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プロローグ


スポットライトに浮かび上がる男の姿。
長身を誤魔化すような猫背のシルエットは黒いスーツに
包まれている。

え~みなさん、またお会い出来て光栄です。古畑任三郎です。

今回の主役は、国民的アイドルと言われるグループの方々です。
もちろん、このお話はフィクションで実際の彼女たちとは
何の関係もありません。
当初は、グループ名も登場人物の名前も架空のものにしよう…
そんな意見もありました。
御徒町48…浜松町48…う~ん、どれもしっくりしません。
やはり、彼女たちのホームタウンはここから動かす事が出来ません。
ですから、このお話では本物そのまま、AKB48として彼女たちは
登場します。

お話の中で、彼女たちはいがみ合ったり憎しみ合ったりします。
これももちろんフィクションの中の事。作り話です。

…そして、本物の彼女たちは…決して人は殺しません。

古畑任三郎でした。
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シーン1

シーン1 1st.Day 21:17 AKB48劇場

「ぐわぁ----------づかれたぁ~」
島田晴香は汗だくになった顔を拭おうともせず、通路の床に座り込んだ。
「いや~やっぱ劇場公演は楽しいねぇ。」
「ホントほんと。私たちの原点はここって感じするもんね。」
久しぶりの目撃者公演出演となった前田敦子と篠田麻里子から笑顔が
こぼれる。二人の顔には清々しさがあった。
「あ、はるぅ~お疲れ~。仲俣、今日の二人の炎上路線、良かったじゃん。
もうアンダーって感じじゃ全然ないよ。ね、にゃんにゃん。」
高橋みなみが声をかける。
「ホントだね~うん。良くわかんないけど~」小島陽菜が携帯に視線を
落としながら他人事のような相槌を返す。

「ったく、超選抜様はお気楽なものよね。こっちは、毎日毎日アンダーに
駆り出されてフラフラ。せっかく始まった自分たちのチーム公演も
ままならないって言うのに。」仲俣汐里は、島田の腰をさすりながら
苦々しく呟いた。
「でもやるしかないよ。今私たちに出来る事を必死に…ね。」
島田が力なく笑った。
「だって、昨日はRESET、その前はシアターの女神公演をだったし。
こないだの僕の太陽公演は2公演で、その前も…いくらはるぅだって
限界だって。見なよ。目の下クマできちゃって…」
「ワタシ、体力しか取り得ないからさ。よいっしょっと。」島田は手すりに
つかまりながら腰を上げた。「お疲れ様っっしたぁ!!」
小嶋が思わず携帯から視線を上げる位の大声で島田が叫んだ。
「ね?」そして仲俣の方を見て舌を出して笑った。

シーン2

シーン2 2nd.Day 16:42 AKB48劇場

♪泣かないで~僕の太陽~♪

レッスン着に身を包んだ島田。ターンの足元がふらつく。ステージを降り
気合いを入れるように両手で自分の頬を張り、水を一口飲んでステージの
上に戻る。「ごめんね。もう一回最初からいこう!」
イントロが流れ出す。今日のレッスンもあと30分しか時間がない。

ふと観客席に目をやると、宮崎美穂、石田晴香、佐藤すみれの姿があった。
今日はシアターの女神公演。島田は加西智美のアンダーとして今日も
ステージに上がる事になっている。
もっともっと時間が欲しい。もっとやらなきゃいけない事は幾らでもある。
自分たちが力をつけなくちゃ…じゃなければ、選抜メンバーどころか、
あそこでのんびり自分たちのレッスンを眺めてるあの子達にすら追いつけない…

シーン3

シーン3 2nd.Day 22:37 AKB48劇場

照明の落ちたステージの上。放心した表情でたたずむ島田の姿。
やがて、思い出したようにステップを踏み始める。
♪キャンディひとつさぁ、口に入れて、舌のその…
「これじゃダメだ。とも~みさんみたいな甘い声出せないし。パンチのある声だと
増田さんとかぶっちゃうし…」
「そうだ、全体曲も全然バランス取れてなかった。B推しでは前に出るの遅れたし…
よし。帰ってDVD見よっと。あ、明日はK公演だから、そっちの予習が先か。」
両手を頭の上で組み、背伸びを一つ入れて島田はステージから袖に消えた。

そんな島田の姿をモニター室から覗き込むようにして見る二つの影があった。

シーン4

シーン4 3rd.Day 21:21 AKB48劇場

「はるぅ、明日って夜スケジュール入ってる?」
大島優子が島田に声をかける。
「いえ、明日は公演お休みですし、なるハイのロケも夕方には終わると思います。」
「じゃ、あっちゃんち行かない?あ、なかまったーも一緒に。」
「え?私と島田…とで?ですか…?」
仲俣は突然何を言ってるんだろう?と言った表情で答えた。

「そう。今度あっちゃん引っ越したんだけど、明日ちょっとご飯食べない?って
話になってね。たかみなとか陽菜とか、麻里子様も来るし、あとともちん、
みぃちゃんそうそう、ゆきりんも来るかな。」
「あの…そんなメンバーの中に、私たち二人ってなんか恐れ多いんですけど…」
島田が遠慮がちに言う。
「いいんだって。昨日二人Aでアンダーで出てたでしょ?
たかみなが、呼ぼうよって言ったみたいで。」
「でも、島田はちょっと体調が…」仲俣の声を遮って
「行きます!ぜひ行かせてもらいます!」島田が笑顔で答えた。
「ね?こんな機会無いよ!せっかくだもん。ね?」
「そう…ですね。無いですもんね。なかなかこんな機会も…」仲俣も同意した。

シーン5

シーン5 4th.Day 19:05 某駅前広場

「ごめんごめん、5分遅刻しちゃった。」島田が改札から走ってくる。
「大丈夫。前田さんちには、7時半集合だから。ここからなら歩いても5分だし。」
仲俣が笑顔を返す。「あ、まゆゆさんも来る事になったんだって?」
「あ、さっきもう着いてて…あれ?どこ行ったんだろ?」仲俣が周りを見回す。
「持ってきた?」島田が仲俣に小声で聞く。「あ、うんうん。手土産でしょ?これ。」
仲俣が小さな箱を見せる。「何これ?」「アイス。普通のハーゲンダッツだけど。」
「いいんじゃない?みんな好きだし。あんま凝っちゃうと、なんか好みとかあるじゃん?
ハーゲンダッツなら外しないかな?って思ってさ。」
「なに?わざわざクーラーBOXに入れてきたの?」「今日暑すぎだし。」
「そっかぁ。相変わらず気が利くよね。」「まぁね。」

「お待たせ~」渡辺が現れた。「あ、こんにちは。」島田が頭を下げる。
「行こう~!」3人はすっかり暗くなった中を歩きだした。

シーン6

シーン6 4th.Day 19:45 前田敦子宅

「みんな気兼ねしないでつくろいでね~」前田が笑う。今日は格段に機嫌が良さそうだ。
テーブルの上には乗りきれないほどのご馳走が並んでいる。前田の母親が作ってきた
ものだ。前田は多忙になるスケジュールに対応する為に、都内の高層マンションに
居を構える事にしたが、食事は母親が作りに来る事が多かった。今日も朝から
豪華なゲストの為に豪華な食事を用意し、先ほど自宅へと帰って行ったところだった。

食事が進むにつれ、島田は段々と居心地の悪さを感じるようになった。
何かを言われた訳ではない…いや、むしろ、みんなの話題に全く入っていけないのだ。
前田、篠田、柏木、高橋、小嶋、大島、板野、峯岸…自分がAKBに入る前からもう
各方面で活躍してる…雲の上のような存在だ。こんなトップアイドルと同じ
空間にいれる幸せを感じながらも、目の前で繰り広げられる華やかな
日々の事についての会話には、到底入っていけるものではない…

シーン6-2

シーン6-2

ふと周りを見ると、渡辺と仲俣の姿が無い。
島田がきょろきょろしてると、ふと篠田が島田に話題を振った。
「島田ちゃん、今何人のアンダーやってるの?」
「え?あ、はい。えっと…公演だと5人…テレビに呼んでもらえる時入れると…
えっと…」島田は指を折りながら考えた。
「はるぅはスゴイよねぇ。いつも一生懸命だもん。はるぅみたいな子がアンダーで
いてくれるから私たちの公演が支えられてるんだよ。」高橋が褒める。
「あ、はい。そんな…もったいないっす。」
「えぇ~、島田ってそんなキャラじゃないでしょ~?」峯岸みなみが笑う。
…まだ、この人たちにとって、自分は研究生レベルにしかみられてないんだ…
アンダーとしては褒め称えてくれても、チーム4のメンバーとして、キャプテン代行
としては誰も何も言ってくれない…

寂しい気持ちになってると渡辺と仲俣がいつの間にか部屋に戻っていた。
「どこ行ってたの?」仲俣に小声で言う。仲俣が戻ってくれてちょっと
ほっとした気持ちになっていた。
「うん、ベランダ出てた。すっごい綺麗な夜景だったよ。」
「そうなんだ。ワタシも出てこようかな…?」
「みなさん~、なかまった~が持ってきたアイス、そろそろいただきませんか~?」
渡辺の声にみんなから歓声が上がる。「あ、私と島田からのお土産です。
今日お招きいただいたのでそのお礼に…」
「アイス、食べたい食べたい~」小嶋が手を叩いた。
「あ、自分達用意します。前田さん、冷凍庫
開けさせて頂いていいっすか?」
「うん、お願い~。」前田の顔はワインで赤くなっていた。

シーン7

シーン7 4th.Day 21:07 前田敦子宅

「あ、いっけね。」冷凍庫にから箱を取り出しながら仲俣がつぶやいた。
「ん?どうしたの?」
「アイス一個足りないや。
まゆゆさんが来るって最初聞いてなかったから。」
「あ~どうしよ?でも、いいよ、ワタシ食べないから。
ほら、ちょっとダイエットしないと…ね?」島田は舌を出して笑った。
「え~それはさぁ…あのぉ、すみません。アイス一個足りなかったんですよ。
下のコンビニで買ってきていいですか?」
「あ、私が急に来たからでしょ?ごめんなさい~」
渡辺が申し訳なさそうに言った。
「じゃ、私買ってきますんで。」「あ、ワタシも一緒に行くよ。」
「島田ちゃん、いいじゃん~。話の途中だよ~」篠田が引き止めた。
「あ、じゃ私いっしょに行ってくる~。自分で好きなの選びたいし。」
渡辺が席から立ち上がった。
「行ってらっしゃい~まゆゆ~。」柏木の顔も少し赤い。
「あ、ごめ~ん。ついでにワインオープナー買ってきてくれるかなぁ?
さっきのワイン手で回して開けれるのだったんだけど、
これ栓がコルクなんだ。裏口のとこの酒屋さんにあると思うから。」
前田が言った。
「あ、解りました。」「これ持ってって~」
前田が鍵の束を仲俣に投げて渡した。
戻ってくるとき裏口からだとインターフォン無いから
鍵で入んなきゃいけないからさ。」
「ありがとうございます。じゃ、行ってきます。」
仲俣はアイスの箱を冷凍庫に戻し、渡辺と二人で部屋を出て行った。

シーン8

シーン8 4th.Day 21:22 前田敦子宅

話題の中心は島田の事から謹慎中の大場美奈の事に移っていた。
「みなるんって、いつ戻ってくるの?」こういう話題になると俄然峯岸が乗ってくる。
「まだその事はわからないっす。戸賀崎さんは年内は…って言いかたしてましたけど」
「実際、あれはキツイよねぇ。オトコだけならまだしも、他にも色々出てたしねぇ」
「はぁ…そうですね…」こういう話題は正直辛い。確かに大場のやった事は許される
事ではない。でも、今の彼女はそれを心底悔やみ、そして心から反省している。
毎日のように交わすメールや電話の中でそれを一番知っているのは島田自身だった。
「でもさぁ、やっぱ最近入った子ってさぁ…」大島が始める。
大島もかなり酒が入ってきているようだった。口調が強い。

やっぱり二人と一緒に行けば良かった…そう思ってる時、島田の携帯が鳴った。
「あ、すみません。仲俣からです。」島田は席を立った。ほっとした表情が浮かぶ。
「もしもし?うん?どうした?」「あのね、ちょっと来てくれるかなぁ?氷とか
色々買おうと思うんだけど、荷物すっごい多くなりそうだから。」
「あ~行く行く。あ、でもまた止められちゃうかなぁ…」「そうだ。あのね…」
「うん。うん...うん。解った。じゃあすぐ行くね。」
「あの~ちょっと荷物が多くなりそうって言ってるんで、私取りに行ってきますね。
先にアイス召し上がっててください。」島田は冷凍庫からアイスを出しトレイに
乗せてテーブルに運んだ。
「あと、すみません、ちょっとだけ照明落としていいですか?」
島田はテーブルの上に平皿の上に乗せキャンドルを置いた。
周りには花びらがあしらわれている。
「では、ここに…」島田は皿にそっと水を注ぐ。
皿からは煙が流れ、キャンドルを置いた小皿が水に浮かびゆらゆらし始めた。
「綺麗~!どうなってるのぉ?」一同が声を上げた。
「しばらくコレでお楽しみください。」島田はそう言って部屋を後にした。
メンバーは美しい演出に目を奪われ、誰も島田の事を引き止めようとしなかった。

シーン9

シーン9 4th.Day 21:40 マンション下コンビニ

「うまく行ったでしょ?」仲俣が笑う。
「うん、よく考えたね。あんな事。」「あはは。後でやろうかなって思ってた。
色々考えてるんだよ。私も。」「そうだよね…」
仲俣の頼もしさに島田の目からは急に涙がこぼれてきた。
「どうしたの?」渡辺が心配そうに島田の顔を覗き込む。
「すいません…すいません…なんかワタシ…」島田の返事は言葉にならなかった。
「なんかイヤな事言われたの?」渡辺がそっと島田の方に手を回す。年下だが、
渡辺はこうしていつも優しく声をかけてくれる。「いえ…そんな事では…」

「大場の事とか…でしょ?
アンタは自分の事をどんなに言われても泣くような子じゃないもん。」仲俣が言った。
「うん…ねぇ。やっぱり私たちってまだ努力が足りないの?いつになったら
あの人たちから同じ目線で認めてもらえるの?」島田の涙は大粒になっていた。
「ちょっと落ち着こう…ね?」3人はコンビニの前のベンチに腰を下ろした。

シーン10

シーン10 4th.Day 22:20 マンション下コンビニ

「そろそろ戻ろうか?落ち着いた?」仲俣が島田に優しく言う。
「気にしない気にしない。ね?」渡辺の声も優しい。
「はい。もう大丈夫。ねぇ?目腫れてない?」「う~ん、目の下にクマ出来てるけどね」
「もう、やめてよ~」島田と仲俣は笑った。

前田から預かった合鍵で裏口のドアを開けマンションに入る。
部屋のドアを開ける。と瞬間的に島田はなにか例えようのない違和感を感じた。
静かだ。あれほど騒がしかった部屋からは何も音がしない。
リビングは真っ暗だった。電気を点けた瞬間、島田の目に異様な光景が飛び込んできた。
全員が突っ伏したように倒れている。
「ベランダ!誰かいる!」渡辺が大声で叫ぶ。島田は走った。窓を勢いよく開け
ベランダへ飛び出す。広いベランダには人の姿は無かった。見回すと階下へ伸びる
非常用の梯子が下がっている事に気がついた。迷うことなく島田は梯子を使って
階下へと降りて行く。胸騒ぎが収まらない。
下の階は空室だった。窓が一つ破られて開いている。島田は部屋の中に飛び込むが
そこには誰の姿もなかった。

シーン11

シーン11 4th.Day 22:30 前田敦子宅

島田は部屋に押し入るように飛び込んだ。
玄関のロックは閉まっている。
部屋をひとつひとつ恐る恐る開けていく..
いない...誰もいない...と、その時バスルームで
何かの音が聞こえた気がした。
「誰かいるの?」島田は自らの危険も顧みずドアを開けた。

そこに人の姿はなかった。

島田が外に出て行ったあと、渡辺と仲俣は顔を見合わせ、示し合わせていたかのように
動き始めた。渡辺が倒れてるメンバーの脈を一人一人確かめていく。無言でうなずく。
仲俣はバッグから小さな瓶を取り出し、中の液体をスポイトで吸い上げテーブルの上に
あった食べかけのアイスのカップに数滴ずつ落としていく。
二人の動きには全く無駄が無かった。その間、一言の会話も二人の間では交わされなかった。

島田が慌ただしく戻ってきた。「誰もいなかった…みんなは?」

「…」渡辺が涙を浮かべて首を振った。仲俣は崩れたように座り込んでいる。
「イヤだ…イヤだ…嘘…こんなの嘘…だよね?ね?ね?」
島田の悲痛な叫びが広い部屋に響いた。

シーン12

シーン12 4th.day 23:34 前田敦子宅

広いリビングを慌ただしく動き回る捜査関係者。
ダイニングテーブルの周囲にはシートが掛けられた
8つの死体があった。
鑑識員も捜査員もみな一様に緊張の為強張った表情だ。
何しろ、8人もの人間の同時死。明らかに殺人事件の
様相を示している。恐らく犯罪史上稀にみる程の大事件に
なるであろう、この現場からほんの僅かな犯罪の痕跡を
見逃すまいとしていた。

しかも、被害者はあの国民的アイドルと称されるグループの
主要メンバー。これから始まるであろう半狂乱のような
騒ぎをその場にいた誰もが確信していた。

そこへ一人の男が現れた。男の顔には軽い苛立ちの表情があった。
一人の小柄な男の姿を見つけ、声をかける。
「西園寺君。」
「あ、古畑さん。お疲れ様です。」

シーン12-2

シーン12-2

「西園寺君、もう10月も半ばだよね?何なの、この暑さは」
「ええ。今日の最高気温は28度だったそうです。夜になっても
全然気温が下がってないみたいです。この時期としては
異常ですよね。明日からはまた涼しくなるみたいですが」
古畑はそう言いながら涼しい顔で部屋の中を見渡した。
黒いジャケットを着込み、シャツのボタンは律義に一番上まで
留められている。

「しかし、豪勢なマンションだねぇ。一体家賃は幾らくらいなの?
このご時世こんなマンションに住めるって羨ましいじゃないか。」
「古畑さん…そろそろ説明させて頂いてよろしいでしょうか?」
西園寺が遠慮がちに聞く。
「…」古畑は無言で手のひらを西園寺の方に差し出し頷いた。
「 まず被害者ですが、8名です。前田敦子さん、高橋みなみさん、
柏木由紀さん、板野友美さん、4名は20歳。篠田麻里子さん25歳
大島優子さん23歳、小嶋陽菜さん、23歳、峯岸みなみさん18歳。
いずれも人気アイドルグループAKB48の主要メンバーです。
古畑さん、AKBの事は?」

「もちろん知ってるよ。あ~西園寺君、何?私がそういう方面
全然興味無いと思ってるでしょ?」
「ご興味あるんですか?」
「続けて。」古畑は西園寺の質問には答えず言った。

シーン12-3

シーン12-3

「第一発見者であり、事件の通報者は島田晴香さん、仲俣汐里さん、
渡辺麻友さん。同じくAKB48のメンバーです。今日は19時30分頃から
この部屋で食事会を開いており22時30分頃買い物の為外出、
戻った際に8人が倒れているのを発見されたそうです。
3人には別の部屋に待機して頂いています。」

「ここまででわかってる事は?」
「被害者に目立った外傷はありませんでした。特に部屋を物色したような
形跡もありません。ただ、ベランダから下の階への非常非難用の
梯子が下がっており、階下の部屋の窓ガラスが割られておりました。」
「ベランダ?」古畑は立ち上がってベランダを覗き込んだ。
「ふぅん。ベランダ…ね。」

「現場の状況を説明してくれる?」
「はい。被害者はダイニンテーブルを取り囲むように倒れていました。
テーブルの上には料理とワインとジュース類の飲物、それから
アイスクリームの食べ残しがありました。」
「食べ残し?」
「ええ、普通のカップに入ったものですが、どれも溶けてしまって
いました。全てのカップに食べ残しがあった状態と思われます。」
「わかった。じゃあ、3人に話を聞こうか。」
「一人一人お呼びしますか?」
「いや、3人一緒で構わないよ。」静かに言い、眉間に指を当てた。

シーン13-2

シーン13 5th.day 0:07 オーディオルーム

島田は3人掛けのソファの上で、仲俣の肩に頭を乗せ放心状態でいた。
この部屋で待つよう言われてから、もうどれくらいの時間が経ったの
だろうか?3人とも全く言葉を発しなかった。
時折仲俣の肩が小刻みに揺れる。泣いているのだろうか?
島田は仲俣の顔を覗き込む事すらしなかった。

部屋のドアがノックされた。二人の男が入ってくる。
「え~みなさん。すみません、お邪魔いたします。警視庁の古畑と
申します。こちらは西園寺君。ちょっとお話を聞かせてください~」
「は、はい。島田晴香と申します。こちらは…」
「渡辺麻友です。」「仲俣と申します。」
3人は何とか立ち上がって挨拶をした。

「え~…ここもまた素晴らしいお部屋です。大きなスクリーンに
立派 なオーディオ。これならわざわざ映画館に行かなくても
良さそうです。ラックにある…これはDVDですか。こちらの品揃えも
素晴らしい。え~…私が最近見た映画もあります。」
古畑は1本のDVDを手に取った。「うふふふ。みなさんのドキュメント
映画です。」
どう反応していいかわからないでいる3人に古畑が声をかける。
「え~…どうぞお座りください。このたびは、お仲間が悲しい事件に
巻き込まれてしまいまして…さぞかしお力を落とされてる事と…」
「あの…刑事さん…?」仲俣が細い声で聞く。
「古畑…と呼んで頂いて結構です。」
「はい…古畑さん、みんなは…みんなは一体…?私たち、まだ何が
起こったか理解出来ていないんです。」
「え~…メンバーの皆さんは残念 ながら、何者かの手によって殺害
された可能性が高いです。実に恐ろしい事件です。」
「やっぱりそうなんですか…」

シーン13-2

シーン13-2

「あなた方が部屋に戻られた時の事をお聞きしても宜しいでしょうか?
買い物に出られていた…とお聞きしましたが?」
「ええ。私が持ってきたアイスが一つ足りなかったので、コンビニで。
あと、氷やお菓子、裏の酒屋さんでワインオープナーも買いました。」
仲俣の答えに古畑が質問を重ねていく。
「買い物に出られていた時間は?」「えっと。1時間弱…だと思います。」
「ずいぶん長いお買いものですね。」
「私がちょっと…あったんで、二人が慰めていてくれたんです。」
島田が答えた。「お食事の時、先輩からちょっと嫌な事を聞かれたり
したんで…それで。」
「え~…やはり、皆さんのような大所帯となると、色々とおありに
なるんでしょうか?え~ …上下関係とかいじめのような事とか…
あ、すみません~品のない質問です~」
「あ、違うんです。そういうんじゃないんですけど…」
島田が口を濁したが、古畑はそれ以上突っ込む事はしなかった。

シーン13-3

シーン13-3

「戻られた時、何かおかしい事はありませんでしたか?買い物に
行かれる前と何か違った事とか…」
「ベランダに人影のようなものが見えた気がしました。」渡辺が答える。
「人影ですか?」
「はい。それを聞いたワタシがベランダに飛び出したんですが、誰の
姿も見えませんでした。でも、避難用の梯子が下の階に下がってたので
それを伝って追いかけていきました。」
「窓ガラスが割れて窓が開いてたので、部屋に入りました。誰も住んで
ないみたいで真っ暗でしたけど、全部の部屋を見て回りました。」
「部屋の中に誰か残ってるかもしれない…と?」
「はい。最初に玄関に行ったんですが、鍵がかかってたんです。
なんで、まだ部屋の中にいるんじゃない かって思って。」

「え~…あなたは…」古畑が質問を重ねようとしたところで部屋のドアが
ノックされた。捜査員が一人入ってきて、古畑に耳打ちする。
ハンカチに包まれた何かを手渡しながら。
「うん…うん…わかった。ありがとう。」
「え~…すみません~。ちょっと質問を変えさせてください。
テーブルの上にあったアイスクリーム…確か、仲俣さんがお持ちになった
ものとお聞きしました。」
「ええ。ここに来る前、私の家の近くのスーパーで買いました。」
「そのアイス、あなた方が買い物に行かれてる間に食べられたのでしょうか?」
「ええ。先に二人が買い物に出てたんですけど、荷物が多いからって
私も行く事になって…。その直前にみんなに私が出しました。
先 に食べててくださいって。」
「…そうですか。実は鑑識から連絡が入りまして…
アイスの中から毒物が発見されたそうです。」

シーン13-4

シーン13-4

「毒物…ですか?」島田が顔をしかめる。
「はい。毒物です。恐らくはカドミウムのような成分を含むものかと。
え~…もう一度確認させてください。このアイスを買ってきたのは
仲俣さん、亡くなった皆さんにこのアイスを出したのは島田さん。」
「ええ…その通りです。」島田と仲俣は顔を見合わせた。渡辺も頷く。
「とすると、こうなります…。被害者が亡くなる前にこのアイスに
毒物を混入させる事が出来た人はお二人いらしゃった…と。」
古畑は両手の指を体の前で組み、ソファから身を乗り出した。

「そう、仲俣さんと島田さんです。しかし…仲俣さん。あなたがこのアイスに事前に毒物を混入したとは私には思えません。」
「…?」3人は古畑の言葉を待った。
「なぜな ら…仲俣さんが買ってきたアイスは9個。テーブルの上にあった
アイスは8個です。残りの一つは…冷凍庫の中にありました。
こちらには毒物は…混入されておりません。」
古畑は島田の方を向き、静かに言った。
「もし、仲俣さんがアイスを買った後に毒物を混入したとすると…
9個全部に入ってると見るのが自然です。なぜ1つだけ毒物が入って
なかったか…それは、毒物を混入させた人物が自分の分を除いたから。
そう考えるのがもっとも自然な考え方です。」

シーン13-5

シーン13-5

「ちょっと待って!じゃあ、何?何が言いたいの?」
渡辺の口調が変わった。表情には激しい怒りの表情が浮かぶ。
「はい。これを入れる事が出来た可能性があるのは…島田さん。
あなた…という事になります。」
古畑がハンカチにくるまれた小瓶を島田の前に差し出した。
「この中には、アイスのカップから検出されたものと同じ成分が
含まれていました。島田さん…あなたのカバンの中から発見されました。」
島田の目が大きく見開かれた。何か言葉を発しようとするが口からは
うめき声しか出てこない。

「島田さん…お手数ですが、ご同行願えますでしょうか?」
「おい!待てよ。どういう事だよ!なぁ。刑事さん。はるぅがそんな事
するわけねえだろ うが!」渡辺が口汚くののしる。
「西園寺君…」古畑が立ち上がりながら西園寺を促す。
「おい!ふざけんなよ!おい!」「まゆゆさん、落ち着いて。まゆゆさん!」
仲俣が渡辺の腕をつかむ。今にも古畑につかみかかりそうな勢いだ。
「うるせぇよ。離せよ。離してよ!」
「まゆゆさん…まゆゆさ…麻友!」仲俣は渡辺の頬を強く張った。
渡辺は呆然とその場に立ち尽くした。目からは大粒の涙がこぼれる。

「渡辺さん…お気持ちはお察しします。さ、島田さん。」
西園寺に支えられるようにして島田が部屋を後にする。
「それでは今日のところはこれで失礼いたします。」
古畑が部屋を出ると、二人は無言で顔を見合わせソファに
もたれかかるように座り込んだ。

シーン14

シーン14 5th.day 4:51 港湾埠頭


白み始めた東の空を向き、渡辺と仲俣がベンチに腰かけている。
「迫真の演技…か。」仲俣がつぶやく。
「…演技か…な。」渡辺が答える。一度は乾いた涙が再びこぼれる。
「ゆきりん…怒ってるだろうなぁ。まゆゆ~って。」
「柏木さんだけじゃないでしょ。きっと。」
「うん…むこう行ったら謝らないと。」
「でも、多分会えないと思うな。私たちが行くところは多分地獄だからね。」
「ごめんなさい。汐里さんにはホントに…」
「何言ってるの、麻友。もう泣くなよ…ね。大切なのはこれからだよ。
さ、帰ってちょっとでも寝よう。無理にでも寝とかないと。」
「うん。わかった。」
二人は腰を上げた。

シーン15

シーン15 5th.day 15:07 都内 早稲田大学キャンパス内

政治経済学部の掲示板で、自分が出席すべき講義の休講を確認
すると仲俣はほっと溜息をついた。
4月に入学してから、極力大学に来る事を優先してきた。
結局あれからほとんど寝つけずにいたが、この時間になって
疲労感と眠気を強く感じるようになっていた。
昨夜の事件は、まだ報道されていない。事の大きさからか、容疑者が
内部…しかも未成年だからなのか…仲俣には知る由がなかった。

「な、な…仲俣汐里さんですね?」
背中から声をかけられ仲俣は振り向いた。
「警視庁の今泉と申します。と…と、突然すいません。」
今泉の声が裏返った。「ちょっとお話を、宜しいでしょうか?」
「あの…」仲俣が困惑した表情を浮かべた時、古畑が現れた。
「今泉。勝手に動き回るん じゃないよ。まったく。なんでお前を
一緒に連れてきたかというとだな…」
「あ、古畑さん。昨夜はどうも…」仲俣が古畑に声をかけた。
「あ~仲俣さん、何かこいつが失礼なことでもしませんでしたか?
まったく、勝手に飛び跳ねて回って…今泉。お前をつれてきたのは
ただの案内役なんだからな。」
「案内役…ですか?」仲俣がほほ笑みながら尋ねた。
「ええ。何しろここは僕の母校ですからね。」今泉は胸を張った。
「そうなんですか?」仲俣は意外そうな顔をした。
「はい。法学部卒業です。えっと、仲俣さんは…」
「おい今泉、軽々しく口をきくんじゃないよ。仲俣さんはAKBの活動を
しながら付属校から政経学部に進学された才媛なんだよ。お前みたいに
受験の一発ラッ キーでもぐりこんだヤツとは格が違うんだよ。」
え~…仲俣さん、お騒がせします。もしお時間ありましたらコーヒーでも
いかがでしょうか?」古畑は腰をかがめて笑顔を見せた。

シーン16

シーン16 5th.day 15:30 喫茶店

「仲俣さんはやはり政治経済にご関心をお持ちで?」
「いえ…実は特にそういうわけではないんです。政治家の思考回路って
いうか、魑魅魍魎の世界には多少興味がありますけど。」
仲俣は真面目な顔で答えた。
「うふふふ。なかなか怖い事をおっしゃいますね。じゃあ、なぜ
最難関の政経へ?」
「最難関って事に意味があったんですよ。早稲田って言っても付属から
だし、実は他にも通信だけど在学してるAKBのメンバーもいるし…
私のアピールポイントにするためには最難関の学部にってインパクトが
欲しかったんです。あれ?ちょっと本音で言い過ぎちゃいました?」
「いえいえ、なかなかしたたかな戦略家なんですね。素敵です~」
「ホントは理数系が好きなんです。数学と か化学とか。うちの大学って
他学部の単位を取ることも出来るので結構理系学部の授業も
選択してるんですよ。教授のご厚意で研究室にも出入りさせて
もらったりしてますし。たまにしか顔出してませんけどね。
ところで…今日は…?」

「はい、昨夜の事件の件でお話をうかがいに参りました。」
「あの…本当に島田がやったんでしょうか?私にはとても
信じられないのですが…」
「え~…仲俣さんは島田さんとはかなり親しい間柄のようでしたね?」
「ええ。同じチームですから。それだけじゃなくってプライベートでも
仲のいい友人として付き合っています。」
「最近、特に変わった様子はありませんでしたか?何か人間関係で
悩んでいるといった…」
「…夏に、私た ちのチームのキャプテンだった大場美奈って子が
スキャンダルで謹慎する事になったんです。その頃からですかね…
もともと責任感が強くてみんなを引っ張る存在だったんですけど
大場が居なくなった事でその思いが余計強くなったみたいで…
とにかくがむしゃらに頑張ってました。そう、見てて痛々しいくらい。」
「亡くなった先輩メンバーとの関係については?」
「正直、私たちって先輩からは良く思われてないところがあって。
苦労してないから甘いとか、礼儀がなってないとか…そういう声を
いつも島田が受け止めてくれてました。でも、島田は先輩たちを
心から尊敬してましたし、先輩たちも島田の事は認めていたはずです。
関係が悪かったなんて誰も思っていません。」

「なるほど、よくわかりました 。ところで、案外普通に学校内を
歩いてるんですね?今をときめくアイドルの仲俣さんが学校を歩いて
いるだけで人だかりが出来たりしてご苦労されてるのでは?と。」
「いえ…入学当時は少しありましたけど、今は全然。きっと、私の
事を知らない人が多いんでしょうね。まだ。」
仲俣の笑顔は少し寂しそうに見えた。

シーン17

シーン17 5th.day 20:04 都内スタジオ

眩い照明に照らし出された中、渡辺が笑顔でポーズを作る。
次々に切られるシャッター、そのたびに表情がコロコロ変わる。
「ん~…すごいね、今泉。見てごらん。まるで百面相だ。」
「古畑さん、ちょっと幻滅したなぁ。AKBなんかが好きだなんて。」
「何だ?お前は人の趣味にケチをつけれる程えらくなったんだ?」
「いや、だってさぁ、子供じゃないですか。子供。」
「子供…ね。」古畑は渡辺に視線を戻した。

「休憩入ります~」
スタッフから声がかかると渡辺が小走りに駆け寄ってきた。
「えっと…昨日はすみませんでした!」ぴょこんと頭を下げる。
「すっごいナマイキな口のきき方しちゃいまして。つい興奮しちゃって。」
「あ~いえ。お気になさらないでください。」
「あの…」渡辺は古畑をじっと見た。
「え~…今日は一つお聞きしたい 事がありまして伺いました。」
「はい、私が知ってる事でしたらなんでも答えます。」

「先ほど、仲俣さんのところにもお邪魔して参りました。
彼女が島田さんとは非常に親交が深い事は理解出来ました。
ところで、あなたと島田さん、仲俣さんは、それほどは普段から
接する事はないようですね?どちらかと言うと、亡くなった
選抜メンバーの方とのお付き合いが多かった。特に何人かとは
かなり仲が良かったようですね。」
「そうですね…」また渡辺の表情が曇った。
「え~…意地悪な感想をを申し上げます。。昨夜あなたが私に怒りを
ぶつけたあの時。実は私は意外だな…と感じました。
あの状況であれば、その怒りの矛先は私ではなく、むしろ島田さんに
向けられるもの だと思っていました。私なら、敏腕刑事が目の前で
自分の親友が殺された証拠を犯人につきつけたら、怒りの矛先は
間違いなく刑事ではなく、犯人に向かいます。」

シーン17-2

シーン17-2

「何が言いたいんでしょうか?」渡辺が顔をしかめた。
「いえ、単なる感想を申し上げただけです。うふふふふ。
おや?これは渡辺さんがお書きになったものですか?」
古畑はテーブルの上にあったスケッチブックに視線を落とした。
そこにはややグロテスクな描写の絵があった。
「これはデュークですね?とてもお上手です。」
「え?古畑さん知ってるんですか?」
「もちろんです。刑事モノはドラマも漫画もよく見ます。
Lの冷静沈着で論理的な思考と勇気ある捜査は私の手本とするところです。」
「私は断然キラ派です!カッコいいじゃないですか。新世界の神なんて。」
「うふふふ。渡辺さんはそうお考えですか。
私は残念ながらそう思いません。確かに革命が起きれば彼は英雄かも
しれません。しかし、現実の世界では…彼は ただの殺人鬼です。」

「まゆゆ~そろそろ休憩いいかな?」
カメラマンから声がかかる。
「は~い。今行きま~す。古畑さん、またこのお話...
できますか?」
「ええ。ぜひ。」
古畑は手を後ろに組んで立ち上がり、渡辺を見送った。
そして「必ず...出来ますよ。」独り言のようにつぶやいた。

roll

事件から2日後、8名の死亡事件が世間に公表された。
当初、運営側は不透明な事実が多い事を理由に事実を隠そうとしたが、
今最もメディアへの露出が多く、分刻みの予定がブッキングされている
8名が同時に姿を消す事への対応は事実上不可能だった。
発表は警察当局と運営サイド、それぞれから行われたが、その内容は
8名が亡くなった事、事件と事故両方の可能性を視野に捜査が進められて
いる事のみにとどまった。

文字通り日本中に衝撃が走った。テレビは一日中特集番組を放送し、
その内容は8名の足跡を追うものから事件の真相を解き明かそうとする
ものまで多岐にわたった。訳知り顔の解説員が、事件の可能性として
過熱したファンの犯行説や陰謀説、挙句の果てには 国際テロ組織の
関与までうかがわせるという有様だった。
そんな中、時を同じくして発売されたニューシングルは初動200万枚を
記録。町中のいたるところで彼女たちの歌声が流れ、誰もが彼女達の
話題を口にした。運営は、発売4日後に行われる握手会イベントを
予定通り行うと発表した。死亡したメンバーの握手券の払い戻しも
同時に発表されたが、返品を申し出る動きはほとんど見られなかった。

握手会当日、会場の幕張メッセには多くのファンが押しかけた。
警察は厳戒態勢を敷き通常の10倍の人員を割き警戒にあたった。
会場への入場は握手券を持っている者のみに制限されたが、
入口付近に設けられた献花台を訪れる人の列は海浜幕張駅を過ぎ、
そのまま稲毛方面へと続き、 その長さは時間が経つとともに
伸び続けていった。

シーン18 

シーン18 10th.day 8:24 幕張メッセ

入場が制限されているせいか、会場内はいつもより落ち着いた人の
動きだった。雰囲気もいつもとそう変わらない。
違うのはレーンを表示する案内板に見慣れたメンバーの名前がない事くらいで。

「えぇ~…玲奈さんに佐江ちゃん、それにすーちゃんの3枚でも
ゆきりん1枚とトレ無理ですか~?」男が腕を組み顔をしかめる。
「おじさん、こないだまでならともかく、今回の劇場盤はそれじゃ
レート合わないよ。もう神8の生写真はこれが最後なんだからさ。
その3枚ならプラス10kは出してもらわないと。」
「う~ん…わかりましたよ。」男が財布を取り出そうとした時声がかかった。

「古畑さん!こんなところで何をしてるんですか?」西園寺だった。
「何って、見てわからないか?ここ はトレーディングエリアじゃないか。
しかし、来るのが遅いよ西園寺君。」
「すみません。しかし、入場規制のおかげで入るのに四苦八苦したん
ですから。警察手帳見せても本局に照会されたりで時間かかって。
古畑さんはすんなり入れたんですね?」
「うふふふ。だって、ほら。」古畑はジャケットの内ポケットから
チケットのようなものを取り出した。そこには”握手券渡辺麻友第1部”
と記載があった。
「古畑さん、そんなもの持ってたんですか?」
「あたりまえじゃないか。じゃあ、そろそろ並んでくるよ。
君はそこで待っていなさい。」古畑は出来始めた列の最後尾に
向かって歩いていった。

シーン19

シーン19 10th.day 9:07 幕張メッセ控室

「すみません~渡辺さん。そろそろ準備宜しいですか?
開始の時間過ぎてるんで。」スタッフから声がかかる。
すでに他のメンバーはレーンの方へ出向き、広い控室には
渡辺とスタッフだけになっていた。
渡辺はじっと鏡を見つめる。前髪はもう何度も何度もチェックした。
いつもはこれで落ち着くのだが、今日はどうしても鼓動の高まりが
おさまらない。渡辺は目を閉じた。

そこへ、仲俣が現れる。「あれ?まゆゆさん。もう1部始まってますよ?」
「あ、なかまった~。おはよ~。今日何時からだっけ?」
「えっと、10時半からです。今日はちょっと時間長いんですよ。」
仲俣が嬉しそうに話す。部制の渡辺と違い、仲俣には限られた時間しか
レーンが用意されない。これもAKBの厳しい競争の一つだ。

「ねぇ…汐里さん…アレやってくれませんか?どうしても今日は…」
「最近大丈夫だったのに?うん。わかったよ。」
二人は小声でささやき合った。
「すみません、スタッフさん。すぐに行きますから。誘導の方に
あと5分って伝えてきてもらえますか?」渡辺が声をかけると
スタッフは駆け足で会場の方へと向かった。

仲俣は渡辺の肩に手を置き、椅子に座らせて大きな鏡を一緒に
見つめた。
「麻友…あなたはアイドル。とっても素敵な女の子。
み~んな、麻友の事が大好き…」仲俣の声は優しかった。
「うん。私はアイドル…み~んな私の事が大好き…」
渡辺は鏡をじっと見つめ、そして長い時間そのまま動かない。
肩に置かれた仲俣の手を強く握りしめる。

「…さぁ、そろそろ行こうか。み~んなの視線を…」仲俣がささやく。
「頂き…まゆゆ!」二人が声をそろえた。ようやく渡辺が笑顔になる。
「さぁ、行ってらっしゃい。」
「うん。ありがとう。行ってくるね。」仲俣は渡辺を見送り、自分の
準備を始めた。

シーン20

シーン20 10th.day 9:51 握手会渡辺麻友レーン

「まゆゆ頑張って~」「今日も可愛いよ~」
ファンは今日も優しかった。神8と呼ばれるメンバーで一人残った
渡辺を気遣うかのように事件の話題に触れる者は一人としていなかった。

暫くして、黒づくめの出で立ちの男が渡辺の前に立った。
「うふふふ。渡辺さん、こんにちは。」古畑だった。
「あ、おはよーございます!来てくれたんですか?びっくり~」
「え~…うふふふ、今日はまゆゆ…と呼ばせて頂きます~。ところで…」
古畑が言いかけたところで、後方に控えた係員が乱暴に古畑の背を押した。
「時間です。」剥がしだった。
「あ~まゆ…」「また来てくださいね~」渡辺が手を振った。
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