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新作「Counter for new selection」について

新作のタイトルを決めました。

Counter for new selection

まず、スタート前にお詫びというか、お断りというか…

これまでの「四谷幸喜」作品のテイストというか、スタイルをご期待頂いてる方…
すみません。
今回は…
今回こそはそのご期待を大きく裏切ってしまうと思います。


これまで、どちらかというとハートウォーミーな作品を書いてきたつもりです。
終わった後に、どこかほっこりとして頂けたらいいなぁって思いながら。

ですが、今回は………です。

悩みました。
ひょっとしたら、「これ違うよ」と、私の事を嫌いになられる方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、やっぱりチャレンジしてみたいな…と。

「おい、コレ○○のパクリやん。」ってご意見もあると思います。
ただ、そこは…ほら、ブログタイトルの下にも「はっきりいってパクリです」ってありますので(^^ゞ

あ、パクリじゃない、パロディか(笑)

連載スタートは明日か月曜からになると思います。


こんな感じですが…

「おい!やめとけ!!!」tって声が多いようでしたら、思い直すかもしれませんが(笑)


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1. 退屈が凌げるなら幾ら使っても惜しくない


「ようやく出来上がりましたね。」
「まったく、幾ら使った事になるんだ?」
「いいじゃないですか。たんまり稼いでるんですから。」
「そうは言ってもだな…」
「何かご不満でも?」
「いや…不満を言ってる訳じゃないんだ。」
「ですよね~。一体誰のおかげで稼げてるのかって話ですよ?」
「だから…わかってると言ってるじゃないか。」

「それに、お金なんて棺桶まで持って行ける訳じゃないんですよ。」
「そうそう。堅実でしみったれた人生よりも、派手で刺激のある人生ってね。」
「少なくとも、退屈な人生なんかゴメンだよね。」
「そう。退屈が凌げるんなら、お金なんて幾ら使っても惜しくないよね。」
「それはそうかもしれないがな。」

秋元康は女達に向かって軽く頷いた。

2.ポータルサイト



2011年12月31日 NHKホール

年の終わりの総決算、紅白歌合戦での出番を終え、グループメンバー全員が控え室に集まった。
総勢150名以上に及ぶ集団は相当な迫力だ。
全速力で駆け抜けた1年を締めくくった興奮でメンバーのざわめきは収まらなかった。

「お~い。いい加減人の話を聞いてくれないなかな。お~い。」
拡声器で戸賀崎が呼びかけるが、メンバーの反応は薄い。
「仕方ないな…高橋、頼む。」
「はい。わかりました。みんな!静かに。戸賀崎さんが話してるでしょ!」
一斉に騒ぎが収まった。
やれやれ、やはり高橋か…戸賀崎は肩をすくめた。

「え~お疲れさん。もうすぐ今年も終わるが、本当にいい一年だったと思う。
俺からもお礼を言わせてくれ。」
「戸賀崎さん、まだ今夜仕事あるメンバーもいるんですよ~」
指原莉乃が笑って言う。
選抜メンバーの多くは、この後局を移動してカウントダウンTVの年越し番組へ出演しなくてはならない。翌日も朝からスケジュールが目白押しだ。

「そうですよ。明日は元旦特別公演だってあるんですから。」
大島優子がおどけた表情で囃したてる。

「え~ちょっと今からみんなに配るものがある。」
スタッフが一人一人に小さな箱を配り始めていた。

「何ですか?これ。開けてもいいですか?うわ。可愛い~。」
開けてもいい…なんて誰も言ってないのに、仲川遙香が最初に箱を開いた。
「え~、コレって、iPhone?」
「似てるけど、ちょっと違う。あれ、裏にAKBのロゴ入ってるよ。」
渡辺麻友と仁藤萌乃がお互いのものを見せあって話す。

「私のはSKEのロゴだ。」
松井珠理奈は周りのメンバーのものと見比べようときょろきょろしていた。

「みんなに配ったのは、グループオリジナルのスマートフォンだ。
全部試作品でちゃんとシリアルナンバー入ってるからな。研究生も全員分あるから。
充電はしてあるから、みんな電源を入れてみてくれ。」

戸賀崎が言う前に、すでに真っ先に電源ボタンを探し出していた篠田麻里子が、黄色い声を上げる。
「なんか、面白い画面が立ちあがった。なになに?48グループメンバーポータル?
戸賀崎さん、何ですか?これ。」

「見ての通りだ。今回、とある携帯キャリアさんとメーカーさんの協力で試験的に情報管理ツールの開発を行った。これを使って、今展開しているブログやモバメ、Googlr+なんかの投稿は全部この端末から行って貰うようになる。あと、連絡事項なんかもこのポータルに開示されるからちゃんとチェックするように。」

「なんか使うの難しそう~」
菊地あやかが顔をしかめて言った。周りから笑い声がおこる。
「まぁ、徐々に覚えていけばいい。
わからない事は、ポータルに問い合わせ先があるからそこで確認してくれ。
24時間対応してもらえる事になっている。」

「これって、電話としても使えるんですか?」
柏木由紀が質問する。
「ゆきりん。こういうの面倒くさがりそ~」
「もう、そういう事じゃなくて。らぶたんは気にならないの?」
「だって、電話ボタンあるじゃないですか。見ればわかるし~」

「通話もネットも日が変わった頃から使えるようになるらしい。
ブログやモバメなんかのIDはすでに全部登録済みだ。
あけおめ投稿なんかからは、全部こっち使ってやってくれ。
じゃ、俺からは以上だ。みんなよいお年をな。」

メンバーは戸賀崎の言葉に耳もかさず、スマートフォンを夢中で弄っていた。
あちこちから歓声があがる。





3.カウンター



年が明けて1週間が過ぎた。
新年になっても、AKB48グループの勢いに全く衰えは感じられなかった。
テレビではその姿を見ない日が無かったし、メンバーも正月のお屠蘇気分など
全く自分たちには関係ない話のようにスケジュールに追われていた。

「ねぇ。もう慣れた?ポータル。」
「うん。スケジュール管理も出来るし、ぐーたすの更新も出来るしね。」
「でも、なんか不便な事も多くない?」
「そうそう。デザインもいいから、こっちメインで使いたいんだけどね。」
「自分で新規アドレス登録とかが出来ないのって致命的。
でも、あれって勝手に電話帳とかメールアドレスとか登録されてるじゃん?いつの間にか。」
「ねー。なんでだろ?私、最初はワロタのメンバーとかさっしーとかの何人かしか入ってなかった。まだチーム4のコなんて誰も登録されてないもん。」


指原莉乃と多田愛佳が新しいスマホを操作しながら話してる。
日付が変わる頃、突然二人のスマホから大きな着信音が鳴った。

「あれ?マナーモードにしてたはずなのに…」
「さっしーも?私もなんだけど…」
「あれ?トップ画面のデザインが変わった。」
「ホントだ。なに?この数字…?」
「私のにもある。ねぇ、これってなんかブログとかホームページとかに…」
「そうだ。アクセスカウンターじゃない?」
「でも、このポータルってメンバーしか見れないはずだよ。トップページも一人ひとり違うはずだし。
指原が愛ちゃんのページ見れないし。見たいけどぉ。」
「見せないよ~。やめてサシハラスメント。」

「じゃなんだろ?この数字って。私は…9,742。さっしーは?」
「私は…45,277…公式ブログのページビューとか?コメントの数とか?」

二人は首を捻った。
この数字が自分たちの運命を大きく左右する事になるとは…
もちろん、二人は知る由もなかった。

4.カウンター②


「ねぇねぇ。今朝のポータル見た?」
「見た見た。なに?この今日のto doって。」
「あのね、今日しなくちゃいけない事って意味だよ。」
「へ~そうなんだ。さすがなかまったー。」
僕の太陽公演を前に、チーム4のメンバーが集まってスマホ談義をしていた。

「で、何だった?みんなのto doって。」
キャプテンの島田晴香がジャージに着替えながら言う。
「えっと、私は弾けるようにステージで踊る…だって。」
島崎遙香が答える。
「ぱるる、弾けてないもんね~。これ入れてるの戸賀崎さんなんじゃない?」
山内鈴蘭が笑う。
「もー。またポンコツとか言うんでしょー。ひどいなぁ。そういうらんらんは?」
「MCで滑らない…」
「やっぱ、戸賀崎さんだよ。絶対。」
メンバーから大きな笑い声が起きる。

「じゃあさ、この数字は何なんだろうね?」
「みんなおんなじ数字だよね。3,000。なんかのポイントなんじゃない?」
「ポイント溜まったら何かお得な事があるとか?」
「ポイントカードじゃないんだから。」

話が数字の事になると、市川美織がすっとんきょうな声を上げた。
「えー。じゃあ、私なんでかポイント溜まってるみたいです~。」
「え?なんでなんで?」
「だって… 4,928ありますよ~。ほらぁ。」
市川が自分のトップページを見せる。
「ホントだ。でもさぁ…なに?アンタのto do。今日もレモンを目指す事なんて。」
島田が市川の頭を押さえながら笑う。

「あの…」
「ん?どうしたんの?みなるん。」
「私も…ポイント少し溜まってるかも…。」
「え~どれどれ?」
山内が大場美奈の画面を覗き込む。
「ホントだ。5,411もあるじゃない。」

「多分、意味があるなら戸賀崎さんが教えてくれるでしょ。さ、準備しよ。」
島田が立ちあがってステージの方へ向かった。
「はーい。」
他のメンバーもスマホをバッグにしまい島田の後に続いた。

この数字が仲間の絆を引き裂く事になるとは…
その事を全員が知るのは、もう少し後の事であった。



5.視線

「私はすぐに分かったよ。っていうか、みんなもそうだと思った。」
大島優子がスマホのトップ画面に表示された数字を見て言う。
「そう言われてみればそうだけど。でも、もう随分前の話に思えるね。」
高橋みなみも目線をスマホに落とした。
カウンターの数字は52,790と表示されている。

「問題は、この数字に何の意味があるか…って事だよね。」
大島の画面には122,743と表示されていた。
「あれ?優子の総選挙の獲得票数って…確か…」
前田敦子が指を折って首をひねる。

「さすが、あっちゃん。2位の票数も覚えてるんだね。そうなの。
ホントは122,843票。今朝起きたら100減ってたの。」
「私は昨日と全然変わらなかったよ。みなみは?」
「私も変わってないな。ホント、何か意味があるのかなぁ?」
「あんま気にする事もないかもしれないんだけどね。それよりさぁ…」
前田が辺りを見回す。

「ん?どしたの?」
大島もつられるように部屋の中を見回す。見慣れたテレビ局の楽屋だ。
「なんか、最近誰かに見られてるような感じがするんだよね。」
「見られてる?」
高橋も部屋を見回し始めた。

「う~ん…気のせいかなぁ…。」
「でも、あながち勘違いじゃないかもね。
いつだって私たちは衆目の中に晒されてるようなものだもんね。特にあっちゃんとか優子なんて。」
「いや、たかみなは単純に鈍感なんだと思う。」
大島が悪戯っ子のような笑顔を見せる。

前田も笑った。その時、また背中に視線を感じたような気がした。
気のせいか…そういえば、年末以来…いや、もういつから休んでないんだろう。
疲れてるのかな…?

6.増減



「なんか、to doの内容がどんどんシビアになってきてない?」
「そうですか?う~ん…今日は上手く撮れないなぁ…」
松井玲奈と須田亜香里が劇場控室で話している。今日はチームS公演日だ。

「あかりん、まだ自撮りやってるの?もう何枚目?」
「だって、なかなか満足いくのが撮れないんですよ。
あ、to doっていえば、私最近ブログとかぐーたすの写真の事ばっかですよ。
なんか、写真のダウンロード数が何回以上になるようにしろ…とか。」
「だから、そんなに熱心なの?」
「いえ、違いますよ~。前からですよ。
だって、ファンの方に少しでも可愛いなって思ってもらいたいじゃないですか。
私、玲奈さんみたくホントに可愛い訳じゃないし~」
「いやいや、あかりんってホントすごいよ。ある意味、一番プロ意識が強いかもしんない。」

「そういや、カウンターの数字って気になりません?」
「気になるよね~。なんでかわからないけど。
私、こないだ握手会で中断しちゃったじゃない?そしたら、一気に500も減っちゃった。」

「私は握手会では100増えたかな。
それよりも、可愛い写真がUP出来たなって日のほうが増えるんです。
おとといなんて250も増えましたもん。」

須田はスマホの写真フォルダを玲奈に見せた。
「すごいねぇ。これ…1回に何枚くらい撮ってるの?」
「え~と、その時によりますけど~。上手く撮れない時は100枚近くとか…ですかねぇ。
なんかどんどん数が増えていっちゃいます。」

玲奈はふと須田の画面上の数字を見た。
10,020…
確か、選挙の票数は5000ちょっとだったはずだ。倍近く?
私は31,040…5000以上も減っているのに…

7.円卓会議



真っ暗な部屋。壁には窓もなく、丸いテーブルの上に鈍い光が僅かに注がれている。
5人が着席している。目元は大きなサングラスで覆われ、全員が黒い服を着ている。

「素晴らしいシステムだ。まさに情報通信技術の粋を集めただけあるな。」
一人の男がカーテンで仕切られた部屋の向こうへ顎を向けて言う。
「ええ、でもこれくらいして頂かないと。私たちだって、安くない参加費を払っているのですからね。」
ちょっと鼻にかかった声だ。どうやら一人は女性のようだ。

「しかし、肝心なところでフィルターがかかる仕様はどうにかならんかったのかな?
浴室とか更衣室とか。そこがクリアなら、もう10億追加で払っても良かったくらいなのに。」
「麻生さん…おっと、ここではエース…とお呼びしなくては…でしたな。
そんな下品な事を言っておられるとクイーンのご機嫌を損ねますよ?」
「いかんいかん。そうだな。ジャックの言うとおりだ。失礼。」

「ほほほ。殿方は幾つになっても、お盛んなほうが色気があって宜しくてですわ。
でも、そんな事よりももっと楽しめそうじゃありません事?」
「まったくですな。」


テーブルに置かれた山海の珍味を味わいながら会談が進んでいるところへ、
一人の男が登場した。円卓のメンバーに恭しく頭を下げる。

「皆様、お楽しみのご様子で何よりです。
もうそろそろ、このシステムの概要は把握していただけました頃かと…」

現れた男は、その場で立ったまま話を続けた。

「それでは、いよいよ明日より本番と参りましょうか。」

目もとが光る。
男はサングラスをかけていない。黒ぶちの眼鏡だ。

「しかし…AKBを再生する…そう君は言ったが、こういう方法で…
とは思わないだろうな、誰も。いいんだね?私たちは容赦を知らない人種だが。」

「ええ。結構です。」

構わないよ。せいぜい好きなようにやってくれ。
好きなようにな…

秋元康の目が再び怪しく輝いた。


8.【お知らせ】




昨日のセットリストベスト100@TDCで発表があったように、本年第2弾シングルが5月に発売されます。このシングルの選抜メンバーはこれまでにない方法で決定したいと思っています。

みなさんももう気づいてると思いますが、ポータル上にカウンターが設置されました。こちらの数字を使います。選抜方法は極めて簡単。まず、2月いっぱいまでのあと1月半の段階で、カウンターの数字の多い方から40名をPV撮影(海外になります)へ連れていきます。さらに現地での滞在1週間の間に選抜・アンダーガールズ、そして落選者を決めます。全員にチャンスがあります。研究生も同じです。カウンターの数字のスタートに悲観する必要はありません。みなさん、どれだけ数字を伸ばせば40名に入れるか…それくらいは分かりますよね?

どうすればカウンターの数字を増やす事が出来るか…
これには色んな要素があるでしょう。実力・人気・時の運・勢い…とにかく色んな事が考えられます。どうすれば数字を増やす事が出来るのかを、いかに速く把握する事が出来るか…そういう知力も必要かもしれませんね。

また、ポータル上には新しいルールが逐一掲示されていくので、それも見逃さないように。後で知りませんでした…って言い訳は一切聞けません。

これは「ゲームなのか?」。
そういう質問もあるかもしれませんね。

そう。「ゲーム」です。
ですが、これはある意味「人生を変えるゲームです。」
決して甘いものではありません。

勝者には素晴らしいご褒美があります。
しかし、そのご褒美が素晴らしいものであればあるほど…
敗者への仕打ちは厳しいものとなります。

それでは、始めましょうか。
Counter for new selection…
みなさんのカウンターは、選抜へのインジケーターになります。

秋元康

9.DiVA


秋元からのアナウンスはメンバーに大きな影響を与えた。
動揺と言ってもいいかもしれない。

各メンバーのカウンターには初期設定で第3回総選挙で獲得した票数分の数字が与えられた。しかし、それは既に変動を始めており、大きく数を伸ばした者もあれば、その逆の者もいた。メンバーの話題は「どうやって数字が変動しているのか?」だった。それがわかれば、一気に数字を伸ばす事が出来る。一体、誰が何を根拠に数字を弄っているのか…仕事場でプライベートで…メールで電話で…メンバーの間で様々な憶測が飛び交った。

「じゃあ、整理するで。こないな事は共同戦線張ったほうが絶対ええしね。
今はとにかく情報を整理しとかんと。」

増田有華が小声で話す。集まってるのは、秋元才加、梅田彩佳、宮澤佐江。
DiVAのメンバーだ。お互いのスマホを見せ合う。

「えっと…数字が増えたのが梅ちゃんと才加ね。梅ちゃん570UP。
才加が227UPか。ウチははほぼ変わらず。逆に佐江が140ダウン…」

「このところ、DiVAとしての活動が余りなかったから、
同じ行動をしてないってのが痛いよね。比べるポイントが多すぎちゃう。」
梅田が4人のここ半月の活動内容をプリントした紙を見ながら言う。

「to doは?あれが達成出来たらプラス、出来なかったらマイナスっていうのは?
今のところ、それくらいしか思いつかないけどな。」
秋元の言葉に宮澤も頷く。
「私、変なto doばっかだったんだよね。
抽象的っていうか、何言いたいのかよくわからなくて。正直無視してた。だからかなぁ?」

「あんな。アレのスタートが選挙の票数って事は、やっぱり人気とかそういう事と無関係ちゃうと思う。毎日の活動…テレビ出たりとか公演での出来がどうとか、取材の件数とか…点数がつけられとるんやないやろうか?」
「点数?誰が?どうやって?」
秋元が目を丸くした。

「それがわからへんねん。それに、何が根拠なのかも。
でもな…明日、ええモノサシになるような事あるやんか。
全メンバー同じ根拠で数字化されそうなモン…」
「個別の予約開始か。」
梅田の顔が引き締まったように見えた。
「そうだね。具体的な数字が出るから、それがどうカウンターの数字に反映されるか…
ちょっと参考になるんじゃない?」
「とにかく、これはチャンスやとウチは思う。
あとひと月半、何とか頑張ってウチら全員で選抜入りしようやないの。」

増田の言葉に4人は頷き合った。

10.研究生の野望



「どうしたの、急に?」
「あ、ごめんね。ちょっと話したくて。」
名取稚菜が 小嶋菜月、川栄李奈 、森川彩香を連れて劇場の隅で小さな輪を作った。
この後の公演に出演する同期メンバーにスマホで招集をかけたのだ。

「あのね…みんなどう思う?選抜…入りたくない?」
名取の言葉に他の3人は顔を見合わせた。
「え~?そりゃ…入りたいけどさ。わかにゃん…狙ってるの?今回の…」
小嶋がいつもの大きな声を押さえてささやく。

「あ、私が…って事じゃなくて。」
「でもでもでも…順番から言って10期が先に…」
「ほら…りなっちはそう言うと思った。あのね、私たち協力出来ないかな?
まだどうすればいいかは分からないんだけど、ああやってポイントで…
しかもゲームって秋元先生言ってたでしょ?何かが出来るような気がするんだよね。」

名取の言葉に3人は息をのんだ。
普段から静かにメンバーを引っ張るタイプだが、こんな風に積極的に事を起こすとは思っていなかった。

「何かが…って?」
森川が聞く。
「あのね…私たちのポイントって最初2000だったじゃない?
多分、研究生は全員そうだと思うんだ。でもね…私、今もう3100あるの。」
「スゴイ。私なんてほとんど変わってない。」
小嶋が驚いて名取のスマホ画面を覗き込む。

「でも…りっちゃんは…もっとあるでしょ?」
「うん…4015…」
「でしょ?あのさ、りっちゃん…アンダーガールズ十分狙えると思うんだ。
前回の選挙、藤江さんが4000ちょっとでしょ?
上の人って、全員がポイント伸ばしてるとはとても思えないんだ。」

「だから…私たち4人で協力して、りっちゃんのポイントを上げる方法を考えようって事ね?」
小嶋が納得したというように手をポンと一つ叩いた。

「え?え?え?なんで?なんで私だけ?」
川栄だけは理解できないような顔をしていた。

「あのね…私たち、いつまでたっても研究生だと思うんだ。このままじゃ。
まずは10期生、その次に…なんて待ってたら、AKBの勢い自体がなくなっちゃうかも…
だったら、誰かが先に昇格して11期をもっともっとアピールしていかなきゃ…って思わない?」

「いいねぇ。私たちって今までいい子過ぎたと思ってたんだ。
これって、きっとチャンスなんだよね?」
森川の声が明るくなった。
「そう…だから、このゲーム、4人で戦おうよ。」

名取の言葉に4人が手を取り合った。

11.円卓会議②


「一次の予約状況が出揃ったようですな。」
「ジョーカーの予想通りか。まったく、こういう事では私らでは到底及ばないな。参ったよ。」
「いえ…恐縮です。」
「では…今日は大きく数字が動きそうですわね。
今日は…私からでしたかしら?みなさん、宜しくて?」
「ああ。構わないよ。クイーン。」

「そうね…柏木さん、大島さん、松井玲奈さん。
この3人の一次完売にはもう特筆すべき事はないですわね。
もっともマイナスする要素もありませんが。」

「そうですね。」

「ですが、やはり前田敦子さんの完売数、6/18は看過できないわ。
その分を今回初めて10/18と完売枠数で前田を超えた指原さん…
そして初めて一次で完売を出したSKEの須田さんに…。」

「数は…どうしますか?」

「そろそろ少しは数字が動かないと彼女達が危機感を持たないでしょう。
どうかしら?前田さんから…5000買わせて頂きますわ。」
「ほう…1ポイント1万円だから、5000万ですな。序盤としては思い切りますね。
ひょっとしてクイーンはアンチ前田ですかな?」
「いえいえ。単に彼女への期待が大きいだけですわ。
それを指原さんに3000、須田さんに2000でお願いします。」

「では…私は、もうちょっと面白い事をしてみますかな。」
「あら?ジャック…何を考えてるのかしら?」
「危機感をあおる…必要ですな。
これがただのゲームではない事をちょっと思い知って頂く事にしましょうか。
私も乗りますよ。クイーン。」
ジャックと呼ばれた男が計算機を叩いた。

「そうですね…宮崎美穂…スタート時は9271…今はもう7800まで減ってますか。
これを全部買い取りましょう。確か…ポイントがゼロになると…」
「思いきったね。確かに今回の予約数の落ち込みは顕著だ。
バラエティで頑張ってるとはいえ、仮にも元選抜メンバーだ。
プラスポイントは少ないな。ふむ…こういう偏りがあってこそ、実感が湧くじゃないか。
彼女たちの運命が我々の手にあるという事のな。」
エースが葉巻を燻らせながら笑みを浮かべる。

「では…7800万円。確かめてもらますか?」
円卓の上に小切手が投げ出された。

「一人では面白みにかけるでしょう。
長い間苦労してきた子に引導を渡すのも私たちの仕事ではないでしょうか?」
「キング…あなたは?」
小切手が滑るように円卓の上に置かれた。6000万の額面だ。

「2名程…圏外のメンバーに退場願いましょうかね。宮崎君一人ではちょっと可哀相だ。
かつては推していただけに忍びない…」
「なるほど、愛が感じられますわね。随分倒錯した愛ですわ。」

円卓に怪しい笑い声が起こった。







12.腹の探りあい



「えっと…なになに?隣人を傷つけよ…?なんか怖くない?」
「でも今日はみんな同じっぽくない?to doの内容。」
菊地あやかと前田亜美が例のごとくスマホを覗き込みながら話ている。
今日はスケジュールが延び延びになっていた東北での全国握手会だ。

「隣人って、今日の握手レーンで一緒のコの事?」
菊地が横目で前田を見る。

「やだぁ。あやりん…目がコワいよぉ。」
「冗談だって。でもなぁ…そろそろ気になるよなぁ。」
「気になるって…カウンターの事?」
「そうそう、最近みんな余り話題にしなくなったじゃない?
あれって、絶対みんな数字がおっきく変動してるって事だよ。」
「へぇ~あやりん、時には考えてるんだね~。」
「そりゃそうだよ。」
「そう言うって事はあやりんも結構ポイント動いてるって事だよね?」
「ぎくっ…」
「やっぱり。わかりやすい ~」
二人は大きな声で笑った。


あーみん…この子と私の差ってそんなにあると思えない。
事実、こないだの個別の予約、3次で私の枠が完売したら、一気にカウンターが400も上がった。
今の私の数字はもうすぐ5000だ。5次でも完売がなかったこの子はきっと下げてるはず…
なんか、最近分かってきたんだよね。このゲームって、自分が数字伸ばすのも必要だけど、
誰かの数字が下がればその分自分に有利になるって事だよね。
隣人を傷つけよ?ふ~ん…上手い事言うじゃない?
よおし…今日はこの子のトコに来る子、全部奪っちゃうんだから。


あやりんってホントおバカだよね~。
何考えてるかぜ~んぶわかっちゃう。
どうせ、今日の握手会でもっともっと自分をアピールしようと思ってるんでしょ?
あやりん、握手人気高いもんね。
でも…普段あんまりやる気ないって思われてる私が今日豹変したら…インパクトおっきいよね。
ふふ~ん。傍から見てマイナスって事も見方が変わればおおきなプラスになるんだよ~。
私の眉毛みたいにね。


二人は腹の中を隠しあうように笑顔で握手会レーンに立った。



13.宣戦布告



月日が立つのは早い。日々が慌ただしいと余計そう思えるのだろう。
あの発表から1ヶ月が過ぎた。設定された「期間」もあと半月だ。
メンバーの間からはいつの間にか「カウンター」の話題が消えていた。
もちろん、「表向きは」だ。
水面下では腹の探り合い、数字の読みあいが目まぐるしく繰り広げられていた。


「ねえ。なんか最近雰囲気がとげとげしいよね。これってイイ事なのかな?」
雑誌の取材に集まった主要メンバーに高橋が持ちかけた。
今日は「あの事」について話してみよう。きっと、これにも何かの意味があるはずだ。
今まで秋元先生がやってきた事には必ず意味があった…

「イイ事って?そんな風に思ってる人いるのかな?みんな納得してないんじゃないかなぁ?
でも、決まった事だから仕方ないって…さ。」
大島優子がちょっと困ったような顔で答える。

「そうだよね。なんか、やっぱり雰囲気良くないよね。
特にアンダーすれすれとか、選抜ギリギリって言われてる辺りのコ。」
篠田麻里子も顔をしかめる。

「な~んか、皆さん余裕ですね。自分たちは安全地帯にいますって余裕?」
全員が一斉に声の方を向いた。顔には驚きの表情が浮かぶ。
「ゆ…ゆきりん…?」
前田敦子も小嶋陽菜も目を見開いている。板野友美もだ。
「だって、自分たちは選抜から漏れる事無いって思ってる。まあ、そうでしょうね。
私たちだったら、多少数字が減ったところで安泰だもんね。」
声の主は柏木由紀だ。みんなの方は向かず視線は大鏡のままだ。

「そうそう、余裕なんですよ。
ま、そんな風に構えてもらってた方がこっちとしては楽なんですけどね~。」
「何言い出すの?まゆゆまで。」
高橋の言葉に渡辺麻友が冷たく視線を切って柏木の側に立つ。

「私たち、もう皆さんの次みたく扱われるのイヤなんですよ。ね?ゆきりん。」
「まあね。」

「あのさ…ゆきりん、まゆゆ…これはゲーム…」
篠田がやや表情を固くして言おうとするが、渡辺がそれを遮る。
スマホの画面を篠田の目前につきつけた。

194,458…スタート時の前田敦子の数字をも大きく上回っている。
「ゆきりんの数字も…見たいですか?」
渡辺が柏木の方をゆっくり向く。
柏木は下を向いて笑いをこらえるような顔をしている。
「麻友。そこまで私たちの手の内を晒さなくてもいいんじゃない?」
「そうね~。どうせ先輩方は日々のお仕事だけで随分数字を増やされてる事でしょうからね。
ふふふ。でも先輩~。ちゃんとポータルの分析はした方がいいですよ。」

柏木は立ちあがった。
「ご心配なく。一応表面上はこれまで通りしておくので。
でも…そろそろ目を覚めしてもらわないと…簡単にクリア出来ちゃうゲームって面白くないから。」
控室を後にしようとして、思い出したように前田の方に振りかえる。


「ここのセンター…取らしてもらっちゃおうかな?」





14.ユニット



「一回だけなんですよね?これって。」
「そうね…その結果カウンターがどう出るかはやってみないとわからない…と。」
Not yetのメンバーはレコーディングスタジオでスマホの画面を見つめ話しあっていた。
いつの間にか機能設定されていた「ユニット」という画面だ。

「組める相手はアドレス帳か電話帳に記載があるメンだけみたいだね…。
しかも、ここにいるメンバーで組もうと思っても【ユニット候補】のトコに出てこない。」

大島は当初、このメンバーで組もうと提案したがエラーが出で出来なかった。
「たぶん、ウチらで組んでも個々の数値は今と変わらへん…そういう事と違いますか?
変わらへんもの組んでも意味あらへん…って事で…」

「こんな機能、いつの間に?」
「優子さん、知らなかったんですか?もう1週間くらい前ですよ。
どんな風な効果があるかわからなくて誰も試してみなかったんだと思いますけど…」
北原里英が説明する。

「なるほど…ね。あの二人が組んだら…そりゃスゴイ事になるわ…」

「優子さん?」
「あ、ゴメンゴメン。なんでもないよ、指原。」


「で?みんなはどんな風に考えてるの?」
大島の言葉に3人は顔を見合わせた。
「そりゃ、気になりますよ。でも…なんか誰がどうなってるとか知るのも怖いような…
あちこちで喧嘩じゃないけど、なんか変な空気流れてますもん。」
指原が答えた。北原も頷く。
「それに…気になる事もあるんですよ…」
「気になる事?何?きたりえ…」

「結構前なんですけど、みゃおから突然メールが来たんです。スマホからじゃなくて個人携帯。
最近メンバーとの連絡はスマホばっか使うようになってたからびっくりしちゃって…」
「みゃおが…なんだって?」
「あの…これなんです…」
北原が携帯の画面を大島に見せた。


イママデアリガト ミンナニヨロシク 5キメンニ ガンバレ


「何これ?」
「慌てて返信したんですけど…変だなって思って。でも、返事なくて。
そしたら翌日からはスマホ経由で普通に連絡入るんですよ。メールですけど。
ブログとかtwitterもやってるし…
これ…何かがおかしいと思うんですよ。だって、公演ずっと休んでるんですよ。」

「そういえば…」
大島には心当たりがあった。同じように何かが起きてる…
そう思われる子が何人かいる…

一体、あの人は何をしようとしてるんだろう?
ひょっとしたら、私たちが考えている以上に恐ろしい事が起きてるのかもしれない…




15.島田晴香の焦り


島田晴香は焦っていた。時間はどんどん経つのに一向にカウンターの数字が伸びない。
どうやら、チーム4のメンバーも同じようだ。
ユニットの機能がUPされた日、状況の打破を狙った中村麻里子と竹内美宥がユニットを組んだ。
しかし、それぞれ僅かの数字が伸びただけだった。


「ねぇ…晴香、ちょっといいかな?」
大場美奈が暗い顔で話しかけてきた。
復帰以来いきなりこの流れに巻き込まれ、大場は終始暗い表情のままだった。
島田も気になってはいたが、この激動の中、最近ゆっくり話も出来ていなかった。


「うん。いいよ。どうした?」
島田は大場の隣に腰かけた。

「下手したら、今回チーム4からは選抜どころかアンダーの一人も出ないんじゃないかなぁ…
それが心配で。」
「美奈もそう思う?確かにね…美奈…あのね、聞きにくいんだけどさ。」
「私?もう2000割っちゃった。研究生以下ってことかな。」
「あ、ごめんね…悪い事聞いちゃったね。」
「はるぅ…いいんだよ。はるぅって優しすぎるよね。」
「私が?そんな事……う~ん、ダメだなぁ。美奈には全部見抜かれちゃう。」
島田が苦笑いしながら下を向いた。

「ね…やっぱり、どんな事をしても誰か一人…最低でもアンダーガールズに潜り込まないと…
チーム4の未来はないと思うんだ。」
「でも…どうすれば…」
「ユニット…組んでもらうしかないと思う。誰か上の方の…しかもとびきり上の人と。
前田さんとか大島さんとか…」
「えぇ~。そんな…無理だよ。」
「お願いするだけしてみない?ダメ元じゃん。とにかく、なんでもトライしてみなくちゃ。
私も一緒にお願いに行くからさ。」

島田は大場の事を頼もしく見た。
やっぱり、チーム4のキャプテンは大場の方がふさわしいのかもしれない…
冷静な判断と思いたった時の行動力は若いチームに必要な事だ…

16.円卓会議③


「もう何回目になりますかな。この会議も。」
「最近は、我々が金を動かしてカウンターの数字を変えるよりも、あの子たちで動く事で変動する方が多くなりましたね。あのユニットの機能は良かった。実に面白い機能だ。」
「ところで、確か、買い取ったカウンターの数字は第一ステージの前までに、全部誰かメンバーに乗せなくてはいけないルールでしたよね。みなさん、まだ結構抱えたままにしてるんじゃないですか?」
「ええ。このところの動きはとても楽しいですわ。ついつい、自分が買い取ったものを忘れてしまいそう。」
「誰からポイントを買い取って誰につけるか…そして、最終的に誰を選ぶか。それがこのゲームの進め方ですからな。その為に、彼女たちの行動の全てをこうして見させてもらっている。」

円卓の向こうには100?200?いや、もっと多いだろうか。
無数のモニターが大きな壁一面に並んでいる。モニター一つ一つにはメンバーの名前が記されていた。


そこへ、ワインのボトルを持った秋元康が現れた。
エースがグラスを差し出し笑う。

「すまないね。ここ数日テーブルの上に出される金がすっかり少なくなってしまった。
これじゃ、君の稼ぎが少なくなってしまう。」
「いえ、まだ今は前座のようなものですから。
皆様がご覧になりたい…本当に彼女たちが血相を変える姿はもう少々先になりましょう。
今皆様がお出し頂いている金額など食前酒のようなものかと。」
「わっはっははは。これは楽しい。この男は私たちからもっともっと巻き上げる気でいるようだ。
構わんよ。幾らでも出そう。君も言ってたよな。
退屈を紛らわしてくれるなら私たちは金に糸目はつけんよ。」


「心得ております。その為に相応しいステージはちゃんと用意しております。
皆様にまずはそこへ進む者を選んで頂かないと。
なにとぞ、彼女たちの純粋な思いをお汲みとり頂けますよう…」
秋元は深々と頭を下げた。

こいつらは鬼か悪魔か…
年端もいかない少女達の人生を掌で転がす事に快感を覚えている。
自分たちの気まぐれで人の人生がどうなろうが一向に気にする事もない。
いや…むしろ、自分たちにその力がある事を実感して楽しんでるのだ。

まあ、そういう人種を利用して金儲けを企む自分も同類だがな…
秋元康は心の中で笑った。

17.策略



「あと4日かあ。なんかあっという間だったね。」
名取稚菜の言葉に川栄李奈が頷く。
「なんか色々ありがと。この1カ月ちょっとでまた私たちの距離って近くなって気がする。
同期の絆っていうのかな。」
「きっと大丈夫。りっちゃん、少なくともアンダーガールズには入れるよ。間違いなく。
今ポイント幾つだっけ?」

川栄が名取にスマホの画面を見せる。
「えっとね。6207。途中減ったりしたけど、
みんなが公演とか握手会で盛り立ててくれたから少しずつ増えたよ。
でも、みんなはずっと私の陰に立ってくれてたから…」
「私たちはいいんだよ。その分、りっちゃん頑張ってきてよ?」
「うん…わかった。11期ってこんなにスゴイんだよ!ってアピールしてくる。」


名取は優しく微笑みを浮かべた。
手元にある自分のスマホをそっと覗く。

7455…

大丈夫だ。私は上手くやれている。
後は…土壇場で最後の仕掛けを起動すればいい…

18.裏切り



「佐江。どういう事や?」
増田の声が怒りに満ちている。
秋元も梅田も言葉こそ出さないが咎めるような視線を向ける。

「どういう事って…?」
「どうもこうもあらへん。なんでウチらの他のメンに助け舟出すような事するんや?
誰かかが上がってくるっちゅう事はなぁ…。
ウチらの椅子が一つ脅かされるかもしれんっちゅう事くらい分かるやろ?」
「有華…ごめん。言ってる意味がわからない。」
「どこまでしらばっくれるつもりやねん。ええか…?」

激高し始めた増田を止めるように秋元が口を挟む。
「佐江…佐江の優しさだよね?頑張ってる姿を見て、何とか力になりたかったんだよね?
だから、ユニットを組んであげたんでしょ?」
「なんでばれるかなぁ。誰にも言うなって言ったのに。」
「ほら、やっぱそうや。誰や?誰と組んだ?」
「あれ?ひょっとして私カマかけられた?」
「違うよ、佐江の事心配してるの。」
梅田が言う。どうやら本当に心配はしているらしい。

「心配?それって、自分たちの事を心配してるだけでしょ?」
「何言ってるんや?梅ちゃんはな…」
「わかった。もういい。」
秋元が両手を広げてその場を制した。
「佐江…もうこれ以上言わない。アンタが誰と組んだかは聞かないわ。
でもね、わかってほしかったな。私たちは4人で選抜に…って」

「くっ…っっ…」
突然宮澤が下を向いて笑いだした。
「なんや?なにが可笑しいんや?」
訝しる増田に宮澤が顔を上げて答える。

「何か勘違いしてない?選抜って、みんなで仲良くお手手繋いでってモンだとでも思ってるの?そんな甘いものじゃないんだよ。地べた這いずり回って自分で手に入れるモンなんだから。有華も梅ちゃんも干されから復活してきたみたいに思ってるかもしれないけど…苦労してきたって思ってるかもしれないけど、アンタ達にずっと選抜を守ってきた事の苦労がわかる?超選抜の次の椅子にどんな思いでしがみついてきたかわかる?甘くないんだよ。あっちの世界は。だから…私は…私は自分の為だけに戦うよ。」
宮澤は言った。

「な…なんやと?」
掴みかかりそうになるのを止めたのは梅田だった。
「有華…もういいよ。佐江…よくわかった。
確かに、アンタの苦労は私たちには分からないかもね。
でもね…これだけはわかってほしかったな。
私たちはアンタの事を仲間って思ってるよ。これからもね。」

宮澤は梅田の言葉には答えず3人に背を向けた。

19.SKEの戦略


秦佐和子の操作するパソコンのモニターには細かい文字で呪文のような文字が羅列されていた。周りを取り囲んだメンバーが訳がわからない表情でモニターを覗き込む中、秦がキーボードを叩く音だけが部屋に響く。

「よし…終わりました…」
大きなため息をついて、秦がモニターから視線を外す。
張り詰めた空気が一瞬ふっと緩んだ。
「それで…どうなの?」
松井珠理奈がモニターを睨みながら聞く。
「ええ…みなさんが東京の本店メンバーからそれぞれ入手したポイントの情報がかなり多く集まりましたので、細かい分析が出来ました。予想通り、序盤は陣取り合戦のような感じだと思います。誰かのポイントが減った分が誰かに着け替えられる…厳密に増減してるわけではありませが、基本はそのルールに沿ってポイントが動いてるように思えます。」
「どういう基準で?」
質問したのは高柳だ。

「そこは…システマチックであれば読みやすいのですが、そうではないようです。一定のルールではなく、かなり恣意的に数字が動かされてる…そう思います。」
「恣意的?」
木崎ゆりあと矢神久美が顔を見合わせて首をひねった。
「あ、すみません。誰か…人の手によって動かされてるって事です。
つまり…どこかで誰かが自分の判断でポイントの増減を行っている…そういう事です。」
「それじゃ、これまでの決め方と同じじゃない?結局は運営が決めるんでしょ?
こんなゲームだなんて回りくどい事しなくたって。」
向田茉夏が頬を膨らませて言う。周りも頷いている。

「ですが…このユニットという機能が理解できません。
運営が決めるだけであればこんな要素は必要ないはずです。これは何か別の目的がある…」
「別の目的って?」
須田明香里と大矢真那が輪の一番後ろから質問する。

「わかりませんが…何か、わざと混乱を誘ってるように思います。
事実、この機能が追加された事で幾つかの仲間割れが起きてる…そうですよね?珠理奈さん?」
「そうなの。だから今本店はすごく雰囲気悪いんだ。」

「で…私たちは何人くらいが40人の枠に入れそうなの?」
松井玲奈の質問に全員が息をのんだ。
そう…それが一番の関心ごとだ…


「そうですね…当落ラインは選挙の40位の得票数よりちょっと上がるでしょうね…
5500…いや…6000必要かな?」
モニターを見ながら発された秦の言葉にみんなが一斉に手元のスマホを覗き込む。
安堵のため息あり、引きつった表情の者あり…だ。
「みなさん、ご存知の通り、SKEメンは当落ラインぎりぎりばかりです。
珠理奈さん、玲奈さんそしてちゅり以外は。下手をしたら共倒れのリスクがあります。」
「一人でも多くの人数を送り込みたいんだ。ここはチャンスなんだ、しゃわこ。
下剋上のね。いつまでも支店なんて言わせておきたくない。」
高柳の言葉に秦が力強く頷く。

「総選挙でアンダーガールズに入ったのは、ちゅり、あかりん、まさな、しゃわこ…
あと何人いける?」
玲奈の言葉に珠理奈が答える。
「篠田さんの協力は取り付けてきてる。大丈夫。心配ないよ。」

「では…ユニットを使いましょう。玲奈さん、珠理奈さん、ちゅり、そして篠田さん…
あとSKE内での構成をシュミレーションしてみます。」
秦がキーボードを叩く。画面がスクロールしていく。

松井玲奈
松井珠理奈
高柳明音
大矢真那
須田明香里
矢神久美
木崎ゆりあ
向田茉夏
木本花音

「この9人で…いきましょう。」
画面に残った名前を見ながら秦がほほ笑む。
「しゃわこ?しゃわこは?」
「私は…まだまだですから。こうしてSKEの為に働く事が出来ればそれで…」
「ダメだよ。この先もまだゲームは続くんでしょ?しゃわこの力が絶対必要になる時ってあるから。」
高柳が声を大きくして言う。
「そうだよ。そうだよ。」
「うん。しゃわこには残って欲しい。」

「今回は…私が遠慮します…」
「え?茉夏?だって、アンタ、あんなに選抜復帰喜んでたのに。」
高柳が目を丸くした。向田はそっと目を閉じて笑みを浮かべた。
「ありがと。でも、私は今出来る事を頑張ってみる。
実は、まだ前回選抜落ちした意味っていうのが良くわかってないんだ。
それを知るまで…もうちょっと勉強してみようかな…って。
それに、バランスから言うとK2から誰かが外れた方がいいでしょ?
まさか、ちゅりに外れてもらう訳いかないし。」

「茉夏…」
「アンタね…」
秦も高柳も涙を浮かべた。

「んんんんまなっっっっっっぅぅ」
木崎が抱きついてきた。大声で泣いている。
「ちょっとぉ。ゆりあちゃん~。それ違うって。」
向田が笑った。目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

20.大場美奈のたくらみ

「なるほどね。二人の思いはよくわかったよ。」
高橋みなみがにっこりと笑った。
島田晴香と大場美奈は高橋の前で直立不動を崩さず立ったままだ。

「ありがとうございます!どうか…どうか宜しくお願いします!」
島田が深く頭を下げた。大場もそれに倣う。
「でも、私でいいの?私からあっちゃんか優子に頼んでもいいけど。」

「いえ…私たちも最初はそう考えたんです。でも。ユニットって単に上の人と組んでも自分たちのポイントが上がるかっていうとそうじゃないような気がするんです。ポイントを恵んでもらうんじゃないって。きっと、お互いに相乗効果があるユニットが一番効果が高いんじゃないかなって思いました。だから…AKB全体の事を一番考えていらっしゃる高橋さんにお願いする事が、私たちチーム4にとって一番だ…そう思ったんです。」
島田が高橋の方をまっすぐ見据えて言う。高橋が大きく頷いた。

「じゃあ、私がはるぅとユニットを組めばいいのね?」
「いえ…組むのは美奈と…大場とでお願いします。」
「晴香?何言い出すの?」
大場が驚いて言う。

「いいの。悔しいけど、私は選抜やアンダーガールズって華やかな場所に行くにはまだ力が足りない…そう思うの。美奈は色々あって…だけど、やっぱり華はあるし人気だってきっとすぐに戻ってくる。それに、美奈にとって、この時期にこういう形で表舞台に戻る事は絶対必要な事だと思うし。大丈夫、私は私でしっかり劇場とか守っていくし。そして、もっとちゃんと力がついた時、今度は堂々と選抜狙いにいくから。」
「はるぅ…」

「いいんだね?」
「はい。お願いします。」
島田は涙ぐむ大場を見ながら頷いた。


「ふぅ…」
自宅のベッドに倒れ込んで大場は大きなため息をついた。
「バカだなぁ。ホントに、島田って。」
自然と顔に笑みが浮かんでくる。

「まさか、あそこで自分から言い出すなんて。ひと芝打つ必要がなくなって良かったけど、ちょっと拍子抜けだな。まあ、たかみさんの前で大泣きして、アンダーガールズに戻りたいですぅ…なんてやればころっと騙されてくれるとは思ってたけど、まさかあそこまでバカだとは。体育会系って扱いやすいから好きだわ。はるぅといい、たかみなさんといい。」

大場はベッドから起き上がって窓を開けた。引き締まった顔で外を睨む。
「私は絶対忘れないんだ。あの屈辱の日々を。絶対に這い上がってやる。
そう…どんな手を使ってもね。」


21.円卓会議④


「いよいよですな。」
「ええ。私まで胸が高なって参りますわ。」
「まったくだ。」
「では…今現在までのポイント順を見てみましょうか。」

①柏木由紀②渡辺麻友③高橋みなみ④篠田麻里子⑤指原莉乃
⑥大島優子⑦松井玲奈⑧篠田麻里子⑨前田敦子10松井珠理奈

11小嶋陽菜12宮澤佐江13藤江れいな14板野友美15佐藤すみれ
16高柳明音17北原里英18峯岸みなみ19横山由依20高城亜樹

21多田愛佳22仁藤萌乃23倉持明日香24増田有華25須田明香里
26梅田彩佳27小森美果28平嶋夏海29大矢真那30矢神久美

31秋元才加32前田亜美33木本花音34木崎ゆりあ35菊地あやか
36大場美奈37石田晴香38山本彩39秦佐和子40川栄莉奈

「ほう…SKEが躍進しましたな。」
「あの秦佐和子…どうですか?
あのまま彼女の思惑通り全員を通してもいいものでしょうか?」
「いいんじゃないですか?これから先の過酷な状況になってから、
あのまとまりが綻んでいくのかを見るのも楽しいじゃないですか。」
「それに、ああいう頭脳明晰な子が一人くらいいてこそゲームは引締まるものではありませんこと?」
「そうだな。では、美しい友情に敬意を評して…という事だな。」


「研究生の川栄が滑り込み…ですな。ユニットを使った名取とずっと競っていましたが、
最後に逆転した訳ですか。
昨日の公演を見たジャックが随分ポイントを積んだのが大きかったようですが。」
「しかし…こんなものが出てきましたよ。」
「ああ…それ、名取のリークですな。良くそんなものを…」
一枚のプリクラがテーブルの上に置かれた。
「どうしますか?明らかに名取の策略ではありますが…」
「いいんじゃないかな?競争相手を出し抜く事は世の生存競争で大事な事だ。
どうかな?ジャック。君は随分川栄を推していたようだが?」
「構いませんよ。裏切られたヲタの思いをちょっとは知る事が出来ましたしね。
どうでしょう?私に川栄のポイントを全部買い取らせていただきませんか?」
「ほう…せめて自分の手で引導を渡そう…そういうわけですな。」

「ええ。推し変って事ですね。それをそのまま…島田晴香に。」
「島田?大場に仕組まれてるとも知らず自ら脱落した者に手を差し伸べるのか?
らしくないな。温情はこの場では褒められる事ではないぞ?」
「ええ。もちろん。ですが…騙されてる…そう島田が次のステージで知ったら…
どうなるか興味ありませんか?あの、純粋で人を疑う事を知らない島田がどう豹変するか…」
「なるほど。確かにそれは興味深いですわね。私も乗せていただこうかしら?」

「ほうクイーンもですか。誰のポイントを買い取られますかな?」
「そうね…次のステージ、こっち側で働いて頂くメンバーが少々弱く感じますの。
板野さんあたり…いかがかしら?」
「板野を?彼女の今のポイントは…31,036…スタートより大幅に減らしたとはいえ…
こっちで働いてもらうという事はポイントをゼロにしなくては…
河西や宮崎のように…そうなると3億…」
「よろしゅうございます。」
テーブルの上に小切手が置かれた。

「こちらは…そうですわね。全員に均等に分けていただけますか?
次のステージ、一番大事なものになりますからね。ポイントが。私からのプレゼントですわ。」
「まさに、地獄の沙汰は金…いやポイント次第というわけですな。」
「となると、次点の名取稚菜が40位に入り…島田晴香は…川栄のポイントを加算して…
これは面白い。大場の一つ上にランクインしますな。」


「では…これで決まりましたな。」
「数日は休戦という事ですな。束の間の。彼女たちにとっても。」

22.出発

茨城空港に向かうバスに40名の選抜候補のメンバーが乗っていた。
いつもは賑やかな移動のバスもこの日は静かだ。
発表された中にこれまで常連とされたメンバーの名前がない。
その事が一行の緊張をより大きいものにしていた。

名取は発表の場に川栄が居ない事に胸をなでおろしていた。自分が仕掛けた爆弾は上手く起動したようだ。でも、本人にそれを咎められる事なく済んだ事で少しは気が楽になったように思えた。もっとも、顔を合わせてもとぼけるつもりではいたが。このバスに乗ってしまえば、後は…私の勝ちだ。

島田と大場は隣の席に座っていたが、言葉を交わす事がなかった。
なんで…?なんで島田が残ったの?ユニットを組まなかった事で、ポイントは遥か圏外のはずだ。それとも…あの後誰かに取り入った?前田さん?大島さん?だからあの二人の順位があんなに下なんじゃないか?そんなに器用なマネが出来るとは思っていなかったけど…

島田も発表を聞き、腰が抜ける程驚いた。
発表の前日からポイントが見れなくなったが、その直前のポイントは大場とは大きく開いていた。それなのに、発表された順位は私のほうが上だ…いったい何がおきたんだろう…?

ピリピリした空気と共にバスは茨城空港に入った。
特別室に入ると、そこには秋元康がいた。
例の発表以来メンバーの前に直接姿を見せるのは初めての事だ。

「え~…ここにいるみんなは選ばれた人って事です。
ですが、おめでとうを言うにはちょっと早いですね。」
「秋元先生…今回の…」
そう言いかけた高橋を秋元が目で制し言葉を続ける。

「これから行く先は、ハワイです。一旦ホノルルに入ってその後カウアイ島へ移動します。」
「ハワイ!本当にハワイなんですね。またグアムかと思ってたんですけど。」
噂では聞いていた行き先が本当だとわかりメンバー間の空気がちょっとだけ緩んだ。
あちこちで笑顔が浮かぶ。

「今回の選抜は16名を予定しています。
誰が選抜になるか…それはまた向こうで改めて発表します。
では、出発前にみなさんに渡していたスマートフォンを回収します。
それから…ハワイなので伝染病の心配はないが、念のため予防接種を受けてください。
今回はチャーター便を用意しています。
全席ファーストクラスなのできっと快適な空の旅が楽しめるだろうね。
残念ながら私は一緒に行けないが、戸賀崎、あとの事は頼んだよ。」

夕闇迫る茨城空港の滑走路へメンバーを乗せたチャーター便がゆっくりとアプローチした。
轟音を響かせて離陸していく。

秋元はその姿を見送りながら、小さくなっていく機体に手を振り続けた。
まるで今生の別れかのように…いつまでも。

23.遭難


青い空に白い雲。砂浜に打ち寄せる静かな波。
椰子が風にそよいでいる。
砂浜にうつ伏せになっていた大島優子がゆっくりと身体を起こす。
記憶を呼び起こすかのように頭を振る。
意識が鮮明になってくる…

飛行機の中は完全にパニック状態に陥っていた。
上下左右に激しく揺れる機体。天井から酸素マスクが出てきたが、余りの振動でそれをつける事すらままならない。隣に座っていた小嶋陽菜は祈るように手を組み合わせていた。メンバーの泣き叫ぶ声が機内に響き渡る。急降下してるのだろうか、耳が激しく痛む。

徐々に遠くなる意識の中で大島は覚悟を決めていた。
残念だ…色々あったけど、この旅が一つの大きな転換点になる…そう信じよう。
そんな風に思っていたのに。
もう一度…あの華やかなステージに立ちたかったな…


辺りを見回した。3人…4人…いや、遠くのほうにもっといる。
みんな砂浜に打ち上げられたように倒れている。
大島はすぐ隣に倒れていた高橋みなみの身体を揺すってみる。
「う…う~ん…」
生きてる。大丈夫…生きてる。
ふらつく足で一人一人を確かめていく。みんな息がある。生きてる。
私たちは助かったんだ。

「優子さん…?私たち…」
振り向くと、そこには横山由依の姿があった。
「由依!気がついたの?良かった…助かった。私たち助かったんだよ!」
大島は横山の身体を強く抱き寄せた。

24.生き残った34人


「何人いる?」
高橋が集まって丸くなったメンバーを見回す。

「いないのがゆきりんとまゆゆ。あと。指原、小森、萌乃、研究生の名取さんの6人。
あとの34人は全員ここにいるよ。」
大島が答える。

「あと…戸賀崎さんや乗務員の人たちもいないよね。
助かったのはここにいるメンバーだけって事か…」
篠田の言葉に輪の中からすすり泣く声が漏れる。

「とにかく…まずは…考えよう。」
「考えようって…何を考えるんですか?」
「いや…それは…とにかくちょっと落ち着こう。私もまだ気持ちが整理できてないんだ。
頼むからちょっとだけ待って。」

取り乱すように聞いた菊地の質問に高橋は答える事が出来なかった。
自分を落ち着かせるかのように静かに立ち上がって砂浜を歩き始めた。
集まっていたメンバーもバラバラと輪から離れる。
何人かごとに集まって話を始める者もいれば、座り込んで海を見つめる者もいた。
助かった…その安堵感の次にやってきたのは、
一体これからどうなるんだろう…言いようもない不安感だった。

「たかみな…私たちも一緒に考えるよ。」
高橋が顔を上げると、篠田、前田、小嶋、大島、峯岸の姿があった。
「でも…何をどう考えれば…」
「それも一緒に考えようよ。きっと一人で考えるより、いい答えが出ると思うよ。ね。
せっかく助かったんだ。何とかなるよ、きっと。」
篠田がにっこり笑う。高橋は少し救われたような気がした。
うん…大丈夫だ。私は一人じゃない。

「あの…宜しいでしょうか?」
6人の背後から消え入りそうな声がかかった。
振り向くと、そこにはちょっと背を丸め遠慮がちに手を上げる秦佐和子と松井玲奈の姿があった。

「どうしたの?いいよ、いいよ。ちょっと座ろうか。」
高橋の言葉で8人は椰子の木陰に腰を下ろした。

25.不自然な状況


「おかしな事って?」
「はい…辻褄というか…不自然と言うか…
すみません。こんな時に突然こんな事を言い出してしまって。でも…」
「いいの。何でも言って。私なんて全然考えすら浮かんでこなくて。」
高橋が秦に言う。篠田も頷いた。

「あの…みなさん、どのあたりまで覚えていらしゃいますか?」
「どのあたりって…飛行機が激しく揺れ出して…ぐーんって落ちてって…」
「そう…急に耳が痛くなって…あとは覚えてない。」
「うん。酸素マスクが落ちてきて…怖くて…」
みんな記憶を引出しから引っ張り出すかのような表情で話している。
秦と玲奈が顔を見合わせて頷く。

「私たちも同じようなものです。
あの…みなさん、飛行機が海に墜落して、私たちは流されてここにたどり着いた…
そんな風に思ってませんか?」
「え?そうじゃないの?」
前田が秦の顔を見る。何を言い出すの?と言いたげな表情だ。

「あ…いえ…あのですね、もし飛行機があの状態のまま墜落していたら…
恐らく私たちは全員即死してると思います。
耳が痛くなったのは一気に降下していたから…海面とはいえ衝撃は相当のものになるでしょうから。」
「じゃあ、私たちはどうやって助かったんだろう?」
峯岸が腕を組んで考え込む。

「不時着したんじゃ?」
大島がはっと思いついたように言う。
高橋も小嶋もそうそう…と言いたげに首を縦に振る。

「でも…私たち救命胴衣も何もつけてませんでした。
もし、無事に不時着出来てそこから避難出来ていた…としても、救命胴衣無しで漂流…
そしてここへ流れ着く…なんて事はあり得ないと思います。それに…」
秦がそっと左腕を目の前に掲げた。

「みなさん…時計は動いてますか?」
そう言われて、みんな一斉に自分の腕時計を見た。
「あれ…動いてない。っていうか、表示が消えてる…」
「私のは針が止まってるよ。」
「私のも。」
秦が話を続ける。

「恐らくどこかで磁場の影響か何かを受けたのでしょう…電池式の時計が狂ってしまってます。
ですが、幸い私の時計は機械式でしたので、まだ動いています。
ダイヴァーズウォッチだったので海の水でも大丈夫だったのが幸いしました。」
秦が時計の盤面を見せる。ロレックスのシードゥエラーだ。

「今日は3月9日…私たちが日本を離れてもう3日も経っているんです。」
「え?どういう事?」
「私たちは3日間も…意識をなくしていたって事になるんです。」

何かがおかしい…そこにいる全員が秦がそう言う事を理解出来た。
だが、その「何か」がわからない。
それは秦も同じだった。

26.参謀

「とにかく…整理しましょう。」
松井玲奈が冷静に言う。冷静を装って…と言ったほうが正しいだろうか。

「さっき、しゃわことも話してたんですが、今はこの通り非常事態です。
みんながバラバラになっていたらダメだと思うんです。
こういう時は、誰かをリーダーにして、全員がその人の言う事に従う。
とにかく、みんな不安なんで、悪いほう悪いほうに考えないよう、
強いリーダーを決める必要があります。」

「そうだね。玲奈の言う通りだ。今はとにかく落ち着かなきゃ。」
大島が同意する。
「たかみなさん。お願いできますか?」
玲奈の提案に全員が頷いた。

「でも…私…何をしていいのか…
さっきの秦さんみたいな冷静な分析なんてできっこないし…」
「高橋さん、今リーダーに必要なのは判断や分析ではありません。
それは得意な人がやれば…微力ですが、私も全力を尽くします。
大事なのは、大きな声で…笑顔で、みんなを元気つけられるって事です。
高橋さん、やはりリーダーは高橋さんしか考えられません。」
「そうだよ、みなみ!辛いと思うけど…私たちも協力するから。」
前田の言葉に高橋も力強く頷いた。
「秦さん、お願いね。私も頑張るから。」

「はい…とりあえず、まずは情報です。ここがどういう場所なのか…
それを一番に知る必要があります。無人島なのか違うのか。
救助を求めるにも、暫くここでサバイブするのかも、全てはここがどういう場所なのか…
がわからないと対策が立てれません。」
玲奈が大きな世界地図を取りだした。

「ちょっと玲奈ちゃん?そんなものが役にたつの?
っていうか、どこにあったのそんな大きな地図が…?」
峯岸が驚いて聞く。

「この地図…なぜか私の着ていたシャツのポケットに入ってたんです。
飛行機の中で見てた覚えもないんですけど…」
「とりあえず、私たちがいるのはこの辺り…太平洋のど真ん中ですね。
まだ断定はできませんが恐らくこの縮尺では表示されない程の小さな島かと…」
秦が地図上の一点を指しながら言う。その横には細かい文字で複雑な数式が書き込まれていた。

「ね?教えて、秦さん。なんでそんな事がわかるの?私たちにもわかるように易しく…ね?」
高橋が秦に言う。すっかり感心したような表情だ。
「あ…はい。実は時計があれば結構正確に緯度と経度が割り出せるんです。
さっき立ててた棒の陰で太陽の南中を確認したので…」
「秦さん…あなた、何者?」
篠田が目を丸くした。

「いえ…そんな…」
「秦さん、まずは私たちは何をすればいい?」
高橋が尋ねる。

「よし、今からしゃわこ…そう呼んでいいかな?しゃわこは、このチームの作戦参謀だね。」
大島が秦にウインクして笑う。

「光栄です…」
秦が俯いて遠慮がちにほほ笑んだ。

27.グループ

高橋の指示で34人は6つのグループに分けられた。
高橋、篠田、大島、秋元、宮澤、前田がそれぞれのグループのリーダーになり、
後はくじでメンバーを配置した。

高橋みなみ 藤江れいな 高城亜樹 大矢真那 山本彩 秦佐和子 
篠田麻里子 松井珠理奈 梅田彩佳 石田晴香 大場美奈 北原里英
大島優子 横山由依 菊地あやか 島田晴香 木崎ゆりあ 須田明香里
秋元才加 小嶋陽菜 高柳明音 増田有華 矢神久美
宮澤佐江 松井玲奈 前田亜美 木本花音 多田愛佳 小嶋陽菜
前田敦子 峯岸みなみ 佐藤すみれ 平嶋夏海 倉持明日香 

各グループにはそれぞれ任務が与えられた。

高橋班は周辺の調査だ。常に全体への指示を出す事も考えて、
秦は高橋と行動を共にする事とした。一体ここがどんな場所なのか?
それを周辺探索で炙りだそうという狙いだ。

篠田班と大島班には食料の確保という任務が与えられた。とりあえず食べれそうなものを確保してくる。中毒の心配があるので無暗には手をつけれないがまずはどんなものが確保できるか把握しなくてはならない。火をおこすのも食糧班の仕事だ。

また、飲み水の確保は何にもましての最優先課題だ。秋元班と宮澤班にはその確保の任務が与えられた。池や沼を探すとともに、秦の指示で強い日差しを利用し、水蒸気を飲み水として貯める装置を作る為の素材探しも必要だ。

前田班は居住場所を確保する仕事が割り振られた。天気がいつ崩れるかもしれない。幸い比較的暑い地域のようで寒さを凌ぐ必要はなさそうだが、それでもある程度の体裁は整えておく必要がある。

まずは全員で一致団結してこの局面を乗り切らなくてはならない。
あのカウンター騒動で始まったぎくしゃくした空気は完全に消え去っていた。
とにかく生き抜くんだ。同じ思いを強く持つ必要がある事は明らかだった。

28.満天の星

落ちてきそうな程の星空が広がった。
一体こんな多くの星がどこに隠れていたんだろう…
そう思わずにいられない程の圧倒的な星空だった。

幾つかの明る材料とその何倍もの悲観的な材料が出揃って迎えた最初の夜だった。
各班のリーダーと秦が熾された焚火の前で集まって話を始めた。

「一番幸いだったのは水が確保できた事だね…ありがとう。才加、佐江。」
高橋の言葉に二人が顔を見合わせてほほ笑む。
一度仲たがいをした二人であったが、難局を迎え蟠りは解けようとしていた。
「すぐ近くに池があったのはラッキーだったね。水も綺麗そうだし…」
「身体を拭いたりも出来るし。ホントこれだけは良かった。」
「問題は食糧か…」
大島が申し訳なさそうにため息をついた。

「仕方ないよ。魚を釣ろうにも道具は無いし。
椰子の実は何とか確保出来からいいじゃない。当面、それで飢えはしのげるし。」
前田がフォローするかのように言う。
「あっちゃんもありがとう。草を敷き詰めてくれたから、すごく柔らかくて快適だよ。
雨が降っても簡単な屋根があるから大丈夫そうだし。」
高橋の言葉に前田がにこっと笑う。手は切り傷だらけでボロボロだ。

「とにかく、また明日だね。明るくなってから考えよう。
じゃ、さっき決めたように今日は1時間おきに3人が起きて見張りをするって事で。」
高橋の言葉を合図に輪が解けた。全員が身を寄せ合うように身体を横たえた。

高橋が空を見上げてその満天の星を見上げていると、あちらこちらからすすり泣く声が聞こえてきた。無理もない…まだ高校生のコだっているんだ。心細くなるのは当たり前だ。私だって不安で心が押しつぶされそうだ。でもダメだ。私が…私たちが母親になってあげないと。きっと…きっとこの子たちは私が守ってみせる。いや…みんなで力を合わせて絶対に帰るんだ。

29.釣り師と猟師


数日が過ぎた。

時間が経つにつれ絶望的な情報ばかりが集まってくる。
一番メンバーを悲観させたのは、どうやらここが人の気配がまったくない場所だという事だ。かなりの範囲を探索したが人が立ち入った気配と言うものが全くなかった。ビーチは美しく景観は素晴らしかった。天候も熱帯雨林のジメジメしたものではなく、ハワイを思わせる爽快さだ。もし、人の手が入っている場所なら間違いなく何らかの開発が施されるロケーションなのに、まったく手つかずでいる事がここが見落とされた地である事の何よりの証拠だった。この数日の間、上空を飛ぶ飛行機も沖合を通る船の姿も全くなかった。

唯一の明るい話題は食糧の確保が出来始めた事だ。
食糧班の仕事を与えられた須田明香里がヘアピンの釣り針、木の枝の竿、弦の糸で作った釣り竿で次々と釣り上げる魚が重要なタンパク源となった。

「あかりん、天才だね!スゴイね。大漁だよ~」
「あ、でも…多分ここの魚ってスレてないんだと思うんですよ。
釣られ慣れてないから簡単に釣れるんですよ。」
「でも、やっぱり腕だよ。おんなじ道具使ってるのに、私全然釣れないもん。」
「大丈夫。ちょっとしたコツですから。はるきゃんさんもすぐに釣れるようになりますよ。」
「ねえ、そのはるきゃんさんっていうのやめない?
こんな場所なんだし、それに幾ら先輩って言っても私のほうが年下なんだし。」
「そうですね…あ。違った、そうだね。いいの?はるきゃん。」
「うん。全然OK~。ね、日本に戻っても仲良くしてね?」
「もちろん!」

「ほら、竿がぴくぴくってなってる。今だよ!ぐっとしゃくるように竿を上げて…」
「わぁ!釣れた!釣れたよ!あかりん!」
「やった!大丈夫、全然センスあるよ、はるきゃん!」

二人の笑い声が響いた。


一方で同じ食糧班の高柳明音が仕掛けた罠で野鳥を確保できるようになった。
気の革と弦で編んだ籠をカニなどの餌の上に置くだけのシンプルなものだったが、やはり人慣れしていないのか、魚程ではないものの食糧として確保できるようになっていた。

「でも、よくわかるよね~野鳥ってそんな多く飛んでるわけじゃないのに。
ちゅりが仕掛けるトコにわざわざ寄ってきてるみたい。」
「いやいや、何となくこの辺りかなって閃くんだよね。」
「ほら…また来た…しーっ…やった!一度に2羽だよ!美味そうな鳥だなぁ。
丸々と肥えてて。私みたい。」
「はるぅ…そんな自虐ネタはいいからさ。」
「あはは、なんか嬉しくってさ。」
「そろそろ戻ろうか。」
島田晴香と高柳は手を今日捕れた獲物を下げて手を繋いで居住エリアへ歩いていった。


昼間はそれぞれの仕事に精を出しているおかげで気にならない…いや、気にしないようにしてはいたが、夜になるとやはり心の中は不安と絶望で支配されてしまう。このままここにいつまで居なくてはいけないのだろうか?ひょっとしたら、一生このまま…誰も口にしなかったが、誰もが考えていた事だった。非現実的な日常が現実的に受け止められ始めるにつれ、その不安は大きなものとなってみんなの事を押しつぶそうとし始めていた。


そんなある日だった。
突然、道が開かれたのは。

誰もがそこに希望を見出した。
それが、悪魔の用意した、甘美だが残酷な罠だとは誰も気づくことなく…
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