びたいとか、そんな余計な事を
考えるって余りないですね。」佐藤亜美菜が答える。堂々とした受け答えだ。
「いいね~ 。その姿勢。ホントにいい。いやね、今の高校生とかって何の
目標も無くてフラフラしてる子が多いでしょ?何かに打ち込む事の素晴らしさって
いうのをキャンペーンで伝えていきたいんだよね。ホント今回の企画にぴったり!」
青島が膝を打つ。

シーン21-2

シーン21-2


「えっと、ちょっと意地悪な質問していいかしら?」恩田が遠慮がちに言う。
「なんですか?ちょっと怖いなぁ。」笑って返事したのは宮崎だ。
「あのね。やっぱこれだけの大所帯だと色々と合わない人っていると思うんだ。
私、女だから分かるんだけど妬みとか僻みとか。そういう時ってどうなのかな?
チームワークを維持する秘訣っていうか、みんなはどうしてるのかな?って。」
「あははは。そんな事ですか?全然意地悪な質問じゃないですよ。」
宮崎の笑い声が大きくなる。
「確かに、テレビにいっぱい出てる人とそうじゃない人いますよ。AKBって
言ってもすごく知られてる人ってほんの一部だと思うし。でも、そんな事で
僻んだりしませんし。そりゃ、ゆきりんとかまゆ ゆとか、外の仕事ばっかで
公演には全然出れないけど、私たち同じチームメイトですから!」

「そういえば、今日もゆきりんいなかったんだね。暫く公演には…」
「そうですね。そういやゆきりん、会ってないなぁ。」平嶋の言葉に青島が反応する。
「どれくらい会ってないの?」
「えっと…もう一か月は。結構同じチームでも会わない時は会わないんですよね。
他のチームとかになると余計。私、あっちゃんなんてじゃんけんの時以来会ってない。」
「私もかも~」「私も。」近野と小林が声を合わせる。
「私なんて、もう何か月も会話してないかも。えっと1年位?」鈴木が笑う。
「ええ~そんなに?」石田と佐藤夏希が驚いて聞く。
「でも、確かにそうなっちゃうよね~うん。」全 員が頷き合った。
「逆に、私たちは結構公演に出れてるメンバーなんで、ゆきりんとかあっちゃんとか
見てると可愛そうって思う事はありますね。みんな、一番好きなのは劇場公演だと
思いますから。忙しすぎて倒れちゃうんじゃって心配になりますしね。」
佐藤亜美菜が言った。

シーン22

シーン22  11月12日  22:07


「いや、びっくりしたわ。本当に。あの子たち、本当にいい子。いやホントに。
冗談抜きでいまどきの子に広報とかで教えてあげたくなっちゃう。こんなに
頑張ってる子もいるのに、アンタ達は何?って。」
「そっか、すみれさん、少年課にいたから余計そう思うかもしれませんね。」
スタッフルームで青島と恩田が話していると、戸賀崎が戻ってきた。
板野友美と渡辺麻友が続いて入ってくる。

「あ、いや~とみちんとまゆゆ~。俺達、警察の広報で…」
「青島さん、いいんだ。二人には事件の経緯を話してある。」
戸賀崎が青島の言葉を遮って言う。板野と渡辺の顔には緊張があった。
「刑事さん…」板野が不安げな表情で顔を上げる。
「あ、万世橋署の青島です。青島は宮崎県の観光名所、鬼の洗濯板で有名な…」
「私は恩田って言います。宜しくね。板野さん、渡辺さん。
あ、ともちんとまゆゆって呼んだほうがいいかな?」
恩田が二人を安心させるように言う。
「あ、はい。ありがとうございます。まゆゆって呼んでください。」
ようやく渡辺の顔に笑顔が浮かぶ。板野もほっとした表情になった。

「あの。青島さん、恩田さん。あっちゃんとゆきりんは本当に誘拐されたんですか?」
「うん。残念ながら…ね。でも、安心してくれ。必ず二人は無事に戻ってくる。
いや、取り戻して見せる。だから、二人にはほんのちょっとだけ力を貸して
欲しいんだ。いいかな?」青島が真剣な顔で語りかける。

「はい。宜しくお願いします。」二人が声を揃えて答える。
「じゃ、明日、署で待ってるから。今日はもう遅いから…」
「あ、私これからラジオの収録で。」板野が言う。
「私は自主レッスン。明日までに降り入れしなくちゃ。」
「へ?まだこれから仕事なの?大丈夫?ちゃんと寝てる?」
「あ、大丈夫ですよ。若いんで。」渡辺が舌を出して笑った。

シーン23

シーン23  11月13日   9:14


捜査本部には朝から緊張が走っていた。
一晩たっても捜査に何の進展がなかった。なにより現場に残された手がかりが
余りにも少なかった。今は犯人からの接触を待つしか術がない。
「和久さん、目撃情報とか…もないですよね?」青島が隣の席に座った和久に
話しかける。和久が頷く。
「檜原村のキャンプ場も良く調べてみたんだがな…。何しろあの辺人の気配が
ないだろ?仮に怪しい奴がいたとしても気がつくヤツがいるかどうか…
逆に言うと、秋葉原よりは犯人が被害者を連れ去るには好都合って事だ。」
「でも、なんで一人だけだったんでしょう?連れ去られたのって。」
「犯人は一人…か少人数で実行したって事か。ほんの僅かの隙を見ての犯行だから
一人しか連れ去る事が出来んかった…」和久の言葉の途中だった。

「被疑者より入電!」会議室の緊張が一段と強まる。
「もしもし。エイトさんかな?ナインさん?万世橋署の真下です。」
「真下さん?おはようございます。エイトです。お金は用意できた?」
戸賀崎が頷く。
「ああ。用意出来ている。2000万円だね。君たちの希望通り板野さんと渡辺さんにも
待機してもらってるよ。ところで…」
「あ、質問はなしだよ。真下さん。じゃ、ともちんとまゆゆに1000万ずつ持たせて。
そしてどちらでもいいから一台携帯電話を持たせてくれるかな?番号は後で聞くよ。
また連絡するから。あ、携帯電話は警察がちゃんとモニターできるようにしといた
ほうがいいかもね。それから、二人には変装してもらって たほうがいいかも
しれないね。人の多い所に行ってもらう事になるからさ。じゃ。」

電話が切れた。新城がすぐに受話器を持ち上げる。
「管内の公衆電話、どうだ?報告を!」「01、異常ありません。02不審な
人物は見当たりません。03異常なし!」次々と報告が入る。
「ただ今の入電…発信元は公衆回線…長野県からです。」
「長野?どういう事だ?」新城は受話器を投げつけるように置いた。

シーン24

シーン24  11月13日   12:45


お昼を過ぎた。食事をとるかこのまま待つか…判断に迷う時間になった頃
再び捜査本部に緊張が走った。
「もしもし。真下です。」
「お待たせしちゃったね。じゃあ、ともちん、まゆゆ。準備いいかな?
そろそろ歩行者天国が始まる時間だね。まずは二人にはお金を持ってドンキ方面に
歩いてもらおうかな?端まで行ったら折り返す。とりあえず同じ事を繰り返して。
あ、警察のみなさん、警備はしてもいいけどお金もらわないとあっちゃんは
返さないよ。わかってる?」
「ああ。分かってるよ。次の連絡は携帯にしてくれるんだね?板野さんに
持ってもらった。番号は…だ。僕らも通話を聞けるようにしてていいんだね?」
「うん。いいよ。じゃ。」
電話が切れた。

「板野さん、渡辺さん、お願いします。ご安心ください。あなた方の安全は私たちが
責任を持って守りますから。」新城が二人に声をかける。

「よし。では警備体制を敷く。歩行者天国の両端から5メートル置きに捜査員を配備。
二人の周囲3メートル以内に3名の捜査員を配備する。袴田刑事課長、人選を
お願いできますか?」室井が指示を飛ばす。
「ちょっと待ってください。」一人の男が立ち上がる。
「警備対象の保護を所轄にやらせるんですか?室井さん、ちょっとそれは間違ってる
んじゃないですかね?」増本だった。本庁刑事部捜査1課のバリバリのエリート刑事で
いつも室井の捜査方針に異議を唱える男だ。

「所轄はおとなしく交通整理でもやってもらいましょう。警備には俺達があたる。」
「おい。黙って聞いてりゃ…」
青島が椅子から立ち上がろうとするが和久がそれを止める。
「増本、私の指示が聞こえなかったのか?」室井の表情が厳しくなる。
「あ、指示でしたか?てっきり、やけくそになったのかと思いましたよ。
室井さん、アンタみたいな田舎の大学出で一発博打をしかけなきゃならない立場と
違ってこっちは進む道があるんだ。やるべき事はしっかりやらせてもらいますよ。」

新城が室井に耳打ちする。
「室井さん、あいつ等の苛立ちももっともです。青島達の力は私も認めますが
ここは無理に本庁捜査員の士気を下げることもないでしょう。」
「…わかった。では、増本。君に周辺警備を任ずる。所轄は周辺の警戒にあたってくれ。
室井が指示を出した。


「ともちん、まゆゆ。頼んだよ。」青島が二人にウインクする。
「あの…青島さん、戻ってきたら一つお願いがあるんだけど? 」
板野が甘えた口調で青島の腕をとる。
「あのね。一緒にお酒飲みにつれていって欲しいな。」
「えぇ?お酒?行っちゃういっちゃう。連れていっちゃうよぉ。」
「え~ともちん、青島さんみたいのが好みなの?」渡辺が笑う。
「えへへ。オトナの魅力ってヤツ?まゆゆにはまだ分からないかな?」
「ちょっと青島君?」恩田が青島に肘鉄を当てる。
「じゃ、行ってきます。」二人は本部を後にした。

シーン25

シーン25  11月13日  13:35


「今のところ、何の接触もありません。恐らく何か携帯電話に指示があると
思うのですが…」新城が室井の隣で言う。二人の視線は秋葉原中の設置された
カメラからの映像を映し出したモニターに注がれている。
「しかし、なんで被疑者はこんなに衆目の集まる場所を選んだんだ。
どこかに移動させるつもりなのか…?」室井の眉間の皺が深くなる。

「被疑者より入電!」
「青島、どこだ?」室井がインカムに話しかける。
「秋葉原駅前を警戒中です。今のところ大きな異常なしです。」
「わかった。被疑者から電話が来た。警戒してくれ。」
「わかりました。」周囲の捜査員が視線を厳しく周りに向ける。


「あのね、ともちん。そろそろ歩き疲れたよね?」
板野が電話に出る。二人はマスクをつけ、帽子を被っている。
「ううん。大丈夫だけ ど?でも、いつまでここを歩いてればいいの?」
「あのさ、ずっと歩かせてて悪いんだけどさ、万世橋の方に向かって
走ってくれるかな?よーい、どん。」
二人が勢いよく走りだす。慌てて増本と3人の捜査員も後を追った。

「はい。ともちん、もういいよ。ふうん。4人か…ありがと。」
そこで電話が切れた。二人がドンキホーテ前に差し掛かった時だった。


「あっちゃんだよ!」「おぉ~本物だ!」「あっちゃん!」
突然大挙して人が道路の真ん中に集まり始める。
あっという間に周囲はパニック状態と化す。前田が突然歩行者天国の真ん中に現れたのだ。
休日の歩行者天国に現れたトップアイドル。人々は熱狂していた。


「おい、あそこだ。あそこにいるぞ。」増山が人だかりを指差して叫ぶ。
僅か数メートルの距離だ。増山は何とか前田に近づこうとするが、人だかりを
かきわけることが出来ない。
「おっさん、押すなよ!」「おい、どいてくれ。警察だ。どくんだ!」
「っせーよ!」怒号が響く中全く動けなくなってしまった。

室井がインカムで青島に叫ぶ。
「青島!ドンキホーテ前だ!急いで応援に向かってくれ!」
「もう向かってます…けど、人が多くて…」
「前田敦子さん…保護しました!」恩田の声だった。
「よし!恩田君、良くやった。」新城が言う。室井も一息ため息をついた。


「被疑者から入電!携帯ではありません。万世橋署へです。」
室井が真下に視線を送る。
「もしもし。」
「あ、真下さん?約束通りあっちゃんは返したよ。」
「今確認したよ。」
「でもね…。代わりにともちんとまゆゆを預かるからね。」

室井と新城の表情が変わる。
「増山!増山!状況を報告するんだ!」新城がインカムに叫ぶ。
「すみません…二人を見失いました…」
「なんだと?」新庄が椅子を蹴飛ばして立ちあがる。

「バカ野郎!何やってたんだ!」青島が増山の胸倉を掴む。
「突然のパニックだったんだ。突然だったんだ…、人だかりに押し倒されてしまって…」

青島は周囲を見渡す。人込みは潮が引いたように消えていった。
「まさか…これが狙いだったのか…?」青島がつぶやく。
捜査本部の室井は腕組みをしたまま目を固く閉じた。

シーン26

シーン26  11月13日  16:44

「室井君、経緯の説明はもういい。肝心なのは誰がどうこの責任を取るのか…だよ。」
会議室に居並ぶ警察幹部を前に室井は直立不動の姿勢でいた。
「は。責任はすべて本部長の私にあります。」
「室井君。君ももう少し賢くなったほうがいいのではないかな?何も無用な冒険を
犯さずともいいじゃないか。泥を被る人間など幾らでもいるのだから。」

「何がおっしゃりたいのでしょうか?」室井が姿勢を崩すことなく尋ねる。
「この捜査から手を引いてはどうだ?という事だ。これ以上の失態を重ねるのは、
君のキャリアにとって決して上手い選択ではないと思うが。」
「失礼ながら、私は自身の保身の為に任された仕事を途中で投げ出すつもりは
ございません。」

「青いな、相変わらず。しかし室井君。それは君にとって実にリスクの高い青さだ。
もしこの事件が解決に向かわないとしたら…」
「その時は、これをお納め頂きたい…と考えております。」
室井が内ポケットから封書を取り出す。
「ほう…進退伺いか。そこまで君を覚悟させるものは…何だね?」
「警察官として正しい事をしたい。それだけです。」
「戻りたまえ。」

室井は深く一礼し会議室を後にした。

シーン27

シーン27  11月13日   17:04

「前田が戻った事は良かった…と言っていいだろう。しかし…」
「本当に申し訳ありません。板野さんと渡辺さんが連れ去られた事に関しては
警察としても更に体制を拡大して捜査にあたっております。」
中西が戸賀崎に頭を下げる。青島と恩田もそれに倣う。
「一体、何をしてたっていうんだ?幾ら状況が厳しかったとはいえ、身代金を
持った二人から目を離すなど…」戸賀崎の怒りは収まる気配がない。

「戸賀崎、まあ待ちなさい。」
その時スタッフルームに秋元康が入ってきた。
「秋元です。すみませんね。戸賀崎も責任を感じてまして。ついついあなた方に
きつくあたってしまうようです。まぁ、まずは前田が戻ってきた事を喜びましょう。」
秋元は柔らかい表情で言ってソファに腰を下ろした。中西達にも椅子を勧める。
「ところで、犯人の目星はついてるんですか?」秋元が青島に聞く。
「いえ。それはまだです。しかし…」
「えっと、あなたが青島さんかな?」
「あ、すいません。青島です。」

なんだこのおっさんの迫力は。見た目冴えないちょっとオタクっぽい感じだし、
物腰だって柔らかいのに…青島は少したじろいだ。

「うちのメンバーにも話を聞いているみたいですね。もちろん、捜査には最大限
協力はします。いつでもおっしゃってください。ですが、何を狙っての事か位は
教えて頂きたいものですね。ひょっとして、メンバーの事を疑っておられるのかな?」
「いや、それは違います。むしろ、俺たちはメンバーのみなさんの安全を…」
「次に誰が狙われるかわからないから…そういう事ですね?」
秋元の返答は早かった。口調は穏やかだが青島は圧倒されていた。

「ところで、前田の様子は?」
「はい。幸い怪我も無く健康状態も良好、ショックを受けている様子もありませんので
間もなくお帰り頂く予定です。ただ、誘拐されていた間の事に関しては一切何も
話して頂けません。すみませんの一点張りで…」
「そう。仕事に穴が開いたと言っても僅か2日かそこらです。これが長引く事になると
色々と面倒なことも多いですからね。出来れば他のメンバーも早く取り戻して
欲しいところですね。」
「秋元先生。前田は…」戸賀崎が秋元の方を見て言う。
「ん?戸賀崎。前田にはすぐ仕事に戻ってもらおう。君はホリプロと尾木さんとの
連携を密にしてくれ。ふぅ、次は柏木が明日にでも戻ってくれたらいいんだが…」
「秋元先生!」戸賀崎が立ち上がったが秋元は涼しい顔を崩さない。青島に向かって
「みなさん劇場公演をご覧になった事は?」と聞く。
「ええ、俺とすみれさんは昨日B公演を…」
「良かったら今日のK公演もご覧になりませんか?メンバーにはそのあとで
話をする時間を作らせましょう。今日は選抜メンバーは1名しかいませんが、なかなか
楽しめると思いますよ。」秋元がそう言って席を立った。

シーン28

シーン28  11月13日   21:23

「青島…生の公演ってのはスゴイもんなんだな。全然知らないメンバーばっかだったが
圧倒されたよ。というより感動したよ。」
終演後の劇場の座席に座り、中西が上気した顔つきで言う。
「係長はライトですもんね。まゆゆの他知ってるメンバー何人かしかいないでしょ?」
青島がちょっと見下したような視線で言う。
「ああ。せいぜいテレビで見る子ぐらいだもんな。」

「おまたせしました!」そこへ公演を終えたメンバー達が戻ってきた。
秋元才加、田名部生来、中塚智実、仁藤萌乃、米沢瑠美、内田眞由美、
野中美郷、松井咲子の8名が順に青島達の前に立った。
「宜しくお願いします!」と揃って一礼する。
「えっと、取材の件は戸賀崎さんから聞いています。なんか、こんな風に取り上げて
頂けるのはとても光栄です。ありがとうございます。」
「ありがとうございます!」秋元に合わせるように全員が頭を下げる。
「えっと…ね?ちょっと座らない?気楽に話したいな。」青島が照れたように話す。
「あ…すみません。いや…警察関係ってお聞きしてなんか緊張しちゃって。
じゃ、みんな座ろっか。」秋元の声に全員が腰を下ろした。

「じゃあ、うっちーは公演大好きなんだね?」
話は内田を中心に進んでいた。恩田が興味深そうに聞く。
「あ、好きっていうか、私が今できる事って公演を頑張る事だと思うんですよね。」
「でも、あっちゃんやともちんみたいにソロで仕事したり、外の仕事したりしたいって
思う時ない?同じAKBなんだし。あ、ごめんね。意地悪な聞き方かな?」

「いえ。でもですね。私ではできない事ってあると思うんです。選抜で頑張ってる人は
それこそものすごい世界で頑張ってると思います。そうやって上で頑張ってくれる
メンバーがいるからAKBの知名度だって上がると思うんです。だから、もっともっと
高い世界へと登っていってほしいと思います。そこに妬みとかはありません。
でも、それだけじゃファンはどんどんAKBが手の届かない存在だって思っちゃうじゃ
ないですか?だから私たちが現場で頑張るんです。上には上しか出来ない事が
あるけど、私たちにしかできない事もあるんです。」
内田の強い口調に他のメンバーも頷いた。
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