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プロローグ

え~…みなさん、こんにちは。
古畑任三郎です。

皆さんは何日かのまとまったお休みが取れたら何をされますでしょうか?
旅行に出かけるというのが好きな人も多いと思います。
南の島で太陽のもとアクティブに過ごす。鄙びた温泉で英気を養う。
西洋の街並みを歩き歴史に思いをはせる…
ん~…どれも素敵な時間の過ごし方です。
私ものんびり旅行に出かけるのが大好きです。
ところで、今流れてるCMで私が愚痴を言った事で誰かが気を遣ってくれたの
でしょうか、今回私はとある場所へ旅行に行く機会に恵まれました。

ん~…ただ一つ困った事がありました。
この旅行…決してのんびり静養を…という訳にはいきませんでした。

しかし、私がのんびりしていたら…
みなさんを楽しませる事が出来なくなってしまうじゃないかですって?



うふふふ。その通りです。


古畑任三郎vsAKB48    氷の微笑
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シーン1

シーン1    2/9 13:07 長野県奥志賀高原

雲ひとつなく晴れあがった空。白く雪化粧した山々が美しい。
焼額山から続くリゾートホテルやペンション街から更に奥まった場所に
位置する小さなプチホテル風の建物の前に一台のマイクロバスが止まる。

「うわ~なに?このオシャンティーなホテルは。」真っ先に
バスを降り歓声を上げたのは指原莉乃だった。
「ホント、素敵ね~。今までで一番いい感じじゃない?」
続いてバスを降りた北原里英も眩しそうに顔を上げた。
「当たり前でしょ?誰が幹事だと思ってるの?」
宮崎美穂がどうだと言わんばかりの表情を見せる。
「みゃおが幹事やから心配しよったんやけど、ホントこりゃいい
ホテルやわ。やる時はやる子やったんね。」
大家志津香が意地悪そうに言いな がらも笑顔がこぼれる。
「もー。あんまりみゃおいじめると、おこなうですよ~」
「小森~、おこなうって何だよぉ。意味わかんないし。」
「えー、怒ってますって事だよぉ~。怒なう。」
石田晴香と小森美果がはしゃぎながらバスを降りてきた。
藤江れいなと前田亜美、菊地あやかも笑顔だ。


AKB48はオーデションの合格時期により「何期生」という括りがある。
その中でも4期から7期として加入したメンバーは、期間の長短こそあれ、
「研究生」という立場での下積みを経験している事から、それぞれの
結束が実に強い。5期生を中心としたメンバーが呼びかけ、始まったこの
団体旅行も今回で6回目を数える事になった。

シーン2

シーン2     2/9 13:31 ホテル内ロビー

ログハウス風の造りで誂えられたロビーには暖炉に火が入れらていた。
パチパチと音を立てて薪が燃えている。本物の暖炉だ。
「えっと、じゃあ部屋割り言うね~。くじで決めたんだから文句は
言わないようにね。鍵受け取ったらいったん荷物部屋に置きに行こう。」

宮崎が言う。幹事という事で張り切ってるのがわかる。
「えっと、さっしーと小森。しーちゃんと亜美。
はるきゃんとあやりん。きたりえとれいにゃんと私が3人部屋ね」

「萌乃は明日来れるんだっけ?」指原の問いに「そう。朝一番で来るって
言ってたよ。あとのメンバーは欠席。」宮崎が答えた。
「さすがにみんな揃って2日間続けて休みを取るのって難しくなって
きたね。前回は逆に今日来てるメ ンバーが殆ど来れなかったし。」
北原が残念そうに言う。

「でも、こうして集まる機会は少しでも多くしたいよね。そしたら
どこかで誰かが来れるって事になるんだし。」大家の声に
全員が笑顔で頷いた。

シーン3 

シーン3   2/9 14:03 石田・菊地部屋

「とはいっても、さすがに毎回参加って出来なくなるよね。」菊地が
荷物をベッドの上に広げながら言った。
「何をそんなに持ってきたの?一泊だけなのに?」石田が呆れた顔で言う。
「うん?だって、色々持ってこないと心配なんだもん。」
「あやりんらしいなぁ。でもさぁ、私なんて皆勤賞だよ、この旅行。」
「私、前回来れなかった。ワロタの仕事あったから。」
「基本、本体のスケジュールが無い時に旅行組むからね。ユニット入って
ない私は、そりゃ毎回来れるってか。個人の仕事もあんまないしさ。
あぁあ、なんかちょっとなぁ。」
「はるきゃん…」
「あ、ごめんね~。なんか嫌らしい言い方しちゃった。ごめんごめん。
ユニット入ってないの私だけじゃないもんね」
「でも、私ユニット入ってるけど、立場微妙だからなぁ。小森が
入ってきてから抜けてるキャラ持って行かれちゃったし。」
「あやりんはおバカキャラでしょ?」
「もぉ~酷いなぁ 。」
菊地は石田の肩を笑って叩いた。

シーン4

シーン4  2/9 14:07 大家・前田(亜)部屋

「あーみんってさぁ…」
「はい?」鏡に向かっていた前田は大家の声に振り向いた。
「なんかホントいい子だよねぇ。」大家がため息をつきながら言った。
「え?何ですか?」
「いやね、何言われてもニコニコ笑ってるし。人の悪口言わないし。」
「え~だって、私嫌いな人なんていませんもん。」
「いや~それがあーみんの素直なところなんだよなぁ。いやさ、
なんか最近何考えよるかわからん子増えたしな。」
「え~誰の事言ってるんですか?」
「まぁ、色々とな。」大家は口を濁した。
「大人には色々とあるんよ…」そして自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

シーン5

シーン5   2/9 14:09 北原・藤江・宮崎部屋

「部屋もいい感じ~。ホント今回みゃお、お手柄だね。」北原が宮崎に
笑いかける。藤江もクローゼットに上着をかけながら笑顔を見せる。

「なんかね。ずっと改装中だったみたいで、予約受付が出来なかった
から穴場になってたみたい。今日も、私たちの他には1組だけしか
予約が入ってないみたいだよ。」

「ねぇねぇ。ところでさぁ…今日の部屋割りってくじで決めたんだよね?」
藤江がちょっと曇った表情で宮崎に聞いた。
「うん。そうだけど…あ~れいにゃん、私と一緒の部屋じゃ嫌とか?
はるきゃんと一緒じゃなきゃヤダ~とか?」宮崎が茶化して答えた。
「違う違う。そうじゃないって。」藤江は一瞬表情を崩したが、すぐに
真顔になって言った。
「さっしーと小森…一緒の部屋はヤバいんじゃないかなって。」
「あぁ…それ、私もちょっと気になった。」北原が同意した。
「え?あの二人、本当にヤバいの?てっきりいつもの痴話げんかみたいな
ものかと思ってたんだけど…」
「う~ん…実際のとこ、どうなんだろ?小森っていまだに何考えてるか
分からないところあるし。」北原が顔をしかめる。
「ま、大丈夫でしょ?けんかするほど仲がいいって言うし。
今回の旅行がきっと仲直りのきっかけになるよ!」
「みゃおってホントに前向きだよね。」「ね~。」
北原と藤江は顔を見合わせて小さく笑った。

シーン6

シーン6    2/9 14:24  指原・小森部屋

「ふんふふ~ん♪」鼻歌を歌いながら小森が携帯を操作している。
指原は暫くその様子を黙って見ていたが、やがて意を決したように
話しかけた。

「ねぇ。小森。…小森?小森ってば!」
「もぉ~。ちょっと待ってくださいぃ。今まりやんぬにメール
してるんだからぁ。」
小森は頬を膨らませ、視線を携帯に落としたまま答えた。

「あのさぁ、小森ね。私はね…」
「だからぁ。さっしー、うるさいです。もぉ~」
小森は携帯に視線をやったまま部屋を飛び出した。
「ちょっと待ちなって。小森!小森って…」

指原が小森のあとを追おうとして部屋を飛び出した時、石田と菊地が
隣の部屋から出てきた。
「どうしたの?さっしー。すごく大きな声したけど。大丈夫?」
「あ、 あやりん。ごめんね。大丈夫。」
「また喧嘩ぁ~?」
「いやいやいや…そんなことないって、はるきゃん。いつもの事。」
指原は二人を残し、小森を追いかけていった。

シーン7

シーン7   2/9 15:07 ホテルロビー

ホテルのロビーで談笑する宮崎とひげ面の大男。
男の言葉遣いがややぎこちない。流暢な日本語だが
どうやら外国人のようだ。

「みゃおさん、アナタ、ベリーベリーナイスです。アイドルなんか
やめてお笑いの世界行くべきです~。きっとブレイクします!」
「もう、やめてくださいよ。私、これでも正統派のアイドルを
目指してるんですから。」「oh!失礼しました~。」

「楽しそー。何話してるの?」北原が現れた。
「あ~あのね。この方、このホテルのオーナーさん。」
「ハジメマシテ。今日はようこそお越しくだサイました。
オーナーのアニマル・レスリーと申しマス。」大男はその風貌に
似合わない柔和な笑顔であいさつした。

「アニマルさん、元日本のプロ野球 の選手なんだって!」
「えぇ~そうなんですかぁ!明日香ちゃんなら知ってるかなぁ?」
「絶対知ってるって。だって、アニマルさん、プロレスもやってた
んだってよ。野球とプロレスって言ったら明日香ちゃん喜んじゃうよ。
来ればよかったのにね~」

「何何?どうしたの~?」ロビーにメンバーが集まり始めた。
「みなさん、ドウカゆっくり楽しんでくだサイ。スノボするなら
レンタルいつでもOKです。露天風呂もいつでも入れマス。
トレーニングしたいヒトは奥のジムで汗流してくだサイ。」
「え~こんなトコまで来て身体鍛えるって、才加さんじゃないんだから」
全員から笑い声が上がった。

シーン7-2

シーン7-2

「だから、私はスキーには向かないって言ったんだよ。」
「文句言わないで下さいよ。古畑さん、せっかく僕が商店街の福引で
特等の旅行を当てたんですから。」
「解ってますよ、今泉さん。ね?古畑さん、露天風呂にでも入って
のんびりしましょうよ。」
3人の男がスキーの乾燥室からロビーに入ってきた。

「あ、お帰りナサイ。スキーはenjoyできましたカ?」
アニマルが男たちに声をかける。
「いやね、この人全然ダメなんだよ。せっかくリフト一日券セットの
パックなのに、まともに歩く事すら出来なくて結局1回しかリフト
乗れなかったんだよ。」
「今泉君。余計な事を言わなくてもいいんだ。ったくお前は…」
「あぁ。みなさん、今日はお客様はおふた組だけデス。せっかくだから
紹介しますネ。こちら、東京からいらっしゃった今泉さんご一行デス。
ソレカラこちらは…」

「さ…さっしー?え?それにみゃお…?え?こもりんに…
りりりりり…りえちゃんに…」
「西園寺君?どうしたんだね、一体?そんなに興奮して。」
「古畑さん。え、え、ええええAKB48が。」
「アラ、アナタ、ファンなのですか?」
「は…はい。あ、僕あの…こないだのTDCベスト100のライブ行きました!
握手会も毎回行ってます!いや~感激だなぁ。」
「へぇ~…西園寺君、君にそんな趣味があったなんて。いいじゃないか。
ただのカタブツと思っていたけどね~。」

「宜しくお願いします~。」
旅先の解放感からか、少ない同宿人の気楽さか、メンバーも警戒心の
ない笑顔であいさつした。

シーン8

シーン8  2/9 23:48 ホテルロビー

「古畑さん、面白い~。」「ねぇねぇ、私の手相も見てくださいよぉ」
「ん~解りました。え~…あなたは?」
「やだぁ。まだ名前覚えてくれてないんですか?藤江れいなで~す。」
「あ~すみません~覚えました。れいにゃんさん…ですね?」
「そーそーれいにゃんで~す。」

「ねぇ、ねぇ。古畑さんってお仕事なにしてるのぉ?」
「え~…それは秘密です。えっと…あなたはあやりんさん。」
「ずるぅ~い。教えてくださいよ~じゃ、私が当ててあげる。
んとねぇ。ん~…まだ売れてない俳優さん。だってシブいもん。古畑さん」
「俳優ですか?光栄です。ただ、売れてないっていうのはちょっと余計です~はるきゃんさん。」

藤江、宮崎、前田、石田、菊池が古畑を囲んで騒いでいる。
「ねぇ…今泉さん。なんでこういう展開になってるんですか?」
西園寺が苦々しく言う。
「知らないよ。古畑さん、全部美味しいトコ持っていってるよな。
あのスケベオヤジ。」
「ん~今泉く~ん?何か言ったかい?」
「言ってないですよ!」

広いロビーのラウンジのちょっと離れた場所では、大家と北原が
アニマルが入れてくれたホッとレモネードのカップを口に運びながら
柔らかな表情で話ししていた。
「なんか、ほっとするなぁ。仕事から離れて、こんな風に他愛もない
話しして時間が過ぎていきよるのって。」大家がしみじみ言う。
「なんか、最近毎日があっという間に過ぎちゃうからね。」
北原の表情もリラックスしている。

「でも、良かった。指原と小森、楽しそうに話してた。最近ちょっと
ヤバいのかな?と思っちゃってたから。昼間も揉めてたって
あやりんとはるきゃんが心配してたし。」
「うん。まぁあの二人は姉妹みたいなもんやろ。喧嘩したり仲直りしたり。」
「で、しーちゃんがお母さん。」「確かに。」
二人は手を叩いて笑った。

シーン9

シーン9    2/10 1:37 ホテルロビー

「ふぅ~。あ~騒いだなぁ。でもみんな、部屋に戻ったみたい。」
「そろそろウチらも寝よっか。あ、なんか飲み物…アニマルさんも
もういない…よね。」大家が辺りを見回す。
「あ、ジムの向こうに自販機あったよ。」
「じゃ、ウチなんか買ってから戻るわ。」
「じゃ、私戻るね。おやすみ~」「おう、また明日。お休み~」
大家は北原に手を振りポケットの小銭を探りながらジムの方に向かって
歩いて行った。

がたん…
自販機で買った水のキャップを開けようとした時、ジムの中から音が聞こえた。
人がすすり泣くような音も聞こえてくる。
「え…ちょっと、マズイって。ウチ怖い話苦手やから…」
大家はそれでも腰を引きながらジムのドアに手をかけた。
「…大丈夫大丈夫。何も見えんっちゃ。何も…せ~の…」
自分を励ますように大きな声で独り言を言い、一気にドアを開く。


「…指原…?何しよるん?そんなところで。」
ジムの中には、床に座り込み身体を震わせる指原の姿があった。
目からは涙がこぼれ、口元は細かく震えている。
そして両手には木のバットを抱くように持っている。その先端が赤く染まっている。

「指原…?さし…」大家が言いかけてはっと息をのむ。
そこには頭から血を流し倒れている小森の姿があった。

シーン10

シーン10   2/10 1:50  ホテル内ジムルーム

「ちょ…小森!小森!」
大家は倒れている小森を抱きかかえた。指原は我を無くしたように
震え続けたままだ。

「小森…」
すでに小森の身体は動かなくなってしまっていた。
大家は小森の顔をそっと手で覆い見開かれたままの小森の瞼を閉じさせた。
そのまま指原の方に視線をやる。

「指原…」
「ひっ…ひっ…ち…ちが…う…わ…ざしは…らは、ひっ…ぐぅ…」
指原の口からは呻き声しか出てこない。呼吸は乱れて、目元も口元も
震えに襲われ、指原の身体は今にもバラバラになってしまう程に見えた。
大家は静かに小森の身体を床に横たわせ指原の側に近付く。

「…あ…うぅ…じ…しーじゃ…」指原が激しく首を振る。
「分かった。わかったから。落ち着け。な。指原。大丈夫やけん。
ウチに任しとき。」大家は指原の頭を抱えてささやいた。
「ぐわぁ…うっ…うっ…うぇ…」指原は大家の胸にすがりつくように
泣きじゃくった。

シーン11

シーン11    2/10 2:07  ホテル内ジムルーム

大家は辺りを見渡した。ジムの中には数台のウェイトマシン、エアロバイクに
トレッドミルもあった。奥の棚にはダンベルやバーベル、元野球選手のオーナー
らしく数本のバットが並んでいる。かなり本格的なジムだ。

大家はふと窓に目を向けた。カーテンを開き窓を開く。
空には満天の星が輝いていた。新月に近いせいか月明かりは無く、外は漆黒の
闇につつまれている。建物はちょうど中2階になっているような感じで、
窓のすぐ下には雪が積もっていた。今年の信越地方は記録的な豪雪で奥志賀の
積雪は3mを超えていた。

大家は小森の遺体を背負った。大柄な大家だったが、小森の身体も決して
小さなほうではない。苦労して窓のところまで運び、そのまま小森の身体を
窓下へと落とした。

ばふっ。

ほんの小さな音を立てて小森の身体は雪の中に埋まって見えなくなった。
この2日ほど雪は降っていないようだったが、雪の柔らかさは残っていたようだ。

「指原、これ飲んどき。」大家が自分のポーチから錠剤を取り出す。
「マイスリーっちゅう薬や。安心し。うちが毎日飲んどる薬やから。
気持ちが落ち着く。」大家は持っていた水で指原に薬を飲ませた。
指原はそのあとしばらく泣きじゃくっていたが、やがて静かな寝息を立て始めた。

大家は指原の腕からバットを取り上げる。
「重…なんやバットってこんなに重いんや。」先端に付着した血液をジム内の
水道で丁寧に洗い落し、ハンカチで指原の指紋を丁寧に拭き取った。
窓を締めカーテンを引き、自分を落ち着かせるように大きく息をついた。
指原を背負い、ジムを出て行く。

「軽い…指原、お前ってこんな小さかったんやな。」大家はつぶやいた。

シーン12

シーン12   2/10 9:45 ホテル内レストラン

「おはよ~。あ~眠いよ~」石田があくびをしながら朝食会場に入ってくる。
「あ、おはよ~はるきゃん、遅いよ~」宮崎と北原は食事を終え熱いコーヒーを
飲んでいた。前田、藤江、菊地もほぼ食べ終えようとしてるところだった。

「あれ?小森とさっしーは?しーちゃんもいないじゃん?」
「指原はなんか具合悪いって言いよってまだ寝とるよ。小森は朝一のリフト
乗るゆうてもう出て行ったんよ。しゃーないからウチも今から行ってくる。」
スキーウエア姿の大家が現れて言った。
「え~頑張るねぇ。こんな天気なのに。」藤江が窓の外を見て言う。
昨日とは一転して外は横殴りの雪が降りつけていた。
「ま、とりあえず行ってくるわ~。北原、後で指原の様子見といてくれる?」
「うん、わかった~気をつけてね。」
大家は肩をストレッチしながら雪の中へと出て行った。

シーン13

シーン13   2/10  10:05  ホテル内レストラン

「いや~参った参った。すっごい雪だよ~」大家と入れ替わりで仁藤萌乃が
ホテルに到着した。
「あ、萌乃~。着いたの?」宮崎が大きな声で迎えた。
「着いたよ。予定より3時間も遅れちゃったけどね。」
「深夜バスでしょ?寝れた?」北原がタオルを差し出しながら言う。
「うん。バスって結構快適なんだね。シートは1席ずつわかれてるし。
女性専用バスだったから安心だった。」
「みんなスノボ行かないよね?この天気だもん。」
「小森としーちゃんは行ったよ。小森なんて朝一で出かけたんだって。」
「へぇ~。私はとりあえずのんびりしようかな?ん?さっしーは?」
「なんか、具合悪くて寝てるんだって。様子みといてって言われたから、
ちょっと行って来ようかな?ちょっと心配だし。」北原が言う。
「そうなの?さっしー、なんか悪いモノでも食べちゃったんじゃないの?
う~ん、私も行くよ。」仁藤と北原は指原の部屋に向かった。

「さっしー?起きてる?入るよ~」
指原はぐっすり眠ってるようだった。北原が身体を揺すろうと手を伸ばすのを
仁藤が首を振って止めた。
「寝かしとこ。多分、ここんとこマトモに寝てないんだと思うよ。
忙しそうだったもん。頑張ってるんだよ。さっしーも。」
「そうだね。いいお休みになるかも…ね。」
二人はそっとドアを締めた。

シーン14

シーン14   2/10  12:27  ホテル内ロビー

薪が音をたてて暖炉のなかで燃えている。トランプに興じるもの、ソファに
足を投げ出し本を読みふけるもの、窓外の雪を見ながら物思いにふけるもの。
それぞれが思い思いの時間を過ごしている。思わぬ悪天候のせいで
予定とは少々違ってしまったが、普段のタイトなスケジュールに追われる
生活から離れてリラックスした時間を楽しんでいた。

「え~…みなさん、おはようございます~。」古畑が姿を現した。
「おはようございます~!でも、もうお昼だよ。古畑さん。」菊地が笑う。
「お恥ずかしい。すっかり寝過ごしてしまいました。まだ、ウチの連れは
寝ておりますが…」

「ねぇ…誰?」仁藤が菊地に聞く。「あ、この人はね、古畑さん。もうひと組のお客さんだって。
昨日知り合って一緒に盛り上がったの。」
「そうなんだ。ふぅん。あ、はじめまして仁藤といいます。」
「あ~はじめまして。けいし…いえ古畑と申します。仁藤さんは、なんとお呼びすれば?」
「え?なんて呼ぶって?」仁藤は首をひねった。
「あ、萌乃は萌乃でいいんだよ。萌乃ってクールで油断してたらすぱっと切られちゃう
から気をつけてて~古畑さん。」藤江が楽しそうに言った。
「ひゃ~すげー雪。風も強いからゴンドラ止まっちゃったよ。こんな雪なのに
小森まだ滑るってさ。付き合いきれないから戻ってきた。お、萌乃来たんや?」
「来たよ~。ごめんね遅くなっちゃった。」
「お~し、萌乃も来た事だし。昼からはアレやるか?」
「お、やろうやろう。盛り上がろうぜ~。」みんなが歓声を上げた。

シーン15

シーン15  2/10   14:20  ホテル内ロビー

「はい。古畑さんの負け~」
「いやいや。これは難しいです。また負けてしまいました。」
「じゃ、罰ゲームね。これで何回目?」
「そろそろ勘弁してください。年寄りにはキツイです。」

「なぁ。なんでまたあの人がもててるんだ?」西園寺が今泉に言う。
「知らないよ。ホントいい加減にしてほしいよな。あのスケベオヤ…」
「今泉君~何か言ったかい?」「い~え。言ってません!」
西園寺と今泉はビールのグラスを一気に煽った。

「じゃ、古畑さんには、モノボケやってもらおう!」
「参りました~…」
「う~ん…アニマルさん。ホテルの中のモノ、色々お借りしていいですかぁ?」
「どうぞ~。でも、壊さないでくだサイね。」アニマルは笑顔で答えた。
「えっと、じゃあ…あ、萌乃、手伝ってくれよ。」「いいよ。」
二人は立ち上がった。
「えっと、モップとバケツと…あ、ジムも覗いてみよう!」
大家が萌乃とジムの中に入る。
「スゴイ~。このジム、本格的だね。」仁藤が興味深そうに見まわす。
「このダンベル持っていこう。あ、そっちのバットとかはどうかな?」
「これ?」仁藤が1本だけ壁に立てかけてあったバットを持った。
「あ、やっぱそれはいいや。その縄跳びにしよ。」
「これね。オッケイ。」
二人はロビーに戻った。楽しそうな声が館内に響いていた。

シーン16

シーン16   2/10  15:15  ホテル内ロビー

「いくらなんでも遅くない?小森。もうリフト止まっちゃう時間だよ?」
前田が心配そうに外を見る。「ウチ、ちょっと探してくるわ。」大家が
スキーウエアを着て外に出ようとする。「私も行く。」北原も立ち上がった。
「あ、とりあえずコース探してみるから、待ってて。」「私も行くよ。
もうすぐ暗くなっちゃうし。」仁藤がスキーウエアのジャケットを羽織る。
「そうやなぁ。うん、じゃあ一緒行こうか。みんな、すぐ戻るから。」
「気をつけてね~。」大家と仁藤はメンバーに手を振って出かけて行った。

「なんや?この雪と風は?」「こんな中で滑ってるの小森?ちょっと…
目を開けてられないよ。リフトも止まってるんじゃない?」
「あれ…?このボード、確か小森が使ってたのと同じヤツかも…」
「え?ホント?じゃ、戻ってきたのかな?あ、乾燥室にいるかも。乾燥室ってどこ?」
「あ、この裏手や。行ってみようか。」二人はホテルの裏手へ向かった。
乾燥室への通路の脇は雪が高く積もっていた。通路のところだけが除雪されている。
ホテルの裏手には川が流れていた。上流で幅の狭まった川は両側を切り立った
崖に挟まれるようになっていた。柵が設けてあるが、足を滑らすと
下へと落ちて行ってしまいそうだ。

「萌乃…小森はおらんのよ。」大家が立ち止まって、仁藤の背中に声をかけた。
当然たった。
「え?何?どういう事?」仁藤が振り返る。大家は泣いていた。
「小森は…小森は…」「どうしたの?しーちゃん?」仁籐が困惑した表情を浮かべる。
「萌乃…すまん。許してや。すまん。ウチはどうしても指原を…」
「ねぇ、なに?一体何言ってるの?」
「萌乃にはすまんと思う。何の恨みもないんや。でもな…
でもな…ウチらはこんなトコで立ち止まる訳にはいかんのよ。」
大家の鬼気迫る表情に仁藤はじりじりと後ずさりを続ける。背後の川沿いの
フェンスが朽ちて崩れている。

「ちょっと、なに?冗談やめてよ。いったい、何を言ってる…」
「萌乃、すまん。全部ウチが悪いんや!」大家は仁藤の身体を強く推した。
仁藤はバランスを崩し、よろめいた。とっさに大家の手首をつかむ。
大家は掴まれた方の腕を振り回した。仁籐は更に体制を崩し、そのまま
崖を滑り落ちて行った。激しい風の音の中で水飛沫の音が聞こえた。

シーン17

シーン17   2/10   16:25  ホテル屋外

雪の中から小森の姿がようやく姿を見せた。大家は汗を袖で拭ってため息をついた。
午前中にあらかた掘り出していたとはいえ、その後も降り続いた雪のせいで
想像以上に遺体を雪の中から出すには骨が折れた。
そのまま小森を背負い、乾燥室の中へと運びこむ。

大家は非常階段を登り、辺りをうかがいながらホテル内へ入りジムへと
滑り込むように入った。手袋をしたままバットを持ってすぐにジムを出る。
非常階段を降り元来た道を戻った。さっき仁藤と揉み合ったフェンスの脇に
バットを起き、玄関からロビーへと足を運ぶ。

「見つからんかった。あれ?まだ萌乃戻ってない?」大きな声をロビーにかける。
「戻ってないよ。一緒じゃなかったの?」宮崎が不安そうな顔で答えた。
「外出て、すぐに別々になったから。小森も…戻ってないよね?」
「ねぇ…ちょっとヤバくない?」藤江の顔も他のメンバーの顔も曇っている。

「失礼ですが、やはりスキー場のパトロールに届けたほうが宜しいかと。
天候も天候ですし。」西園寺が真剣な表情で言う。
「そうデスね。ワタシ、すぐに連絡入れます。」アニマルが受話器を取った。
「そろそろ、お迎えが来る時間なのにね…」それぞれが顔を見合わせた。

シーン18 

シーン18  2/10  17:00  ホテル内ロビー

ロビーには沈黙が広がっていた。小森はもちろん仁藤も戻って来ない。
外の雪は全くおさまる気配が無い。もはや吹雪と言っていいレベルだ。
そこへパトロール隊と地元の警察官が現れた。
「遅くなりました。実はこの吹雪であちこちで出動依頼がかかっておりまして。
それから、志賀草津道路は湯田中からこっち側で通行止めになってしまいました。」
「え?じゃあ、私たち今日どうなるの?帰れないとか?」
ロビーは騒然となった。
「えっと、マネージャー連絡しないと…」「明日朝から撮影入ってたよなぁ…」
各自が携帯を取り出し連絡を取り始める。
そこへ、ふらついた足取りで指原が現れた。
「はぁあぁぁあ…参ったぁ。一体どんだけ寝たんだろ?なんか、頭ぼーっとして
変な夢見てた気がするんだよね。」

「あ、さっしー。大変なの。小森がね…」宮崎が言いかけた途端大きな悲鳴が聞こえた。
「こ…こ…こここ…小森ぃ!誰か!誰か来て!」
「誰の声?」「あやりんだ。さっき自分のボード取りに行くって言ってた。」
「行こう!」全員が一斉に駆け出した。

シーン19

シーン19   2/10  17:11  乾燥室


乾燥室の床には小森がうつ伏せに横たわっていた。動かなくなった身体のすぐ横で
菊地が茫然と立ち尽くしている。スキーウエア姿の小森は髪から着ているものまで
びしょ濡れだった。

「やだ…小森?どうしたの?ねぇ?」宮崎が叫ぶ。他のメンバーも何が起こったのか
解らないといった表情でいる。声を上げて泣き始める者、ただただ立ち尽くす者、
反応はそれぞれだ。

「ねぇ、小森。小森。何やってるの?ねえ。目開けなよ!」宮崎が遺体に駆け寄ろうとすると
「触らないで!」大きな声がかかった。西園寺の声だ。
「みなさん、そのまま…遺体…いえ小森さんには触らないでください。」
西園寺が両手に白い手袋をはめながら歩み寄る。「古畑さん…」
「え~…みなさん。お気持ちはお察しします。ですが、今はこの男の言うとおりにして
ください。お願いします。」

「あの…?古畑さん?」藤江が古畑の顔を見上げる。古畑は笑顔で軽くうなずく。
「申し遅れました。今日は非番で手帳の保持を許されておりませんが、私たち3名。
警視庁の刑事なんです。」西園寺が言う。
「え~…はい。残念ながら私の職業は俳優ではありません。西園寺君の言った通り。
警視庁の古畑と申します。」古畑は一礼した。
遅れて乾燥室に現れた大家の表情が一瞬曇った。


「小森…?なに?また死んだふり?いい加減にしないと指原怒るよ?
ねぇ。小森?小森ってば!」一番最後に現れた指原が取りみだしたように喚き始める。

「うっ…ぐっ…あ…」次第に指原は何かに怯えるように震え始めた。
「さっしー?大丈夫?」北原が指原の肩に手を添えようとした瞬間、がくっと指原の
身体が崩れ落ちた。そのまま床に倒れ込む。
「さっしー!」北原と前田が指原の側に座り込み顔を覗き込む。
西園寺が駆け寄り指原の様子を伺って小さなため息をつく。
「大丈夫です。気を失っただけみたいです。ショックが強すぎたんでしょう。」
西園寺は自分と同じ位の指原を軽々と抱え上げた。

シーン20

シーン20   2/10  19:00 ホテル内ロビー

古畑、西園寺、今泉の3人と長野県警の警察官2名が暖炉の前で話をしている。
古畑はソファに足を組んで座っている。他の者は立ったままだ。

「とにかく、現場保存して所轄の到着を待ちましょう。」西園寺が言う。
「古畑さん、いいですか?僕たちはたまたまここに居合わせただけですからね。
余計な手出しはダメですからね。」今泉が珍しく冷静な口調で古畑に釘を刺す。
「…」古畑は眉間に指を添えたまま動かない。無言だ。
「古畑さん!」今泉が言いかけた所で、古畑が立ち上がった。
「古畑さん、どこへ?」西園寺の呼びかけにも答えず、古畑は乾燥室へと向かって行った。

古畑は乾燥室を隅から隅まで探るように動き回った。
「今泉君。君はスキーは詳しいよね?」視線をシートがかけられた小森の遺体に
向けたまま聞く。
「そりゃ、もう。学生の頃から良く行ってましたからね。私スキの映画なんて
何回見た事か。そもそもこの志賀高原はですね…」今泉の熱弁を遮って古畑が言葉を発した。
「そもそも乾燥室っていうのは、何のためにあるんだい?」
「そんな事も知らないんですか、古畑さん?濡れた板やブーツをそのままにしとくと
ダメになっちゃうじゃないですか。だから暖房を強くした部屋で乾燥させるんですよ。
スキー場の宿にはどこもありますよ。」
「ん~…ありがとう。」古畑は頷きながら外へと出るドアを開ける。

外は相変わらず吹雪だ。古畑はコートの前身頃を両手で押さえながら外へ出る。
「西園寺君。あれ…」古畑が指差した先には1本のバットが転がっていた。
「バットですね。」「拾ってきて。あ、手袋はつけたままでね。」
西園寺はバットを持ってくる。「古畑さん、このバット、相当重いです。」
古畑はシートをめくり小森の遺体を覗き込んだ。顔にかかった髪を指でかきあげる。
即頭部が割れ、血の跡が見て取れた。
「西園寺君、そのバットも保全しておいて。いいね?」古畑は西園寺に静かに命じた。

シーン21

シーン21    2/10  19:15  宮崎・藤江・北原部屋

「ねぇ…私、すごくイヤな胸騒ぎがする…」北原が言った。
「何?胸騒ぎって?」藤江の顔が青ざめている。
「小森があんな事になって…萌乃も戻って来ないし…まさか…」
目に涙をいっぱいに溜めた北原に宮崎が声をかける。
「大丈夫だって。萌乃はきっと戻ってくるって。だって、萌乃だよ?そんな簡単に…」
宮崎の声も震え始めた。

「ねぇ…小森って何で…だと思う?」藤江が遠慮がちに言う。
「なんでって…?どういう意味?」北原が首をひねる。
「あのね…誰かに殺されたとか…じゃないのかな?だって、変じゃん。」
宮崎と北原は無言で顔を見合わせた。
その時、ドアがノックされた。

「え~…すみません。ちょっとお話を聞かせて頂きたいのですが。」
古畑と西園寺が現れた。
「あ、どうぞ。どうぞ。」
「あの…萌乃はまだ戻って来ないんですか?」「ええ。非常に心配です。
ただ、この悪天候、しかも夜という事で捜索も出来ない状況です。」
「そうですか…」宮崎が肩を落とす。
「ところで、亡くなった小森さん…みなさん、最後に彼女の姿をご覧になったのは?」
「えっと…確か今朝一番でスキーコースに出て行った…ね?誰か見た?」
北原が宮崎と藤江に聞いた。二人は首を振る。

「あの…小森は誰かに殺されたんですか?」藤江が古畑に聞いた。
「ちょっとれいにゃん。何言ってるの?」宮崎が叱るような口調で言った。
「だって、おかしいじゃん。どう見てもあの感じは。みゃおはおかしいと思わなかったの?」
「そりゃ…でも、誰かって、誰よ?このホテルに泊ってるのは、私たちしかいないのよ?」
宮崎の口調が強くなった。
「誰って、誰かいるんじゃない?小森の事を良く思ってない子の一人や二人。
このところ選抜落ちしただけじゃなくてアンダーでも小森にポジション持ってかれてる
誰かとかさ。」
「何言うのよ!大体、れいにゃんだって小森の事めんどくさいって言ってたでしょ!
はるきゃんとの間にいっつも割り込んでくるとか。」
「ちょっと待ちなさいよ。おかしいよ、二人とも。」北原が二人を止めに入る。
「何よ。いっつも優等生ぶっちゃって。そういうトコ、実は鼻についてたんだよね。」
宮崎が興奮した様子で北原の腕を振り切った。
「え~…みなさん、喧嘩は宜しくありません。落ち着いてください。」古畑の柔らかな
声で3人はベッドに腰を下ろした。
「まだ詳しい事は解りません。ただ、状況から判断すると、小森さんは何らかの事件に
巻き込まれた可能性が高いです。しかし、今はまだ何も分かっていません。
どうか、皆さん落ち着いてください。」古畑が諭すように言った。

シーン22

シーン22   2/10  20:07  菊地・石田部屋

ツインルームのベッドに菊地と石田、そして前田が腰かけている。
「私はやっぱりさっしーがなんかおかしいと思うんだよね。」長い沈黙を菊地が破った。
「うん。私もそう思う。」石田も相槌をうつ。まるで誰かがその話題を始めないか
待っていたような相槌だった。
「え?おかしいって?それはそうでしょ。あんな仲良かったんだから。私だって
すごくショック。二人はそうじゃないの?」前田が言った。
「あのね。あーみん。そう意味じゃないって。ねぇ、小森の姿見たでしょ?」
石田が強い口調で前田に言う。「あれはどうみたって、普通の死に方じゃない。
古畑さんも西園寺さんも突然口調が変わったじゃない?絶対、小森は…」
石田の声を遮るようにノックの音が響いた。

「え~…みなさん、失礼します。古畑です。ちょっと宜しいでしょうか?」
「あ、古畑さん、今話してたんですけど…小森って…」菊地の言葉を前田が遮った。
「あやりん。やめようよ。そんな誰かを疑うみたいな事。」
「あのさぁ。そりゃ亜美はさっしーと仲がいいから庇いたくなるのは分かるけどさ。」
「あの~失礼ですが、菊地さんは何か今回の件で思い当たる事でも?」古畑が菊地に
手を差し出して尋ねた。
「思い当たるっていうか、最近指原と小森が何度も言い争ってるのを見てました。
こっちに着いてからもなんか…ね?」菊地が石田に同意を求めた。
「はい。小森が部屋から飛び出して、そのあとをさっしーがものすごい剣幕で
追いかけて行ってるのを…」
「もうやめようよ。なんか、こんなのおかしいよ。」前田の目が潤み始めた。
「じゃなに?亜美は誰が小森を殺したっていうの?」菊地が激高したように詰め寄る。
「え~…ちょっとお待ちください。菊地さん。まだはっきりした事は何も分かって
いませんので。全てはまず天候の回復を待ってからです。」古畑が菊地に微笑み
ながら言った。

「あの…萌乃ちゃんは…?まだ戻ってないんですか?」前田が聞く。大きな瞳からは
ぽろぽろと涙がこぼれ始めている。
「そういや、萌乃と一緒に出て行ったのしーちゃんだよね?もしかして萌乃…も?」
菊地の興奮はまだおさまっていない。
「…」前田は無言で菊地を睨みつけた。
「みなさん、落ち着いてください。確かにまだ分からない事ばかりです。
ですが、ご安心ください。この事件、きっと全てが明らかになります。
ですから、今は…みなさんもどうか落ちついてください。」

「西園寺君…彼女たちって…やはりいつもあんな感じなのかい?」
「あんな感じといいますと?」
「いやね。何かいがみ合ってるというか、何というかね。やはり女性同士のグループ
だと色々とあるんだろうね。」
「古畑さん。彼女たちも混乱してるんだと思います。今回ここに来てるのは、同期や
普段から仲の良いメンバーばかりのはずです。この中で誰かが誰かをなんて…
絶対考えられません!」西園寺の口調は強かった。
「西園寺君…?」
「はい?」
「捜査に私情を挟むのは、刑事として失格だよ。」古畑が言い放った。

シーン23

シーン23    2/11 10:45 ホテル

翌日は朝から綺麗に晴れ上がった。昨日の吹雪がまるで事件を呼ぶためだけに
おこったのかと思えるほどの見事な晴天だった。
事件の報を受けた長野県警は周辺各署に召集をかけ、200名体制の捜査部隊が
結成した。ホテル内は鑑識員や県警の捜査員で埋め尽くされ、ホテル周辺では
不明になっている仁藤の捜索が始まり物々しい雰囲気を醸し出していた。

「古畑さん。ねぇ古畑さんってば。道路も開通したみたいだし、僕らも
帰りましょうよ。ねぇ。」今泉はすでに荷物をまとめてしまっている。
「ん~…ところで西園寺君。昨夜、大家さんとは話出来たのかい?」古畑は
今泉を無視して西園寺に問いかけた。
「ええ。ただ、指原さんの側に付き添っていたいって事でしたので、余り深くは…」
「そうか。分かった。ちょっと行こうか?」
「もう、古畑さんったらぁ…」今泉は諦めて荷物を床に下ろした。
古畑がロビーに降りると県警の刑事が話しかけてきた。

「あ、本庁の古畑さんですね。私、長野県警の田村と申します。こちらは、西村。
古畑さんの高名は長野まで届いております。お会い出来て光栄です。」
「あ~…田村さん?うふふふ、いい名前だ。ところで、解ってる事を教えてもらえる?」
今泉が何か言いかけたが古畑は一瞥もくれずにソファーに座り足を組む。

シーン24

シーン24   2/11 11:07 ホテルロビー

「では、私から説明させて頂きます。」西村が手帳を取り出し話し始めた。
「まず、被害者の小森美果さんですが、死因は即頭部を鈍器のようなもので
殴打された事によるよるもの。死亡推定時刻は2月10日12時から15時の間。
凶器ですが、やはり、古畑さんが保全のご指摘を頂いたバットと断定されました。」
「ん~…あのバット?乾燥室の外にあった?」
「はい。そのバットです。バットの先端に血液が付着しており、鑑識から
被害者のものと一致したとの報告が上がっております。また、バットからは2名の
指紋が検出されました。」
「2名?」
「はい。ひとつは行方不明中の仁藤萌乃さんのもの。もう一つは指原莉乃さんの
ものと思われます。お二人の所持品の幾つかから採取したものと一丁しました。」
「なるほど。」
「あと、実はこのバットですが、明らかに何者かによって証拠を消そうとした形跡が
あります。先端部ですが、水で洗い流したものと思われる跡が認められました。
表面が木目の強い素材でしたので、僅かに血液が残ってしまっていたようです。」
「ちょっと待って。でも指紋は残ってた…んだよね?」
「はい。その通りです。血痕を落とす事に気を取られてしまったのかもしれません。」
「わかった。行方が分からなくなってる仁藤さんは?」
「現在、ホテル周りを中心に捜索しておりますが、まだ見つかっておりません。
二通りの可能性を考慮に入れて捜索の手を広げているところです。」
「二通り…事故か何か…と。」
「逃亡という事です。」西村が答えた。
「…」古畑が眉間に指を添えて質問を切った。
「メンバーの方には今捜査員が事情を聞いております。一名、指原さんだけはまだ
意識がはっきりしませんので、回復を待って…という事になりますが。」
古畑の視線が鋭さを増してきた。

シーン25

シーン25   2/11 12:07 ホテル2階宴会場

メンバーが集まって食事をしている。誰も口を開かない。
不安、苛立ち、悲しみ、怒り、そして猜疑心。色んな感情が入り混じった沈黙だった。
古畑がその中に入っていく。隅の席に座り、テーブルに並べられたランチの皿から
カップに入ったスープを選びゆっくりとそれを口に運ぶ。

「古畑さん。私たちいつまでここに居ればいいんですか?」宮崎が苛立った声で聞く。
「そうなんです。仕事もありますし…早く戻らないと。」北原も困り顔だ。
「そーねー。選抜の方は忙しいからね~。私はもうちょっとここでのんびりしてても
全然大丈夫なんだけどね。」石田がぶつけようのない怒りを北原にぶつける。
昨夜からの不穏な空気は広がり続けているようだ。

「え~…すみません。操作は長野県警が行っておりますので、私からはなんとも…」
「もぉ、なんかじれったいなぁ。古畑さん、ぱっーっと解決しちゃってくださいよ。」
菊地の声に古畑は笑顔だけを返した。

捜査は思うように進展を見せなかった。新しい材料として、ホテル裏手の崖から
人が滑り落ちたような跡が見つかった事。非常階段からジムへと何者かが移動した
形跡があったのが見つかった事があった。崖の滑落後は仁藤の捜索の大きな手掛かりに
なると思われたが結局日没前の発見に至らず、捜査は翌朝まで中断された。

シーン26

シーン26 2/11 19:07 指原・小森部屋

「指原さん、まだ眠られてますね。」古畑が大家にそっと話かける。
「ええ。ずっと。なんか、このまま起きてこんのじゃって心配になるとです。」
「大家さん、あなたも休んだほうがいい。昨夜も殆ど寝ていらっしゃらないようですね。」
「古畑さん。なんでこんな事になっちゃったんでしょうね…。」
「私には解りません。ところで大家さん。あなたと指原さん…特に親しいように
お見受けしますが…」
「そりゃそうです。ウチら地方組の絆は強いんです。ましてや、ウチと指原は…」
「そうですか…ご心配でしょう。お察しします。え~大家さん、ひとつ指原さんの事で
お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なんでしょう?」
「見た所、指原さんはかなり華奢なように見えますが、実際の所、腕力が強いとか
そういう事は?」
「いや、それは全然ないでしょ。力は…あ、力だけじゃなくて色んな面で弱いですけどね。」
大家は笑った。

シーン27

シーン27   2/11 21:14 ホテル内ジム

「西園寺君。君、ジムとかスポーツクラブとか、そんなトコには行ってる?」
「いえ。私は全然。」
「ダメだよ~。刑事は体力が勝負なんだ。普段から鍛えておかないと~」
「そういう古畑さんはジム通ったりしてるんですか?」
「あたりまえじゃないか。最低でも週3はジムに行ってトレッドミルで走ったり
プールで泳いだりしてるよ。」
「そうなんですか。お見それいたしました。」西園寺が頭を下げる。
「しかし、このジム、本当に本格的だ。このトレッドミルなんて最新型の最高級品だよ。」
古畑がトレッドミルのスタートボタンを押す。ゆっくりローラー部分が動き始める。
「動きが滑らかですね。確かにその辺のルームランナーとは違いますね。」
西園寺が関心して見ていると、古畑が何か所もあるボタンをあちこちいじり始めた。

「ふぅん…そう…か。」
トレッドミルのスイッチを切り、古畑はジムの中を見回す。ダンベルやバットが並んでる
ラックやウエイトマシン。床や壁。細かく目を配らせていった。
次に窓を開く。吹雪が降った時の雪が窓枠に付着しており、窓を開くとどさっと音を
立てて下へ落ちた。古畑は窓枠をじっと見る。
「…」古畑は眉間に指を当てて窓の外を見続けた。

シーン28

シーン28 2/11 22:06 ホテルロビー

指原を除く全員の姿がロビーにあった。
古畑がソファから立ち上がり口を開く。
「え~…夜分遅くに大変申し訳ございません。どうしても気になる事が
あってお集まり頂きました。」
「構いません。古畑さん、事件の解決の為なら私たち、なんでも協力
します。ね、みんな?」北原が立ち上がって古畑にこたえる。
しかし、他のメンバーは携帯をいじったり窓の外をぼんやり見たりして
北原の言葉に反応する者はなかった。北原はため息をついて椅子に座った。
「私からお聞きしたい事ですが...え~…2/9の夜…そうですね、
22時から深夜2時過ぎまでの間、そして翌10日のお昼中…12時から16時の間。
この時間帯に皆さんがどこで何をしていたかの確認をさせて頂きたいのです。」

「あの?アリバイって事ですか?ひょっとして私たち疑われてる?」
菊地が言った。怒っているというよりは何か興味津々といった反応だ。
「いえ。とんでもありません。一応…という事です。」
「それなら今日県警の刑事さんにお話ししましたけど?もう一度同じ事を?」
宮崎はちょっと不満げだ。

「お願いします。え~宮崎さん。あなたから。」古畑は柔らかく微笑んだ。
「私は…9日の夜はその時間、ずっとロビーで古畑さんと一緒にいましたよ。
古畑さんもよく知ってると思いますけど?手相見てもらったりしてたでしょ?
れいにゃん、あーみん、はるきゃん、それから確かあやりんも一緒だったよね。」
「そうそう、ロビーから居なくなったのってトイレに行った時くらいだよ。
1時ころには部屋に戻って寝たし。ね?」
藤江が言う。5人は顔を見合わせて頷いた。
「昨日の昼は…みんないたよ。ロビーに。ゲームやってたじゃん。その時も
古畑さんいたよね。なんでこんな分かってる事聞くのかなぁ?」菊地は
何かを考えながら答える。探偵の助手にでもなったような顔つきだ。

「大家さんと北原さんはいかがでしょうか?」
「私はみんなと同じですよ。9日の夜はしーちゃんと最後までロビーに
残っていましたが、2時前…には部屋に戻りました。」
宮崎と藤江が古畑に頷き、その言葉を肯定した。
「ウチは…北原と別れたあと、ちょっと眠れずにロビーで暫く一人で
ぼんやりしてました。部屋に戻ったのは3時前…だったかなぁ?」
「あ、多分それくらいの時間 だと思います。なんか帰ってきた~って
思って時計見たら確か…私、もう寝てたんで。」
「昨日は…古畑さんも知ってますよね?午後の3時過ぎから萌乃と一緒に
小森を捜しに出て4時半位に戻ってきました。」
「ありがとうございます。確認は出来ました。では…次に…」
古畑が言葉を続けた。
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