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はじめに

はじめに…

新作「エンジェルの逆襲」は、恐らく誰もが「あ〜 ^_^」って思いついちゃうパロディ小説です。
まあ、もともとワタシの作品は古畑パロディから始まってますので良しとしてやってくださいね。

ちなみに、私はこのシリーズの原作本は読んでいません。TVでしか見てませんし、10月9日現在、続編となるであろう「ロスジェネの逆襲」も読んでおりません。
ですので、いつものように諸々とツッコミどころ満載になってしまう事はご容赦いただきたく…


それでは、よろしけばおつきあい下さいませ( ´ ▽ ` )ノ
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1

「おう半沢。元気か?」
自席の荷物を片っ端から段ボールに突っ込む作業をしていた半沢直樹の肩越しに声をかけてきたのは渡真利忍だ。
「元気に見えるか?」
半沢はその声の方を見ずに答えた。
「…だよな…納得出来ないよな…俺も、わか…」
渡真利は参ったな…といった風に口を軽くとんがらせる表情をした。

「おい、渡真利。まさか、俺が失意のどん底に落ちてるって思ってないか?」
「あ…いや、そうだよな。まさか、お前がこんな事でな…」
振り向いた半澤の表情が
意外に明るかったので渡真利は少しほっとした。
「お前ならきっと戻ってこれるさ。東京セントラル証券は、子会社といってもウチのグループでは中核の位置づけだ。なあ、半沢。」
「中核…か。」
半沢は意味ありげな笑みを渡真利に向け再びデスクの中身を段ボールに詰め始めた。殆どがシュレッダーにかける資料だ。


いったんは「復讐劇」を大団円に持ち込み、その功績を頭取に認められる事になるはずの半沢の処遇は「関連会社への出向」という思いもかけないエンディングで幕を下ろした。一瞬事態を飲み込めなかった半沢だが、改めて考えてみると頭取の中野渡の取った手は理解できるものであった。それは、とにもかくにも、半沢自身の力を銀行トップ立つ者としての立場をもってしても脅威であると評価されての事なのだから…

そう自分に言い聞かせでもしなければ、どうやら俺は立ち上がる事すらできないのかもしれないな…
半沢は誰にも知れないよう口元を歪めて笑った。

2

半沢の出向先、東京セントラル証券は、渡真利の言う「グループ中核」とまではいかないものの、決して斜陽の左遷先ではない。もともと国内最大手の野山證券の系列だった昭和証券が独自路線で準大手トップに成長。その後東京中央銀行のグループに入り、最近では外資系大手のセントラル証券の出資も合わせて受け順調に業界での地位を高めている企業だ。

半沢に用意されたのはその東京セントラルの本店第一企業部部長の席だった。証券会社といっても、客に株の売買をさせ、その手数料を稼いだり投資信託を売りつける営業部門ばかりではない。
企業部の仕事は、まだ市場に株式を公開していない優良企業に目をつけ、そのオーナーに株式公開へのアプローチを行う部署だ。その会社が株式公開にこぎつけた際、「主幹事」に指名されると莫大な手数料収入が手に入る。それを狙う事が最大のミッションだ。もちろん、公開企業になるには、健全な財務状況や確かな組織やコンプライアンス体制、正確なディスクローズ等求められるものも多い。そういう意味では銀行系の証券会社においてバンカーの目線というものが必要になるのはよくある話でもある。

部長といっても椅子に踏ん反り返って決裁印を勿体ぶって押す仕事はここでは少ない。東京セントラルはもともと「証券界の暴れん坊」と呼ばれるくらい営業力に定評がある会社だ。大手を出し抜いて有力大型公開の主幹事に指名される事が多かったのも部長…いや担当役員…時にはトップである社長すらがオーナーを口説きにかかるといった泥臭いスタイルが身を結んだものであった。


3

「部長、次が僕の本命先なんですけどね。ここまで食い込むのに結構大変な思いしてるんですからね〜」
半沢は部長車の後部座席で、得意げな表情で話す若林正恭の声を聞きながら、窓の外をぼんやりと眺めていた。この若林という男…いや、若林だけではない。証券マンという人種は同じ金融機関でありながら銀行員とは全く違う。上司相手に特に媚び諂う訳でもない。口調も上役を前にした緊張感があまり感じられない。かといって無礼かというとそうでもない。どこか、やんちゃな印象の人間が多かった。

株式公開予備軍として有望な企業を、そのフィニッシュに向かって育て行くといった意味合いを持つ企業部の仕事は、銀行で培った半沢のキャリアを存分に発揮出来る場所でもあった。
半沢が部長を務める第一企業部は主に都内の中堅企業を担当し、20名の部員が所属する。3つの課に分かれており、3人の課長がいる。若林はそのうちの一人だ。30代半ばで課長になる事は東京セントラルでも比較的順調な出世を果たしてるといっても良い。ただ、証券会社の課長職は銀行のそれとは違い、まだまだ現場職として動く事が圧倒的に多い。

「なんだ、あっちに行くんじゃないのか?」
半沢は小洒落たインテリジェンスビルの前で車を降り、若林に近くにある雑居ビルを指差して言った。
「部長、ひょっとして劇場の事言ってます?本社は随分前にこっちに移ってるんですよ。」
「そうなのか。なるほど。」

エレベーターで上層階に上がると、若林はなれた足取りでエントランスに入り、受付の女性に馴れ馴れしい態度で話しかける。ちょっとした笑い声がシックなエントランスに響く。
「部長、こっちです。」
若林が笑顔で半沢を受付の奥に呼んだ。

「若林…」
「はい、なんでしょう?」
広い応接に通され、見るからに高級そうな…しかし、それほど趣味の良くないソファーに腰掛けた半沢が隣に座っている若林に聞いた。
「君は…いつもあんな感じでお客様と接しているのか?たとえ受付と言っても相手は…」
「あー部長が言いたい事はわかります。でもね、僕達は銀行員と違いますからね。東京中央銀行の名刺一枚で偉いさんに会ってもらえるような立場じゃないんです。受付のおねーちゃんに名刺を何枚も何枚も渡して顔を覚えてもらう。んで、無駄話したりお菓子とか持ってきて機嫌とって何とか担当者に繋いでもらう。それが、僕達証券マンのスタイルなんですから。泥臭くやらなきゃ。僕らはエリートなんかじゃありませんし。」
若林が急に表情を引き締めて言った。

「そうか。それはすまない。」
半沢は目を細めて若林に詫びた。ストライプのスーツにピンクのクリレックシャツ。ネクタイも同じピンク系でシャツとの濃淡に気を配ってコーディネートされている。細い今風のフレームの眼鏡が良く似合う。ちょっと軽薄そうなこの男の芯の強さを感じ、半沢は少し嬉しくなってきた。

「お待たせしました」
熊のような風貌の大柄な男が応接のドアを乱暴に開けて入ってきた。半沢は若林とともに立ち上がって深く頭を下げた。
「若林君、こちらかな?武勇伝をたくさんお持ちの新しい部長さんっていうのは?」
気がつけば大男の後ろに背中を丸めた男が立っていた。
半沢がスーツの内ポケットから名刺入れを取り出す。淀みない動作でその中から2枚を抜き取り、1枚をその男に差し出した。
「半沢さん…すまないね。私は名刺というものを持ち合わせていなくてね。」
「いえ、結構です。ご高名、存じ上げておりますので。」

この男は違うぞ…
「人を見る目」
それこそが、銀行員にもとめられるもっとも重要な資質であると信じる半沢のアンテナがはげしく反応した。この男には何かがある。

半沢は柔らかい表情で着席を促す秋元康に笑顔を返した。



4

銀行ほどではないにせよ、証券会社の組織もなかなか複雑である。
半沢が所属する第一企業部は「企業開発本部」の傘下に属する。企業部だけでも第一から第四まである。一応エリアで担当企業は決まっているものの、バッティングは年中茶飯事。もちろん、他社との激しい競争に勝たなければならない事は言うまでもない。

「君たちが有力先と考える企業を今日までで全て回らせてもらった」
部会で半沢が切り出した。
「さすがは、東京セントラル証券の精鋭部隊だ。実に良く相手先に食い込んでいる。君達の営業力には感心する。」
会議室の空気がほんの少し緩んだ。
銀行のエリートが頭取の逆鱗に触れ出向させられてきた。とんでもない切れ者らしい…半沢の評判が部内にこれまでにない緊張感を生んでいた。その半沢からの賛辞にそれぞれが安堵の表情を浮かべていた。

「し、か、し。君達にあえて聞こう。我々のミッションとは何だ?日村課長。」
半沢に指名された日村が大きな小肥りの体を窮屈そうに椅子から持ち上げた。
「ミッション…ですか?将来公開できそうな会社を開拓し、主幹事宣言書を取る事じゃないんでしょうか…」
その答えを聞いて半沢が思わずその場で立ち上がった。
「いいか?俺達が果たすべきは、お客様である企業の成長に貢献する事だ。まだまだ未成熟な企業に、資本市場から資金を調達する事が出来る企業へと成長させる。引いては日本経済の底力を産む。それが我々に課せられた使命だ。主幹事宣言書?そんな下らない事ばかり言ってるから単なるシェア争いばかりに目を奪われてしまう。オーナーの顔色ばかり伺っていてその企業が真の成長を果たす事が出来るのか?その企業が本当に必要としているものは何か?時にはその使命を果たすために厳しい姿勢をもって業務に臨む…その事を抜きにして、この仕事は出来ないのではないのか?」

ぱちぱちぱち…

必要以上の広さを持った会議室を二つに分ける為に立ててあったパーテーションの奥から茶化すような拍手が聞こえてきた。
そして、グレーのスリーピースに身を包んだ男が現れた。背後にあった大きな窓のブラインドは開けられている。西日をバックにしたその男の表情を伺うように目を細めた半沢の顔に軽い驚きの色が浮かぶ。

「大和田…常…いえ、大和田取締役。なぜ、あなたがここに?」

一度は倒したはずの「宿敵」がそこに現れた。



5

「これは奇遇だ。半沢君…おおっと失礼。半沢部長。また、こうして会えるとは思っていなかった。話は先程から聞かせて頂いていた。実に素晴らしい。君はどうやら銀行員としてよりも、エクイティファイナンスを生業にした方が向いていたのかもしれないねぇ」
「大和田…取締役。何をおっしゃりたいのかわからない。それに、今は部として重要な会議を行っています。公開予定の企業の情報も上がっている。機密性の高さも認められるものです。即刻退室願いたいですね。」

「部長…この方は?」
若林が半沢の顔を覗き込むようにして聞く。
「東京中央銀行の大和田取締役だ。もう一度、申し上げます。大和田さん。いくら銀行の役員とはいえ、ここは東京セントラル証券の企業部です。あなたが土足で踏み込むことが許されるとは思いませんが?」
グループ本丸のしかも役員と聞いて立ち上がった部員の中、一人椅子の背もたれに身体を預けたまま半沢は言った。

「はぁんざわぁぶちょぉお?君は何を言ってるのかな?私は、このたび東京中央フィンナンシャルグループの関連会社を管掌する担当役員になったんだよ。準大手としての評価を得るにとどまっている東京セントラル証券にとって、公開引受業務の拡充は最重要課題だ。その中核会議とあれば、私が直々に参加してもおかしくないだろう?なあ、半沢部長?」
大和田の言葉に半沢の表情が厳しくなる。
「まさか…あなたは、私に対して…」
半沢の言葉を遮るように、大和田は大げさに両肩をすくめて見せた。半沢のトイ面の椅子に腰を下ろす。
「おいおい半沢部長。そんなに怖い顔をするなよ。私は君に何の遺恨も残したりしていないよ。むしろ、逆だ。どうかね?グループ全体の企業価値向上の為に強力しようではないか。やられたらやり返すなんてのは、子供のやる事じゃないかなぁ?」

「相変わらず人を食ったお方だ。いいでしょう。志を共にする者であれば。ですが、もしあなたが…」
半沢の視線に大和田はとぼけたような笑顔を返した。
しかし、次の瞬間表情を変え、その場に勢いよく立ち上がった。
「いいですか?この第一企業部は東京セントラル証券の命運を担う重要部門だ。野山、山興、平和、大手各社に肉迫してるとはいえ、引受分野ではまだまだ及ばない。ここは、勝負の時だ。いいですか?」
大和田は大きな会議室テーブルの周りをゆっくりと歩きながら論じ始めた。
「我が東京セントラルグループは新規公開業務を最重要戦略課題とし、数社の最重点見込み先として数社をピックアップした。その中の一社がこの第一企業部の営業先なんだよ。若林課長…は君かな?」
「は…はあ。若林は僕ですけど?」
その肩に手を置かれても若林の態度はいつものままだ。
「株式会社AKS。この企業を株式上場させる。そして、君達のミッションは…石に囓りついてもこの会社の主幹事を獲得する事だ。」








5

「これは奇遇だ。半沢君…おおっと失礼。半沢部長。また、こうして会えるとは思っていなかった。話は先程から聞かせて頂いていた。実に素晴らしい。君はどうやら銀行員としてよりも、エクイティファイナンスを生業にした方が向いていたのかもしれないねぇ」
「大和田…取締役。何をおっしゃりたいのかわからない。それに、今は部として重要な会議を行っています。公開予定の企業の情報も上がっている。機密性の高さも認められるものです。即刻退室願いたい」

「部長…この方は?」
若林が半沢の顔を覗き込むようにして聞く。
「東京中央銀行の大和田取締役だ。もう一度、申し上げます。大和田さん。いくら銀行の役員とはいえ、ここは東京セントラル証券の企業部です。あなたが土足で踏み込むことが許されるとは思いませんが?」
グループ本丸のしかも役員と聞いて立ち上がった部員の中、一人椅子の背もたれに身体を預けたまま半沢は言った。

「はぁんざわぁぶちょぉお?君は何を言ってるのかな?私は、このたび東京中央フィンナンシャルグループの関連会社を管掌する担当役員になったんだよ。準大手としての評価を得るにとどまっている東京セントラル証券にとって、公開引受業務の拡充は最重要課題だ。その中核会議とあれば、私が直々に参加してもおかしくないだろう?なあ、半沢部長?」
大和田の言葉に半沢の表情が厳しくなる。
「まさか…あなたは、私に対して…」
半沢の言葉を遮るように、大和田は大げさに両肩をすくめて見せた。半沢のトイ面の椅子に腰を下ろす。
「おいおい半沢部長。そんなに怖い顔をするなよ。私は君に何の遺恨も残したりしていないよ。むしろ、逆だ。どうかね?グループ全体の企業価値向上の為に強力しようではないか。やられたらやり返すなんてのは、子供のやる事じゃないかなぁ?」

「相変わらず人を食ったお方だ。いいでしょう。志を共にする者であれば。ですが、もしあなたが…」
半沢の視線に大和田はとぼけたような笑顔を返した。
しかし、次の瞬間表情を変え、その場に勢いよく立ち上がった。
「いいですか?この第一企業部は東京セントラル証券の命運を担う重要部門だ。野山、山興、平和、大手各社に肉迫してるとはいえ、引受分野ではまだまだ及ばない。ここは、勝負の時だ。いいですか?」
大和田は大きな会議室テーブルの周りをゆっくりと歩きながら論じ始めた。
「我が東京セントラルグループは新規公開業務を最重要戦略課題とし、数社の最重点見込み先として数社をピックアップした。その中の一社がこの第一企業部の営業先なんだよ。若林課長…は君かな?」
「は…はあ。若林は僕ですけど?」
その肩に手を置かれても若林の態度はいつものままだ。
「株式会社AKS。この企業を株式上場させる。そして、君達のミッションは…石に囓りついてもこの会社の主幹事を獲得する事だ。」








6

「はぁ…」
「こら、ため息ばっかついてるとツキが逃げちゃうよ?何見てるの?」

ビジネスマンでほぼ満席になった新幹線の車内。須田亜香里が隣の席の木崎ゆりあが目を落としている小さな紙切れを覗き込んだ。細かい数字と文字がびっしりとかきこまれている。

「今日いったん名古屋に戻って明日の始発でまた東京でしょ?ん…でそのまま大阪の握手会で…あ、撮影入るって言ってたけど、まだ詳しいこと聞いてないし。」
ペーパーに書き込まれた事項を手元のスケジュール帳に書き写しながらまた木崎は小さなため息をついた。
「そうだよねぇ。あかりも…あれ?あれれ?」
自分のスケジュールを確認しようとカバンから手帳を出そうとした須田だったが、なかなかその所在を見つける事ができない。パンパンに膨らんだカバンから何枚かのペーパーがこぼれ落ちた。
「もう、あかりん。落ちたよ。コレ…」
仕方ないなあ…そういった笑い顔でペーパーを拾い上げた木崎の視線がその紙の上で止まった。
「ああ、ゆりあもそれもらった?」
「うん。でも、全然意味がわからないんだ。何?株を買いなさいって意味?」
「えーっと、そういう意味じゃないと思うよ。あかりもこういう事全然詳しくないし。」
「ストップオークション?だっけ?」
「ストックオプションだよ。もう、ゆりあ。ヤフオクじゃないんだから。」
前の席に座っていた松井玲奈が通路側から顔を覗かせて言った。

「玲奈さん知ってるんですか?その、なんとかなんとかって」
難しい話をしても通じそうにないなぁ。玲奈は木崎を仕方ないなぁといった表情で見た。決して馬鹿にしているという意味ではない。むしろ、こんな話、私だって理解するにはそれなりに色々と勉強する必要があった。
「あのね、ゆりあ。例えばここに時価100万円分のダイヤがあるとするね。金塊とかでもいいや。普通にお店で買おうとしたら100万円するの。」
玲奈の話に須田も興味深そうな表情を見せる。
「それをね、今日から1ヶ月の間あなただけ10万円で買える権利をあげますよ〜っての。その権利の事をストックオプションっていうのよ。」
「え?じゃあ、10万円で買ってすぐに売ったら90万円の儲けって事じゃないですか?も〜玲奈さん。そんなウマい話あるわけないじゃないですかぁ。それってなんか詐欺っぽいでしよぉ?」
須田が悪戯っぽい顔で笑った。玲奈も須田の言葉に頷く。
「そうだね。でも、これは真面目な話みたい。芝さんもそう言ってたし。ただね、実は今度のストックオプション、買える値段はもう決まってるの。一つ…あ、一株ね300円。」
「すいません…ワタシ、ほんっとうにバカで。つまり、その300円が幾らになるんですか?」
「それはね、私達の頑張り次第で変わってくるのよ。」
「私達の頑張りで?え?玲奈さん、本当に意味がわからないんですけど…」

そうだよね。正直、私も株の事なんて全然わからない。でも、AKBの運営会社が上場する事位の意味は何となくわかる。そして、人気やCDの売り上げが上がれば株が上がるって事も。芝さんは「お前たちにかかってるんだぞ。頑張れよ。」って言ったけどまだピンとこない。私たちが頑張れば株価はいくらになるの?1000円?3000円?1万円?だいたい株で儲けようなんて事考えるの…いや、思いつく子なんているはずないでしょ?ゆりあやあかりんだけじゃない。みんな意味不明って反応になるのは目に見えている。
それよりも、もっと運営には考えてほしい事が山ほどある。

どういうこと?こうじゃない?いや、違うよぉ…

少しふざけながら話を続ける二人に柔らかな微笑みを送り、玲奈は自分の席に座り直した。
深く深呼吸をして目を閉じた。
名古屋までの1時間半ちょっとの時間。いつも着く直前にウトウトしちゃうんだよなぁ…


7

新幹線の中で眠るのはあまり得意ではない。
そもそも大好きな新幹線に乗っているのに、眠ってしまうのが勿体無いということもあるけど。でも、移動時間も体を休める為に使わなくては…。そう思わずにいれない程、ハードな日々が続いている。

目を閉じた松井玲奈はそのまま浅い眠りについた。
夢なのか、自分で思い出しているのか、この数ヶ月の事が頭の中でぐるぐると回り始めた。
ともに夢を追いかけてきた友との別れ。そして組閣。
リーダーという役割を与えられてはみたものの、どう振舞って良いのか結局のところまだ何の答えも出ていない。
そんな中、ついに目の前に開かれた夢への一本道。夢はその瞬間、目標へと変わった。そして、その先にはもっともっと大きな道が広がっている…そう疑っていなかった。


念願の名古屋ドーム公演は掛け値なしの大成功だった。
「グループ史上最高。これは伝説だ」
その場を共有した誰もがそう語ったし、玲奈自身もそれに全く異議を感じなかった。メンバーのパフォーマンス、観客の一体感。まさに、持てるもに全てを出し尽くしたコンサートだった。

「そろそろかなぁ?」
一方でそんな相談を持ちかけられる事も増えた。夢であった名古屋ドームを経てSKE48というグループはまた大きな変化を迎えようとしていた。
メンバーから今後の事を相談される中、玲奈も最近良く将来のことを考えるようになった。
私にも夢がある。そう、女優になるって大きな夢が。SKEに入ったのもそもそもその夢をかなえるため…

夢?それをかなえる?
玲奈ははっとしたように目を開けた。
そっと後ろの席をのぞいてみる。
先ほどまで騒いでいた須田と木崎が体を寄せ合うようにして眠りに落ちていた。その後ろのほうの席では菅なな子や古畑奈和、木本花音、向田茉夏の姿が見える。みな様々な格好で目を閉じている。

疲れてるんだな…
忙しい事は決して悪いことではない。むしろ歓迎だ。芸能界という浮き沈みの激しい世界でこうしてみんなが仕事に恵まれている事は幸せと思わなくてはいけない。
ただ…

「どうしました?」
そんな玲奈の様子に気づいたのか古畑奈和が立ち上がって口の動きだけで聞いてきた。玲奈は静かに微笑んで首を横に振った。古畑が隣の席の菅なな子の様子を伺いながら席を立ちこちらにやってきた。空席になっている玲奈の隣に腰をかける。古畑とは同じチームだ。劇場公演を休む事が多くなりがちな玲奈に変わって最近リーダーシップを発揮してくれる事が多くなっていた。AKBとの兼任ももう1年以上になろうとしている。

「ううん、みんなぐっすりだね。奈和は寝ないの?」
「ええ。さっきまでちょっとウトウトしてたんですけど。玲奈さん、何か困ったことあったらいつでも話してくださいね。私じゃ力不足かもしれませんけど…」
「そんなあ、力不足なんて思わないよ。奈和のことは本当に頼りにしてるんだから。」
古畑の大きな瞳がまっすぐ玲奈を見つめる。玲奈は思わずドキッとした。こんなまっすぐな目で見られたら、そりゃ奈和のファンの人はたまらないよなぁ。絶対私ならメロメロにな…あ、いかんいかん。またメンバーにドキドキしちゃって…。玲奈は思わず苦笑した。

「あ、これ…」
古畑が先ほど須田たちが話題にしていたペーパーを指差した。
「ああ、これね。」
「玲奈さん、どう思います?」
「どう思うって…う~ん…確かに夢のあるお話だと思うけどね。ただ、もっと年少のメンバーにもわかりやすい説明があってもいいんじゃないかな?」
「年少って、私たちって意味ですよね?」
「あ、そっか奈和もまだ高校生だよね?そう、もっと若い子もいるしね。」

「玲奈さん…」
古畑が急に玲奈の耳元に顔を寄せてきた。
「え?奈和…?」
一瞬玲奈が驚いた表情になった。
「もう、違いますよ。私は玲奈さんと違ってノーマルなんですから」
「ちょっと、どういう意味?私だって…」
「あははは。でも、ちょっとコソコソ話させてください。あのですね…」
古畑の言葉を聞いているうちに段々と玲奈の表情が変わってきた。
緩んだ笑顔が消え、目線が鋭くなっていく。

8

「半沢部長。」
デスクに置かれた2台のモニターに流れる市況をチェックしていた半沢の前に若林が立った。神妙な顔つきだ。
「どうした?あまり良い報告じゃなさそうだな。」
半沢は一瞬だけ視線を若林に向けて、すぐにそれをモニターに戻した。画面の中では刻々と数字とチャートが変化していく。
株式公開を支援していくのがメイン業務の企業部とはいえ、相場の動きに無関心ではいられない。担当企業そのものやオーナー自身の投資を仲介する業務もあるし、営業部ほどではないにしても投信や手数料収入のノルマというものも存在する。

「例のAKSの件です。」
「ああ、大和田…取締役が言ってた件か?あれは、あまり気にしないほうがいいぞ。銀行がどう言おうが、我々は我々できちんと対応をしていくしかないんだからな。」
「先方から呼び出しがかかりました。」
「そうなのか?」
半沢の視線が若林に正対した。その表情を伺う。
新しい部長が来たから挨拶をしたいといったアポイントの申し込みには応えてもらえる程のリレーションは作っている。ただ、先方から何かを話したいという所まで食い込めてるとまではいっていない…半沢は若林からそういう報告を受けていた。
「AKSは法人口座と窪田社長…戸賀崎さんの個人口座もあったな。何か株で損を出したとかあったのか?」
「いえ…そんな事はないですよ。むしろ、まだまともにそっち方面への営業なんて出来てませんし。やっと顔が繋がった程度なんですから。」

若林の顔にも不安の表情がうかぶ。いつも漂わせている飄々とした雰囲気はかけらもない。
「俺も一緒に行くよ。」
「え?部長も…ですか?」
「なんだ?邪魔なのか?」
半沢は少し驚いたような表情になった若林に不思議そうな目線を送りながら立ち上がった。椅子の背もたれにかけられていたネイビーのジャケットを着る。
「いえ…いや、前任の部長はヤバそうな時は、お前とりあえず行ってこいってスタンスだったので。」
「前任は前任。俺は俺だ。おい、行くぞ。車回してもらってくれ。」

9

「わざわざ来てもらって申し訳ない。それに、部長さんまで。恐縮ですな。」
「いえ。御社とはぜひ今後も良いお付き合いをお願いしたいと切に願っておりますので。ところで、このたびは私どもに何か不手際でもございましたでしょうか?」
半沢は目の前のちょっと強面の風貌の男二人のうち上座に座った男に話しかけた。相手の出方がわからない時にいつもしてるように、腰はあくまでも低く、かといって媚び諂ったような顔はしない。長年の銀行員生活で身に着けた対処法だ。机の上の名詞には「代表取締役 窪田康志」とある。

「おい、戸賀崎。何も伝えてないのか?わざわざお越しいただくのに、ちゃんと用件を伝えておかなくては失礼じゃないか。」
「は。すみません。つい…」
「つい…じゃないよ。いつも言ってるじゃないか。お前はなぁ…」
「いえいえ、そんな。社長。私でしたらいつでも、どんなご用件でも馳せ参じますので。」
「若林君。今日は君に…いや、御社にお願いがあって来ていただいたんだ。実は先日の役員会で正式に方向性をまとめてね。当社は株式を公開する事を経営決定事項として定めたんだよ。」
窪田は晴れやかな表情を浮かべた。戸賀崎に視線だけで合図を送る。
「それで…その主幹事を若林君…いや、東京セントラル証券にお願いしたいと思ってね。どうだろう?お受けいただけないだろうか?」
半沢と若林はその場で顔を見合わせた。
「どうだろうか?ぜひ、あなた方の力をお借りしたい。いや…ぜひ、あなた方の力で当社を世間様の評価を受ける事が出来る企業にしていただきたいと。至らない点があれば全力で改善させていただくが。」
「い…いえ、至らないなど…あ…ありがとうございます。ぜひ、やらせてください。全力を尽くします。」
若林がその場に勢い良く立ち上がり腰を90度に畳んで頭を下げた。半沢もそれに倣う。
「御社の株式公開、ぜひ実現させましょう。東京セントラル証券…いえ、東京中央フィナンシャルグループ全体の力を結集してお力添えさせて頂きたく存じます。」

「引き受けていただけますか?それは有難い。いや~東京セントラルさんに引き受けてもらえるという事は、ウチも一流企業の端っこに加えてもらえたって事なんじゃないか?なあ、戸賀崎。」
「社長、それはまだ気が早い話じゃないですか。ここは、ぜひ半沢さんと若林君に色々とお教えを乞おうじゃありませんか。」
「それもそうだな。さあ、半沢さん、若林君。堅い話はここまでだ。よろしければ近い内にキックオフといこうじゃありませんか。ウチのメンバーも呼びますよ。」
「ありがとうございます。それは実に楽しみです。じ・つ・に。なあ、若林君」
「え、ええ。それはまあ。」
「メンバーのご紹介も嬉しいのですが、一点確認させていただけますでしょうか?今度、私どもと御社の実務的な窓口というか、ご担当はどなたが?まさか戸賀崎支配人が…という訳にはいかないでしょうし。」
半沢の質問に窪田が笑顔で頷いた。ソファから立ち上がってデスクの電話を手に取る。
「ああ、私だ。すまないが、今すぐに役員応接に来てくれないか。ああ。すぐにね。よろしく。」
「今、担当者が参ります。この1年英才教育をして育てていた人物です。ある意味ウチの中身を一番わかってる人間かもしれません。なあ、戸賀崎。」
「ええ、なんといっても彼女は…」
戸賀崎がそう言いかけた時、部屋のドアがノックされた。
「入りなさい」
窪田の声を受け、小柄な女性が部屋に入ってきた。
グレーのスーツ。やや明るめの髪が髪留めでまとめられている。細いフレームの眼鏡が良く似合うとても華やかな雰囲気の女性だ。
「紹介しよう…」
戸賀崎の言葉を軽い笑顔で遮り、立ち上がった半沢と若林に一段と明るい笑顔を向けた。

「仲俣汐里と申します。」
半沢はにっこりとした笑顔を作り仲俣の差し出す名刺を受け取った。
若林も名刺を交換した。

しばらくの間、その場は和やかな雰囲気で包まれた。
半沢も思わぬ吉報についつい笑顔になる。
ただ、ふと若林の表情を見て妙な違和感を感じた。
ここまでの苦労が報われ、もっとも喜ぶべき…喜んでよいはずの若林の表情の中に、曇りのようなものが感じられたからだ。

10

「どうした?浮かない顔をして。もっと手柄を喜んでもいいんじゃないのか?」
その日の夜、半沢は若林を飲みに誘った。大変なのはこれからだが、今日くらいは若林の成果を手放しで称えてもいいだろう。何人かの若手も含んだ賑やかな宴のあと、静かなバーに二人で腰を下ろした半沢は若林に切り出した。
「部長。部長は僕の頑張りが報われたって言ってくれましたよね?」
少し酔っているのだろうか。若林の口調がいつもと少し違う。
「ああ。これは間違いなく君の手柄だ。主幹事宣言書を受け入れた事で君の今期の査定は大いに期待できるものになるだろうしな。」
「はっ?査定ですか。意味がないっすね」
「意味がないって事はないだろう?ボーナスだって増えるし、昇進にだって影響がある。」
「ボーナス?昇進?そんなもん興味ないです。そうだ、昇進ってなら僕の事、銀行に連れてってくださいよ。部長が銀行に戻れるんだったら…ですけど。」
「おいおい、お前って結構皮肉言うんだな。俺だってまだ先を諦めた訳じゃない。絶対に俺は…」
絶対にあいつらを見返してやる。やられたら…そう言いかけて半沢は言葉を止めた。
なぜだろう?今、その言葉を言うべきではないと感じたからだ。

「しかしなあ、若林。冗談抜きでもっと胸を張っていい成果だと思うぞ?」
半沢はグラスの中のバーボンを一気にウトウト飲み干した。同じものを…バーテンに目線だけで伝える。
「部長はやっぱり銀行員ですよ。結果論やラッキーで取れたけいやくなんて何も嬉しくないっす。」
「結果論?」
「だいたい、AKSの主幹事は野山で確定だったんですよ。株式公開をそのメリットから何からきっちりトップに落とし込んでその気にさせたのも野山證券だ。ウチは所詮そのおこぼれにあずかって、2番手か3番手の副幹事が取れれば御の字くらいに思っていました。それに、年間に何社の主幹事をウチが取れてると思います?去年なんて4社ですよ。たったの4社。全国の企業部員があくせく営業して4社。それなのに、なんの工夫もしてないトコの主幹事がこんな簡単に取れてしまう。違う。何かが違うんです。」

半沢は若林の言葉を意外な思いで聞いていた。
自分の手柄になるのであれば、それがどんなラッキーであっても、さも自分の手柄のようにアピールする事は銀行ではごく普通の光景だ。中には、部下の手柄は上司の手柄。上司の失敗は部下の責任と大手を振って吹聴する者までいるのだから。
「なあ、若林。お前はなんで証券マンになろうと思ったんだ?」
半沢は話の方向性を微調整しようと試みた。
「証券になんて行きたくて行ったんじゃないですよ。僕だってメガバンクに入りたかった。でも、当時の就職環境じゃ無理だったんですよ。バブルは弾けちゃった後だし、大学は三流だし。」
「そうか。そうだったのか。」

銀行だってそんなにいいもんじゃないぞ?そう慰めようと思ったが、半沢はその言葉を引っ込めた。
いや、俺はまだ諦めた訳でもなんでもない。
「若林。この案毛、本当の意味でお前の手柄にしてやろうじゃないか。」
「はい?」
「銀行には銀行にしか出来ない事がある。だが、証券には証券にしか出来ない事もあるんだよ。企業を育て、日本経済に貢献するスケールの大きな仕事はどうやるかって事を俺がとことん教えてやる。大丈夫だ。俺を信じろ」
若林が手元のグラスを目元に当てる。まるで頭を冷やしているかのように。
「すみません。お水をください。」
「おい、もう飲まないのか?」
「いえ、もういいです。今日はご馳走様でした。明日の朝一番で打ち合わせおねがいします。それまでに、必要資料を全部用意しておきますので。あ、部長もせめてAKBの事くらいは知っておいてくださいよ。DVDとかもし必要ならお貸ししますから。」
若林の言葉に半沢が笑みを浮かべる。
「では、すまないが博多の分だけ頼もうか。そこまで俺も手を広げてはいないからな。」
若林がちょっと驚いた顔になる。
「参ったな。」

若林が笑った。今までに見せたことがない屈託のない笑顔だった。

11

「どうでした?優子さん。秋元先生、なんて…?」
柏木由紀が戻ってきた大島優子を待ちわびていた様子で迎えた。
大島はクッションのきいたソファに体を預けるようにして腰掛けた。
「ゆきりん、なに飲んでるの?あ、すみません。ビールお願いします。」
柏木の質問には答えず、大島はしばらく腕を組んだままバーの天井を見上げた。

「ぷっはー。あーちくしょー、なんでこんなムシャクシャしてるのにビールって旨いかなぁ?」
「もう、優子さんったら。でも、私も飲もうかなぁ。」
「焼酎?芋でしょ?」
「違いますよ、もう鹿児島人でもカクテルくらいは飲みますから。」
柏木は軽く片手を上げてウエイターを呼び寄せた。

「やっぱりダメだった。もう少しだけ待ってくれの一点張り。」
大島が柏木の質問に答えたのは何杯か飲んだビールが日本酒に変わった頃になってだった。
「ですよね。なんとなく、そうじゃないかって。」
「ゆきりんは?もう切り出したの?」
柏木も大島の質問に静かに首を振っただけだった。モスコミュールのカクテルグラスを口元に運ぶ。
「正直、今を逃すとダメだと思うんだよね。それに、卒業はタイミングを決めるのはお前ら次第だってずっと言われてきたじゃない?それが、何?今はその時じゃないって。」
「そうですよね。秋元先生、私達にこのままAKBに残って何をしなさいって言うんでしょうね?」
「っていうかさ、私達、むしろこのまま残ってちゃダメだと思うんだ。それは、私達の為じゃなくて後輩の為にもね。私達がAKBにいる限り、世間の目線はAKB=大島優子。AKB=ゆきりん…いつまでたってもそのままなんだよ。私達はもう一人一人で歩いてかなきゃいけないんだよ。」

大島も柏木も…重要メンバーの高橋みなみも小嶋陽菜も…卒業間近と思われたメンバーは、篠田麻里子、板野友美、秋元才加の卒業からもうまもなく1年経とうとしてる今もAKBに残ったままだ。
世代交代は最早お題目にすぎないのか?とすら言われ始めていた。

「事務所はなんて言ってます?」
「事務所?ゆきりんのトコも同じでしょ?先生の許可がなきゃってさ。なんか、最近発言力がどんどんなくなってる気がするんだよね。」

ぴろぴろぴろぴろ

大島の携帯から着信音が響いた。ほぼ同時に柏木の携帯からも。
二人が同時にスマホの画面に目を落とした。

「明日来いってさ。湯浅さんから」
「珍しいですね。こんな前日の夜遅くに明日の急な呼び出しなんて。」
「だね、湯浅さんからってのがね。なんだっけ?あの人の新しい役職。」
「あーなんとか準備室室長とか…汐里がいるトコ」
「ああ、なんか上場会社になるんんだっけ?たかみなが言ってた」

どうせ、またどこかのお偉いさんへの挨拶なんだろう…
大島と柏木はそんな感じの目配せをしてそれぞれのグラスを傾けた。


12

「ちょっと待ってくれ…仲俣さん、これを貴女一人で作った…と?」
半沢は目の前に置かれた分厚い資料をめくりながら言った。
株式会社AKSが上場を果たそうとする市場はジャスダック市場。昔は「店頭公開」と言われた小型株中心の市場だ。小型とはいえ、ライブドア事件等の教訓から市場は公正なディスクローズを企業に求めており、公開申請には膨大な資料の作成が必要となる。
「はい、まだ経験値が足りませんので、体裁等至らない点も多いとは思いますが。ぜひ、ツッコミを入れてくださいね。」

「部長…このIIの部なんて…いや、ウチの公開引受部でも、ここまで作り込んだ資料のコンサル出来ませんよ?」
「仲俣さん、有価証券報告書のIIの部は、雛形の公開もされていませんし、作成例も各社業態ごとにばらばらです。通常は証券会社の公開引受部門の指導で作成していくものです。もちろん、これまでのキャリアの中で経験があれば作れない事もないが…失礼ですが、あなたはまだ学生だ。どこでこのノウハウを?」

半沢の質問はある意味、驚きと単純な好奇心からくるものだった。
実際の決算数字を並べるIの部と違い、IIの部は代表者の見解や、ビジネスプラン等を盛り込む必要があり、上場審査で最も重要な書類の一つである。専門性が求められる為、証券会社にとってもコンサル料を稼ぐ大きなポイントでもあった。事実、先日結ばれた主幹事受託の契約の中にも、この有価証券報告書作成へのコンサル料がちゃんと計上されている。しかし、このレベルで草案が上がってくるのであれば、半沢たちがやるべき事はそう多くない。

「プロの方にそうおっしゃっていただけるなんて。すごく光栄です。」
仲俣の笑顔に半沢はそれ以上の質問をやめた。
と、同時に部屋のドアを乱暴に開け髭面の男が入ってきた。
公開準備室室長の湯浅洋だ。

「いかがでしょうか?なにぶん、全てが手探りで始めていますので…専門家にお見せできるようなものではないのでは…と。」
「いえ、それはご謙遜でしょう、湯浅さん。ほぼ完璧な準備を進められていると思いますよ。今の時点では、私どもから強い注文を差し上げる事は何もありません。なあ、若林。」
「確かに。半沢が申しました通りです。よく、この早い段階でここまでの準備を…」
二人の言葉に湯浅が安心したような笑顔を見せた。
「仲俣、戸賀崎さんが呼んでる。すみません、ちょっと私ども席を外させて頂きます。後ほど、キックオフの会場にご案内いたしますので」
「ええ、私達はしばらくこちらで書類関係に目を通させて頂いておりますので。」
半沢と若林は部屋を出る二人に軽く頭を下げた。

「ますます、他人の手柄って気しかしなくなりましたよ。これじゃ、何もやれる事がない。ほら、ご丁寧に監査法人の報告までありますよ。適合ですって。」
「完璧…だ。」
半沢が資料の1ページ1ページを丁寧に手繰りながら呟いた。
「ですよね。まあ、楽な仕事っちゃ仕事ですけどね…」
「いや、完璧すぎるんだ。」
「完璧すぎですって?」
若林がすっかり氷の解けてしまったアイスコーヒーをストローで吸い上げながら半沢の方を向いた。

「ああ。完璧…すぎなんだ。いいか、若林。どんな優良企業でも一つや二つ、書面レベルでもこれってどうなんだ?と首を捻る事項はある。どんなにまともにやっていてもだ。融資を実行する時に大事なのは、そんな事の粗探しをすることなんかじゃあない。その数字の裏にある思惑や背景としっかり向き合う事だ。」
「部長はこの報告書の中に、何か足りない所が隠されていると?」
「いや、そうじゃない。IIの部だよ。ここはある意味、作文だ。経営ビジョンにちゃんとココが込められているかどうか。それが大事なんだ。」
半沢が右手で拳を作り、若林の左胸を軽く叩いた。
魂。それこそが必要なんだと。
若林は大きく頷いた。

「そこを知るには、とにもかくにも人だ。俺たち証券マンに必要なのは数字じゃない。人を見極める目だ。」
「難しいですね。」
「ああ、難しい。だからこそおもしろいんだ。そして、もっとも大事なのはその企業のキーパーソンを見定める事だ。キーパーソンに会い、その心の中をしっかり炙り出すことさ。」
「キーパーソンですか?この場合…やはり、秋元康さんですかね?経営陣ではありませんが、大株主でもありますし、事実上の経営意思決定者でしょうし。」
半沢は立ち上がって部屋の隅まで歩みを進めた。半身で振り返り壁に貼られたポスターを指差して若林に言葉を放った。
「彼女たちさ。」

きらびやかな衣装を身にまとったAKBメンバーの笑顔がそこにあった。

13

「やはり48Gの醍醐味はそれぞれのチームカラーの違いが生み出すアミューズメントパーク的感覚にある。私は常日頃より感じているのです。そうですね、例えて言うならディズニーランドのようなものと言ってもよい。同じパーク内でも場所によって雰囲気が一変する。そして、そこで提供されるサービスは毎回同じものであって同じものではない。そして、来場者を飽きさせない仕掛けが時として突然のように発動する。それこそが、この長きに渡りムーブメントを引き起こしてきた要因と言えるでしょう。しかし。しかしです。この流れを、勢いを絶たないためにも、今後はより強固な体制を築く必要があります。それは何か?明確です。コンテンツの充実です。新しいサプライズ?いえいえ、そんな事ではありません。それは…」
「ずいぶんと熱い語り口だな。その先はワシも興味がある話だ。ゆっくり聞かせてもらいたいな。」

株式公開へ向けたキックオフパーティの席、輪の中心でいつも以上に饒舌に語る半沢に初老の男が声をかけてきた。
半沢が振り向く。そこにいたのは、東京セントラル証券の社長である、小林よしのりだった。

「これは、小林社長。いや、お恥ずかしい。余りの華やかな席上、ついつい興奮してしまいました。」
半沢はすぐに真顔に戻り小林に対し一礼した。
小林は証券界では立志伝中の人物だ。野山證券の副社長という立場から新設の系列証券である昭和証券へ転籍。社長とはいえ、本流から外れた事実上の左遷だ。その位置から昭和証券を抜群営業力を武器にした準大手最強の証券会社に育て上げ、金融不況に伴う証券界再編の折には、東京中央銀行という資本を受け入れる事では会社を見事に蘇生した。その後、外資の資本も加え新たな体制を構築。今も、その経営手腕を買われて代表職に君臨している。

「今日は難しい話は抜きにしたらどうや?せっかく、これだけのメンバーが揃ってるんだからな。」
小林の言葉に半沢は周囲を見渡した。
若林が普段は見せない緩み切った顔で、大島優子や渡辺麻友、柏木由紀といったメンバーに囲まれて談笑している。
あいつ…俺の言った意味をちゃんと理解してるのか…半沢は一瞬若林の方に向けた足先の方向を思い直すように切り替えた。会場の隅のほうにいるグループのほうに歩み寄る。

「なんかウチら場違い感すごくない?」
「そうそう。これっていわゆる接待みたいなものでしょ?」
「いいのかなぁ?なんか、こんなトコで固まってて。」
「いいんじゃない。どーせいつもの頭数合わせでしょ?私は美味しいモノが食べれたらそれでいいし。」

「すみません。ちょっと話に入ってもいいかな?」
半沢が一人のメンバーに声をかけた。
「うわっ!ああ、びっくりしたあ。今の話聞こえてました?」
「今の話?何のことかな?私はぜひ、あなたとお話をしたくて声をかけただけだけど。島田晴香さん。」
こぼれそうな程、料理が乗った皿を片手に持った島田が口の中に残ったローストビーフを飲み込みながら答えた。思わず喉に詰まらせてしまい咳き込む。
「ほらぁ、ちゃんとよく噛まなきゃ。もう恥ずかしいんだから。」
島田の背中を叩きながらアイスコーヒーのグラスを差し出すのは山内鈴蘭だ。
仕方ないなぁといった表情で大場美奈が笑う。

「すまないすまない。驚かすつりはなかったんだ。」
半沢は島田にハンカチを差し出した。一緒に名刺もだ。
山内にも大場にも名刺を丁寧に渡す。
「証券会社の部長さん?私、そんな偉い人の名刺なんて初めてもらった。」
島田が半沢の名刺をマジマジと見つめる。何度も何度も表裏をひっくり返しては、半沢の顔と見比べるようにする。
「もう島田…すみません、ホント失礼なヤツでして…あの、半沢さん。一つ聞いていいでしょうか?」
大場が大きな瞳をまっすぐに見開いて半沢の近くに体を寄せてきた。距離が近くなった分、声が小さくなる。内緒話をするような格好になった。

「今度の事って、私達に何か悪い話じゃないんでしょうか?変な噂が立ってるんです。」
「変な噂?」
半沢が思わず大きな声をあげた。
大場の顔がすぐそばに近づく。とっさの事に半沢の心拍が上がる。
おい、俺は何をドギマギしてるんだ?それよりも…
半沢は3人の話を静かに聞き始めた。

14

「悪い噂ってのはどういうことなんだろう?」
「私から説明していいですか?」
半沢の言葉に答えを返したのは大場だった。
「ああ。構わない。君が一番詳しく話が出来るのであれば。」
大場は山内と島田と顔を見合わせて頷いた。

「えっと…要はリストラが始まるんじゃないかって事なんです。」
「リストラ?」
意外な大場の言葉にまた半沢の声が大きくなった。
「しっ…半沢さん。声が大きいです。」
「島ちゃん…島ちゃんの声のほうが大きいって。」
「あ・・・ごめん。」
山内に指摘されて島田が頭をかいた。
半沢は島田の方を見て優しく微笑んだ。
「あの…半沢さん。ひょっとして島田の事が?」
「ああ。私ははるぅ推しなんだよ。さっきも、ぜひ話したいと思って声をかけたんだ。」
「え?え?ワタシですか?え?ぱるると間違えてません?」
「島田!今はそういうボケはいいから。半沢さん、続けていいですか?」
「ああ。すまない。ちゃんと話を聞こうか。」

「リストラの噂は今に始まった事じゃないんです。前から秋元先生もよく予定調和は好きじゃないって言ってましたし。ファンの間でも色々と…」
「そうそう。干されがいつ切られるかって…ね。」
山内が横から口を挟んできた。
「鈴蘭。干されって言葉悪いよ?」
島田が真面目な顔になって山内の頭を軽く叩く。
「違うって。ワタシだってそうだって事だよ。だって、島ちゃんも感じてるでしょ?確かにワタシ達は事務所に所属してるからそれなりに細々した仕事は入ってくるかもしれない。島ちゃんだってダイビング雑誌のレギュラーになって随分たつし。でも、AKBとしての仕事は全く無いに等しいでしょ?」
島田も山内もかつては「推され」メンバーに名を連ねていた。島田は大島優子・篠田麻里子・高橋みなみ・秋元才加といったリーダー層の後継者候補として、山内も何度かの選抜経験とアンダーガールズの主要ポジションを与えれ次世代のエース候補として。しかし、このところ、二人からその役割を感じさせる仕事はすっかり無くなってしまっていた。

「そこで、今回の会社が上場するって話です。」
大場が話を続けた。
「ストックオプションの話。私達には来てないんですよ。」
「ああ、それはそうだな。今回の株式公開はAKSとして行われるものだからね。君たちは直接AKSとの契約を結んでいるタレントではない。取引先の1人という考え方になるのかな。ストックオプションは取引先に付与される事もあるが、本来最初の良い条件で付与されるのは社員からだからね。今回は直接契約をしているメンバーだけに付与される事になっているはずだ。」
半沢の言葉に大場が頷く。それは知ってますと言った表情だ。島田も山内も表情を大きく変えていない。
きっと良く勉強してるんだな…半沢は大場の言葉を待った。
「株が上場したらきっと、このストックオプションを持ってる人はかなり利益を得る事になるんでしょ?」
「それはわからない。マーケットの状況次第だし、それにまだAKSの上場は正式に決まった訳ではないしね。」

大場が島田と山内に再び目配せをした。
「ねえ、みなるん。この人になら相談していいと思う。ね?島ちゃん。島ちゃん推しに悪い人はいないでしょ?」
「うん…半沢さん。私達から聞いたって、仲俣には言わないでくださいね?」
「仲俣…さんか?彼女が何か?」

「彼女、メンバーを卒業してスタッフとして戻ってきたでしょ?ワタシ達歓迎したんですよ。だって、元々同じチームだったし。そしたら…態度が全然違うんです。なんか、ワタシ達を見下してるっていうか…」
「仲俣さんがかい?そんな子には見えなかったんだが…」
半沢が腕を組んで唸った。先ほどまで話をしていた仲俣からは、そんな印象を全く受けなかった。聡明で元アイドルらしい輝きも感じられた。しかし、島田達から語られる彼女の姿はそれとはまったく正反対のものだった。

「それで私、思わず言っちゃったんですよ。つい…いらっとしちゃって。アンタ、何その態度って。」
「島ちゃんは責められないよ。だって、やっぱ酷かったもん。なかまったーの態度。」
山内が島田をフォローするように言う。本当にこの二人は仲がいいんだな…
半沢が推しているのは島田だけではない。ステージの山内の姿はとても魅力的だ。何度か見に行った劇場公演で半沢はすっかり山内の虜になってしまっていた。
「それで…言い過ぎたなあって思ったんですよ。きっと、汐里も戻ってきて新しい役割で頑張ってて、焦ってたんだって。んで、謝ろうと思って。美奈に一緒について来てもらったんです。そしたら…」

大場が島田の言葉を引き継いでその後を続けた。
「部屋の前に来て…聞こえちゃったんですよ。仲俣が湯浅さんと話してる…いや、言い争ってるのを。」
「言い争う?あの二人が?私からは抜群のチームワークを取っているように見えたが?」
「仲俣が大声で。なにを甘えた事言ってるの?切るモノ切らなきゃダメだって言ってるでしょ?そんな甘ちゃんだからメンバーに舐められるし、大した仕事だって取って来れないんじゃないの?あのね、公開準備室長なんて偉そうな役職もらってるけど、湯浅さんはただのお飾りなんですからね。支配人クビになっただけじゃなく、そのお飾りの役職も無くしたくなかったら、私の言う通り動いてくれればいいんです。まずは、そのリストを頭に叩き込んでね。サヨナラするコ達なんだから。」

半沢は眉間に皺を寄せて考え込んだ。
やはり…何かが…何かがある。
ココまで話がスムーズ過ぎるのだ。

そのリストを手に入れなくてはなるまい…

15

「今回のIPO(株式公開)で一番得をする人物…ですか?」
「そうだ。若林、お前はどう思う?」
朝早い新幹線だが、座席はほぼ満席だった。景気が良くても悪くても、日本のビジネスマンというのは本当に良く働く人種だ。もちろん半沢も若林もその中の1人なのだが。
「う~ん…そういや真剣に考えてみた事がなかったですね。普通は、まず創業者利益って事で大株主であるオーナーが得をするっちゃあしますよね。それから、会社の信用度が上がって資金調達がしやすくなるとか、社員の採用がしやすくなるとか。ただ、AKSの場合、実はそこが見えてこないんですよね。秋元先生も窪田社長も大株主の京落も、特にIPOする事で大きなメリットがあるようには思えないんですよ。」
若林の答えに半沢は頷いた。
「あとは…社員ですかね。今回は恐らく公開までの時間が短くなりそうなので、従持での株式取得が余り進まないでしょうからかなりストックオプションを出す予定にしてますよね。そこがちょっと気になる点といえばそうですかね。あまり乱発すると公開後の売り圧力になってしまいますから。」

公開前の株式を買う事は、その事自体が詐欺に悪用されるなど、非常に経済的メリットが大きい。特にもともと知名度が高く人気が出る事が予想される銘柄の場合はなおさらだ。市場で買うには、その銘柄の人気や期待度を含め値段が高くなる事が定石である。本来株式というものは「額面」といって、株券に記載されている値段が「定価」だ。普通は50円である事が多い。それが、上場すると500円とか1000円とかの値段がついて取引されるようになる。ネットバブルと言われた2000年初めには、50円額面の株が数万円まで暴騰した事もある。AKSの場合もその知名度と話題性からしたら、相当の値段がつく事が予想される。それを公開前に額面で買える従業員持ち株会や、額面とまでいかないが、かなり低い価格で買う事が出来るストックオプションの権利はとても価値のあるものだ。

「それで…どうだ?この間からメンバーの話を聞いてみて。」
「ええ…今回、彼女たちは厳密に言うと社員ではありませんが、まあそう考えていいと思います。でも、正直IPOそのものには殆ど期待感というものが感じられません。いえ、むしろ…部長がおっしゃってたリストラですか。そう言われて僕もはっとしましたよ。明らかに不安感を持ってますね。特に中堅というか、キャリアが長めの…」
「干され…か?」
「え…ええ。そうです。干されてるとされるメンバーから、その不安感を強く感じます。」
「若林…AKBグループの勢いってどこまで続くと思う?」
「勢いですか?」
「ああ。いいか、若林。銀行が金を貸す時も同じなんだが…大事なのは、今どうなのかよりもむしろ…」
「この先どうなるか、でしょ?わかってますよ。部長。IPOだって同じです。将来性をどう判断するかが大事なのは僕達企業部の仕事も同じですよ。今のAKBグループで一番の課題が実はそこにあるっていうのも良くわかってます。だからこそ、今僕達は名古屋に向かってるんでしょ?あのIIの部に書かれてた事業戦略の意味を確かめる為に。」
「俺は支店の事はまだそんなに詳しくない。SKEはお前の方が詳しいだろう?頼むぞ。」
「ええ。まずは、今日のKII公演を見る事からですよ。KIIはいいですよ~。なんたって今日はフルメンですしね。」
若林の目が輝きを放った。

16

「部長。僕、部長の事見直しましたよ。あんなに弾けるヒトだったんですね。」
ソファの隣の席でまだ引かない汗を額に浮かべた半沢に向かって若林が言った。
サンシャイン栄のすぐ近くにあるオフィスビルの洒落た応接室に二人は通されていた。
目の前のコーヒーから芳しい香りが立ち上っている。

「弾けるって…いや、若林…俺は正直圧倒されたよ。なんなんだ?いったい。」
「なんなんだって言っても…部長、劇場公演は初めてなんですか?」
「馬鹿野郎。初めての訳ないだろう。俺を何だと思ってるんだよ。秋葉原の劇場にはもう数えきれないほど行ったさ。最初に入ったのはパジャドラの頃だよ。シアターの女神公演なんて何回見た事か。あの公演でのゆきり…いや、柏木由紀なんて、本当に女神っているものなんだなって思ったくらいだ。それなのに…」
「あれがKIIですよ。」
若林が得意げな表情を浮かべた。
「いや、お前がそうやってドヤ顔をするのも良く理解できるよ。実は、俺は名古屋という場所に余りいいイメージを持っていなかったんだ。仕事という面でだな。それは、お前にもわかるだろ?」

若林は頷いた。ビジネスの世界、特に金融業界では名古屋は「鬼門」と言われる事が多かった。トヨタ自動車というワールドクラスでのトップ企業を擁し東京大阪に次ぐ商圏を持ちながら、その排他性の強さからなかなかリレーションを作るのが難しいというのがその理由だ。逆に一度信頼を得る事が出来れば、深い付き合いが可能になる。「営業担当の役員になる為には名古屋支店長を経験する必要がある」と言われるのも、そこから来ていると言っても良いだろう。

「という事は、SKEは部長のお眼鏡にかなったという事ですね。」
「ああ、あのステージを見て、その魅力を感じないヤツがいるならお目にかかってみたいものだ。とにかく、素晴らしい。まずだな…」
半沢の口調が強くなりかけた所で応接のドアがノックされた。
細身で二枚目の男が一礼して半沢の前に立った。内ポケットから名刺入れを取り出し、中から出した名刺を半沢と若林に渡す。半沢と若林もそれに倣った。
「はじめまして。劇場支配人の芝と申します。お二人の話は本部の湯浅と仲俣から良く聞いております。」
「芝支配人。本日は素晴らしい公演をありがとうございました。」
若林が笑顔で芝に言った。

「若林さん。視察にお越しになるのあれば、おっしゃっていただけたら良かったのに。招待席もご用意出来たんですよ。そうすれば、もう少し良い席で見て頂けたんですが…」
「いえ、なかなか当たらないのはわかっていたのですが…今回、たまたま新規でモバイル登録したこちらの半沢の枠で当選したものですから。やはり、新規は一度は抽選に当たるという都市伝説は本当のようですね。」
「はははは…その辺りはノーコメントという事で」
芝の笑い声に半沢も笑顔を見せた。

「劇場公演は立最こそが最上の席というのが私の持論です。今回は運よくその席で見せて頂けました。何よりですよ。しかし、芝さん。本当に素晴らしいステージでした。」
「ええ。私どもSKE48の真骨頂は劇場公演の熱さだと思っております。これは、どのグループにも絶対に引けを取りません。いえ、口はばったい言い方ですが、私どもこそが48Gでナンバーワンと自負しております。」
「なるほど。旧Bファンの私からしても、今日のステージを目の当たりにして、その言葉に異論を加える事は出来ません。実に説得力の高いものだ。」
「ですから…このSKE48をグループの中核に据え、全体の再編を行うという秋元先生の考え方は…」
芝はそこまで話して思わず口を手で押さえた。しまった…といった表情になる。
「構いませんよ、芝さん。その情報は既に私たちも持っております。」
半沢がバッグの中から厚みのある書類を取りだした。
「中期事業計画書の目玉の一つですね。保有コンテンツ力の最大化。企業として至極有用な戦略です。そして、今日、ステージを見て実感しました。秋元先生のプロデューサーとしての見識は間違いがない…と。」
半沢が言うと、芝は少し安心した表情を浮かべた。
「では…メンバーにお会いして頂きましょうか。主要メンバーを劇場で待たせております。」

17

劇場の客席に座ったメンバーを前に半沢は自分が少し緊張している事に気がついた。
さすがにステージに登る事はしていないが、立ちあがった半沢を全員が上目遣いで見る形になっているせいかもしれない。

「今日の公演、とても楽しかったです。ありがとうございました。」
「立最にいましたよね?そんなエライひとって思わなかったから、ワタシ遠慮なしに爆レス送っちゃいましたよ。」
「ホント、ホント。ノリも良かったし。私も。気づいてくれてましたよね?」
内山命と竹内舞が切りだしてきた。半沢の緊張感は二人の気さくなノリに一瞬で取り払われた。
「ええ?ステージの上からそんな客席の事わかるものなのかい?それに、私の事をあんな短い時間の間で覚えていてくれたと?」
「私も覚えてますよ。だって、公演でスーツ二人組なんて珍しいし。」
「ね。ね。そーだよね。」
頷いているのは小林亜実と柴田阿弥だ。周りのメンバーも同じような表情を浮かべている。

「KIIだけでなく、他のチームの公演も見て行ってください。半沢さん。同じように楽しめるのを保障しますよ。」
一段と高い声で松井玲奈が言う。半沢はその声を意外な感じで聞いていた。
玲奈の声は全体を仕切る立場での発言というよりも、むしろ「なんでKIIだけ?」といったちょっとした抗議主張のようなトーンが入っていた。
優等生…そんなイメージで玲奈を見ていた半沢の印象が一瞬で変わるものであった。
「ありがとう。それはもちろん、ぜひお願いしたいと思っている。が…今日はちょっと幾つか皆さんに聞きたい事がある。玲奈さんには申し訳ないが、今日ステージを見たばかりなので、まずはKIIのメンバーに…」
「はい!何でも聞いてください!何から話せばいいですか?」
高柳明音が立ちあがって甲高い声を上げた。この子はイメージ通りだ。思わず半沢は笑顔を浮かべた。

「あかり…須田亜香里さん。」
「はい?あ、亜香里ですかぁ?あ、今、半沢さん、あかりんって呼ぼうとしたでしょ?いーですよ、あかりんって呼んでください~」
「あ…いや、その…」
須田の甘ったるい話し方に戸惑う半沢に周りから笑いがおきた。若林も笑いをこらえている。
「須田さん。あなたのステージでの輝きはとにかく素晴らしい。まるで、シアターの女神とはあなたの為に作られた言葉かと思う位だ。」

ひゅー
敢えて思いっきり歯の浮くような美辞麗句で切りだした半沢にメンバーから笑いと茶化すような声が上がる。だが、それは決して変なトーンではない。いつも取ってるリアクション・・・そんな風に感じた。
半沢は続けた。

「これまであなたは、ステージの隅の方が立ち位置だった。それは私も知っている。それが新チームになりセンターを任される事となった。普通なら気負いがあったり、戸惑いを感じたりするものだ。それが実に堂々とした振る舞いだった。まるで、今までずっとセンターで脚光を浴びていたかのように。やはり、新チーム体制になって多少時間も経っている事で慣れてきたのかな?」
「慣れた…のかなぁ?」
須田が口を結んで困ったような表情になった。
「半沢さんにも見せたかったですね。あかりんは、KIIでは最初からあんな風に堂々としていましたよ。」
「最初から?なるほど、やはり須田さん。自己顕示欲が強いのは、芸能人として適性が高いという事です。すばら…」
「あの…亜香里、センターになったから張り切ってる訳じゃないですぅ。ずっと…ずっと。亜香里の事を見てくださってる方にとっては、亜香里がセンターじゃないですか。だから、どこに立ってたってそこがセンターなんです」
須田の言葉は力強かった。表情は変わらず笑顔だが、その言葉には半沢を唸らせる説得力があった。
周囲のメンバーもいつの間にか真剣な表情になっている。

「なるほど…では、次に…玲奈さん。いいですか?」
「はい。何でしょうか?」
松井玲奈が立ちあがった。すらっとした長身。背筋の伸びた姿勢がその凛とした美しさを際立たせていた。
しかし、その背中には燃えるようなオーラがある。半沢は感じていた。数多の成功した経営者がまとっていたものと同じオーラだ。この子をただの可愛いアイドルと考えて接してはダメだ。今回のビジネス、彼女もまたキーパーソンの一人に間違いない。

「名古屋…という地をどう考えますか?」
「名古屋?私は…私たちはこの名古屋という場所に育てて頂いたと思っています。名古屋のファンの熱気があってこそのSKE48です。」
「なるほど。しかし、SKEのファンには関東圏の人間が多い事も事実だ。握手券の売れかた、名古屋ドームの来場者の分析等からもそれを裏づけるデータもある。君もそれは感じているんじゃないかな?」
「…わかっています。それでも…私たちはSKE48なんです。半沢さん、何がおっしゃりたいんでしょうか?」
玲奈の目線が強くなる。いかん…ついこの子の強さに全てをさらけ出してしまいそうになる。
まだ時期尚早だ。それに、多くのメンバーが揃っているこの場で切りだす話でもない。

「失礼。確かにその地元への想い。とても大切な事だね。ありがとう。では、話をちょっと変えようか…珠理奈さん。」
「はい!私ですね。何でしょうか?」
「君は…ちなみにあのダジャレはいつまで続けるのかな?」
「えええええ?そっから来ますか?もっと、こう真面目な話じゃないんですか?なんか、あかりんと玲奈ちゃんと扱いが違うような気がするんですけど…」
「いや、とても大事な事なんだが?」
半沢の言葉に周囲から爆笑がおこった。


18

「いいか玲奈、もうお前は大人なんだ。いい加減聞き分けなさい。」
「でも、智也さん。今までずっとガマンしてきたじゃないですか。確かに智也さんが名古屋に来てからというもの、色々と良い事が続いてるのも事実です。単独ドームだって、数々のタイアップだって。智也さんに力があったからだって事もわかってます。みんなそう思っています。でも…」
「でも?玲奈、お前、自分の事はどうなってもいいと思っているのか?それに、俺が何も知らないとでも思ってるのか?」

最近、芝の玲奈に対しての言葉と態度は厳しさを増していた。
支配人に就任したばかりの頃は何となく頼りなさすら感じていた。頼りなさというか、何を考えているのかわからないといった表情は弱々しさすら感じさせるものだった。
ところが、芝のビジネス才覚は確かなものであった。そして、徐々にではあるがメンバーをしっかりコントロールし始めて行った。
前任の湯浅が築いた支配人とメンバーの距離感。どこか、父親と娘のような距離感を芝は一変させた。
あくまでもそれは「マネジメント」だった。その柔らかな人当りから優しさを感じさせる芝だが、メンバーへの対応へはどことなくビジネスライクな所さえあった。

「いいか、玲奈。面子は大きく変わったとはいえ、Kの連中は俺が見てきた面子だ。いくら奈和が何かを企んでるかもしれんが、変な動きは全部こっちに伝わってきてるんだよ。」
玲奈は芝を見上げるような形で見た。
やっぱりこの人はコワイ人だ。力がある人は得てして高圧的になりがちなんだけど、この人にはそんなところが全然ない。だからこそコワイんだ…
やはり、この人は的に回しちゃいけない人なんだ。でも…だからこそ、味方に出来たら…

「智也さんは、今はSKEの支配人ですよね?」
「ああ。そうだよ。でもな、玲奈。同時に俺はAKSの社員でもある。本店の意向に忠実な犬だって言われてるのも知ってるさ。お前らが名古屋じゃなく関東…いや、本店寄りのマネジメントに不満を持っているのも良くわかる。だがな、名古屋も大事かもしれない。が、本店あってこそのSKEじゃないのか?」
「智也さんには野心とかないんですか?」
玲奈が大きな目を芝に向けた。

玲奈が言いたい事は芝にも良くわかっていた。
野心がないといえば嘘になる。むしろ、俺に与えられたポジションはその野心を満たす事が出来るものなのかもしれない。
しかし…それは諸刃の剣だ。俺には全てを失ってまでも野心を優先出来る強い男じゃない。
それに、あの男のようになるのもゴメンだ。ただ人がイイだけで無能だとの烙印を押されたあの男のように。

「あの半沢さんってヒト。智也さん、どう思います?」
「半沢?ああ、あの証券マンか。相当のキレ者らしいな。ただ、所詮はウチが上場する事でのお零れをいかに預かるかしか考える事しか出来ない小間使いだよ。あの男が幾ら切れるからといえ、今から出来る事は何もないさ。」
芝は玲奈に背中を向けた。もうこの話はいいだろ?その背中がそう言っているようだった。


19

「仲俣さん、この辺りの数字だが…」
「はい?ああ、その売り上げ計上は監査から指摘を受けたので勘定科目を変更したんです。」
半沢の指摘に仲俣が一つ一つ明確に答えていく。
公開直前期の決算等の数字については、特にデリケートにチェックしていく必要がある。
急成長期のベンチャー企業が公開を急ぐあまり、決算状況に手心を加えようとする事は珍しい事ではない。むしろ、多少なりともグレーな扱いを許容される事の方が多いくらいだ。
半沢と若林は、その事を十分理解した上で敢えて厳しめの指摘を仲俣にぶつけてみた。
どの答えも明瞭で淀みがなかった。

「ちょっと一息入れよう。もうこんな時間だ。」
半沢が腕時計を見た。朝の9時過ぎから始まった公開準備資料のチェック、時刻はもう夕方5時前になろうとしていた。
「そうですね。私、ちょっとコーヒー淹れてきますね。」
「ああ、それは嬉しいな。仲俣さん、ありがとう。」

仲俣が部屋を出たのを見て、若林が小声で半沢に話しかけてきた。
「部長のおっしゃる通りですね。全く漏れがない…。取引先へのレビューも何社も行いましたが、判を押したように優等生的な答えが返ってくる。まるで示し合わせたように…」
「示し合わせてるんだよ。」
半沢は答えた。若林もわかっていて聞いたようだ。納得したように頷く。
「ただ…ここまで綿密に口裏を合わせるような事をする必要があるんですかね?直前期の決算内容、取引先の健全性が高く、利益率も適性。まあ、さすがに内部管理体制やガバナンス等には多少の改善が必要かもしれませんが、その辺りは既に公開してるアミューズメント関連の企業だって、酷いところは多いですし。」
「ああ、今すぐにでも公開していいレベルだよ。見事だ。見事すぎるんだ。」
「部長。でも…AKS、これじゃ公開時がピークそのものになっちゃいますよ。」

若林の指摘は極めて正しかった。確かに今のAKB48Gには誰もが認める圧倒的な知名度がある。ただ、公開時に人気が集中するかというと不安点が多い事も事実だ。通常、ジャスダックに公開するような企業は「先物買い」の要素で評価される事が殆どだ。財務体制や管理体制の健全性にはまだ未熟なものがあっても、その企業の将来性やビジネスの飛躍的な成長が買われるのだ。
IIの部に書かれた事業戦略には、今世間で指摘される事の多い「今後」への期待を感じさせるものがある。そこに書かれているのは「変化」だ。しかし…それなら…矛盾点が多すぎる。メンバーを大胆に世代交代させるのも、姉妹グループのメンバーを思い切りフューチャーするのも…やるなら今だ。そして、その為には…

「誰がいったい得をするって言うんでしょう?このIPOは。」
「その通りなんだ。株式公開するメリットはどこにもない…むしろ、その結果、株主や市場の影響を考えなくてはならなくなり、これまで通りの好き勝手が出来なくなってしまうぞ?しかし、どう見ても公開を急いでるとしか見えない。なんだ?いったい、そうまでしてこの会社を公開させたい意味はどこにあるんだ?」

「先生、何を心配してるんですか?大丈夫です。私達に全て任せて先生は大船に乗ったつもりでいればいい。」
廊下から甲高い声が響いてきた。
その声を聞いて急に若林が立ちあがった。
「どうした?」
若林は半沢の言葉に答えず、立ちあがって廊下に飛び出した。

「山里!何でお前がここにいるんだ?」
声をかけられた男が隣を歩く秋元康と同時に振り向いた。
派手なピンストライプのスーツ、丸いレンズに赤いフレームのくだけた感じのメガネをかけている。
「若林か。俺がここにいちゃおかしいか?主幹事は取られたが、ウチも秋元先生に今後の協力を願い出たところさ。お前とは色々あったが、共にAKSの為に尽力していこうじゃないか。じゃあ、またな。秋元先生、ここで失礼します。」
「ああ、宜しく頼むよ。若林さん、山里さんとお知り合いだったんですね。」
秋元の言葉に若林が拳を握りしめて頷いた。
「ええ。よ~く知ってますよ。いや、彼の事を忘れた事なんて一日としてありません。」

「誰だ?」
半沢がいつの間にか若林の隣に立っていた。
「山里亮太。大学の同級生ですよ。僕の最大のライバル…いや、アイツは僕の事を歯牙にもかけていないでしょうけどね。」
「ライバル…?」
「ええ。野山證券本店企業開発部の…今は次長になってるはず。今、この国内市場で最も多くのIPOに関わっている男だと言ってもいい。」
「野山?野山がまだ絡んでるのか?野山は降りたはずじゃ?だからウチに主幹事が回ってきたんじゃないのか?この場面でなぜまだ野山が…?」

半沢が腕を組んだ。

その姿を見ながらトレイにコーヒーを乗せた仲俣が静かに部屋に入っていった。
「山里さん、ちょっと登場が早すぎたんじゃないのかなぁ?」

静かに微笑み、仲俣はカップのコーヒーに口をつけた。

20

「ね?奈和。その話、やっぱり無理があるって。それに、智也さんに全部バレてるみたいだし。って事は当然戸賀崎さんだって知らないわけないし。このまま闇雲にやったトコで大人たちに潰されて終わりになっちゃう。」
「でも、島田さん、このままじゃマズいって事わかりますよね?実際、私たちチームKの状況見ても。こないだの公演、定員割れしたって話じゃないですか。仲俣さん達が企んでるリストラって脅しや冗談じゃないと思いますよ。」

劇場公演の終わった後、送迎のバスで降ろされた日暮里のスタバ。奥まった席で内緒話をするような格好になって集まっているのは、古畑と島田、そして宮崎美穂と内田真由美だ。
「でも、本当にやれるのかなぁ?リストラなんて。今までだって散々噂あったじゃん?でも実際には何も変わらないし。今回も仲俣の暴走なんじゃない?あの子、秋元先生の肝いりで戻って来たからっていい気になってるだけなんだよ。」
宮崎の口調はどことなく苛立ちが込められていた。同意するように頷く内田の表情からも同じような感情が伝わってくる。

「島田さんは?島田さんはどう思うんですか?島田さんまで、この人達みたく安穏としてる訳じゃないですよね?」
古畑も苛立っていた。こんな風に話をするのはもう何回目になるだろう。本当にこの人達に危機感ってあるんだろうか?
「安穏ってどういう意味かなあ?自分が推されてるからって何かいい気になってない?はるぅも甘い顔してちゃ駄目だろ。優子さんにリーダーとしての意識持てって言われてるんだろ?がつんと言ってやりなよ。第一、アンタにどれだけの力があるって言うんだよ、奈和。」
島田が言葉を発する前に宮崎が古畑に噛み付いた。
「はぁ…わかりましたよ…ある意味その無神経さがあったから、ここまでそうしてAKBにしがみついてられるんでしょうからね。」
「ちょっと奈和、それは言いすぎだって。みゃおさんも落ち着いて…ん?何この紙?」

古畑が何も言わずに島田に一枚の紙を手渡した。
A4サイズのものを4つに折りたたんである。

「こ…これ。奈和、いったいこれをどこで?」
島田が目を丸くする。手に持った紙が小刻みに震える。
「みなさんが一番見たいものでしょ?宮崎さん、これ見てもさっきみたいな戯言を言ってられますか?」
「ちょ…これ、マジなの?アンタ、冗談とか言うの無しだよ。洒落にならないから。」

タイトルこそついていないものの、そこに並んだ名前を見れば、島田が仲俣の話を盗み聞きした時に話題になっていた「リストラリスト」である事は一目瞭然だった。そこには、2期から12期までの多くのメンバーの名前があった。宮崎も内田も載っている。もちろん島田の名前もだ。
「やっぱり…そうだったんだ…なんとなくそんな風に思ってた。」
内田がその場に座り込んだ。目が虚ろだ。

「わかった。でも…奈和、ここにはアンタの名前はない。なんで、自分のことのように私たちに構おうとしてるんだよ?」
宮崎が急に消沈したような顔になり聞いた。
「だって…悔しいじゃないですか。私、兼任とはいえ皆さんと同じチームで頑張ってきた仲間だと思ってます。それが、こんな風に簡単に用済みみたく切られるなんて。」
「奈和…ごめんな、さっきはついかっとなっちゃって。ねえ、私達はどうすればいいと思う?もうこんな風に決まってる事なら、私達がいくら抵抗したって無理な事はわかるんだけどさ…」

「ここは…恩を売っとく方がいいと思います。」
「恩を?すんなり大人しく身を引きますってこっちから言うとか?」
それは納得いかないよ。島田がそんな風に古畑に言う。
「いえ、黙って何も言わずなんて事。それじゃ先輩達が余りにも不憫です。幸い、先輩たちは皆さん事務所に所属しています。あとは、いかに個人でプロモーションしてもらうかですよ。」
「プロモーションって、AKBのバックボーンが無くなって、どうやって事務所が金かけてくれるってんだよ?」
宮崎が聞く。だが、先ほどのテンションは無い。語尾の弱さがそれを物語っていた。
「お金は…自分たちで用意すればいいんですよ。事務所には名前と力だけ出してもらえばいい。そうすれば、仮にも元AKBです。事務所だって嫌って言いませんよ。」
「奈和…それはわかるけどさ…お金なんて、どうやって用意するんだよ。まさか、親に出せとか言わないよね?」
「いえ、島田さん。いくら島田さんのご自宅が熱海の老舗旅館でも、内田さんのご実家が大きな焼肉屋さんでも、そこまでは言えないでしょう?退職金を頂いちゃえばいいんですよ。」

「ス…ストックオプション?」
島田が思いついたように言った。古畑が黙って頷く。
「奈和…アンタ、そこまで考えてくれてたの?」

古畑は大きな目を潤ませて島田の顔をまっすぐ見た。


…大丈夫だな。
これで、この人達はオッケイだ。
古畑は心の中で舌を出して笑った。


21

若林は自席の電話が鳴っているのを無視してモニターをにらみ続けていた。そこには、この3年分の新規公開銘柄の幹事加入データが並んでいる。
エクセルの一番左の行、「主幹事」の欄には「野山證券」の文字が並んでいる。東京セントラルをはじめとした他社の名前が出てくるのは殆どない。大手の山興、平和證券の名前ですらそうだ。

「ガリバー」
業界最大手、野山證券の別名だ。
野山が最大手である所以は、新規公開市場での圧倒的なシェアだ。主幹事はその会社が新規に市場に売り出す株式の大部分を自社で取り扱う事が出来る。いわゆる「新規公開株」だ。これらを引き受ける「引受手数料」は大きな会社の収益になる一方で、仮に公開株が人気が出ずに売れ残ったりした際には主幹事証券が身銭を切る事を求められる。引受け部門で圧倒的な力を持つ野山でなければ、そのリスクを持つ事はなかなか出来ないのが現状なのだ。
また、主幹事証券は公開後の株価の推移にも責任を負う事が多い。もちろん市場原則からいえば、価格調整など出来っこないのだが、公開後株価を下落させないために買い支えるのも主幹事の役割だ。その為に営業が顧客にその企業を「推奨銘柄」として勧めるのだが、それが出来るのも野山のガリバーの力があってこそだ。

こうした意味で、野山以外の証券会社が主幹事の座を奪い取る事は容易ではない。ましてや、AKSは市場の注目度からも公開規模感からも、野山が黙って見過ごすような先ではない。ウチが先行していたものを、土壇場で野山にひっくり返された事は今まで何度もあっても、逆はない。少なくとも若林の経験の中では。

大学の同級生、山里に強烈な劣等感を抱いているのも、その理由だ。学生時代、アイツには何一つ負けている所はなかった。冴えない風貌で、いつもヲタク気質で女の子からの人気もまったくなかった。どこな自信なさげな表情とうろたえたような目をしていた。ところが、この数年、事あるごとにアイツの影が俺の仕事を邪魔するんだ。

「どうした?まだ納得がいかないか?」
半沢に肩を叩かれ若林ははっと我に返った。
ちょっと行くぞ。そんな風に半沢が目線だけで若林を外に誘う。
若林はモニターにスクリーンロックをかけると立ち上がった。

「なぜ、この時期であそこまでの準備が出来ているかの疑問は消えたな。野山の公開コンサル部隊なら造作もない事だろう。しかし、逆にもっとわからない事が増えちまったな。」
半沢がブラックの缶コーヒーを飲みながら言った。
外はもうすっかり初夏の陽気だ。桜の季節が過ぎると、東京セントラル証券の本社オフィスがある丸の内界隈は一気に緑の色の濃さが増してくる。
「なんか、最初から面白くないって顔してたもんな、お前。今もだけどな。敵から塩を贈られたように思ってるんじゃないのか?」
若林は半沢の言葉には反応せずに、足元に群がる鳩に持っていたパンを千切って与えていた。昼食にしようと思っていたサンドウィッチだ。全然食欲というものが沸いてこない。

「部長。僕も東京セントラルの社員ですからね。AKSの公開を引き受ける事が業務指示なら全然構いませんよ。そんなちっぽけなプライドなんてくそ食らえです。」
「若林。それは違うぞ。確かに仕事にはラッキーが突然降ってくる事なんてある。だがな、これは違う。何かが…何かがおかしいんだ。なぜ、あえて野山がこの時期にわざわざ自分たちが育てた案件を捨てるような真似をするのか。この案件、絶対に何かが隠れている。」
「でも…どうすれば…その何かにたどり着けるんでしょうか?こうしている間も着々と公開へのスケジュールは進んでいるんです。」

半沢は飲み干した缶コーヒーを近くのゴミ箱に投げ入れた。
「若林。もう一度原点に立ち返るぞ。人だ。キーパーソンと、とことん話すんだ。何度でも、どんな小さな事でも見落とすな。どこかに…絶対どこかに歪みが存在するはずだ。」


22

「上出来だよ、奈和。うん、やっぱり私の目に狂いはなかったね。」
「いえ、全部指原さんの策略通りに動いてるだけですから。でも、本当に大丈夫なんですよね?ちゃんと約束は…」
「当たり前でしょ。大丈夫、ちゃんと空いた枠には上手く入れるようにするからさ。で、どう?玲奈ちゃんは。上手くSKEの中を取りまとめられるかな?」
「それが…あの人、やっぱり名古屋なんですよ。」

都内のホテルの一室。
指原莉乃がソファに座った古畑にアイスティのグラスを差し出す。
古畑がそれを笑顔で受け取った。
「名古屋ねぇ。そんなに地方がいいのかなぁ?私には理解できないけど。ねえ、奈和には無いの?地元愛っていうの。」
「私ですか?う~ん…それよりも自分の事が大事ですね。」
「ははははは、正直でいいわ。そういうとこ、大好き。」
「あ、やめてくださいよ?私、指原さんのハラスメント対象じゃないでしょ?もっと若い子いますよ、SKEにだって。」
「もう何言ってるの。野心のある子は好きって事だよ。」
「指原さんと同じように?」

指原が自分のグラスの中身を一気に飲み干してベッドに勢い良く腰掛けた。大きなため息をつく。

「それで…本当に大丈夫なんですよね?玲奈さん、智也さんに釘を刺されたって言ってましたよ。私たちの動きなんてお見通しだって。」
「智也さん?ああ、全然気にする事無いよ。あの人は、ただのお飾り。今回の話の中枢どころか隅っこにもいやしないから。」
指原はベッドに上半身を横たえた。天井に向かって言葉を吐く。
「そろそろ、私にも全貌っていうか、そんな事教えてもらえないですか?私、不安で不安で。」
「ん~奈和はまだ知らない方がいいとだけ言っとくわ。徐々にね。でも、安心しな。ちゃんと次のチームKのセンターの座は約束するから。あ、Bのほうがいいんだっけ?って言っても、今のチーム構成なんて何の意味もなくなるしね。」
「お願いしますよ。私、このまま器用貧乏なんかで終わりたくないです。それに…指原さんのポジションにだって立ってみたいし。」
「私のって?まさか、いきなり総選挙1位とか狙ってないでしょうね?幾らなんでも今年は無理でしょ?先生が、もう選挙のガチは辞めるとか言い出さない限りは。」
「あの…本当にガチなんですか?選挙。」
「どういう意味?去年の私の1位がヤラセだってこと?」
「冗談ですよ。で…博多は誰を切るか決めたんですか?」

古畑の問いに指原が一枚のペーパーを取り出した。
「玲奈ちゃんの行動次第かな。余り動かせないのなら、こっちを切る数が少なくなっていいんだけどね。」
「何か、いい仕掛けできませんかね?今回の島田さん達を嵌めたみたいに。私、出来ればSKEの子には少しでも残って欲しいんです。」
「お、さすがの腹黒オンナ、古畑奈和にもそんな仲間思いの優しい気持ちが残ってたんだ?」
「いえ…違いますよ。あんな暑苦しい窮屈な所帯、ゴメンですよ。でも…友達もいますから…」
「奈和。」

友達…その言葉に指原が顔をしかめた。
厳しい顔で首を横に振る。
「この世界で成りあがろうと思ってるなら、その甘い考え、今すぐ捨てな。いい?信用できるのは自分だけ。利用できる者はとことん利用する。アンタはそれが出来ると思ったから、今回の事に加えたんだからね?」
「は…はい。わかってます。」
古畑は指原の顔を見て思わず立ち上がった。
「奈和…わかってます?違うでしょ?わかりました…だよね?」

古畑は思わず返事を忘れ、ごくりと唾を飲み込んだ。

23

東京セントラル証券の本社は、銀行のそれとは違い丸の内の高層オフィスビルにある。
社長室は役員室の並ぶフロアの一番奥だ。
銀行の由緒正しいが古臭いビルよりも環境的には随分快適なはずなのに、半沢はどことなくチープさを感じてしまっていた。それは、まだ彼が銀行員である事を意味しているのかもしれない。

「入りなさい。」
秘書が社長室をノックするとすぐに中から返事が返ってきた。
「第一企業部の半沢部長がお越しになりました。」
「ああ、ありがとう。半沢君、どうぞ中へ。」
「失礼いたします…」
深々と一礼して視線を上げると、そこには社長の小林と大和田の姿があった。

「社長直々のお呼びとなると、いささか緊張いたします。本日はどのようなお話でしょうか?」
半沢は敢えて大和田を無視するように小林に聞いた。
「まあ、座りなさい。今日は大和田さんにもお越しいただいている。」
「…という事は、AKSの事でしょうか。大和田取締役は随分、AKSにご執心のようですから。」
「半沢君~。そろそろその敵を見るような目線はやめてくれないかな?前にも言ったように、今の私と君の間には共通のミッションで結ばれたパートナーシップがあるではないか。」
「パートナーシップ?あなたの口から出てくるのに最も相応しくない言葉のように聞こえますが?」
「これ、半沢君。失礼じゃないか。」
「申し訳ございません。」
半沢をたしなめる小林の言葉にそれほどの強さはない。二人の関係はグループ内で知らない者がいない程に広まっているというのは事実のようだ。

「さて…では本題に入ろうか。AKSの最終資本計画案の検証は終わった頃かと思うが?」
「ええ。先ほど、最終レビューを終えました。驚きましたよ。秋元氏はあれで納得してるのですか?」
「もちろんだ。自らの保有株の売り出しを多くして少しでも株主数を増やしたい。それが秋元さんのご意向だよ。」
「しかし、大和田取締役。確かに、アミューズメント関連銘柄は個人株主を増やす意味もあって市場に出す株数を増やす事が多いのも事実です。エイベックスなんかがいい例です。だが、それは同時に大きなリスクを抱える事にもなるのは、あなたにもおわかりですしょう?これじゃ、資本上、秋元氏はAKSへの大株主としての発言力を失う事になりかねませんよ?」
「その通り。さすがは半沢君。僅かの間に証券マンらしくなったではないか。そうか、銀行に戻る事など諦めて証券マンとしてキャリアを積むつもり…」
大和田の顔を半沢が睨みつけた。
「は…ないみたいだな、ふむ。」

「しかも、大量の自社及び関連会社持ち株会への割り当て、そして何よりストックオプションの数だ。この規模の会社としては過去例の無い多さだ。公開した後すぐにこのストックオプションの権利が行使されたら…株価は一気に下落しますよ?」
「まあ、そうかもしれないね。何しろ、公開公募株の価格設定は8850円だ。持ち株会はこれを一株50円。ストックオプションでは300円で買える事になるんだからね。すぐに権利行使して転売しても、一株当たり8550円も儲かるんだからねぇ。1000株で835万円。一番多く割り当てがある人は1万株あるわけだから、まあ、ちょっとした一財産って事にはなるね。いや、羨ましい。やはり、入社するなら創業期のベンチャー企業に限る。我々銀行員は、億の金を勘定する事があっても手にする事など、なかなかないからね。」

「しかし、当初はここまでストックオプションは大量ではなかったはずです。いったい、どこに割り慌てを増やしたっていうんですか?」
「半沢君。やはり、株式公開時、功労者にはそれなりの見返りが必要ではないだろうか?」
大和田が表紙に「社外秘」とある資料のページを手繰った。後半の方でその手を止め、半沢にそれを見せる。

「こ…これは…大和田さん、そういう事か?」
「ほ?そういう事とは?」
「とぼけないで頂こう。運営側がリストラを画策しているという話しは既にこちらの耳にも届いている。そして、その対象者がリストアップされている事も。しかし、大和田…取締役。彼女たちへの退職金のつもりなのか?公開直前に人員整理を目論むような企業の株式が市場で評価される訳ないでしょう。あなたは、資本市場を甘く見過ぎている。」
「半沢君、君こそ何を勘違いしてるんだ?いいかね。ここにリストアップされているメンバーの名前をもう一度良く見たまえ。今のAKSの企業価値を高めているメンバーがどれだけいると?もう一度言う。彼女たちは福利厚生を図られるべき社員ではない。コンテンツだ。商品なんだよ。価値のあるものをラインナップする。それは、リストラと呼ばない。半沢君、ただの営業上の戦略だ。君らしくないなあ、優秀な銀行員とは思えない。おっと、失礼、今は証券マン…だったな。」

半沢はリストを上から順に目を通していった。
そこに並んでいるのは、確かに人気があるとは言えないメンバーだった。
大和田の言う事に不合理な点はなかった。

「大和田さん、私はこの件に関わってからというもの、ずっと妙な違和感を持ち続けてきました。そして、それは今も消えていません。あなたがいう事ももっともなのかもしれない。私はその違和感が消えるまで、とことんこの件に関わっていくつもりです。」
「あ、そうですか。では、これ以上は何も言うまい。あとはお好きに。小林社長、幾らこの男が何かを嗅ぎまわっても、この話はこれでFIXです。どうぞ、早めに決裁印を押印願いたいですな。」

「大和田さん。」
「まだ何かあるのかね?」
「先ほど、あなたは私の事を銀行員、いや今は証券マンと言った。確かにそうです。ですが、銀行だろうが証券だろうが、企業を見定めるのに大事なのは人を見る事という点では何ら変わる事がない。日本経済の礎を築く仕事に携わってきた自負から、絶対にこの違和感を解消してみせます。」

半沢はそう言って、その場を立ちあがった。
一礼して社長室を後にする。

「まったく…困った男だ。しかし…半沢よ…もう時間はないぞ。」
大和田が口元を歪めて静かに笑った。

24

「大場さん…君からは何も?」
若林の言葉に大場は目を伏せ頷いた。
やはり…若林がそう言いたげな表情で半沢に向かって首を振ってみせた。

「そうか。それじゃあ、今回の話しは会社側から切りだされた訳ではない。その動きを察知した島田さん達が申し出た事という事なんだな?」
「はい。そうです。私も…正直迷っています。」
「しかし、君の名前はあのリストには無かったんだろう?古畑さんが持っていたという…」
「そうですけど…」

若林と大場のやり取りを聞きながら半沢はどうしても整理のつかない事について、あれこれ考えを巡らせていた。
大和田の言葉ではないが、グループに新陳代謝を促す事は悪い事ではない。いや、むしろこれから先の事を考えるならやってしかるべきの事だ。しかし、それなら、なぜこんな風に退職勧奨まがいの事をして…

「しかし、古畑奈和という子、なかなかのものじゃないか。まだ高校生だろ?それがこんな風に陰で糸を引いて。大場さん。あなたはSKEの選抜で彼女と良く一緒になってますよね?どんな子なんでしょうか?私には、とてもそんな大胆な事を自らやるような子には見えないのだが?」
半沢が肩をすくめながら聞いた。
「そうですね…でも、奈和は野心家だと思いますよ。兼任になってからというもの、その傾向が一段と強くなった気がします。それに…奈和自身も焦ってるトコがあるんじゃないのかなぁ?」
「焦ってる?」
「ええ。あの子、自分が推されてる事に必要以上にプレッシャー感じちゃうタイプなんだと思うんです。結果を出さなきゃ出さなきゃって。それで、時々迷走しちゃう。」
「野心家というと須田さんかと思ってたが。」
「あかりん?あはははははは。」
大場が思わず大笑いした。何かおかしな事を言ってしまったのか?半沢が戸惑った顔になった。

「半沢さん、あかりんの野望っていうのはちょっと違いますよ。あの子は、ただまっすぐなだけ。まあ、もうちょっと加減を覚えなって言いたくなる時もあるけど。でも、あれがあの子のいいトコなのかな。奈和とは全然違いますよ。それに、奈和程臆病でもないし。」
「臆病?あれだけ大胆な役割を堂々と立ち振舞ってる古畑さんがか?」
大場は大きな目を半沢に向けた。
この子の目の鋭さには本当に感心させられる。
何かを乗り越えてきた迫力が目に宿っている。

「半沢さん。私、迷ってるって言うのは、AKBを辞めるとかそういう意味じゃないんです。むしろ逆。ただ…」
「ん?ただ?」
「半沢さん、次の選挙どうなると思います?あ、今度の衆院選じゃないですよ。ウチの選抜総選挙。」
「そんな事わからないさ。だから面白いんじゃないのか?でも、今回の卒業する事になるメンバーの中には中位から下位でならランクインするメンバーが多そうだしな。そうなると、こりゃ本支店の逆転現象が…」

半沢が若林の方を向いた。
「おい、もう選挙特集のムック本出てたよな?」
「ええ。ああ、丁度僕コンビニで買ったんですよ。」
「丁度いい。それ、ちょっと貸せ。」
「え…はい。」

半沢がページを手繰っていった。
「大場さん、みんな今回選挙出るのか?卒業するって決まってるなら、辞退するって子も多いんじゃないのか?」
「いえ。今回は立候補制じゃないんです。それに、まだこの件、かん口令がひかれてますから。」

「若林。行くぞ。」
「はい?行くぞって…まだ会議続くんですけど?」
「そんなものはどうでもいい!」
「でも、行くって…どこへ?」
「名古屋だよ。それじゃね。大場さん。」
「はい、行ってらっしゃい。お願いします。」

半沢が慌ただしく外へと出て行った。

25

サンシャイン栄の2階にあるSKE48劇場。
ステージの一部照明以外は落とされ、先ほどまで行われていた公演の熱気も薄れ始めていた。
そのステージの上で車座になって座っている数人のメンバー達。
しかし、もう15分近くになるだろうか、誰も言葉を発する事無く、その分だけそこの空気が重くなっていった。

「ね?ね?私の説明わかりにくくないですよね?ちゃんと伝わってますよね?」
沈黙に耐えかねたように古畑奈和が口を開く。
それを聞いてもメンバーは下を向いたままの者や、隣どうしで顔を見合わせるだけの者ばかりで相変わらず声を出す事はしない。
古畑も困った顔で頬を膨らませるだけしか出来なかった。

私達が表舞台に立つチャンスが来たんだ。
そう表現したのは指原の指示だ。
「今のSKEは飢えてる子が多いはず。単独での名古屋ドームも成功させた。今度の選挙でも去年以上の躍進を見せるのも確実。一方で、本店優遇の体制に不満を持っているのも間違いない。奈和、アンタだってそうでしょ?」
指原の自信たっぷりの言葉と表情が頭の中に浮かんだ。
指原さん…なんか、指原さんが言ってた反応にならないんですけど…
どうしたらいいんでしょうか…

「ねえ、奈和自身はどうしたいと思ってるの?」
最初に口を開いたのは松井珠理奈だ。
よかった…やっぱり珠理奈さんだ…兼任って窮屈なポジションにいる事にジリジリしてるのは私と同じなんだ。そうだ、珠理奈さんなら私の言ってる事もわかってもらえるはず…古畑はほっとした表情で珠理奈を見た。
しかし、それに続いた珠理奈の言葉は古畑が期待していたものとは全く違っていた。
「奈和…まさか、本気でそんな誘いに乗ろうって言うつもりじゃないよね?AKBのメンバーが大量に辞めるのはわかったよ。辞めるのか辞めさせられるのかはこの際どうでもいいとして。で、その空いたポジションに私達が移籍できる?兼任じゃなくて移籍?ねえ、奈和。その話のどこがいい話なの?」
「え…あの…珠理奈さん…いつも言ってるじゃないですか。私の目標っていうか野望はAKBのセンター取る事だって。だったら…」
「その通りだよ。でも、違うよ、奈和。SKE48の松井珠理奈としてセンター奪わなきゃ何の意味もないんだよ。なんで、ワタシがずっと兼任ってポジションを引き受けてると思う?」
「それは…その方が知名度とか露出とか…自分にとって…」

古畑が口ごもる。そこに言葉を被せてきたのは大矢真那だ。
「奈和ちゃん。珠理奈がどんだけ重圧に苦しんでるか知らないの?あなた、同じチームに兼任してていったい何を見てきたの?」
大矢の口調がいつになくキツい。
普段は柔らかくて優しい人だけど、こうして時々びくっとなる程怖い表情をする事がある。そうだ…曲がった事が大嫌いな人なんだった…

「あの…あの…」
古畑が思わず声を詰まらせる。
大きな瞳からは今にも涙がこぼれそうになっていた。

かしゃっ

気まずさの重量がどんどん高まるその場の空気を切り裂くように、携帯のシャッター音が響いた。


26

「ちょ…ちょっと、あかりん…空気読みなよ…」
澄ました顔で携帯のカメラに向かってポーズを取る須田を、高柳明音が肘でつつく。
えへっ…そんな顔で須田が舌を出して笑った。

そうだ、須田さんがいた。
須田さんならきっと同意してくれる。
そう、ある意味一番野心を持っているのは須田さんに違いない。
「あの…須田さん。須田さんはどう思いますか?きっと、AKBに入ると…」
「え?あかり?う~ん、奈和ちゃん、あかりはいいや。」
「いいや…って。あの…須田さんはもっと上に行きたいっていつも…」
「上?うん。そりゃそーだよ。あかりってもっともっと出来る子だと思うしぃ。ね?ちゅりさん」
須田の反応にとうとう古畑は泣き出してしまった。
ためていた涙がつーっと頬を伝う。

「あかりん、もう。ちゃんと話してあげなよ。」
「あらららら…ごめんごめん奈和ちゃん。」
高柳に言われて須田が頭を掻いた。
「あのね、奈和ちゃん。私は絶対に絶対に一番のアイドルになるって決めてるんだ。
でも、それはね、私一人でじゃないよ。私は見てきたんだ。
先輩たちがどんな思いでこのSKEを大きくしようと思って頑張ってきたのかを。
辞めていった先輩たちもそうだった。そして、今いる先輩たちもそう。」

須田が急にまじめな顔になって話し始めた。一人称が「私」に変わる。
「私とゆりあとゆっこはね、そんな無茶苦茶厳しい環境の中でひたすら鍛えられたの。
怖かったなぁ。ね?ゆりあ。」
「そうなんだよね。カツヲが鬼みたいでね。あ、カツヲとか言ったら怒られるわ、ヤバ。」
木崎ゆりあが辺りを見渡した。その場の空気が少しだけ和らいだようになった。

「でも、私は奈和の気持ち、少しはわかる気がするよ。」
意外な所から助け船が出た。高柳だ。
古畑が今回の話で一番の難敵と考えていたのがこの高柳だ。
何しろチーム愛が服を着て歩いているような人なんだから。

「ちゅりさん…」
古畑の顔はもう涙でぐちゃぐちゃだった。
「わかる気はする。気はね。必死なんだよね?奈和も兼任してもう1年か…
それ以来、色んな所で色んな意味で期待されて。
プレッシャーもあったんだってわかるよ。すごく。でもね…」

「はい…」
古畑は力なくうな垂れた。もう駄目だ。
失敗だ。きっと、役割を失敗した私はもうあの人達に信頼される事はないだろう。
ましてや、裏切るような事をした私をこの人達が許してくれる訳もない。

「あのね、私たち、みんなSKE48が大好きなの。」
高柳の言葉に皆が笑顔で頷いた。

ああ…そうだ。この笑顔だ。
私は何を見失っていたんだろう?
私が魅かれたのはこんな風に笑ってる先輩だったはずだ。
今の私、絶対にこんな風に笑えていない。きっと卑屈な笑顔のはずだ。

「すみませんでした…私、皆さんに謝っても謝りきれない事を…皆さんだけでなく、色んな人を…もう、私…」
古畑が立ち上がって深く頭を下げた。そのままその場を去ろうとする。

「奈和。」
「…」
松井玲奈の声に古畑はその場に立ち止まった。振り返る事はしない。
玲奈はその背中にむかって語りかけた。
「奈和も聞いたよね?あの大歓声。感じたよね?あの熱気。」
玲奈が何を言いたいのか痛いほどよくわかる。
さっきまで、何でこんな簡単な事に気づけなかったのだろう?
あのナゴヤドームでのSKEコール。永遠に途切れることがないかと思えたメンバーへの大歓声。
私の名前を呼んでくれている人もいた。そう、それは紛れも無くSKE48チームEの古畑奈和への声援だ。
私は、あの熱気を失う引き換えに何を手に入れようとしていたんだろう…

「奈和…ね、奈和は私達の事が嫌になったの?」
涙声で詰まりながら声をかけたのは、菅なな子だった。
「嫌になったから…じゃないよね?そうじゃないよね?だから、こうして…
奈和なりに私達の事を考えてのことなんだよね?」

なな子…そんなわけないじゃん。私が自分の得になるからって思っただけに決まってるじゃん。
それに…人のことなんか構うな…指原さんにはそう言われてたし。
まったく、大体アンタはいつだって人の心配ばっか。
自分がどんなに疲れてても、いっつも奈和疲れてない?奈和大丈夫?って。
始めて私が選抜に選ばれた時だってそうだった。何かと世話ばっかやいちゃって。
お弁当はここだよ。集合時間は何時だから何時に起きなきゃ駄目だよって。

大好きだよ。私はそんななな子の事が大好き。
でも、私はそんな大切な親友を裏切ったの。
それが、古畑奈和ってオンナなの…

「奈和。明日は公演だからね。しかも昼夜2公演。久しぶりにフルメン揃うんだから。
泣きはらした目で出てこないように、今夜はちゃんと目をアイシングして寝ること。いいね?
ああ~私お腹すいちゃった~。誰か何か持ってない?」
「あ、玲奈ちゃん、私もお腹すいたぁ~ねえ、これからラーメン食べに行こうよ。」
「やだ、真那。さすがにこの時間からラーメンはないでしょ?」
「ええ?なんで?」
「なんでって…普通じゃない?誰か行こうよぉ。奈和は?行かない?一人ラーメンやだぁ。つきあってよぉ」

「玲奈さん…真那さん…私、もうみなさんとは…」
「奈和。悪いと思ってるなら、全部ステージで返して。ごめんとか申し訳ないとかいいから。
そう教わった来たんでしょ?」
玲奈が片目をつぶって笑った。

古畑がその場に泣き崩れた。
「ほら。立つよ。真木子さんに怒られるよ。ステージで泣き言言うなって。」
「うん。うん。うん…」


「若林、ホテル取っといてくれたよな?行くぞ。」
「え?会っていかないんですか?わざわざ飛んできたのに。」
劇場のドアを半分だけ開けて、そば耳を立てていた半沢と若林だったが、事の収まりを見定めるとそっとそのドアを閉じた。劇場のエントランスに向かい歩き出す。

「もう会ってどうこう言わないでもいいだろう。お前も聞いてたろ?もう大丈夫。
俺たちがやる事はもうなくなったよ。」
「ええ…そうですが…わざわざ名古屋まで来たのに。」
「おお、明日一番で芝さんに電話入れておいてくれ。昼公演の関係者席入らせてくれないかって。
見たいと思っていたんだよ。E公演。」
「まったく…わかりましたよ。」
半沢が苦笑する若林の背中を叩いた。

27

「なんですって?部長、本気ですか?」
「ああ。もちろん。私は冗談を言う時は時と場合を選ぶ。若林、今はその時ではない。」
「しかし…僕達は東京セントラル証券の社員です。会社の利益をみすみす逃す事になる行動が許される訳が…」
「会社の利益?何をもって利益を上げる、そう言うんだ?IPOの主幹事を取って数億の引受手数料を稼ぐ事か?違うはずだ。前にも言ったよな?真の企業の成長の為に最善の資本政策を実現させる。それが、俺達証券マンの使命のはずだと。若林、もう一度言う。今回の株式公開、AKSにとって最善の施策では断じてない。」

半沢の話が熱を帯びて来たその時だった、デスクの上に置いてあった半沢の携帯電話が鳴った。
待ちわびていたように半沢が電話に出る。

「もしもし、半沢だ。渡真利か?どうだ、わかったか?…ああ…そうだ…うむ…」
電話の向こうから渡真利忍の興奮した声が漏れ聞こえてくる。
半沢の顔も徐々に紅潮し始めて来た。
「やはり…やはり、そうか。ああ、それだ。間違いない。そういうからくりか。
わかった。ありがとう渡真利。やはり、持つべきものは優秀な同期だよ。」

半沢が電話を切り、苦み走った笑顔を若林に向けた。
「どうやら、ギリギリ間に合ったようだ。全部ではないが、ようやく点が線に繋がったよ。」
「間に合ったって…AKSの経営会議は明日ですよ?その翌日には取締役会で最終スキームが決議されてしまいます。そうなったら…僕達には何も手出しできませんよ。」
「わかってる。若林、俺はただのファンとして彼女たちの為にこんな事を考えているんじゃないぞ。今は時期尚早だと言っているだけだ。もっと、きちんと体制を整えさえすれば、素晴らしい形でのIPOは可能だと思っているんだ。俺が納得できないのは、なぜ“今”なんだという事だ。あまりに拙速すぎる。しかし、その理由は渡真利が調べてくれたよ。俺の同期だ。融資調査部のオプ(調査員)をやってる男だが、こういう寝技をやらせたら、アイツの右に出るヤツを俺は知らない。」

若林が身を乗り出した時、半沢のデスクの電話が鳴った。

「はい、半沢です。はい…来客?いえ、約束はありませんが…どなたです?…え?ええ。
いや、悪戯ではありませんよ。分かりました。来客応接にお通ししてください。」
「どうしました?誰です?」
半沢がハンガーにかかっていた上着を着ながら答えた。
「島田…晴香と大場美奈だそうだ。」

島田晴香と大場美奈は、まるで就職活動中の学生が着るようなビジネススーツを身にまとっていた。
二人とも意外に良く似合う。半沢も若林もその姿に思わず表情を柔らかくした。

「いや~まるでOB訪問を受けたみたいだ。なあ、若林。」
「ええ。僕は今でもリクルーターやってますからね。でも、こんな二人が来てくれたら即内定じゃないですか?」
「もっともだ。」
突然の訪問の意図を図り兼ねていた半沢が、その場の空気を和ませるように軽口を叩いた。

「あ…私達、証券会社の本社に伺う事なんて初めてなんで…一応、お母さん…母に失礼のないカッコで行きなさいって言われて。あの、変じゃないですか?」
「島田さん、大丈夫だよ。全然失礼なんかじゃない。…でも、そろそろ話を聞こうか?まさか、本当にAKB卒業後の就職活動の相談に来た訳ではないだろう?」

半沢は作り笑いを消して二人に向き合った。

28

「奈和から聞きました。私、結局何も出来なかったけど…やっぱり、こうなるんじゃないかって思ってました。指原さんの差し金だったんですね。」
「ああ。指原さんというよりは、恐らくは運営の…といったところだろうな。大場さん、あなたはやはりこうなると?」
半沢が大場に笑顔を向ける。大場も笑顔でそれに答えた。

「あの…私たちはうまく嵌められたって事なんですよね?」
島田が半沢の目をうかがう様に話しかける。
上目遣いの表情は、これまでに見たことがないものだった。
「嵌められた…のかもしれないな。」
「私達が卒業して空いた枠には、SKEの主要メンバーが入り込む…そういう計画だったんですね?優子さんや柏木さんが卒業間近って事はなんとなくわかっています。そしたら一気にAKBの人気落ちちゃうし。今、選抜メンバーの次にファンがついてるのって、悔しいけど支店のコたちですもんね。」
島田が斜め下に目線を向けて言う。
半沢はその言葉に相槌を打つでもなく黙ったままでいた。
手のひらを胸の上で組み、椅子の背もたれに体を預ける格好になる。

「でもですね、SKEのコ達がそれを拒むって事は、この計画はナシになったって事ですよね?それなら、私達が無理に辞めなくても…もちろん、私達も頑張らないといけないのはわかっています。でも、私達だってそれなりのファンも持ってるし…あの、半沢さん。今からでも申請したストックオプションの申し込みってナシに出来ませんか?」
「それは可能だ。しかし…」
「しかし?何ですか?何か手続き的に難しいことがあるんですか?」

半沢はそのままの姿勢で目を閉じた。
大場と島田は顔を見合わせた。若林も首をかしげる。
数分の沈黙がとてつも無く長い時間に感じた。

「島田さん。私は主幹事証券の立場として、AKSの企業価値向上に努めなくてはならない。より企業価値の高い企業を資本市場に送り出す、それが私の使命だ。」
「は…はい。おっしゃってる事の意味はなんとなくわかります…けど。」
どういう意味?島田はそう答えながらも半沢の言葉の意図をつかめないような表情を浮かべた。

「私は、その使命を果たすために、君達23名の卒業というシナリオをそのまま実行するようAKS経営に進言するつもりだ。」
「部長?今なんと?このまま、はるぅ達を切るって?どうして?」
若林が思わず声を上げた。大場も島田も一瞬表情を凍りつかせた。
「その通りだ。理由は先ほど言ったとおり。AKSの企業価値を向上させるためだ。空席は内部の昇格や新規メンバーの募集で埋める事になるだろう。」
半沢は視線をまっすぐ島田に向けて言った。
島田も半沢から目線を外さない。
「半沢さん…私達の味方になってくれないんですか?」
予想外の反応だったのだろう。島田の言葉から力強さが消えた。
大場もうろたえたような顔つきになった。
「半沢さん、島田推しって言ってましたよね?お願いします。みんな、頑張りますから。いや、これまでだって頑張ってきたんです。」
「頑張る?大場さん、島田さん。あなた方は何かな?アイドルだろう?アイドルとは、プロフェッショナルである。俺は君達をただの可愛い子がお遊戯をしてるだけのグループとは思っていない。努力する事は当たり前だ。しかし、全ての努力が報われるなど絶対にあり得ない。ただ、成功したものがすべからく努力しているという、それだけの事だ。そして、アイドルというものには…残念ながら賞味期限というものがあるんだ。一過性のブームで終わるならそれでもいい。しかし、俺はこのAKSという会社を永きに渡り成長させていかなくてはならない。成熟させていかなくいてはならないんだ。その為に、新陳代謝は決して鈍らせてはならないんだ。」

半沢はそこまで言うと、再び目を閉じた。
再び長い沈黙が場を支配する。

「半沢さん、よくわかりました。お忙しいところ、突然お時間頂いてすみませんでした。美奈、行こ。」
「行こ…って。島田、いいの?」
「良くない…良くないけど、半沢さんの言う事、もっともな事だもん。それに…」
「それに?」
島田は大場のその問いに答えず、立ち上がって半沢に深く頭を下げた。
「半沢さん…AKBをお願いします。きっと、半沢さんならもっともっと素敵なグループにしていってくれるような気がします。そうなると、私も元AKBって事で胸を張れるかな?」
「君が今までやってきた事は、十分胸を張るに値すると俺は思っている。」
半沢が目を開き言った。
「ありがとう。私、きっとまた半沢さんに会えるよう頑張ります。いや…そうなってみせます。一人のアイドル…いや、芸能人かな?として。」

島田が笑顔を見せた。目にはいっぱいの涙がたまっている。
半沢が立ち上がって両手を島田に差し出した。
「あ、最後の握手会ですね?」
「いや…次の個別、ちゃんと券取ってるから。そのときはちゃんとファンとして握手させてもらうよ。これは、君への激励の握手だ。」

島田が半沢の手をしっかりと握り返した。
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