スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

プロローグ

古畑任三郎  48人の共犯者

え~みなさん、こんにちは。古畑任三郎です。
強い組織というものが成り立つためには様々な要素が必要になります。
その中でも重要なものの一つは、強い指導力を持ったトップの存在だと私は考えます。
トップの姿勢が揺るがない組織というものは簡単には崩れないものです。
しかし…大きくなりすぎた組織は往々にして小さな綻びから崩れていくものなんです。あたかも、そう砂の城のように。

強くなりすぎたトップの影響力も時として大きくなった組織の中では、反発を呼びそしてそれは破滅への引き金と
なってしまいます。

今回の事件はそんな事を私に教えてくれたような気がします。


スポンサーサイト

シーン1

シーン1 秋葉原AKB48劇場

狭い劇場内には、200名を超える人数の人がいた。
観客席にいるのは、AKBグループのメンバーたち。一部を除き
ほとんどのメンバーが顔を揃えていた。

突然かかったグループ全体への集合通知。メンバーたちは少し
不安を感じながらも、久しぶりの全体集合に和やかなムードでいた。
そんな中、総合プロデューサーの秋元康が拡声器を持ちステージに上がる。

「えー、みなさん、お疲れ様です。今日は重要な話があって集まって頂きました。
正式な発表は1月のセットリストベスト100の会場で行いますが、AKBグループ全
体の解体そして再構築を行う事にしました。」

「え?先生、どういう事ですか?」
真っ先に立ちあがって声を発したのは高橋みなみだった。

「言ったとおりです。AKB、SKE、NMB…グループ内すべての体制を見直します。
移籍もあるでしょう。中にはグループから離れていくメンバーもいるかもしれません。」
秋元は静かに、しかし強い口調で言い放った。
「では、今日話せるのはここまでです。」

劇場内が一瞬で凍りついた。

シーン2

シーン2

秋葉原48劇場 スタッフルーム
「秋元先生。本気ですか?」
戸惑ったような表情でいるのは劇場支配人の戸賀崎だった。
「本気だよ。何かおかしいかね?」
「いえ…あまりにも急な話で。チームシャッフルだけであれだけ
混乱したのに、今度はグループ内全部で…ってなると…」
「予定調和は好きじゃないんだよ」
「SDNのメンバー全員卒業も今回の構想の一環なんでしょうか?」
「そう思ってもらって構わんよ。」
秋元はそれ以上の質問を拒むように静かに目を閉じた。
戸賀崎は諦めてスタッフルームを出た。

シーン3

シーン3 秋葉原AKB48劇場

「ど…ど、ど、どどーなっちゃうんですか。たかみなさん!」
重苦しい空気を引き裂くような指原莉乃の声が劇場内に響いた。
「どうなるって、秋元先生が言った通りだと思う。きっと、
これは私たちがまた大きくなるために必要なステップなんじゃないかな。」
高橋は自らを納得させるように言った。
「でも、これじゃ…」まくしたてようとする指原を制し、篠田真理子が
口を開いた。「とにかく、こんな大人数で言いたい事を言い合っても
収集がつかなくなる。チームごとにわかれてちょっと話し合おう。
そしてキャプテンが集まって意見をまとめる。それでいいね?」
篠田の諭すような視線に、秋元才加、柏木由紀は無言で頷いた。
「私たちはどうすればいいんですか?」
立ち尽くすSKE、NMBのメンバーに「あなた達には私が話をするわ」と
いつの間にかその場にいた浦野一美がほほ笑んだ。

シーン4

シーン4 秋葉原AKB48劇場スタッフルーム

戸賀崎は劇場内で話し合うメンバーを遠巻きに見ていた。
そんな中、誰も口を開かないチームBの輪から柏木を自分のところに呼ぶ。
「どうした?全然話出来てないじゃないか?」
「はぃ。なんて言い出せばいいかわからなくて。それに、ゆったんと
ちゅうとかなちゃんが居なくなっちゃって…」
「そうか。ちょっとみんなに飲物でも取ってきたらどうだ?
給湯室にコーヒーサーバーがある。」
「そうですね。そうします。」
柏木はメンバーに声をかけて、姿を消した。

戸賀崎は、それを見て何かを決意したような表情でスタッフルームに
戻った。相変わらず秋元は目を閉じたままだ。
「先生、何かお飲物でも?」
「ん…?ああ、そうだな。牛乳が飲みたいな。」
「牛乳ですか?わかりました。」
戸賀崎は冷蔵庫から牛乳を取り出し、戸棚からカップを2つ取り出し
そこに牛乳を注いだ。両手には白い手袋をつけている。
一つは真新しいカップ、もう一つには「柏木」と名前が書いてあった。

シーン5

シーン5 秋葉原AKB48劇場スタッフルーム

「先生。どうぞ。」
「お、ありがとう。」
秋元は差し出されたカップの中身を一気に飲み干した。
牛乳の味に違和感を感じたのは一瞬の事だった。
のど元を押さえもがくような表情をしたあと、その体はソファーの
上で動かなくなってしまった。
戸賀崎は遠くのものを見るような表情で秋元の体が動かなくなるのを
確認すると、部屋を出て隣の給湯室へ向かった。コーヒーの匂いが
漂い始めていた。
コーヒーサーバーに向かう柏木の背後から手を回し口をハンカチで覆う。
一瞬で柏木はその場に崩れ落ちた

シーン6

シーン6 秋葉原AKB48劇場ロビー

各チームに分かれての話し合いが続く劇場の外、コインロッカーの列の
間に隠れるように、増田有華、河西智美、小林香菜の3人が集まっている。
増田が声を殺して話す
「なぁ。やばいって。うちらの計画ばれたんちゃうか?」
ひきつった表情の河西も自分の感情を押し殺すかのように小さな声を出す。
「でも、それだけの事で秋元先生あそこまでやる?いくら佐江と才加が
動くって言っててもそれを防ぐためにグループ全体をなんて…」
「うち、誰にもしゃべってないからね。」小林はもう泣きそうだった。
「おぃ。どうした?何してるんだ?」
突然戸賀崎の大きな声がかかり、3人は飛び上がった。

「いや、ちゃいますよ。うちら、ちょっと怖ぅなって…
あんな事言われたら、首になるの誰やろなって不安になりますやん。」
「だったら、こんなところでこそこそ話してないで、先生に直接
聞きに行くくらいの事をするヤツはおらんのか?」
戸賀崎の大きな声を聞きつけて、劇場の中から高橋と秋元が姿を見せた。
島田晴香と篠田、浦野の顔も見える。
「やっぱりなかなか話がまとまらないので、一回代表で先生に話を聞きに行こうって事にしようと思うんです。
戸賀崎さん、どう思います?」
高橋の問いかけに「うむ。俺も一緒に行こう。お前たちがもう一度直接
聞けば先生も真意を話てくれるかもしれん」
「でも、ゆきりんがいないんですよ。まゆゆに聞いてもずっと姿がない って。」
「どうしたんだ。柏木は。仕方ない、とりあえずこのメンバーで行ってみるか。
面々はスタッフルームへと足を向けた。

シーン7

シーン7 スタッフルーム

「先生?秋元先生?おかしいな。いるはずなんだが…
先生、入りますよ。」戸賀崎はスタッフルームのドアを開けた。
すぐに異様な光景が目に入る
「きゃ----ぁああ!」
高橋が大きな叫び声をあげた。
ソファの上でひっくり返るようにして目を見開いて動かない秋元の
横の床には、仰向けで天井を見上げる姿勢で倒れている柏木の姿があった。
浦野と戸賀崎が二人にかけよる。秋元の様子をうかがっていた戸賀崎が
静かに首を横に振った。
「いやあぁあぁぁ----っ」篠田の叫び声は悲痛だった。
その声を聞きつけたメンバーが大挙してスタッフルームに駆けつけてきた。
ただならぬその場の雰囲気にメンバーはすぐに事の重大さに気付いたようだった。
秋元才加が年少のメンバーを遠ざけるように梅田彩佳に指示を出す。
「ゆきりん、生きてる!息があるよ!」浦野が叫んだ。
「救急車!急いで!」
「それから…警察だ。」
戸賀崎が静かに言った。

シーン8

シーン8 事件発生から3時間後 劇場スタッフルーム


7階で封鎖されたエスカレーターを上がって一人の男が姿を見せた。
黒いジャケット黒いパンツ。男はやや背を丸めて手を軽く上げた。
「古畑さん、お疲れ様です。」
「うん、お疲れ。西園寺君。どうやらこれは疑う事なく事件のようだね」
「そのようです。」
「では、説明を。」
「はい。被害者は秋元康、55歳。職業は作詞家。いや、AKB48の…と
いったほうがわかるかもしれません。死因は薬物による中毒死。かなり
強い薬物のようでほぼ即死だったようです。それから秋元氏の隣に
倒れていたのが柏木由紀、20歳。AKB48のメンバーです。今のところ
命には別条ありませんが意識不明が続いております。体内からは
秋元氏が服用したものと同じ毒物が検出されています。」
「毒物は何か判明したの?」
「鑑識によればテトロドトキシンの一種と思われるとの事です。」
「第一発見者は?」
「劇場支配人の戸賀崎氏、メンバー数名です。まとまって部屋を
訪問しようとして発見した模様です。」

「ところであの男は一体何をやっているんだね?」
「あ、今泉さんですね。メンバーに事情聴取をしています。」
「彼に?あの顔はどうみたって事情聴取してるって顔じゃないだろう。
何?にやにやしちゃって。」
「すみません。何しろ事情を聞かなくてはならない関係者が多すぎて…
メンバーはどうしても俺に任せろってうるさいものですから。」

シーン8-2

シーン8-2

「古畑さん古畑さん!」
「何だね。うるさいんだよ。そんなに大きな声を出さなくても聞こえるよ。」
「今回は古畑さんの出る幕はありませんよ。もうこの僕が事件を
解明しちゃいましたから。」
「君が?」
古畑は今泉のおでこを手のひらで弾くようにたたいた。
「いてっ。はい。この僕がですよ。」
「ふぅん。で、西園寺君。まだ事件当時いた人はみんなここに?」
「古畑さん、聞いてくださいよ。いてっ。」
「はい。グループメンバー約200名とスタッフ6名。今日は公演が
無かったようですのでスタッフは少ないですが、秋元氏の召集で
ほとんどのメンバーが集まっていたようです。」
「200人?そんなに?西園寺君。私だってAKBは48人だって事くらい
知ってるよ。」
今泉が古畑に得意げな表情で話しかける。

「古畑さん、何も知らないんですね。AKBグループにはSKE、NMBって
姉妹グループがあってです…いてっ。もういい加減おでこ叩くの
やめてくださいよ。」
「だって、君うるさいんだもん。」
「古畑さん、犯人はゆきりんです。最近、思いつめてる事が多かった
って、まゆゆやらぶたん、それからさっしーから証言を得ています。」
「うん?らぶたん…?さっしー?まゆ…ゆ?」

不可解な表情の古畑に西園寺がメモを取り出し説明する。
「らぶたんと言うのは多田愛佳さん、さっしーは指原莉乃さん、まゆゆ
は渡部麻友さんの事ですね。みなさんAKB48のメンバーです。」
「そのまゆう…がどうしたの?」古畑は発音しにくそうに聞いた。
「事件直前、秋元さんがメンバーに解散を臭わせるような発言を
したそうです。ゆきりんは、アイドル命なんです。AKBにすべてを
ささげているんです。だから、将来を悲観して秋Pに毒を盛って
自分も死のうとしたんです。」
「秋P?西園寺君?」
「はい。秋元氏の事ですね。プロデューサーのPを取ってファンが
そう呼ぶ事があるようです。」
「え~君はずいぶん詳しいようだけど、ファンじゃないの?
ファンとしては 、そんな悲しい事があったら…」
「大丈夫です。僕はあっちゃん推しですから。」
「西園寺君…こいつの言う事を誰かに訳させてくれないかな?」
「はい…でも、実は私も今泉さんと同じような事を考えていました。」

シーン8-3

シーン8-3

「西園寺君?君までそんな事言うの?ん~どうしたんだい?」
「すみません。ただ…」
「まぁいい。第一発見者の方々には集まってもらってるね?」
「はい。スタッフルームの方に。」

古畑と西園寺はスタッフルームのドアを開けた。
一斉にいくつかの視線が二人に注がれた。

「どうも。警視庁の古畑と申します。こちらは…」
「西園寺です。」
「はい。西園寺君です。みなさんよろしくお願いします。」

最初に大柄な男が頭を下げた。
「戸賀崎です。劇場支配人をやっております。」
「え~…支配人と言いますと…?」
「秋元先生とメンバーのパイプ役というか、お守り役というか…
あと広報みたいな事もやったり。平たく言うと中間管理職のようなものです」
「いえいえ、亡くなった秋元さんの最大の理解者であり、片腕のような存在と
聞いております。このたびは…お察しいたします~

シーン8-4

シーン8-4

「あとの方は…」
西園寺がメモを取り出して説明する。
「最初に現場に駆け付けた…こちらから、秋元才加さん、高橋みなみさん、島田晴香さん。
それぞれチームK、A、チーム4のキャプテンです。」
「秋元です。」「高橋です。」「島田です。私はキャプテン代行ですけど。」
それぞれ、頭を深く下げた。
「それから、篠田麻里子さん、浦野一美さん。チームの最年長の方と…」
「浦野です。元AKBのメンバーでチームBのたち上げメンバーでした。今はSDN48の
メンバーです。もうすぐ卒業しちゃいますけど。」
「みなさん、こんな遅い時間まで申し訳ございません。みなさん、さぞかしお気持ちを
落とされてる事でしょう。今日はお帰り頂いて結構です。事件当時のみなさんの状況は
すでに詳しくお聞きしておりますので。」

「え?古畑さん?いいんですか?」
西園寺が驚いたような目を向ける。
「構わないよ。ただ、戸賀崎さん。あなたとはもうちょっとお話したいのですが。」
「結構です。外にいる他のメンバーも帰して構いませんでしょうか?明日、朝早くから
撮影の者もおりますので。」
「はい~。ただ、明日以降何人かの方にはお話を伺う事になるかもしれません。」
「解りました。高橋、後は頼むぞ。全員に必ず連絡がすぐつく状態にしておくよう、
それから今日の事はくれぐれも口外しないよう徹底してくれ。」
「はい。解りました。」
高橋は強くうなずき、他のメンバーと部屋を後にした。
「いいんですか?戸賀崎さん、あなたからみなさんに説明しなくても?」
古畑の問いに「ええ。私から言うより高橋からのほうが全メンバーに徹底出来ますから。」
「なるほど~。全幅の信頼という事ですね。素晴らしいです。」
「亡くなった秋元先生も高橋の事は信頼していましたしね。」

シーン8-5

シーン8-5

ところで古畑さん、やはり先生と柏木は心中を図ったのでしょうか?私にはとても
信じられません。まさか、柏木が…」
「おや…?戸賀崎さん、どこでそんな話を?」
「さっき話を聞かれた刑事さんがおっしゃってました。その線が濃い…と。」
「うふふふ。戸賀崎さん、彼の話は信用しないでください。私は必ずしもそうではないと
思っています。まだこの事件には裏があるように思えてならないんです。」
「ところで、戸賀崎さん、秋元さんとは長いお付き合いで?」「ええ。AKBがスタートして
もう5年以上経ちましたしね。色んな事を一緒に乗り越えてきました。」
「最近何か変わったような事はありませんでしたか?」
「最 近というか、いつも何を考えておられるか解らないところがあって。いつも突然の
サプライズに驚かれています。今回も…」
「なんでも、グループを解体するような事をおっしゃったと?」
「ええ。幹部も何も聞かされていませんでした。現状維持を良しとしない方でしたが、
まさか今このタイミングでここまで大胆な改革を考えていたなんて…」
「あ~メンバーの皆さんは驚かれていましたか?」
「それはもう。以前チーム間のシャッフルを行った時にはショックで倒れる者もおりました。
それなのに、今回は規模が違います。」
「今回の件で、得をする人損をする人…いえ、もっとはっきり言いましょう。この事で
秋元さんをお怨みになる 方もいらっしゃるのではないでしょうか?」
「古畑さん…何をおっしゃりたいんです?」
「うふふふ。すみません~。」
古畑は笑いながら下から戸賀崎の顔を覗き込む。

シーン8-6

シーン8-6

その時、今泉がよろめくように駈け込んできた。
「古畑さん!頼まれたもの、全部持ってきましたよ。全部僕の私物ですからね。
くれぐれも…痛っ!何するんですか。急いで持ってきたのに。」
「うふふふふ。いや、ありがとう今泉君。しかし、すごい量だね。」
「えっと、こっちがDVD。これが出たばかりの見逃した君たちへのBOX。こっちがAX。
2008年から2010年まで揃ってます。それからサプあり、秋祭り、薬師寺…」
「おっしゃって頂ければ、全部用意しましたのに。ショップにも在庫ありますし。」
「いえ~それは申し訳ありません。あ、そのジャケット、戸賀崎さんにお返しして。」
「鑑識から帰してもらいました。ご協力ありがとうございます。」
「ところで、この事はやはり公開されるのでしょうか?私どもとしては…」
「はい…やはり事件性がある以上は情報は公開されるでしょうね。被害者の方が
著名人となればなおさらです。こればかりは私の方ではなんとも…」
「そうですか。私もそろそろ失礼して宜しいでしょうか?これから明日以降の対応に
ついて幹部スタッフで協議しなくては。」
「はい。お手を煩わせてしまいまして申し訳ございません。」
「では、失礼します。」

「あ、戸賀崎さん。」
部屋を出ようとした古畑が振り返り言葉を発した。
「この事件、実はとても奥の深いもののように思えてなりません。なぜかそう思います。
でも…うふふふふ。必ず私があぶり出してみせます。必ずです。うふふふ。」
「今泉、重いんだよ。はい、これ持って。」
部屋を出て行く古畑を見送る戸賀崎の顔から笑いが消えた…

シーン9

シーン9 事件翌日A.M.7:30 銀杏並木が見えるオープンカフェ

テラスの椅子に腰かける古畑。
耳にはイヤホンが、目線はテーブルの上に置かれたポータブルの
DVDプレーヤーに落とされている。
西園寺が一人の女性を連れて現れる。

「古畑さん、前田さんがお越しになりました。」
「おはようございます。前田敦子です。場所を指定させて頂いて
すみませんでした。」
やや気だるそうな表情で前田が挨拶した。
「おはようございます。私、警視庁の古畑と申します。こちらこそ
こんな朝早くから大変申し訳ございません~…」
「あの…あまり時間がないので朝食をとりながらでもいいですか?
私、朝ごはんを食べないと調子が出なくって…。
「はい~。構いません。どうぞ召し上がってください。」
前田は手慣れた様子で店員に「いつものお願いします…」と声をかけた。

「あれ…それ…」
前田の目線がDVDプレーヤーに落とされた。
「あぁ。はい。これうちの今泉という部下に借りて見ていました。ミュージック
ビデオを集めたものみたいですね。言い訳Maybe、素晴らしい曲です~」
「私が初めての総選挙で1位になってセンターになった曲です。」
「そう聞いています~。確かにあなたの為に作られた曲のようです。
途中の好きだ~ってところがいいです~。」
「うれしい。刑事さん、目の付けどころがいいですね。」
前田の表情が明るくなった。

シーン9-2

シーン9-2

「あれ…それ…」
前田の目線がDVDプレーヤーに落とされた。
「あぁ。はい。これうちの今泉という部下に借りて見ていました。ミュージック
ビデオを集めたものみたいですね。言い訳Maybe、素晴らしい曲です~」
「私が初めての総選挙で1位になってセンターになった曲です。」
「そう聞いています~。確かにあなたの為に作られた曲のようです。
途中の好きだ~ってところがいいです~。」
「うれしい。刑事さん、目の付けどころがいいですね。」
前田の表情が明るくなった。


「さて、このたびはとても残念な事になってしまいました。」
「はい…昨日の夜遅く。たかみなから連絡をもらって知りました。」
「前田さん、昨日は現場にいらっしゃいませんでしたね。どちらへ?」
「ええ。ソロイベントのリハーサルがあって参加できませんでした。
集合がかかったのが直前だったので、どうしても変更出来なくて…
あの…刑事さん。本当にゆきりんが…?」
「いえ、まだ何もわかっていません。そんな噂もたっているようですが。
実は、私、今回の事件、ものすご~く奥が深いもののように感じています。
殺人事件というものは、多くは被害者と加害者の間に何らかの利害の
不一致があるものです。」
「利害の不一致…?ですか?」前田は眉間に皺を寄せる。
「わかりやすく言うと、被害者が居なくなると誰か利益を得る人が必ずいる
…という事でしょうか。私は実は柏木さんも被害者として考えてみました。」

シーン9-3

シーン9-3

店員がテーブルいっぱいにサラダや卵料理を並べ始めた。和食の皿もある。
「え~すみません。私どもは食事は…」
「あ。ごめんなさい。これ全部私が食べます。」
「こんなに?ですか。」
「ええ。朝はしっかり食べないと調子でなくって。それで、ゆきりんがいなく
なって得をする人って…?」
「得をするというか、柏木さんの存在を脅威に思ってると申しますか…」
「?」
「前田さん、あなたは先日の総選挙で1位になられたそうで。
おめでとうございます。その選挙で柏木さんは前回から大幅に躍進して
3位になった。前田さんに肉薄してきた事になりますね。」
「ええ、最近ゆきりんの人気って実際すごいと思いますよ。
「しかし選挙の票差はまだまだ大きい。あなたのセ ンターの座は暫く揺るぐ
事のないもの…誰もがそう思っていたと思います。ところが…
次のシングル…もうすぐ発売になる…」
「風は吹いている」


「そうそう。その風は吹いているのシングル。個別握手会というのがあるん
ですよね。メンバーを指定して握手出来るという…その一次抽選申込で
柏木さんの枠はすべて完売になってしまった。1位のあなたでさえ、若干の
売れ残りがあったというのにです。」
「ゆきりんの握手ってすごいですからね。神対応って言われるみたいですよ」

「もう一つあります。先日まで放送されていたあなたが主演したドラマ。」
「ゆきりんも共演してましたよ。」
「そう。全10話中、放送中の瞬間最高視聴率が高かったのは9回も柏木さんが
登場されているシーンでした。主役のあなたを差し置いて…です。」
「つまり古畑さんは、私がゆきりんの事を脅威に感じてる…と?]
[うふふふふ。ただのデータです。」
古畑は子供のような笑顔を前田に向ける。


「でも、それ、ちょっと間違ってますよ。私、センターにふさわしいのは
私じゃなくてゆきりんだっていつも思ってますから。それに、センターで
いるって私が望んでる事じゃないし…。あ、こんな事言うから、自覚がない
とかやる気ないとかファンに言われちゃうんだろうなぁ。」
「ご苦労が多いんでしょうね。お察しします。」
「でも、古畑さんが私の事を疑っているってことはわかりました。なぜ?」
「うふふふ。刑事のカンってヤツでしょうか。」
「カン…ですか?」
「ええ、私の最も嫌いな言葉です。うふふふ。」
「でも、素敵ですよ。あ、そろそろ時間なので…」
「ありがとうございます。西園寺君、お送りして。」
「大丈夫です。あ、今度ライブのDVDも見てくだ さいね。言い訳Maybeが1位に
なった時のなんか私頑張ってますから。」
「かしこまりました。」
古畑は腰をかがめて前田の後ろ姿に一礼した。

シーン10

シーン10 事件翌日A.M.11:00 都内某スタジオ


スタジオの隅、丸くなって小声で話す4人。
「こんな事になってまうなんて…グループ解体の話が出たのはヤバいと
思うたけど、もっと困ったことになってもうた…」増田の声は今にも
消え入りそうだった。
「でも、まさか、ゆきりんが…」宮澤にもいつもの元気がない。
「やっぱり私たちがあんな計画を考えたから、そこから何かが…」
梅田が表情を曇らせた。目には涙があふれている。
「もうすぐ古畑って刑事が来るんでしょ?私たちに何を聞きたいんだろう…?」
秋元才加が視線をスタジオの入り口に向けた時、男が二人ドアを開けて入ってきた。
古畑の手にはポータブルのDVDプレーヤーが。
視線はそのモニターに向いたままだった。
古畑は耳からイヤフォンをはずしながら4人に声をかける。

「お忙しいところを失礼します。警視庁の古畑と申します~」
「秋元才加です。こちらは、メンバーの宮澤、増田、梅田。」
4人は一斉に立ち上がって深々とお辞儀をした。
「いや~、ここに来るまでライブのDVDを見ておりました。見逃した君たち…
というのですか。会場の熱気がすごいですねぇ。転がる石になれという曲。
素晴らしい名曲です。あと、最終ベルが鳴るですか。歌詞が素晴らしいです~」
「あ、その曲、どちらも旧チームKの曲です。ここにいる4名とも旧Kのメンバーなんですよ。」
「そうでしたか。今旧?とおっしゃいましたね。今は別々のチームなんでしょうか?」
「ええ。うちだけチームBに移籍したんです。」増田が答えた。
「チームBというと、確か柏木さんがキャプテンをされている?」

「ええ。ゆきりんがあんな事を…」宮澤の目から涙が零れ落ちた。
「意外です~。チームBというのはアイドル路線が強いほんわかしたチームと聞いています。
増田さんはどちらかというとアーティスト志向が強い方と
お見受けします~」
「刑事さん…」
「古畑と呼んでください。」
「古畑さん、よく調べてるんですね。この4人で組んでいるDiVAってユニットは
そういう志向なんですよ。」梅田の口調がやや強くなった。
「ところで、事件の時秋元さんは現場を見られてますよね。」
「はい。戸賀崎さんやたかみなと一緒に秋元先生のところへ行こうとして…」
「その直前にグループ解体の話があった…増田さん、あなたはどう思われましたか?」
「うちですか?ただびっくりしてもうて…」
「ご自分の志向と異なるチームから離れたいと思われた事は?」
「いや、志向も何も、うちBの事嫌いやないし。いやむしろ好っきやと…」
「有華の事を何か疑ってるんですか?」秋元が古畑を睨む。
「いえ~。ご気分を害されませんよう…私は単に可能性の問題を言ってるだけですので。」
「可能性?」
「ええ。増田さん、あなたは事件直前、チームごとに分かれて話合いをする
という時にご自分のチームの輪 に入らず、違う場所にいらっしゃいましたね。
小林さん、河西さんも一緒だった。皆さん、旧チームKの方々ばかりです。
あ~すみません。ここに来るまで皆さんのライブをDVDで見ながらふと、
そういえば…と思っただけの事ですのでお気になさらないよう…」
「すいません~そろそろレッスン再開します~」
「おや、これは失礼しました。ところで、支えという曲、あれも素晴らしいです。
皆さんがどれだけ仲間を大事に思っているか、そしていつまでも一緒にいたい…
という気持ちが痛いほど伝わって参ります。」
4人は何かを見透かされたような気がして、顔を見合わせた。

シーン11

シーン11 事件の翌日P.M.1:00 秋葉原AKB48劇場


観覧席の椅子に腰かけステージをぼんやり見つめる戸賀崎。
古畑が現れ、隣に腰かける。手にはDVDプレーヤーを持ったままだ。
「タキシードお似合いですね。」
「え?ああ、その映像は新チームの発表の時のものですね。
ふぅ。あまり見たくない映像です。」
「そういうものですか?私などドッキリなら仕掛けられるより仕掛ける側で
いたいと思ってしまいます~」
「私は逆ですね。騙されたほうが楽な事って多いじゃないですか。」
「今まで前田さんと、DiVAの皆さんにお話しを伺っておりました。」
「前田?敦子ですか?彼女は昨日ここにいなかったじゃないですか?」
「はい。そうですね。」
「なぜでしょう?」
「いや、昨日も言ったように、私はこの事件相当深く色んな糸が絡み合ってる
ように思えて仕方がないのです。そう、誰かが後ろで絵を描いている…
と言ったほうがいいかもしれません。」
「絵を描く?そんなまさか。」
「ですから、昨日あの場にいなかったからと言って、私の中では捜査の
範囲から外すという事はあり得ません。物事は可能性の一部を捨てる事で
本質から遠ざかっていくという名言もあります。」
「誰の言葉ですか?」
「うふふふふ。忘れてしまいました~」
その時、西園寺の携帯電話が鳴った。
「はい。はい…え?本当ですか?古畑さん、柏木さんが意識を取り戻したそうです。」
「話は出来るのかな?」
「はい…大丈夫なようです。」
「では、すぐに向かう事にしよう。」
「私も行きます。」
古畑と戸賀崎は慌ただしく劇場を後にした。

シーン12

シーン12 事件翌日P.M.1:35 タクシー内


タクシーの後部座席に並んで座る古畑と戸賀崎。
西園寺は助手席にいる。
「古畑さん、今度は何を見てるんですか?」
「え~、見逃した君たちのDVDです。柏木さん、綺麗な歌声です~」
「あぁ、夜風の仕業ですね。AKBの中でもソロの公演曲を歌うメンバーは
限られているんですよ。

「しかし、歌詞が実に繊細です。空き缶の一つ蹴りたくもなる…なんて
とても女性の心情を上手く表現しています。失礼ですが、私と年の近い
秋元さんが作詞されたとは到底思えません。一方で、この曲です…」
古畑は持っていたオーディオプレーヤーのイヤフォンを外し曲を流した。
「おに~ちゃんコレクション~おに~ちゃんコレクション~」
「ぷっ。」助手席の西園寺が思わず噴き出した。
「西園寺君、失礼だよ。君。この曲はアルバムに入ってるものだ。戸賀崎さん、失礼しました。
でも~私も最初聞いたとき思わず笑えてしまいました。さらに…」

古畑がプレーヤーのボタンを操作する。
「何も出来ないすぐに出来ないだから僕らに可能性があるんだ…」
「こんな素晴らしいメッセージソングもあります。失礼を重ねて申し上げますが
とても同じ人が書いた曲とは思えません。」
「それが、秋元康という人の奥深さだと思います。」
タクシーが総合病院のエントランスに滑り込んだ。
「では、参りましょう。」

シーン13

シーン13 事件翌日 P.M.2:05 病室

古畑たちが病室に入ると、そこには上半身を起こしたベッドの上の柏木由紀の
姿があった。ベッド脇には今泉が。
「今泉、また何をやってるんだね。君は。」
「ひどいなぁ古畑さん。ゆきりんについてろって言ったじゃないですかぁ。
意識が戻ったからすぐに連絡したのに。」
「そうだったっけ?まぁ、いい。君は外に出ていなさい。」
「え~なんでですか?僕だってゆきり…痛っ。だから…」
「柏木大丈夫か?」戸賀崎が駆け寄り話しかける。
「はい…。ご迷惑をおかけしてすみませんでした。」柏木の声は細々しかった。
「実は…秋元先生が…」
「はい。さっき、そちらの刑事さんにお聞きしました。」
「今泉!また余計な事を…あ~柏木さん、大変失礼しました。私は警視庁の
古畑と申します。こちらは西園寺君。」
「はい。」
「実は、大変心苦しいのですがいくつかお聞きしたい事があります。」
「わたしがやりました。」
「え~、実はあなたの体内から亡くなった秋元さんとおな…え?今なんと?」
「はい。ですから、私が秋元先生を殺しました。」
「…」黙り込む古畑。
「柏木…お前…」戸賀崎の声も震えている。
「戸賀崎さん、ごめんなさい。全部私が 自分で考えて、一人でやった事です。」
柏木は静かに目を閉じた。
「古畑さん…これは自供と考えてもいいのではないでしょうか。鑑識の結果は
出てませんが、現場状況から考えると…」
「…」
古畑は指先を眉間に当て黙り込んだ。

シーン13-2

シーン13-2

「古畑さん、古畑さん」
「…」
西園寺の呼びかけにも答えない古畑。
仕方なく西園寺が柏木に話かける。
「柏木さん、あなたが秋元康さんを殺害したというのは本当でしょうか?」
「はい、間違いありません。」
「一体なぜです?」

「実は、グループ解体の事は秋元先生から聞かされていました。発表の
1週間前です。この事を話すのは私だけだとおっしゃっていました。」
「先生が?なぜ柏木だけに?」戸賀崎が聞く。
「わかりません…ただ、次にAKBを引っ張っていくのはお前だからって。もう
頼れる者はいなくなるから気持ちを入れ替えろって…」
「それでなぜ秋元さんを殺そうと…?」西園寺の口調が徐々に熱を帯びてくる。
「私…もう嫌なんです。みんなが悲しむのも 、自分が苦しむのも。私、今の
新しいチームになってずっと苦しかったんです。キャプテンなんて向いてないし…
前みたいに楽しく歌って踊っていたかった。私は単なるアイドルでいたかったんです。
それに、みんなの悲しい顔はもう見たくなかった。知ってます?まゆゆなんて、
ショックで倒れちゃったんですよ?大好きなAKBがまた動揺するなんて見たくなかったんです。だから…」

「秋元さんを殺して自分も死のうと思った。」
「はい。」
「秋元さんのカップと自分のカップに毒を…」
「西園寺君~」
「は、はい?」
「今日はそこまでにしよう。まだ意識が戻られたばかりだ。無理をさせちゃ
いけない。」
「いえ…しかし…」
「それでは私たちはこれで失礼します。柏木さん、また参ります。」
不満そうな西園寺の手をひっぱり古畑は病室を後にした。

シーン14

シーン14 事件翌日 P.M.4:40 某ラジオ局


ミキシングルームからDJブースの覗き込む西園寺。
古畑の視線は、またDVDプレーヤーのモニターに注がれている。
「それではCinDyのCinDy Syndrome、またお会いしましょう。
お相手はCinDyこと、浦野一美でした。じゃ~ね~バイバイ。」
収録を終えた浦野が二人の前に立つ。

「お待たせしました。」
「いや~ラジオの収録というのはなかなか面白いものですね。私、初めて
見させて頂きました~。あ、ご挨拶が遅れました。警視庁の…」
「古畑さんと西園寺さんですね。昨日お目にかかってますよ。」
「そうでした。昨日現場にいらっしゃったんですよね。失礼いたしました~」
「ところで、初日という曲は、本当に感動します~。投票で1位になった時の
皆さんの姿にも思わず目頭が熱くなってしまいました。」
「お詳しいんですね。」
「はい~。お待ちしてる間DVDを見ておりましたので。浦野さんの円陣での
あの呼びかけ、涙なしでは見れません。うふふふ。」
「あの曲は私たちにとって、特別なんです。あのときは、あのメンバーで
あの曲を歌う最後のステージだったんで…」
「そうでした。チームは組みかえられたんですね。旧Kの方もそれを残念がって
おられました。」
「旧チームはKは2期生、Bは3期生っていう風に同期中心の構成でしたからね。
思い入れが強かったんでしょう。」
「あなたは、早い時期の加入にも関わらず途中でBに加わったと 聞きました。」
「はい。最初は左遷とか冗談で言ってたんですけどね。今ではチームBの
立ち上げに関わった事が私の誇りなんです。」

「そして、グループ内のSDNへと移籍された。そのSDNも来年3月で…」
「はい。全員が卒業する事になっています。」
「その先はどうされるんですか?」
「まだわかりません。出来れば、こうしてラジオのお仕事を続けていければ…」
「もう一度AKBに戻るという事は考えていませんか?」
「え?それはないですよ。私秋元さんには評価されてなかったですから。
SDNでも選抜から漏れたくらいですからね。」
「という事は、秋元さんが亡くなった事はあなたにとって、都合の悪い事ではない…」
「古畑さん、何がおっしゃりたいんですか?」
「うふふふ 。失礼しました。ただの憶測です~」
「確かに、そうかもしれませんね。私には秋元先生を殺す十分な動機がある…
しかも、一人だけ呼ばれていないにも関わらずあの場にいた…怪しいですね」
「確かに怪しいです。そして、あなたは実はすごく鋭いお方だ。」
「あら?褒めてもらってます?」
「ええ。もちろん。そして、あなたはかなりの野心家です。どうですか?」
「何か怖いくらい。」
「浦野さん、次の収録に向かいますよ。」
マネージャーから声がかかった。
「お忙しいんですね。」
「ええ、まだ仕事があるうちは頑張らないと。失礼します。」
「あ、浦野さん…」
「はい?」
「私にはどうやら、あなたのつけているティアラが見えるようです。」
「あら。古畑さんは心が綺麗な方なんですね。」
浦野は笑ってスタジオを後にした。

シーン15

シーン15 事件翌日 P.M.6:15 喫茶店


相変わらずDVDのモニターから視線を外さない古畑。
西園寺が入ってくる。
「古畑さん、鑑識から報告が来ました。しかし…」
息を切らせ興奮した口調だ。
「うん…うん…やはり…」
「しかし、古畑さん。その報告だと…」
「いや、私の思っていた通りだ。」
「では、さっそく」
「いや、ちょっと待ちなさい。今回の事件、こんな表に現れた事象だけでは
本当の姿にたどりつく事は出来ないよ。」
「古畑さんには、一体何が見えているのでしょうか?」
「うふふふふ。まだ、わからない事だらけだよ。」
古畑はコーヒーカップを口元に運んだ。
「あれ?これコーヒーにミルク入ってるじゃない。私はコーヒーは
ブラックじゃないと飲まないんだよ。
嫌いなものは頼まれても飲まない…そうじゃない?西園寺君?」
「ええ。それはそうですが…」
西園寺は意味がわからないような顔で頷いた。

シーン15-2 

シーン15-2 


「今泉、さっきからえらく静かじゃないか。ノートパソコンとにらめっこして。
始末書でも書いているのか?」
「古畑さん、失礼ですね。捜査資料を集めているんですよ。」
「捜査資料?なんだこれは。怪しいインターネットの掲示板じゃないか。」
「馬鹿に出来ないんですよ。ここで貼られた過去のプリクラの写真のせいで
解雇されたメンバーもいるんですから。」
今泉は得意げな表情になった。
「単なるゴシップ…今泉君…ちょっと君に頼みたい事があるんだが。」
「なんですか?古畑さんが僕に頼みごとなんて、ぐふっ。」
「気持ち悪い笑い方するんじゃないよ。ぱしっ。いいかね?」
古畑は今泉に耳打ちをした。

シーン16

シーン16 事件翌日 P.M.8:15 AKB48劇場

「またこちらでしたか。」
「ええ。ようやくプレスへの対応がひと段落しましたので一息つこうと…
なぜでしょう。ここが一番落ち着くんですよね。」
「しかし、戸賀崎さん、あなたのブログの文章はいささか読みづらいです~。
あ~いや、大変失礼な言い方で申し訳ございません。」
「いや、いいんです。僕は本当に文才がなくて…いつもファンの方に言われる
んですよ。秋元先生にもよく怒られていました。」
「ところで、柏木の事ですが…やはり逮捕されてしまうのでしょうか?
今のところ、先生と柏木が被害者という事でマスコミは報道していますが…」
「え~残念ながら。」
「そうですか…。柏木はもうこの世界では生きていけないでしょうね。」
「アイドルにスキャンダルはあってはならない事かと思います。しかも、
問題が大きすぎます~でも…」
「でも?」
「戸賀崎さん、私の悪い癖でして。こう綺麗に終わるように見える事件を
何か疑ってかかってしますんです。そして、その癖は時々実に意外な
事実を見つけてしまう事があるんです。」
「まだ、何かある…と?」
「ええ。思っています。また参ります。」
古畑は立ち上がった。

シーン17

シーン17 事件翌日P.M.8:50 某テレビ局楽屋

Notyetと書かれた楽屋の中、古畑が椅子に腰かけている。
目線はテーブルの上のDVDプレーヤーだ。
そこに賑やかに女性3人が入ってくる。
「あれ~誰かいる?」
「お邪魔いたします。警視庁の古畑と申します。こちらは西園寺君。」
「け、けけ、けけけ刑事さん?わ、わわ…私たちに何かご用でしょ…」
「さっしー落ち着いて。古畑さんこんばんは。私は北原と申します。
こちらは指原。そしてこちらが横山です。」
「こんばんは。みなさん。指原さん、驚かせてすみません。私、そんなに
怖くないので安心してください。今、皆さんのDVDを見ていました。
波乗りかき氷ですか~スゴイ発想のタイトルです。」
古畑の意外な切りだしに指原の緊張も解けたようだ。
「いえいえいえいえいえ。指原、なんでもお手伝いさせてください。こう
見えても秋元先生には放送作家に向いてるって言われてましたから。
事件の推理とかも得意かもしれません!」


「はい~ありがとうございます。しかし、残念ながら今日お話を聞きたいのは…」
「私ですよね?」
髪をかき上げながら大島優子が部屋に入ってきた。
「え? でも、優子さん、昨日あそこにはおられんかったやないですかぁ?」
横山が首をかしげる。
「才加から聞いてます。相当に鋭い刑事さんだって。そろそろ私のところに
来るんじゃないかなって思ってましたよ。ちょっと外に出ましょうか?」
「これは、なかなか好戦的ですね。お供いたします。」


テレビ局屋上。強い風に古畑と大島の髪がなびく。
レインボーブリッジの夜景が瞬く時間だ。
「あ----気持ちいい~今日はずっと中にこもりっきりだったからなぁ」
「ドラマの撮影ですか?」
「そう。昨日もそれで劇場行けなかったんですよね~。そしたら、あんな
事がおこっちゃって。で、柏木ちゃんは犯人じゃないんでしょ?」
「おや?どうして?みなさん、柏木さんがやったと思われてるみたいですが」
「う~ん。わからないけど、何となくかな?」
「うふふふ。あなたは面白い人だ。」
「よく言われますよ。」
「ところで、才加さんから私の事を?」
「ええ。連絡ありましたよ。私たちの計画がばれてるかもって。」
「計画というのは…?」
「チームKの独立ですよ。」
大島のあっけらかんとした答えに、古畑は思わず苦笑する。
「ほう、それは穏やかな話ではなさそうですね。しかし、意外です。
そんな風にあっさり秘密を打ち明けてくれるなんて。他の皆さんは
隠したいような素振りに見えました。」

「そうね。何しろ、秋元先生に反旗を翻すようなものですからね。
でも、そろそろ何か事を起こさないと…焦ってるメンバーも多いし。」
「独立に参加されるのは…やはり旧Kメンバーの方なんでしょうか?」
「すげー。古畑さん。旧Kなんて言葉が出てくるのって相当コアなファンじゃ
ないと。びっくりしたなぁ。」
「この計画、もちろんあなたも?」
「私は正直、どちらでもいいんです。でも、やっぱり仲間は裏切れないなって。
それに、今のままじゃどっちに してもいずれダメになるんじゃないかって。
そんな危機感のほうが強かったかな。でも、秋元先生、気づいちゃったのかなぁ?」

「秋元さんはあなた方の独立を反対されると?」
「う~ん…実は、私はあの解体宣言って、私たちと狙いは同じじゃなかったの
かなって思ってるんですよ。形は違うかもしれないけど。
なんか、動きを察知されて潰しにかかられたって思ってるメンバーいますけど。」
「なるほど。面白い推理です。」
「で、そうなると拙いって思った人が秋元先生を殺した…そして、柏木ちゃんを
罪を着せた。ねぇ、古畑さん。私今ドラマやってるから、思考回路がそんな風に
なっちゃってるのかなぁ?」
「いえ、実に参考になりました。ところで、チームKの独立計画を考えたのは、
あなたではないようですね。むしろあなたは…」

「さっすがだなぁ。やっぱり才加がコワイって言ってたのが解る気がする。」
「おほめの言葉と受け取っておきます。うふふふ。」

「でも、柏木ちゃんは絶対に犯人と違うと思う。彼女がいなくちゃAKBじゃない。」
「前田さんも同じような事をおっしゃってました。」
「じゃ、そろそろ私撮影に戻ります。あ----今日は朝までコースかなぁ」
「お身体には気をつけて…」
「ありがと。じゃ失礼します~」
大島は笑顔で去っていった。

シーン18 

シーン18 事件2日後 A.M.7:40 AKB48劇場スタッフルーム

「西園寺君。ここにはまだ誰も入れてないね?」
「はい。昨日まで立ち入り禁止にしてありましたので。今日からは劇場公演も
再開するとの事ですので開放しますが…」
「良かった。どうしてもひとつ確認しておきたかった事があってね。」
古畑は部屋をくまなく見て回り始めた。と、間もなく部屋を出て給湯室へ向かった。
給湯室の中を一通り見て回った古畑は、再びスタッフルームへ戻る。
泳ぐように動いていた視線が、冷蔵庫に止まる。中を開ける。
「え~、この中もその時のまま?」眉間に指を当て古畑がたずねる。
「ええ。そのままにしてあります。」
「なるほど。」
次に古畑は冷蔵庫の隣にあった食器棚へと視線を移す。
「なるほど…集団生活のルール…という事か。」古畑は、誰にという訳でなくつぶやく。
「西園寺君。病院に連絡してもらえるかな?」
「柏木さんですか?」
「いや。今泉に。さっきメールで送ってきたものを持ってくるようにと。
うふふふ。西園寺君。あの男にも取り得というものがあったようだ。」
古畑は嬉しそうに笑った。

西園寺は携帯を取りだした。

シーン19

シーン19

暗転。スポットライトが古畑に当る。

え~みなさん。今回の事件、実は早い段階で犯人が判明しておりました。
そう、戸賀崎さんです。彼はいくつか決定的な証拠を残していました。
致命的と言っていいかもしれません。しかし、私はこの事件は彼を逮捕するだけでは
本当の解決に繋がらないと思ったのです。
この事件は、私が謎を解かなくとも一通りの解決を見る事が出来たでしょう。
これから、真相が関係者の口によって語られる事になります。
事件の謎を私が解明していくという期待を持たれたファンの方には誠に申し訳ありません。

古畑任三郎でした。

シーン20

シーン20 事件2日後 P.M.6:00 AKB48劇場


劇場内は異様な熱気に包まれていた。
特に追悼という言葉は使われていなかったが、特別公演である事、AKB48
正規メンバー全員が出演する事がアナウンスされていた。
むせ返るような空気の中、3列目中央の招待席には古畑、西園寺、そして
今泉の姿があった。
冒頭1分間の黙とうが捧げられた以外は、誰からか特別なMCが入るわけではなく
一見公演は淡々と進行しているように見えた。
しかし、いつもと違うのは次々と各チームの公演代表曲が披露されていく事
だった。メンバーの声を震わせ涙を流しながらのステージが観客のボルテージを
一層高めていく。
「タイガー!!ファイヤー!!サイバー!!ファイバー!!ダイバー!!
バイバー!! ジャージャー!!」
「何だね…今泉。騒々しいよ。まったく。」
「古畑さん、何言ってるんですか。Mixじゃないですか、Mix。あれ?
サイリウムも持ってないんですか?今日は特別公演なんだから持ってなきゃ。
ほら、僕のを1本あげますよ。」
「まったく、付き合いきれないよ…ねぇ。西園寺く…」
「いや~古畑さん。まゆゆ可愛いですねぇ。」
「さぁ~いおんじ君…」古畑は首を横に振り、そして眉間に指を当てた。
「悲しい事件がおきました。正直まだ、私たちも何が起こったのか気持ちの
整理をつける事ができません。でも、秋元先生はきっとこう言うと思います。
前に進みなさい…と。だから、私たちはこれからもここで夢を追いかけ続けて
行こうと思います。それでは最後の曲です。聴いてください…」
高橋がまるで何かを睨みつけるかのような強い視線で語りかけた。
ラストソングは涙で途絶えながらも、それでも観客の心を強く揺さぶった。
誰もが涙を流していた。
そんな中、一人古畑の目は暗い輝きを増していた。
Page top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。